ザ テイルズ オブ ファンタズマゴリア act.1

ハイペリアには、様々な童話が伝わっています。
そしてそこには、様々な含蓄や教訓が含まれています。
今では私達スピリットも、それらの幾つかを知り得る幸運に恵まれました。
ここでささやかながら、その一部を紹介していこうと思います。
さて、今回のお話から得られる教訓とは果たして一体……


むかしむかし、異世界から飛ばされてきた馬鹿正、もとい正直なエトランジェと骨弱な妹が城に籠絡、もとい住んでいました。
エトランジェは戦いで敵スピリットを斬って一生懸命働いていました。でも妹を救い出す方策はありませんでした。

ある日の夕方のことです。
太陽がゆっくりと沈もうとしている時、エトランジェはまだ森の中、湖のすぐそばで、『求め』を持って戦争をしていました。
もう一振りで敵が倒れます。そしたら詰所に帰ろうと思っていました。でも最後の一振りは失敗でした。
『求め』はビューンと木立を抜け、小さな湖に落ちました。『ボチャーン』。『求め』はあっという間に水没してしまいました。
エトランジェは敵を放ったらかしにして湖のふちにかけより、膝まずき、『求め』が落ちた辺りを覗き込みました。
エトランジェは『求め』を失くして何とがっかりしたことでしょう。
いつもは五月蝿い、ごくありふれた神剣ですが、敵を倒すといつも喜んでいたので少し寂しい気もします。
妹を守っていくにも無くてはならない大切な神剣でした。大きく溜息をつき、呟きます。
「たった一つの『求め』。あれがなくちゃ、佳織を守れない。どうしよう」
その時です。水から靄が立ち上がり、まばゆい女性の姿が現われました。

美しい、流れるような緑色の髪。慈愛に溢れた瞳。エトランジェは驚き、丸くした目でその姿を見ました。
「そんなに恐がる必要はありません。私は大地の妖精です。とても困っているようですが、どうしたのですか」
「大地? 湖で?……いや、『求め』を失くしてしまいました。大切な神剣です。あれがないと生き残れません」
軽く突っ込みつつ、エトランジェは弱々しく答えました。
「おや、それは大変なことですね。わかりました。力になってあげられるかもしれません」
大地の妖精は同情すると、水の中に飛び込みました。暫くして現れた時には、両手に神剣を抱えています。
「あなたが落としたのはこの神剣ですか」
それは仰々しくも禍々しい装飾の施された、『誓い』でした。
「と、とんでもない。俺のではありません。俺のはキ○ガイ仕様なんかじゃありません」
エトランジェは、大層がっかりしました。大地の妖精は少し何かを考えています。
「そうですか、それではちょっと待っていてください」
そう言うと、大地の妖精は再び水の中にもぐり、まもなく両手に『空虚』を抱えて出てきました。
「さあ、これはどうですか。あなたのでしょう」
「申し訳ありません。それも俺の神剣ではありません」
と男は希望を失い項垂れながら呟きます。
「俺のはごく普通の神剣です。そこまで物騒な精神支配はしませんが、敵を斬るには十分です。戻ってくればいいのですが」
大地の妖精は静かに頷くと、また水の中に飛び込み、今度は両手に無骨な神剣を抱えて戻ってきました。
それを見たエトランジェの全身から、パアーッとオーラフォトンが漲ります。

「それこそ俺のです。俺の愛用の神剣です」
『寒い。不愉快だぞ契約者。ついでだ、その妖精を襲え、マナを奪え』
「うん、間違いありません。よかった。何とお礼を言ったらよいものか」
濡れて機嫌の悪い『求め』を受け取りながら、苦情はスルーしつつ、エトランジェは何度もパッションを発動させます。
「あなたのおかげで使い慣れた神剣が戻りました。頭痛も綺麗に復活しました。一安心です。本当にありがとうございました」
「ちょ、ちょっとお待ちなさい」
お礼を繰り返しながら立ち去ろうとするエトランジェの歩みを、大地の妖精の声が引き止めます。
彼女はまた水の中に潜ると、すぐに両腕に『誓い』と『空虚』の二振りを抱えて出てきました。
「あなたは稀に見る馬鹿……こほん、正直者です。あなたの正直さと誠実さにいたく感動しました。これらも差し上げましょう」
「俺にこの大地を統一せよというのですか。かたじけないことです。本当にありがとうございます」
「いえ、まだ一本足りないですけど。それから、もし一つだけ願いがかなうとしたら、あなたの願いは何ですか」
「何もありません。でも、実を言うと、妹が城に閉じ込められて困っております。助け出すのが、今の俺の唯一の願いです」
エトランジェが家に帰ると、妹が鼻歌を歌いながらお茶の種類を質問してくるではありませんか。
今までにしたことのないようなお嫁さんの選択肢を迫ったりと、とても監禁されていたようには思えません。
エトランジェは妹に「いないねぇ」と答えて、そのいきさつを話しました。言うに及ばず、二人にとって最後の晩餐になりました。

数日たったある日のことです。
マロリガンに住むエトランジェが一人やって来て、『誓い』と『空虚』が保管されている詰所の部屋で寝ていた双子に目を留めました。
「ふーん、あれが『誓い』と『空虚』か。初めて見るな。一体どうやって手に入れたんだ」
顎鬚を擦りながら、疑いの眼で、でも、うらやましそうに尋ねます。何故か、視線の先だけは微妙に違う方角に向けながら。
ですが、正直者のエトランジェは気が付きません。正直なだけに、あの不思議な体験を黙っているわけにもいきませんでした。
するとマロリガンに住むエトランジェはやにわに双子を抱え込みます。驚いた正直者のエトランジェが止める暇もありません。
マロリガンのエトランジェはさっそく湖に駆けつけると、双子を水の中に投げ込みました。
そして妙に息の荒いオーラを背負ったまま、大きな声で、さも一大事のように叫びます。
「困った。どうしよう」
すると大地の妖精が現われました。マロリガンのエトランジェを見て驚き、少し頬を赤くしましたが、殊更冷静に話しかけます。
「何故泣いているのですか」
「誤ってスピリットを水の中に落としてしまいました。あれが無くてはスピたんが出来ません。どうしたらよいでしょう」
そう言いながら、嘘泣きを始めました。その様子を、大地の妖精は暫く不審そうな眼差しで窺っています。
「……あら、まあ。何とかなるでしょう」
大地の妖精は水の中に飛び込むと、すぐにグリーンスピリットを持って現われました。
マロリガンのエトランジェは、その髪の短い幼いグリーンスピリットを見て、大きな声で叫びました。
「それです。それこそ俺が落としたスピリットです。ありがたや」
マロリガンのエトランジェは、嬉しそうに両手を突き出します。しかし大地の妖精はスピリットを素早く後ろに隠し、
「このロリ坊主。貴方の貧乳、もといヨウジョ趣味は嫌いです。もう助けてあげませんよっ」
と言うが早いか、自らに大地の祈りを唱えつつ水の中に戻ると二度と出てきませんでした。ちょっと泣いていました。

業深い、ある意味正直すぎるマロリガンのエトランジェはすっかり落ち込み、家に戻りました。
ニムントールは手に入りませんでした。それだけではありません。ネリシアも失ってしまいました。
これから先、ロリなしでどうやって生きていけるのでしょう。全く途方にくれて、重い足取りで家路に着きました。
入り口を開けようとすると、中からやや高めの、初々しい声が聞こえてきます。
いつもは『マナを……』という苦しみを伴った地獄の底の呟きしか聞こえない為に、オヤッと思って、こわごわ戸を開けました。
するとそこには神剣に精神支配されている筈の幼馴染では無く、黒髪のツインテールが涙目で屈みこんでいます。
「ゔ~……どうして私が突然こんな所にぃ……えっと確か、城に召集がかかって、それから慌てて転んで……」
「な、中の人繋がり……だと?!」
どうもラキオスのエトランジェが大地の妖精から『空虚』を譲り受けた瞬間、摩り替わったようです。
マロリガンのエトランジェは、戸惑いつつも歓喜して、今にも飛びかかろうとします。いけませんね。
「ごくり……く、とても同じ声とは思えんな、ハァハァ」
「ふぇ? ひゃああああっ? あ、あなた誰ですかぁっ!」
「だめだ、辛抱溜まらん……ヘリオンたーんっ」
「この、あほんだらーーーっ」
「ぐはぁっ!」
瞬間、正気に戻っていたハリセンの凶暴な攻撃が、マロリガンのエトランジェに天誅を加えていました。めでたしめでたし。


「お約束でまとめてみました。再生の剣は正直な者を助け、正直すぎる者には罰を与えます」
「どんな教訓だよ、それ」
「いや、まとまってるっちゃまとまってるけどさ……笑えないわね」
「ああ、光陰なら実際やりかねん。っていうかやっぱり微妙に趣旨変わってないか?」
「う~んそうでしょうか。実は書いていて私も途中から少し違うなとは思っていたのですけど」
「うん。大体悠にしたって正直とかじゃなくて、ただ単になーんも考えてないだけなんだから」
「今日子にだけは言われたく無……いや、なんでもないからハリセンは仕舞ってくれ。頼む」
「判ればいいのよ」

「ネリー、泳げないの」
「シアーもだよね?」
「……コウインは苦手」
「ああ、オルファもそんなこと言ってたな。お前やっぱり」
「待て、みんな誤解してるぞ。俺はただ可愛いものを愛でる仏の心でだな」
「でも、実際こうなったら同じ事言うだろ?」
「言うかっ! 言うともっ!」
「どっちだよ」
「このあほんだら、自慢げに言うんじゃないっ!」
「ぐはぁっ!」
「あはは、お話とおんなじだね」
「だね~」
「あのぉ、さっきからクォーリンさんが部屋の隅でいじけてるんですけど……」
「ほら、悠が余計な話をするから」
「いやでも、俺はただヒミカが聞きたいっていうから教えただけなんだけどな」
「いいから、慰める」
「何で俺が……ええっとクォーリンあのな、俺、『求め』落としちゃったんだけど」
「うわあああああーーーーん!」
「あ、逃げた」
「泣いてたよ~?」
「ユート様、冗談にしてもそれはちょっと……」
「お、俺はただヒミカの台本通りに……いや、ごめん」
「……バカユート」
「やれやれ光陰といい悠といい。どうしてアタシの周りにはこんなのしかいないのかしらね」
「今日子にだけは……なんでもない」
「う~んここはやっぱりもう一捻り……ううん、捻りすぎたからこうなっちゃったのかも……」
「ところで、僕の出番はまだか」