代償

Lemma-1

止んだばかりの雨がたっぷりの水分を森中の緑に与えていた。
思い出した様に鳥が鳴いている。聞き覚えの無い鳴き声。ふと思い出す。そもそもここに鳥などという生物はいただろうか。
普段は考えもしない疑問が頭をよぎる。しかしその問いもすぐ闇の中に沈んだ。
森の時間は確実に雨宿りから抜け出して動き出しつつある。

コツ。コツ。コツ。
コツ。コツ。コツ。

足音がすぐ近くから響く。少し煩わしかった。軽く舌打ちする。
拍子に前髪から雫が零れた。雨に濡れた地面は音も無くそれを吸い込んでいった。
握る神剣から滴る鮮やかな赤は地面に落ちる前に金色になって消えていく。

コツ。コツ。コツ。
コツ。コツ…………

「…………?」ギュッ
不意に止まった足音。振り返るのと上着の裾を掴まれるのが同時だった。
「どうした……?」
「………………」ギュッ
問い掛けに答えが返ってこない。その代わり裾を掴む力が強くなる。
悠人は気付かれない様に軽く溜息をついた。
「どうした、━━━?」
苦手なりに出来るだけ優しく言ってみる。名前を呼ばれて少女がピクッと震えた。
恐る恐るといった感じで顔を上げる。雨に濡れた前髪が額に軽く張り付いている。
「……怒ってない……?」
「そんなことは無いぞ。すごく怒ってる。今回みたいなのはこれで最後にしてもらいたい。
 ……ま、うまく生き残れたし、今はそれより腹が減ったかな。何か作ってくれたらそれで許す。」
なにか忘れかけている感情が浮上してくるのを感じる。心の中に広がる波紋のような気配をやや不快に感じてしまう。
悠人は面倒臭くなり、慇懃に答えてそっぽをむく。背中でちょっとビックリした気配。そして。

「う、うん!わかった!」

嬉しそうな返事を、もう一度舌打ちしながら聞いていた。