安息

A Priori

第一詰め所がやけに騒がしい。
神剣魔法の訓練をしていたナナルゥは、やや気になって詠唱を止めた。
「あら~?ナナルゥ、どうかしたのですか~?」
にこにこしながらハリオンが首をかしげている。
先程からそこにいてじっとナナルゥの訓練を眺めていたのだが、気にも留めていなかった。
初めてそこに居たことに気付いたかのように、ナナルゥはゆっくりとそちらを向く。
「…………なんでもありません。」
「そうですか~。ああそういえば今日は、ユ~トさまの元にカオリさまが戻られる日でした~」
「………………」
自分の心を見透かされたようでやや不快だったが、なるほどそういう事かと納得は出来た。
しかし今のナナルゥにはそれ以上の興味も感想も湧かない。再び神剣魔法の詠唱に入る。
「ユ~トさまは嬉しいでしょうねぇ~。カオリさまとはずっとお会いしていないそうですから~」
何の為にここにいるのか判らないハリオンが、のんびりと話し続けている。
(嬉しい?……ふーん…………)
精神集中がやや乱れた。ナナルゥはもう一度最初からやり直そうと、一旦構えを解く。
そんなナナルゥを、優しく微笑みながらハリオンは見守っていた。