『ユート様、料理をする』の巻

前編

帝国との交戦開始から数日が経過したある日。
ラキオス軍は未だリレルラエルを攻略出来ずにいた。
帝国国境の大城壁法皇の壁の堅牢さと
配備された帝国スピリットの予想外の強さ故だった。
「そういえばヨーティアが言ってたな、強化された帝国のスピリットは
エトランジェでも簡単には倒せないって・・・」
最初にケムセラウトに部隊を送ってきたあとは帝国側には大きな動きは無い。
「向こうから攻めて来ればやりようもあるんだけどな。」
「ま、あれだけ立派な城壁があるんだ、敵さんも馬鹿正直に突っ込んでくる訳は
ないよな。」
光陰は気楽な口調で答える。
「焦ってもいいことはないぜ、悠人。」
「・・・わかってるさ。」
佳織のことは気になるが、光陰の言う通り焦ってもしかたがない。
ケムセラウトに今日子やエスペリアら数人を残し悠人たちはラキオスにひとまず
帰還した。

「さて、せっかくラキオスに帰ってきたんだし皆と友好を深めないとな!
主にヘリオンちゃんとか!」
「お前は・・・まだレスティーナに報告もしてないだろう?」
「まかせろ。報告ならクォーリンにまかせてある。」
「な!いつの間に!?っていうか、職権乱用じゃないのか、それ?」
「まぁ固いこと言うなよ。今日子がいないなんて滅多にないんだからな。」
スキップしつつ第二詰め所にむかう光陰。
色々言いたいことはあるが、光陰を野放しにする訳にもいかず
後を追う悠人であった。
「とりあえず今日子には後で報告だな・・・」

第二詰め所に入った二人は倒れているネリーとシアーを発見した。
「な!どうしたんだ、ネリー!シアー!」
あわてて駆け寄る悠人と光陰。
「人口呼吸か?そうか!そうなんだな!!よ、よし!!!」
「意識の確認もせずに暴走するなエロ坊主。」
「・・・ユ・・ユートさま・・?」
「・・さま・・・?」
二人が弱々しく返事をする。
「どうした?調子が悪いのか?まさか敵襲?」
「な、それはいかん!どこを怪我したんだ?すぐに手当てしないと!」
いきなり、服を脱がそうとする光陰。
「オーラフォトンノヴァ・・・」
ズガシャァァァァァァァァァン!!!
「へぶしっ!」
光陰が開けっ放しのドアをぬけて遥か彼方に飛んでいく。
「で、どうしたんだ?」
光陰のことは0.2秒で忘れて再び問い直す。
「・・お・・・」
「お・・・?」
「おなかすいた・・・」
「・・すいた・・・」
「は・・・?」

とりあえずヨフアルを買ってきて食べさせる。
「で、なんでそんなに腹減ってんだ?ハリオンはどうしたんだ?」
ヨフアルで息を吹き返した二人に尋ねる。
ヨフアルを頬張りつつネリーがテーブルの上の紙をさす。
「なになに・・・って俺読めないんですけど。」
ハリオンの字らしいことはわかったが内容まではわからない。
「ふむ、なになに・・・」
後ろから光陰が覗き込む。
「ん?なんだ、生きてたのか?丈夫だな。」
「ふっ、今日子のサンダーストームに比べれば大したことはないぜ。」
サムズアップしつつ爽やかな笑顔をうかべる光陰。
「・・・で、なんて書いてあるんだ?」

「なにやらですねーミネアにあるお菓子屋さんでー
新しいお菓子が発売されるそーなんですよー
気になりますから偵察に行ってきますねー
ユート様にはー秘密ですよー喋ったらーめっ、ですよー
                             ハリオン」
「・・・・・」
「・・・・・」
「もぐもぐ」
「もぐもぐ」
あまりの内容に言葉を失う悠人と光陰。
「・・・じゃあさ、他のやつらは?」
「もぐもぐ・・・ラシード山道の龍の噂を調査に今朝でかけたよー。
今日中には報告に戻るって言ってたけどー。」
「けどー。」

「そうか、つまり料理をする人間がいなかったと・・・」
「うん、朝も昼も食べてないよー」
「ないよー」
「ねー、ユートさま。夕飯どうするの?」
「するの?」
「しかたないな、俺が作るか。外食は高くつくしな。」
「えー、ユートさま料理できるのー?」
「できるの?」
「まあ、簡単なものならな。光陰も手伝えよ、帰ってくる皆の分も作るとなると
独りじゃ大変だからな。」
「たまには料理もいいかもな。よし、ハイペリア風料理をネリーちゃんたちに
食べさせてやるぜ!」
「やったー。楽しみだね、シアー。」
「・・うん。」

天井裏ーーー
「・・・・・・ユート様の手料理・・・・」
「・・・ヒミカたちにも教えないと・・・・」

後編に続く