『ユート様、料理をする』の巻

後編

リーザリオ、街中の広場ーーー
「ナナルゥさん、遅いですねー。」
ベンチに座ったヘリオンが呟く。
「本当ね、何やってるのかしら?」
「ところでヒミカ、ファーレーン達は何処行ったの?」
「リーザリオ名物エヒグゥの串焼き買いに行ったわよ?あ、戻って来たみたいね。」
ファーレーンとニムントールが戻ってくる。
「あら、ナナルゥはまだですか?」
ヒミカ達にも串焼きを渡しつつファーレーンが尋ねる。
「ありがとう、二人とも。そーなのよね、そろそろ帰ってきても・・・」
ガサガサガサッ!!
「・・・そんなものを食べてる場合じゃないです・・・」
ベンチ裏の茂みからいきなりナナルゥが顔をだす。
「な、なによナナルゥ!急に出てきたら驚くじゃない!」
「あ、あなたは普通に出てこれないの!?」
驚いたヒミカとセリアが文句を言う。
「ふえーん、串焼き落としましたー。」
「ヘリオンのドジ・・・」
「こら、ニム!」

「で、報告はどうなったの?」
ヒミカが尋ねる。
「はい、レスティーナ様の許可は取れました。勝算があるなら構わないそうです。」
「そう、じゃあさっきの打合せ通りやりましょう。」
「龍が相手ですか、腕がなりますね。」
「ニムは面倒臭い・・・」
「以前ラキオスの北西で戦った龍と同じくらいでしょ?
楽勝とは言わないけど勝算は十分あるわね。」
「実際被害が出てるみたいだし放っておく訳にもいきませんもんね。」
士気は十分のようである、約1名以外・・・
「じゃあ、予定を変えて今日はこの町で一泊ね。」
「それでは駄目です、ヒミカ。」
「ん?なんで?」
「今日中に帰らなくてはユート様の手料理が食べられません・・・」
「「「「「!!!!!」」」」」
「そそそ、それは本当ですか、ナナルゥさん?」
「落ち着きなさいよヘリオン。で、本当なの!?」
「ヒミカこそ落ち着きなさいよ・・・」
「セリアは気にならないのですか?」
「と、当然よ。全然気にならないわ!」
「・・・お姉ちゃんは?」
「え?気になりますよ。でも、そうですね
私一人の為に作ってくれたりしたら、もっと・・・」
「ムッ・・・」

何やら興奮しているヒミカ達に詳細を説明する。
「ハリオンさんにも困ったものですね・・・」
「重要なのはそこじゃないですよー!」
「そうね、この際ハリオンなんてどうでもいいわ。」
「・・・ヒミカ、何気にひどい事いいますね・・・」
ファーレーンが苦笑する。
「そういうことなら何としても夕飯までには帰らないとね・・・」
「龍はどうするのよ?まさか放っていくの?」
「無論倒すわよ、今からね!」
「正気なの、ヒミカ?」
「ええ、私のため、ユート様の手料理のため負ける訳にはいかないわ!」
「そーです、ユート様のご飯です!龍なんてへっちゃらです!」
「・・・みんなバカ・・・」
違う意味で士気の上がった一行はラシード山道へ走るのだった・・・

一方その頃・・・ラキオス、第二詰め所・台所ーーー
「さて、材料はこんなもんだな。」
「それで、何作るんだ?悠人よ。」
「んー、肉じゃがかな。完璧に再現はできないけど、まぁハイペリア風ってことで。」
「じゃあ、俺は天麩羅でも作るかな。」
「お、いいな。こっちの揚げ物は洋風だからな・・・まぁ、あれはあれで
ウマイけどな。」
「うまいといったら、マロリガンで食ったアレはうまかったな。」
「あぁ、アレだろ?俺も食ったぜ。アレはいけるよな。」
・・・と、リーザリオの様子を知らない二人はのん気に料理をするのであった。

龍退治について・セリアの日記○月△日より抜粋ーーー
・・・そんな訳で強行軍で龍と戦う羽目になった。
ヘリオンはともかく普段は冷静なヒミカとファーレーンも興奮していた。
龍退治なのに緊張感の欠片もない。これじゃ龍も立場がないわよね。
これといった被害もなく倒せけど、とんぼ返りでラキオスに戻ったから疲れた。
全く・・・皆ユート様の料理がそんなに楽しみだったのかしら?
大体ラキオスのスピリットはユート様が絡むと冷静になれない者が多すぎる。
皆あんなツンツン頭のどこがいいのかしら?
隊長としては未熟だし、すぐ突っ走るし、皆に甘いし。
この前だってオルファやネリー達にせがまれて遊び相手になってたし・・・
私には用でもないと話しかけてもくれないのに・・・
やっぱり私みたいな女よりも可愛い娘の方がいいのかしら。
私だって本当は・・・(以下、龍退治と関係なくなってきたので省略)

その夜ーーー
そんなこんなで帰還したヒミカ達や報告を終えたクォーリンも交えての夕食。
『いただきます。』
すっかり広まったハイペリア風食事の挨拶をする。
「さぁ、皆遠慮せずに食べてくれよ。結構うまくできたと思うぞ。
エスペリアやハリオンには全然負けるけどな。」
「はうー、そんなことないですよぅ。」
憧れのユート様の手料理を食べたヘリオンの精神は早くもハイペリアに
飛んでいる。
「く、悔しいけど・・・おいしい、かも・・・」
「もう、ニムったら素直じゃないんだから・・・」
「おいしいよね、シアー?」
「・・・うん、おいしい。」
ハイペリア風料理が受け入れられるか内心不安だったが好評のようであった。
「まぁ、納豆とかだしたら大騒ぎなんだろうな・・・料理じゃないけど。」
「もぐもぐもぐ、ぱくぱくぱく・・・」
「なぁ、ナナルゥ。初めて食べたハイペリアの料理はどうだ?」
黙々と食べる赤い妖精に聞いてみる。
(・・・・・初めてではないですけど・・・・)
「どうした、ナナルゥ?」
「いえ、何でもありません・・・とてもおいしいです。」
実はユート様が訓練後とかに軽食を作ったりした際に
こっそり摘み食いしたことがあるのだった。
(・・・ばれてないみたい・・・普段のユート様は微妙にぬけてるから・・・)
・・・・ナナルゥに言われてはおしまいである。
「ユート様、今度これの作り方を教えてもらえますか?」
肉じゃがを気に入ったらしいヒミカが尋ねる。
「わ・・私も教えて欲しいです!」
「あぁ、いいぜ。まぁたいした物でもないけどな。」
悠人の了承に喜ぶ二人。

「なぁヘリオンちゃん、俺が作った方はどうよ?」
悠人に負けじと光陰がしゃしゃり出て来る。
「え、えーと・・・お、おいしいですよ?」
「うん、おいしいよー。コウインさまも料理できるんだねー。」
「ねー。」
「ええ、正直びっくりしました。」
「・・・・おいしい・・・」
次々と褒めるスピリットたち。
「きた!ついにきた!常に変態扱い、たまのシリアスな話でも
悠人の良き親友役止まり!そんなこんなで7スレ目。ついに俺にも春が!」
妙な電波を受信した光陰が叫ぶ。
「・・・・これがなければイイ奴なんだが・・・」
冷めた目で光陰を見つつ悠人は呟いた。
「ニムちゃんはどうよ?」
マインドが300位にいってしまった光陰がよせばいいのにニムに尋ねる。
「・・・バカでもおいしい料理を作れるのね。」
「こ、こらニム!本当のことを言ってはコウイン様に失礼でしょ!」
「・・・それはフォローになってないわよ・・・ファーレーン・・・」
苦笑しつつヒミカがつっこむ。
舞い上がったところに痛烈なカウンターを喰らい凹む光陰。
「ふっ・・・どうせ俺はオチ役だよな。ま、当然だけどな・・・」
「元気だしてください・・・コウイン様。ええと・・おいしかったですよ?」
クォーリンが慰める。
「俺の味方はクォーリンだけだよ・・・」
「え・・・そ、そんなことないですよ・・・」
光陰の何気ない一言にうろたえるクォーリンであった。

「ん?そういえば・・・」
悠人は一言も喋ってない者がいることに気付いた。
黙々と食べていたかとおもえば、急に複雑な表情を浮かべる彼女に話しかける。
「えっと、どうした、セリア?口にあわなかったか?それとも体調が悪いのか?」
「い、いえ・・・そ、そんなことないです。」
急に話しかけられうろたえる。
「そうなのか?なんか考え込んでるみたいだったからさ、心配で。」
「なんともないです!
ユート様の料理だって言うからどんなに酷いものが出てくるか心配してたら
思いのほかまともで驚いただけです。」
「そ、そうか・・・いや、元気ならいいんだけど・・・」
あまりの言葉だったが元気になったみたいなので安心する悠人であった。
「・・・・あ、あの・・・」
「ユートさまー!皆食べ終わったから片付けるよ?」
「よ?」
「あぁ、俺のも片付けていいよ。あ、手伝おうか?」
「いえ、片付けは私達でやりますから休んでいてください。」
「そうですよ、ユート様は休んでいてください。今お茶を持ってきますね。」
「そうか?まぁヒミカとヘリオンがそう言うならお言葉に甘えるとするか。」
そう言いながら改めてセリアの方に向き直る。
「そういやさっき何か言いかけてなかったか?」
「い、いえ・・・」
「・・・?気のせいだったかな?」
「では、失礼します・・・」
「あ、あぁ。今日はお疲れ様、セリア。」
セリアが部屋を出て行く。
「ユート様、お茶をどうぞ。」
「あぁ、サンキュ。」
こうして今日もラキオスの夜は更けるのであった。

ユート様の料理について・セリアの日記○月△日より抜粋ーーー
でも正直ユート様があんなに料理が上手いとは思わなかった。
正直・・・・私よりも上手いと思う。
やっぱりユート様も料理が上手な女の子の方がいいわよね・・・
エスペリアもハリオンもオルファもヒミカもヘリオンも皆私より上手いし。
もっと練習しないと駄目かしら。
い、いや別にユート様なんかどうでもいいけど。
そういえばユート様においしかったともごちそうさまとも言えなかったな・・・
・・・・いや、だからユート様はどうでもいいのよ。
・・・本当に今日の私はどうかしている、日記も長くなりすぎたし。
・・・ユート様が私より料理が上手いからいけないのよ!
そうよ、そうに違いない。やっぱり明日から練習ね。

後日ーーー
「ハリオン・・・無断でラキオスを離れたら駄目だろ?」
「ミネアもー今はラキオスの一部ですよー?」
「いや、それは屁理屈だから。そもそも・・・」
「あぁー思い出しましたー。」
「え、何を?」
「ユート様はー皆の為にー料理したんですよねー?」
「あぁ、そうだけど・・・いや、今はその話じゃなくてな・・・」
「えぇー私にはー作ってくれないんですかー?」
「あのな・・・」
「そんなーイジワルさんにはーめっめっですよー」
「いや、そうじゃなくてな・・・」
「じゃあー作ってーくれるんですねー?」
「あぁ・・・それはいいけど。」
「ユート様はー優しいですねーお姉さんはー嬉しいですよー」
ナデナデ・・・・
「じゃあー今日の夜にでもーお願いしますねー」
去っていくハリオン。
「・・・・・・はっ!はぐらかされた?」
ハリオンのマイペースぶりに敗れる悠人であった・・・

おしまい