回帰

ヘリオンはミスレ樹海で道に迷っていた。

「わ~~ん、ここどこぉ~~~~」
歩けば歩く程視界が狭くなってゆく。もともと無い身長が増々縮んできた気がする。
なんのことはない、ただ周囲の植物の丈が長くなってきたというだけのことだ。
つまるところ樹海の奥へ奥へと向かっているというだけの話でもあるのだが。
「こんなとこ、来たっけ……」
呟きながら確信も無いのに更に突き進む。典型的な遭難のパターンだ。
そうこうしているうちに掻き分けても掻き分けても草しか見えなくなってきた。
日の光が届きにくくなってきたのか、周囲の薄暗さが気味悪い。
心細さに空を仰いでみる。気のせいか、さっきと月の位置がずれていた。
ふいに風が吹いて周囲の木々がさざめく。森中に見られているような感覚に不安が増大した。
ここにきて、ヘリオンはようやく悟った。自分は迷子になったのだと。
普段からドジだドジだと自覚はしていたが、まさか作戦途中に迷子になってしまうとは。
「ふえぇぇぇ~~~~~ん」
情けない泣き声をあげながらヘリオンは駆け出していた。もちろん、樹海の最深を目指して。

悠人とアセリアが帝国領リーソカにある旧メトラ研究所に潜入している頃。
作戦をより円滑に行う為、スピリット達は旧マロリガン領でそれぞれに陽動作戦を展開していた。
ヘリオンが担当したのは比較的樹海に近いリレルラエル近郊。
そこに向かう途中、一行にセリアが説明していた。

セリア「ミスレ樹海はマナ濃度が不安定だし方向感覚も狂うっていうから気をつけなさい」
ヒミカ「セリア……子供じゃないんだからわざわざ作戦に関係の無い樹海に入る人なんていないでしょう」
セリア「そうなんだけどね……一応年少組もいることだし、確認代わりよ」
ネリー「も~、ネリーそんなドジじゃないぞ~」
シアー「シ、シアーもそんなバカじゃないもん……」
オルファ「そうだよ~、オルファだってそんな変なことしないよ~」
セリア「そうね、それもそうか……ごめん、ちょっと子供扱いし過ぎた」
ハリオン「そうですよ~、もう少しセリアは皆を信用しないとめっ、ですよ~」
ナナルゥ「ハリオンにかかるとまるでセリアの方が子供みたいですね」
セリア「うっ……ナナルゥ、それはちょっとキツいよ」
年少組「「「あははははは~~~~♪」」」
ハリオン「あれ~そういえば、ヘリオンさんの姿が見えませんね~」
一同「「…………………………………………」」

全員の笑いがピタリと止まった。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさ~~~~~いっっ!!」
何故かみんなの罵声が聞こえた気がしてヘリオンは誰にともなく謝り続けていた。
走り続けてもう数時間。とっくに日は沈み、月が最初に見上げた時と同じ方向にある。
同じところをぐるぐる回っているようなのは決して気のせいではなかった。
焦る気持ちが歩様を乱れさせる。草に足をとられた、と思った時には派手にこけていた。
ずべたっと我ながらまぬけな音を立てて地面に頭から突っ込む。
泥だらけになった顔をなんとか上げようとした瞬間、お腹が可愛らしい声を鳴らした。
 クゥ~~~~
「ふぇぇっ、もう、やだぁ~~~~~」
絵に描いたような不幸の連続。ヘリオンは心が挫けそうになった。


カキィィィィィン………………

ぐすぐすとべそをかきながら立ち上がって泥を払っていた時、遠くで何か硬い金属がぶつかり合うような音が聞こえた。
「………………ぅえ?」
よくそちらの方角を探ってみると、微かながらも確かにスピリットらしき気配がする。
その中に混じってなにやら懐かしいような身近なような匂いがした。くんくんと鼻を鳴らしてみる。
「???……………………あ!これ、ユートさま!助けに来てくれたんですね~~!!!」
はなはだしい状況誤認を繰り返したままヘリオンは仔犬のように駆け出していた。

広場のような所で1本の大木に寄りかかっている悠人の姿を発見したヘリオンは、もし尻尾があったら千切れるほど振り回していたことだろう。
「ユートさまっ~~~!!!…………きゃっ!」
嬉しさのあまりつんのめる。が、それが幸いした。
バランスを崩したヘリオンの頭上を鋭い切先が切り裂いていったのだ。
頭があった辺りの空間を薙いだ神剣はその持ち主ごとそのまま飛び出し、ヘリオンの前方に立ち塞がっていた。
「あれ…………?」
なにが起こったか判らないヘリオンがまぬけな声を上げる。
騒ぎに気付いた悠人が大きな声で警告を発した。
「ヘリオンっ!なんでここに…………危ないぞ!」
「え、え、わわわっ!」
目の前の影が詠唱を始める。周囲にぱりぱりとマナが集まるのが感じられた。
混乱したヘリオンは、反射だけで突撃していた。……剣も構えず。

ドジとはいえラキオスでも速さだけは屈指のヘリオンである。
涙目で突っ込んでくるブラック・スピリットに敵も動揺したのだろう。
詠唱が間に合わないと判断して、槍による直接攻撃に切り替えようとする。
その一瞬の隙をついてヘリオンが敵の懐に飛び込んだ。……もちろん素手のままで。
ふにっ
なにやら柔らかい感覚があった。僅かな沈黙。いやな空気が流れた。とりあえず感触をもう一度確認してみる。
ふにふにふにっ
「…………………………」
「……………………ふぇ?」
ヘリオンは恐る恐る上目遣いで様子を窺った。
するとすぐ間近にグリーン・スピリットの顔。
睨んでいるかと思ったその顔が、みるみるうちに赤くなっていく。アップでくしゃっとなるのを目撃してしまった。
「あ、あはは…………えっと…………」
「~~~~~っ!イヤーーーーーーーーッ!!!!!!!」
「わっわっ!ごめんなさ~~~~いっ!!!」
つんざくような叫び声を上げて胸元を押さえしゃがみこむ敵になぜか謝りながら、
ヘリオンは悠人に向かって逃げ出していた。緊張感を吹き飛ばしつつ。

駆け寄った悠人はよく見ると傷だらけだった。
しかもいつも傍らにあるあの無骨な神剣『求め』を握っていない。
持っているのは何の気配も感じない、ただの木の棒だけだった。
ヘリオンはどうやら悠人が助けに来てくれた訳じゃないらしいとようやく気付いた。
「ユートさま、これは一体?あっ、あっ、それに酷い怪我を……」
「ヘリオンどうしてここに?なんかあったのか?」
「それにそれにアセリアさんはどうしたんですか?まさか迷子になったんじゃっ!」
「いやだからどうしてヘリオンはここに…………って迷子?」
「どうしよう、わたし回復魔法なんてできないし、ユートさま死んじゃうよぅ」
「落ち着け、これくらいじゃ死なないよ。ヘリオンが来てくれたしな」
「でもでも~~ううう~~~」
人の話を全く聞かずに暴走するヘリオン。
まず落ち着かせるのが先決だと悟った悠人はとりあえず華奢な両肩を掴んで同じ高さに目線を合わせ、出来るだけ優しく話しかける。
さすがに年下の扱いは手馴れたものであった。
「それで、ヘリオンはどうしてここに?」
「うぁ、あの実は……、そ、そうです!わたし、ユートさまを助けるようにセリアさんに命令されてっ!」
痛いところを突かれて我に返り、嘘八百を並べ立てるヘリオン。
「そうなのか。助かったよ、サンキュな」
しかしさすがというか全然それに気付かない悠人はわしゃわしゃと優しく髪を撫ぜてやった。
根元で二本に結い上げられたサラサラのストレートが指が抜けるたびに乱れるが、ヘリオンは全然気にしていない。
それどころかうっとりと目を細めてぽーっとしている。
「あ…………え、えへへ…………」
ほんわかとした空気が流れる。だがとりあえず、場の雰囲気とは全く噛合っていなかった。

結果的に無視され続けていた敵スピリット達の怒りは頂点に達しようとしていた。
特に先程ヘリオンに胸を揉みしだかれて百面相まで演じてしまった名も無きスピリットは、
ようやくそのショックから立ち直り物凄い顔でこちらを睨んでいる。
その様子に気付いた悠人がこほんと一つ咳払いをした。
「……とりあえず話は後だ。今はこの状況をなんとか切り抜けないとな」
「判りました。頑張ります!」
同意したヘリオンがこんどこそ『失望』を構え、その側に立って敵の数を確認する。
(四人。右のブルー・スピリットと前方のグリーン・スピリットが強そうだ。
 まず右を倒してそれから前のお姉さん……ええと……なにか物凄く怒っているようなんですけど……
 まあいいや、その間にユートさまに残りの二人を倒して頂ければ………………あれ?)
そこまで考えて首を傾げる。なにかとてもとても大事な事を忘れているような。
ヘリオンは背中合わせに警戒している悠人にそっと耳打ちしてみた。
「あの~つかぬことをお伺いしますがユートさま……『求め』は?」
「ああ、今ちょっとないんだ」
「ふぇ?」
即答だった。ヘリオンは思わず訊き返していた。
「ないの、『求め』。もうすぐアセリアが持ってきてくれるはずなんだけど、それまではこれだけ」
それはどう見てもただの木の棒だった。スピリットからしてみればそんなものは武器とはいえない。
「え?え?」
「いや~俺今ただの『人』だからさ、木刀でも重いのなんのって。ヘリオン達って凄いよな、改めて実感したよ」
「…………………………(汗」
あまりの衝撃的事実に口をぱくぱくさせるヘリオンに、振り向いてにっと笑った悠人がやけに眩しく映った。
「そんな訳で、ヘリオンが来てくれて本当ーーーーに助かったよ♪」
「う…………うわ~~~~~~~ん!!!!!」
そんな笑顔で爽やかに言われてはどうしようもない。ヘリオンは泣きながら敵に突っ込んでいった。

四方から同時に襲い掛かろうとしていた敵は逆に飛び出してきた小柄なスピリット一体に翻弄された。
意識してのことではないだろうが暗闇と草陰を利用してあちこちから出現してくるヘリオンの姿を捉えることが出来ない。
本人にしてみれば闇雲に剣を振り回しているだけなのだが定石を無視したその動きが敵の混乱に更に拍車をかけた。
「わわわ~~こないでください~~」
「な、なんなのこの娘…………」
来るなと言われても。
余程敵に胸を揉まれたのがショックだったのだろう、感情を一時的に取り戻した「お姉さん」が呟く。
なんだかばかばかしくなってきた。なんで戦っていたのか判らなくなってくる。それに正直ヘリオンのスピードに辟易し始めてもいた。
グリーン・スピリットである彼女ではヘリオンの速さにとてもついていけないのである。
「~~~っ、やってられないわ!」
最後にそんな捨て台詞を残して名も無き「お姉さん」は去っていった。
残りの三人も一瞬顔を見合わせた後、あっけなくその後に続く。
「………………あれ?」
一人で駆けずり回っていたヘリオンは暫くして周囲に敵がいないことにやっと気が付いた。
きょろきょろ辺りを見渡していると後ろから弱々しいうめき声が聞こえる。
「そうだ!ユートさま?!」
「……ああ、よくやってくれたなヘリオン。お陰でなんとかなったよ」
膝をついていた悠人が立ち上がろうとしてよろけた。
駆け寄ったヘリオンがよく見ると悠人は先程より更に満身創痍である。木の棒は既にへし折れてその辺に転がっていた。
「ユートさま、しっかり!」
「ああ、大丈夫…………おっとっと」
慌ててヘリオンが身を支えようと手を貸すが、身長差がありすぎた。
腰の辺りに抱きつくような形になってしまいかえって悠人ごと倒れそうになってしまう。
「きゃっ!」
「あっと……ごめん」
「い、いいえ…………こちらこそ…………」
「……………………」
悠人がバランスを取ろうとヘリオンの背中に手を回したことで、抱き合うような形になった。
意外な展開に思わず二人とも黙り込んでしまう。月が明るく照らす大木の元、静寂が包んだ。

手の平に感じる温かさ。押し付けられたささやかな胸の鼓動が伝わってくる。
ツインテールの小さな頭から懐かしいような甘いような子供っぽいヘリオンの匂いがした。
華奢な肩が緊張からか少し震えている。悠人は不覚にも一瞬くらっときた。
「あの……」「あのさ……」
二人の声が被った時、遠くに青白い光が浮かび上がる。それはみるみるこちらに近づいてきた。
光の中に蒼い髪をなびかせた少女が現れた瞬間、二人の声がまた被った。
「アセリアさん!」「アセリア!戻ったのか?!」
「……ユート、無事か?」
そう言って不審そうにじろじろと抱き合う二人を見比べるアセリア。
その視線に気付いた悠人が慌ててヘリオンから離れる。あっ、と小さな、残念そうなヘリオンの声が漏れた。
「…………あーこれはだな、ちょっと遠大な理由があって」
「はい『求め』……ヘリオン、来てくれたのか?」
「お、おうサンキュ……あのさ……」
「は、はいっ!アセリアさん、会えてよかったです!」
「よくユートを守ってくれた……ありがとう」
「そんなわたしなんてなんのお役にも立てなくて……ってえ?アセリアさん、元に戻ったんですね?!」
「ん……ただいま、ヘリオン。心配かけてすまない」
「おーい」
「ユートは黙ってて」
「…………はい」
こちらを向いたアセリアの瞳が物凄い威圧感を放っていて怖かった。
悠人は泣く泣く言い訳を断念する。『求め』から与えられているマナの温かさが今はやけに身に染みた。
「え、え、どうしたんですか?」
「なんでもない。さあ、帰ろう……みんなのところへ」
「は、はいっ!…………あの~、アセリアさんも迷子だったんですか?」
「迷子?ううん、ちょっと違う」
楽しそうに話しながら去っていく女性陣二人に悠人はとぼとぼとついていった。
『契約者よ、どうやらいべんとふらぐが強制的に立ったようだな。違うるーとに入ったようだ』
「意味不明な解説はいいから少し黙っていてくれ…………」
異次元な『求め』の突っ込みが痛かった。

ようやくミスレ樹海を抜け出した一行は他のスピリット達との合流を果たした。
三人を見つけたセリアが真っ先に駆けつけてくる。セリアはアセリアの瞳に光が戻っているのをみて驚いた。
「ヘリオン!ユートさまもご無事で……それにアセリア、貴女一体……」
「ん、セリアただいま」
「……ま、まあ別に貴女のことは心配していた訳じゃないけどね」
「ん、セリア、心配かけた」
「もう少し遅かったらヒミカに貴女の恥ずかしい過去をもっとばらせたんだけど」
「ん、セリア、もう忘れない」
「………………おかえりアセリア」
そっぽを向いて答えるセリアはそれでも久し振りに交わされた幼馴染との会話を楽しんでいるようだった。
遅れてやってきたみんながあっという間に四人を取り囲みたちまち賑やかになる。
「ユートさま、ご無事でなによりです」
「ナナルゥもお疲れ。そっちは大丈夫だったか?」
「アセリア……本当にアセリアなのね」
「ん、ヒミカ、心配かけた」
「そんなことどうでもいいわよ……でもよかった。その方がやっぱりあんたらしい」
「おや~ヘリオンさんどこへ行かれるのですか~」
喧騒を離れこそこそと逃げ出そうとしていたヘリオンを、ハリオンが目ざとく見つける。
「あっ!そういえばヘリオン、貴女どれだけみんなが心配したか!」
「わあんっ!ごめんなさ~~い」
今日何回目になるか解らない謝罪を述べるヘリオンの襟首をヒミカがむんずと捕まえる。
「おっと……逃がさないわよヘリオン…………ふふふふふふ」
「え?ヘリオンって俺達を助けに来てくれたんじゃなかったのか?セリアが命令したって……」
「へぇ~~~~~この娘ったらそんな大嘘をついてたんだ…………ふっ、これはおしおきが必要ね」
「あっあっセリアさんこれには遠大な理由がありまして」
「はいはいその辺も踏まえてじっくりと話を聞くからさ、いきましょうヒミカ」
「…………すまんヘリオン、俺なんか余計な事を言ったみたいだ」
「あ~~~~~~助けてユートさま~~~~!!!!」
猫のようにヒミカに引きずられていくヘリオンの悲痛な叫び声が夜空に響き渡った。

次の日の訓練場。何となく戦々恐々としていた悠人だったがアセリアの様子は一見普段と変わらないものだった。
思い切って話しかけてみる。
「よ、アセリアお疲れ。どうだ、その後体の調子とか、変な所とかないか?」
「……ん、問題ない」
ぷいとそっぽを向いてアセリアが答える。以前なら気付きもしなかったが今の悠人には判った。怒ってる。
(やっぱりアレだろうなぁ…………)
昨夜ヘリオンと抱き合っていたところを見られた事を思い出す。あれ以来アセリアはまともにこちらを見ようとしていないのだ。
やきもち……なら嬉しい事は嬉しいのだがこんな気まずい状態にはいつまでも耐えられない。
かといってこういうときもって回った言い方をしてもアセリアには通じない。
なんだかなぁ……頭を掻きながら悠人は直接訊いてみる事にした。
「なあアセリア、ひょっとしてやきもちとか、焼いてる?その……ヘリオンに」
「ん」
「………………」
いや、こういう娘なのだとは判っていた。感情を隠すという事を知らないアセリア。
判ってはいたのだが、こう素直に答えられるとこっちが赤面してしまうじゃないか。

いきなり動揺した悠人をちらっと見たアセリアがぼそっと言う。
「ユートはヘリオンが好きなのか?」
「なぜそうなるっ!?」
速攻で突っ込んでいた。直球というか剛速球のやり取り。思考が飛んでいるようで最短を走っている。
「大体抱き合っただけで好き合ってたら大変なことになるだろ?なぁそうだろ?」
「そうなのか?」
慌てて文体がおかしくなった言い訳にアセリアが首を傾げる。
「そうなの!アレはただ単に助けに来てくれたヘリオンがバランスを崩してだな」
「ヘリオンは迷子になっただけ」
「だ~~~っ、変な所を突っ込むなっ!とにかくヘリオンとはそんなんじゃないっ!」
「ん、わかった」
「…………へ?」
「ユート、訓練の続きをしよう」
「え?え?え?」
よく判らないが機嫌を直したようなアセリアに引っ張られながら悠人の頭の中で疑問符が飛び交っていた。

更に次の日の訓練場。悠人は隅で一生懸命打ち込みを繰り返しているヘリオンを見かけた。一見普段と変わらない。
一心不乱に剣を振っているようだが思い切って話しかけてみる。
「よ、ヘリオンお疲れ。どうだ、その後体の痛い所とかないか?」
「あ、あわ、あわわ、ユユユユートさまっ!」
真っ赤になったヘリオンがお辞儀する。以前なら緊張してるだけかと思っていたが今の悠人には判った。照れている。
(やっぱりアレだろうなぁ…………)
偶然とはいえヘリオンと抱き合ったことを思い出す。あれ以来ヘリオンの自分を見る目が違うように思えてならないのだ。
自意識過剰……なら何も問題は無いのだがもし異性として見られてたら……どうしよう。
かといっていきなり冷たい態度を取るなんてことは出来ないし、それに妹みたいな存在として悠人はヘリオンを結構好きなのだ。
なんだかなぁ……自分のヘタれぶりに頭を掻きながら悠人は無難に笑いかけることにした。
「なあヘリオン、ヘリオンっていつも頑張ってるよな」
「は、はいっ!今度はちゃんとユートさまに付いていけますっ!」
「………………」
いや、こういう娘なのだとは判っていた。いつの間にか悠人を基準にして頑張るヘリオン。
判ってはいたのだが、こう素直に答えられるとこちらが赤面してしまうじゃないか。

いきなり動揺した悠人をちらっちらっと上目遣いに見ていたヘリオンがぼそっと言う。
「あの~ユートさまはその……ひょっとしてアセリアさんと付き合って」
「なぜそうなるっ!?」
思わず速攻で突っ込んでいた。しかも直球過ぎる質問につい否定的な答え方をしてしまった。まずい。ヘリオン、満面の笑顔を浮かべてるしっ!
「だ、大体一緒に作戦しただけでそうなったら大変だろ?」
「ふぇ、そうなんですか?」
慌てて思いっきりどもった説明にヘリオンが首を傾げる。
「そうなの!アレはアセリアを元に戻せるってバカ剣がいうからしかたなくだな」
「?バカケン……あ、『求め』さんのことですね」
「さん付けする程偉い剣じゃないけどな……ってそうじゃなくて」
「へへ、また一つユートさまのことが判っちゃいました」
「………………」
「あ、これからお暇ですか?でしたらあの~……少し訓練にお付き合いして頂たいな、なんて……エヘヘ…………」
ムキになって否定したのが全くの逆効果になったのを思い知りながら、それでも律儀に訓練に付き合う悠人であった。

ちなみにそれまでヘリオンの練習に付き合っていたファーレーンは最後まで口が挟めずに置き去りにされていた。