ハイペリア式告白法

前編

それは一人の少女の問いから始まった。

マロリガンとの戦いが終ってから数日たったある日
エトランジェ・今日子の部屋―――

「ああ、あのキョ、キョーコ様!き、聞きたいことがあるんです!」
「ちょっと・・・えーと、ヘリオンだっけ?落ち着きなさいよ、ほら深呼吸して・・・」
「すーはー、すーはー・・・・」
質問があるからとやってきたのはいいけど、この慌てようは何なのかなー。
なんだか小鳥とは違った意味で落ち着きの無い娘よね。
「どう?落ち着いた?」
苦笑しつつ尋ねる。
「は、はい・・・」
「で、私になんか訊きたいことがあるんでしょ?なにかな?
ま、大抵のことなら答えるわよ。我らが隊長殿の恥ずかしい話とか。」
「え、えぇ!ユ、ユート様のですか?ど、どうしよう・・・恥ずかしい話って・・・
あぁ、駄目です。でもでも・・・そんな・・・・い、いやぁ・・・・・・はっ!私ったら何を・・・
えーと・・・そ、そう今日訊きにきたのは違うことだし・・・」
うーん、この反応・・・分かりやすいわねー。
これで悠は何も気付かないんだから恐れ入るわね。
ところで一体何を想像したのかな?気になるわー。

「まぁ悠の話はそのうちね・・・で、そろそろ本題に入ろうか?」
このままだと無駄に行数増えちゃうしね。
「ええと、その・・・こ・・は・・の方法とか・・・」
ヘリオンが顔を紅くしつつ何かボソボソ言う・・・これは悠絡みなのは確実ね。
「ゴメン、よく聞こえないんだけど・・・」
真っ赤になっちゃって初々しいわねー
「あ、あの!ハイペリアではなにか特別な告白の方法とかあるんですか?」
やっぱりそういう話かー。うーん、こういう話は苦手なんだけどな・・・
でもヘリオンは真剣みたいだし、はぐらかしちゃ駄目よね・・・やっぱり。
「特別ねぇ・・・この世界とは違う方法ってこと?」
とはいえ『空虚』の支配から逃れたばかりだし、
この世界の告白方法分からないんだけど・・・
そもそも私ってちゃんと告白したことないような・・・
光陰とは何となく流れでそうなったし、悠とはそんな雰囲気にはならなかったし・・・
ん?私って恋愛経験浅いのかな?
「・・・・そうねぇ・・・・あ、あれかな?バレンタインデーがあるじゃない。」
そのぐらいしか思いつかない。でも女の子の告白イベントっていえばこれよね。
「ばれんたいんでー・・・・ですか?」
ヘリオンが首をかしげる。そりゃそーか、通じないわよねー。

「えーとね、バレンタインデーっていうのは・・・」
・・・・ここに光陰でもいればそもそもの起こりから気合を入れて薀蓄を語るわね。
でも残念ながら私にそんな知識はないんで割愛。
「女の子が好きな人にチョコレート渡しながら好きですって言うイベントね。」
まぁ、重要なのはここよね。
「ちょこれーとって何ですか?」
またもヘリオンが首をかしげる。あー、チョコの説明もしなくちゃね・・・
えーと、原材料は・・・カカオ豆?ってないわよねそんなの・・・
さて、どうしたものかしらね・・・あ、そうだ・・・たしか制服のポケットに・・・
「・・・あった!これがチョコよ!」
小さな袋詰めのチョコが数個でてきた。小鳥に貰ったの入れっぱなしだったわ・・・
なんか溶けて再度固まったみたいだけど・・・平気よね?袋に入ってた訳だし。
とりあえず一つ食べてみる・・・・うん、平気だ。それにしてもなんか懐かしいわね。
少しあっちの世界を思い出して切なくなっちゃったりする。
・・・まぁ、それはさておき・・・
「うーん、でもこれじゃあね・・・溶けたせいで形も悪いし・・・」
食べる分には問題無さそうだけどプレゼントにはね・・・
まぁ悠は気にしなさそうだけど。

「そうね・・・・これをハリオンかエスペリアに食べて貰えば
こっちの材料で似たもの作れないかな?」
あの二人は料理が得意みたいだし。
こっちにもお菓子はあるんだから似たものはあるかもしれないし・・・
「はい、じゃあ残りのチョコあげるからハリオン達に研究してもらいなさい。」
「はい!ありがとうございます、キョーコ様!」
数少ないあっちの世界のものを手放すのは惜しい気もするけど・・・
ヘリオン凄い嬉しそうだし・・・まぁいいか。
「あ、そうそうバレンタインのチョコは手作りが大事よ!
やっぱ自分で愛情こめないとね!」
「はい!がんばります!それじゃ、失礼しますね!」
凄い勢いで去っていくヘリオン・・・さすがブラックスピリット・・・いや、愛の力かな?
「しかし悠のどこがいいのかしらねー」
鈍感だし、頭悪いし、不器用だし、髪の毛ツンツンだし。
「・・・まぁ、私は人のこと言えないかな・・・」
私は苦笑しながらふと考える。
「・・・そうねぇ。私も光陰と悠に作ってあげようかな。」
私が私に戻れたのは二人のおかげだし・・・うん、義理で。
「そうよバレンタインを伝えるなら義理チョコの文化も伝えないと駄目よね!」
そう考えた私は慌ててヘリオンを追いかける。