ネリぃシアたぁ

~お目覚め編~

頬を撫でる暖かい朝日を感じてシアーは目を覚ました。

「ふ、ふぁ~~~…………うにゅう…………」
ゆっくりと上半身だけ起き上がり、こしこしと両手で目を擦る。少し目が覚めてきた。
とろいと見られがちだが案外と寝起きは良い。両手を繋げてそのまま上へ。
「う~~~ん…………にゃぁ~~」
軽く伸びをしているとやや大きすぎるサイズのパジャマが肩からずり落ちた。
ひんやりした朝の空気がほてった身体に当たり、気持ちが良い。
ちなみにパジャマは以前ユートさまが着ているシャツが欲しくなって、
ヨーティア様に無理に頼んで内緒で作ってもらったものだ。
当然色も形もサイズも材質もそっくりそのまま。ネリーとお揃いでもある。
最近ささやかな主張を始めてきた胸の、膨らみの先っぽが擦れてやや気になるが、
それでもシアーのお気に入りである。

隣を見る。横ではネリーが相変わらずの寝相の悪さで枕を抱き締めていた。
幸せそうな顔をして涎を垂らしている。
「にゅふふ~~…………ユートさま~~」
何の夢を見ているかが判りすぎる姉の寝言にシアーは少し可笑しくなった。

「ネリーちゃん、起きて、朝だよ」
「ふむむむ~ん…………だめだって…………」
軽く揺すりながら起こそうとしたが、やっぱり無駄だった。
散らばった蒼い髪が更に広がっただけである。ついでにパジャマは両肩ともずり落ちていた。
つぶれた胸元が小さな谷間を形作っているのが見え隠れする。
寝汗で少し汗ばんだ桜色の肌。膨らみが呼吸に合わせてゆっくりと波打っていた。
ほんのりと浮き上がった鎖骨の辺りは自分とそっくりだな、とちょっぴり嬉しくなる。
「ほらネリーちゃん、起きてよ~」
「う、うう~ん…………」
試しにもう一度揺さぶると、寝返りを打ったネリーが布団ごと巻き込んで全身で抱き込む。
パジャマの裾を捲り上げた体勢からすらっと伸びた細い足が太腿まで見えた。
どちらかといえばシアーの方がぽっちゃりな体型だ。
ネリーはスレンダーとまではいかないでもややすらっとした体型。従って細さでは敵わない。
しかしおへその形はそっくりだし、お尻の大きさだって足の長さだって変わらない。
つまり、「イイ女」では負けていない、と密かにシアーは思っている。

それはそうといい加減本当に起こさないとまずい時間になってきた。
シアーはいつも通り、話し合いによる平和解決を放棄する。
だけど一応最後通牒だけはしっかりと告げておいた。
「ネリーちゃん、起きないと大変だからね」
「んふふふふ~~~~…………」
ベッドのシーツを掴みつつ、姉の顔を覗きこむ。
鼻息の様な寝ぼけ声を上げて頬を枕に擦り付けているネリーは案の定何の反応も示さなかった。
時折思い出したようにぶるっと震えるのはイヤな予感ではなく単に寒いだけだろう。
そう思うことにして、シアーは掛け声と共に思いっきりシーツを引っ張った。
「も~、知らないからね、ネリーちゃん…………えいっ!」
「う?……うわわ、うわわあわわわ~~~☆%#&!!!」

手加減無しでスピリットの力を開放したままシーツを引っこ抜かれたネリーは、
その回転エネルギーを一身に受けたまま空中に浮き上がり、
ランダムな遠心力によって無理矢理ムーンサルトを演じた。
そして加速度×質量への肉体の応力により独楽鼠の様にきりもみしながら、
それでも運動エネルギーを消費しきれずに重力方向の加速度に従い地面に激突した。

「あいたたた…………」
「大丈夫?ネリーちゃん、ごめんね……」
自分でやっといてなんだが一応謝っておかないと姉の機嫌が悪くなる。
もう何度目か判らない経験がシアーを謙虚にさせていた。
腰を擦りながらきょろきょろと辺りを見回していたネリーの焦点がようやくシアーに落ち着く。
「あれ……?シアーちゃん…………???」
「おはよう、ネリーちゃん」

一瞬の静寂。
事情を理解したネリーががばっと起き上がるとぴょんぴょん跳ねつつパジャマを脱ぎ出す。
「おはよう、シアーちゃん!早く行かないとご飯遅れちゃうよっ!!」
そう言っている間にはもう服を着てポニーテールを纏め、前髪まで整えてたりする。
いつも思うのだがこの切り替えの速さはどうだろう。やっぱり性格なのだろうか。
或いは「姉」である事で一応「妹」よりしっかりしていると見せたいのかもしれない。
でも、どっちにしろ元気なネリーちゃんを見ていると、なんだか嬉しい。
いそいそと朝の準備をしている姉の後ろ姿を見ながらシアーはぽやぽやそんな事を考えていた。
何時の間にか『静寂』を腰に掛けながら、ネリーが入り口で叫んでいる。
「も~遅いよシアーちゃん!早くしないと置いてくぞ~~!!」
「あ…………」
言われて気が付いた。まだパジャマも着替えていない。
「ちょ、ちょっと待ってよネリーちゃ~~ん!!」
慌てて握っていたシーツを放り投げる。
またハリオンお姉ちゃん辺りに叱られるだろうが気にしてはいられない。
わたわたとパジャマに手を掛ける。それでも、しわにならない様に十分気をつけつつ。