ネリぃシアたぁ

~お仕事編~

欠伸を噛み殺していたシアーちゃんが本格的にうつらうつらと体を揺らしている。
抱える様に両手で握っている『孤独』がすっかり杖の代わりになってしまっていた。
「ん~~~ユートさまぁ~~~…………」
……相変わらず判りやすい夢だ。ちょっと吹いてしまった。
穏かな午後。ぽかぽかと柔らかな日差し。
こんな日は、シアーちゃんでなくてもお昼寝をしたくなっちゃうんだろう。
ネリーだったらオルファちゃんやヘリオンちゃんとどっかで遊びたいけど。
でも、ゲンジツは甘くない。ネリー達は夕方までここでお仕事なのだ。
お城の前でショウカイ&ケイビ。ほんと、ツイてない。イイオンナが台無しだよね。

それはそれとして、これはお仕事なのだ。寝てちゃいけないだろう。
決してシアーちゃんが静かだとネリーがつまんない訳じゃないよ、うん。すー…………
「シアーちゃん、起っきろ~~~!!!」
「ひゃあ~~~!!!」
いきなり耳元で叫んでやった。
一瞬髪の毛が逆立つ程驚いたシアーちゃんがぴょん、と可愛く飛び跳ねた。

「ひ、ひどいよネリーちゃん…………」
おトイレからの帰り道。まだ涙目のシアーちゃんがう~っと睨んでいた。
「ごめんってば…………ね~シアーちゃん、機嫌直してよ~~」
「…………知らないっ」
ぷいっと横を向いてしまう。トロいと思われがちだが意外と執念深い。
ちょっとやそっとじゃ許してくれそうにないなと思ったので、切り札を出す事にした。
シアーちゃんの耳元で囁く様に告げる。ぴくっと怯えたのはちょっと悲しかったけど。
「あのねシアーちゃん、ハリオンお姉ちゃんにおいしいヨフアル貰ってあるんだ」
「……………………ふたつ」
……我が妹ながら中々なカケヒキ上手だ。そんなぐずぐずと言われたら断れないじゃん。
むむ、いつの間にそんなイイオンナすきるを。
「しょうがないな~もう」
「…………えへへっ」
苦笑いで了承する。やっとシアーちゃんがはにかむ様に笑顔を見せた。
本当は二個しか貰ってないんだけど、まあいいか。ネリーはお姉ちゃんなのだから。

お城の門まで戻ってきた時だった。
さっと何か、黒い影が走った。咄嗟にシアーちゃんを後ろに庇う。
『静寂』に意識を集中させてみたが、何の声も返ってこない。おかしいな、と思ったのも束の間。
「あっ!」
また何か、動いた。今度は後ろ姿もちゃんと見えた。あのアヤシイ頭の形は敵に間違いない。
急に叫んだらシアーちゃんがまたぴくっと怯えた。…………くすん。
「こら~!」
心の寒さを誤魔化そうと大声でケンセイしてみる。すると案の定敵はだっと逃げ出そうとした。
ようやく気付いたシアーちゃんがおろおろしている。
「シアーちゃんはここにいて!……へへーん、逃がさないからねっ!」
「あっ、ちょ、ちょっとネリーちゃん!」

敵の動きは遅い。遅すぎ。あっという間に追いついた。ウイングハイロゥを展開するまでもない。
「てりゃ~~~!!!」
そのまま『静寂』を振りかぶる。その時敵が振り返った。初めてはっきりと顔が見えた。
「……あれれ?」
「だ、だめ~~~~ネリーちゃんっっ!!!」
飛び出してきたシアーちゃんが間に割って入り、『孤独』で受け止めてくれなければ大変な事になっていた。
敵の顔、それは……変装したレスティーナ皇女さま、だった。目を回しながら腰を抜かして呟いている。
「び、びっくりした~~~…………あら?…………シアー貴女、下着穿いて無いの…………???」
シアーちゃんの顔がみるみる赤くなり、ぼんっという音を立てた。

がみがみがみがみがみがみがみがみ
その夜。第二詰め所の廊下に立たされたまま、セリアお姉ちゃんに怒られていた。
一通りお小言をした後、ふぅっと軽く溜息をついて肩を軽く竦ませている。
「とにかく。髪型を馬鹿にしたのは痛かったわね。皇女さま、大層気にしてたわよ」
…………斬りかけた事よりそっちの方が重要だったんだ。
ネリーは思っただけなのに何で判っちゃったんだろう。バレバレな変装はするし、皇女さまって一体。
「じゃ、一応決まりだから、今晩はここで反省して。悪く思わないでね」
「~~~はーーーーい…………」
立ち去っていくセリアお姉ちゃんに生返事を返す。誰も居なくなると、急に寂しくなった。
しょんぼりと下を向いてみる。その拍子にお腹がきゅるるるる~とかわいい音を立てた。……かわいい音だもん。

……ん?くんくん。…………なんだろう、いいにおいがする。
「ネ、ネリーちゃん……」
「うひゃうっ!」
急に声を掛けられてびっくりした。何時の間にかシアーちゃんが横にいる。
おずおずと差し出されたヨフアルに思わずじゅるっと涎が出た。

もきゅもきゅもきゅもきゅ。
ひっそりとした深夜の廊下に二人のヨフアルを噛む音だけが静かに響き渡ってた。
「……………………」
「……………………」

結局シアーちゃんはその後も黙って朝まで一緒に立っていてくれた。欠伸一つ漏らさずに。
それでも今度は退屈でも何でもなかったよ、へへ♪