ネリぃシアたぁ

~おめかし編~

「お~し、いっくぞ~!!」
盛大な掛け声と共に、ネリーがぽーんと戦闘服を脱ぎ捨てる。
部屋の中を落ち着き無くあちこち動きながら着替えを始める姉の後を、
シアーは必死になって追走&服の捕獲に勤しんでいた。
「ネ、ネリーちゃん、もうちょっと落ち着いて…………ああ、もう」
拾った服を丁寧に畳みつつ脇に揃えて抱える。籠手は机の上に並べる。
下を向いたまま歩いてると、ぽんと頭の上に蒼い塊が落ちてきた。
「………………#」
いくらなんでもはしゃぎ過ぎだろう。
御揃いの青ストがくるくると玉になったまま転がされてるのを、
拾って伸ばさなきゃならない妹の苦労も少しは理解して欲しい。
伝線しない様気を付けて解きながら、シアーは諦め半分の溜息をついた。
「なにいってるんだよ~、今日はお出かけなんだからね~♪」
理由になってない。部屋を散らかす理由には、絶対なってない。
シアーは心の中で反論していた。『孤独』が少し光を帯びる程度に。

ふふふ~ん、とリボンをこれだけは丁寧に解いているネリーを横目に、
黙々と服を片付けるシアー。自分も戦闘服を脱ぎ脱ぎしていて、ふと気付いた。
さっきのネリーの服のサイズが局地的に自分のよりも小さくなっていると。
「~~~~~♪」
「おっ、ようやくシアーちゃんもノッてきたみたいだね~」
能天気にショウブ下着に履き替えている姉に、シアーは曖昧に微笑んで見せた。
こうして今日も平穏な姉妹の睦まじさが保たれているのだった。

そんな水面下での激しいイイオンナ争いをシアーが勝手に制圧していると、
急に振り向いたネリーが両手にリボンを持ったまま、訊いてきた。
「ねね、どっちが可愛いかな?」
「え?う~ん、どうだろう…………」
考えるふりをしながら、シアーは別のものを観察していた。
そう、パンツ一丁の姉のスタイルを。上から下まで隅々まで。
細身のネリーは脱ぐと実は凄いんです、なんてことは全然無いが、
それでも全体のバランスは悪くない。顔立ちの可愛さと非常にマッチしている。
小悪魔的(コケティッシュ)、とでも言うのだろうか。
ささやかな膨らみがつん、と上を向いていたり、引き締まった腹筋に
きゅっとすぼんだお臍、綺麗に浮き上がった鎖骨、小さなお尻。
それらが元気一杯に輝いていて、妹の目からしても「イイオンナ」の素質十分だった。

普段から見慣れている筈だが、こうして改めて見直すと、つい自分と比較してしまう。
肌の色はシアーの方がやや白い。肌理細やかさでは勝っているだろう。
鎖骨やお臍の形はそっくりだし、色々な大きさは圧勝。あとは背だけ、と思っている。
「う~ん、やっぱり、こっちっ!」
「え……?」
考えに耽っていると、ネリーは勝手に自分でリボンを決めてしまっていた。
網目がチェック状になっている、やや緑がかった淡い蒼。
それをん~と後ろ手に持ち上げた髪に纏め上げようと背伸びをしている。
シアーはそれを見て、ぷっと少し吹きだしてしまった。背伸びはしても意味が無いのに。
そんなことより、とシアーはこっそり隠しておいた、自分のリボンを取り出す。
短い髪はネリーみたいに後ろで纏める、という訳にはいかない。
やや太めの黄色いリボンは、頭の両サイドを飾る為のものだ。めったにつけないが、今日くらい。
首を少し傾げて片方ずつ蝶結びで丁寧に着けていく。
一方ネリーはエスペリアお姉ちゃんから貰った普段着を取り出していた。
肩口と胸前、それに大きめに膨らんだスカートの裾に御揃いのフリルがついて可愛い。
背中にある大きいリボンだけはセリアお姉ちゃんに作って貰った二人一緒の藍色。
白を基調に薄い緑の染めがややきつめだが、それは髪の色でフォローできる。
「あ、ネリーちゃん、ストッキングの方が先だよ」
「え?あ、うん。ありがとう、シアーちゃん」
「青はだめだよ、白のがいいと思う」
「りょ~か~いっ」
そうして再び二人はもぞもぞと御揃いの衣装を頭から被り始めた。

「シアーちゃん、ちょっとお願い~~~」
「こ、ここ引っ張って、ネリーちゃ~ん……」
お互いに助け合い、何とか着終わる。最後に靴を履き直して出来上がり。
苦心賛嘆、ようやく着替えを完了した二人は向き合ってお互いをチェック。
暫くふんふんと頷き合い、仕上げにお互いの顔を見つめ合う。
「…………へへ~」
「…………あはっ」
にぱっと元気良く笑うネリーとほんわり微笑むシアー。ようやく準備が整った。

いつもとは違い、ゆっくり廊下を歩く。しずしずと、あくまで『れでぃー』として。
もっともシアーは何時もの事で、普段は駆けていくネリーを懸命に追走していただけなのだが。
「あら、珍しいわね、お出かけ?」
「おっ、可愛くなったじゃない」
「馬子にも衣装、ですか」
「いいですね~、お姫様みたいですよ~」
一部問題発言の様なものもあるが、皆が褒めてくれる。
二人は軽く微笑みを返すだけ。でも内心大得意。よかったね、と小声で囁きあう。
それはそうとして、何故全員付いて来るのだろう。見送りが必要な程、子ども扱いなのだろうか。
そんなことを考えながら、ネリーとシアーはおすまし顔で歩いていった。
やがて約束の、玄関先に辿り着く。そう、今日はユートさまと『でぇと』なのだ。
「よっ、遅かったな…………ってぇ?!」
悠人の反応にネリーは満足した。時間をかけておめかしした甲斐があったというものだ。
ふふん、と胸をそらして次の言葉を期待している姉を横目に、しかしシアーだけは冷静だった。
悠人の視線が微妙に自分達とはずれた方向……後方へと向けられているのだ。
時を待たずして、後ろから物凄い殺気が大量発生していた。
「「「「「 # ユ ー ト さ ま ~ ! ! 」」」」
シアーは少ししょんぼりした。どうやらお出かけは、もう少し後になりそうだったから。