朔望

回旋 overture

 §~聖ヨト暦332年レユエの月緑ふたつの日~§

ああ、やっぱり。“視えて”いたとはいえ、はっきりとそれを擬(なぞら)えられては苦笑するしかない。
薄暗い、何の感慨も齎(もたら)さない殺風景なこんな廊下で、私の想いは宙ぶらりんに浮いてしまった。
告げる事も出来ず、幾星霜を積み重ねた想い。だけどこの結果は何本もある枝の、確実に一本だったのだ。
私には、それを止める事は出来ない。ただ、流れの一渓流になって見守るに過ぎない。
それがエターナルの使命とはいえ、やはり辛かった。袴の裾を、誰にも悟られないよう軽く握り締める。
『時詠』が哀しい響きで慰めてくれた。優しい子。私はぎゅっと唇を噛み締め、そして前を向いた。
決して目を逸らさない。エターナルの「もう一つの使命」、それを果たすまで、もう泣く事など許されないから。
この律での戦いは、恐らくどんな「未来」よりも厳しい「選択肢」になったことだろう。
でもそれがこの世界の、そして悠人さんの選択。選ぶのは、彼ら。私はそれらを尊重し、ただ導くだけの巫女――
 
 
 
  ――――― 回旋 ―――――