寸劇をもう一度

エターナルになる可能性

聖ヨト暦332年、ホーコの月、青ふたつの日、夜のこと。『求め』の欠片のペンダントが一瞬放った気がした光、それとともに欠落していた記憶を取り戻した悠人は時深に詰め寄った。時深の部屋で悠人は、永遠神剣のこと、エターナルのこと、それらについて聞かされた。
「他に何か質問はありますか?」
「なぁ、そのエターナルになるにはどうすればいいんだ?」
「たしかに悠人さん、あなたにはエターナルになる資格が…いえ、そのための試練を受ける資格があります。私たちが『時の迷宮』と呼んでいる場所へ行き、神剣に認められる必要があります。また、『時の迷宮』へ行くために受けなければならない儀式もあります。試練を受ける場所…上位永遠神剣が眠る場所…私たちが『時の迷宮』と呼ぶ場所へ行くためにはある儀式を受けなければなりません。その上で、神剣に認められる必要があります。神剣が悠人さんを認めなかった場合には永遠に彷徨い続けることになるでしょう。」
さすがに簡単なことではないらしい。とりあえずはその儀式とやらを受けなければならないのか。と悠人が思っていると、時深はさらに続けた。
「それから、これは…悠人さんにとっては、もっとも重要なことかもしれませんが……エターナルになるということは、他世界との関連を断ち切るということです。生まれ育った世界、人、思い出、過去、すべてを捨てること」
「思い出を捨てる?」
「つまり『居なかったこと』になるのです。エターナルになるということは、人であった頃のことをすべて捨てるということなのです」
「俺が……忘れるってことか?」
悠人の問いに時深は、いいえ、と首を振る。
「アセリアやレスティーナ殿…この世界の者たち、佳織ちゃんや小鳥ちゃん…悠人さんの元の世界の者たち、皆の記憶から、悠人さんの記憶が……消えます」
「それじゃ、みんなはどうなるんだ!?」
「その時にどのようになるかは、私の時見の力でも見えません。まったく別の次元の話になってしまうのです」
……なんてこった…エターナルになるってことが、そんな意味を持っていたなんて……愕然とする悠人をよそに、時深は問いかけた。
「試練を……いえ、その前に、『時の迷宮』へ行くための儀式を…受けますか?」
「……少し…考えさせてくれないか?」
その「みんなの記憶から消える」という条件に決断を下せない悠人に、ため息をつく時深。
「ふぅ、無理もないでしょうね。時の迷宮への『門』が開くのは、日本への『門』が開くのと同じ日の夜です。その数時間前までには決めて下さい」
「あぁ、わかった。それまでには決める」
「悠人さん、あなたが選択しようとしている道は、どちらも間違ってはいないでしょう。よく考えて決断して下さい。…………私としては、儀式だけでも先に受けて欲しいところですが…」
「ん? 試練を受けるかどうかもわからないのに儀式をするのはまずいんじゃないのか?」
しごく真っ当なはずの悠人の疑問だったが、
「この場合…いえ、悠人さんならば問題ありません。………受・け・ま・す・か?」
さらっと流して艶然と笑みを浮かべてにじり寄る時深に、悠人は何かしら不吉なものを感じ、
「い、いや、や、やめとくよ」
あわてて断って時深から離れた。
「んもう、ヘタレなんだから」
何やら小声でブツクサ呟く時深の姿に、悠人は自分が危険に足を踏み入れかけていたのを感じた。その危険が何なのかはわからなかったが。
「それじゃ、今夜のところはこれで」
そう言って去ろうとした悠人の背中に時深の声が降りかかる。
「えぇえぇ、せいぜい悩んで下さい。ヘタレな悠人さんにはそれがお似合いですよ」
その不機嫌さに、悠人は扉を開けたところで振り返って尋ねた。
「……なぁ、もしかして、『時見の力』とやらで何か見えているのか?」
「いいえ、見えません。見えないから落ち着かないんですっ!」
時深の答えとともに飛んで来た扇子が顔に当たって、悠人は廊下に転げ出た。時深…キャラ変わってるぞ。そうツッコミたかったが恐くてやめた。