ヒミカイザー

第5話

♪ヒミカイザーのテーマ

熱き想い 鋼の腕に宿した
白き光の翼

世界の奥 深く蠢くダークラキオス
その野望を打ち砕く日まで

悲痛にまみれた 遠い記憶が
その拳を炎へと変える

進め! ヒミカイザー
そうさ お前は
愛に彷徨い
歩き続ける旅人

平和の日が 邪悪に霞みそうなら
魂を振り絞れ

揺るぎの無い 心が暗黒を吹き消す
突き抜けろ 必殺ヒミ・フェニックス

友に授かった 優しさという
名の力を勇気へと変えて

戦え! ヒミカイザー
そうさ お前は
孤独に強く
歩き続ける旅人

第5話 『無言の結末』

「あ、その頭、間違いありません」
 ヒミカが、とある街で情報収集をしていると、艶やかな長髪が映える赤スピリットからいきなり声をかけられた。
「いきなり何?」
 髪質が柔らかくない上に、短く切られたヒミカの髪は、ツンツン頭と揶揄される事が少なくない。
 しかしだからと言って、初対面の相手にいきなり指摘されるのも不快である。それも、綺麗な長髪の相手に。
 だが、そんなことにまるで頓着せず、そもそも髪型など単なる記号とでもいうような感じで、その赤スピリットは言葉を続ける。
「この店の前でずっと待っていました。
 来なかったらどうしようかと不安になっていたところです。
 あなたですよね? ダークラキオスの事を色々と調べていたのは。
 いい情報を持っているのですが、買いませんか?」
「内容と値段次第ね」
「コウインの情報です」
「聞かせてちょうだい!」
「私、空腹なんです。この店、美味しいんですよ」
 長髪の赤スピリットは、目の前の店を指す。
「解ったわよ」

 返事をしてしまってから、超高級料理店だったらどうしようとヒミカは心配になったが、入ってみれば落ち着いた感じの地方料理の店だった。
 赤スピリットはナナルゥと名乗った。

 テーブルの上には、空の皿が積み重なっている。
 どこに入るのか不思議になる程の量を胃に収めたナナルゥに、ようやくといった感じでヒミカが問う。
「それでどういう情報なの?」
「ちょっと待って下さい。
 デザートを選ばないと」
「いい加減にしてよ。
 食い逃げする気じゃないでしょうね?」
「口のきき方に気をつけた方が良いですよ。
 それほど常識を持ち合わせてはいないんですよ、私は」
「胸を張って言う事じゃないでしょ。
 じゃあ、これ以上食べさせないと、どうする気?」
「食い逃げします」
「だから、それはやめてって言ってるでしょう」
「だったら、デザートを頼ませて下さい。
 スイーツ(笑)はモテカワスリムで恋愛体質の愛されガール♪ には必須なのです」
「解ったわよ。もう好きに注文して頂戴」
「……ツッコミは無いのですか?」
「は?」
「もういいです。店員さん、デザートをお願いします。
 ラナハナのスープと、クリームソースハクゥテと……」
「それデザートじゃないから!!」
「ナイスツッコミ」

 結局ナナルゥは、まだ食事を追加した。
 黙々と食べるナナルゥに、半ば呆れ顔でヒミカが言う。
「もう出費は諦めたし、気持ちの良い食べっぷりではあるんだけど、そう無表情で食べられるのもちょっぴり味気ないわね。
 私が作った訳でも無いけど、この店のお料理、あなたの言った通りにとっても美味しいじゃない。
 なのに、そう無表情で食べられても、何だかねぇ。
 あなたの指定した店ではあるんだけど、それでも一応私の奢りなんだから、何か、こう、感想みたいなものは無い?」
 ヒミカの言葉にナナルゥはフォークを動かすのをとめ、小首をかしげて少し考えると、はっと思いついたように言った。
「びゃあ゛ぁ゛゛ぁうまひぃ゛ぃぃ゛」
「……ゴメン。
 ごゆっくりどうぞ」
 そんなこんなのやり取りの間に、別行動をしていたファーレーン達も店に来た。
 状況を見て取り、ファーレーンはお茶を、ニムントールもパフェを注文する。
 呼び出しておいて待たせるという形になってしまった事もあり、どうやらこっちの代金もヒミカ持ちになりそうである。
 ヒミカは、大きな溜息をつくのだった。

「ご馳走様でした。
 それで、何故ダークラキオスの情報が欲しいのですか?」
 ヒミカはしばらくの沈黙の後、応える。
「……家族の仇よ」
「家族? あなた、スピリットですよね?」
「血の繋がりなんて関係無いわ。
 絆ってのはそんなもんじゃないでしょう?
 それを、やつらが……」
「……そうですか。ヒドイ話ですね。
 ですが、これはビジネスです。
 私は、コウインの基地の場所を知っています。
 そこまで案内出来ます。
 情報料と道案内で、これだけでどうですか?」
 ナナルゥは金額を紙に書いて提示する。
 書かれた額は、到底安いとはいえない数字だったが、ヒミカはそれを軽く確認しただけで首を縦に振る。
「ええ、いいわよ」
「値段の交渉はしないのですか?」
「そんなんじゃないでしょ?
 情報をもらえるなら、感謝するわ。
 値段なんて、どうこう言ってられないの」
「それならもっと多い金額にしておけば良かったですね」
「ちょっと見せていただけますか?」
 今まで黙ってヒミカとナナルゥのやり取りを見ていた……のでは無く、ニムントールがパフェを食べるのを微笑ましく見つめていたファーレーンが割り込んだ。
 実務の点で、ファーレーンは遥かに自分よりも上だと認めているヒミカは、確認の意味も込めて額の書いてある紙をファーレーンに渡す。
「ええ。確認してもらえる?」
 ファーレーンがヒミカの渡した紙に書いてある数字を見る。
「どう?」

「……妥当、どころか、むしろ破格ですよ、この値段は。
 私達が命を賭ける情報の対価なのですから」
 ファーレーンは、顔を上げてナナルゥを真っ直ぐに見る。
「それに、事と次第によっては、ここに書かれた額は、あなたの命の対価ともなりかねません。
 それでもいいのですか?」
「む。……なるほど。では、これでどうですか?」
 ナナルゥは紙に新たな金額を書き込む。
「……そうきましたか。
 ですが、これは少々やりすぎですね。
 これくらいではどうです?」
「それはいくらなんでも。あなた方の事情も考えて、これでどうですか?」
「ちょっと待って!
 私、今無職なんだから、そんなにお金が余ってるわけじゃないのよ」
 二人が始めた価格交渉に、たまらずヒミカが口を挟む。
 ものべー号で働いていた時の給金がまだだいぶ残っているとはいえ、今のヒミカは紛れも無いニートなのだ。
 割って入って、値の書かれた紙を奪う。
「えっと……なんでさっきよりも値段が下がってるの?」
 紙に書かれた価格を見て、疑問符を浮かべるヒミカに、ナナルゥとファーレーンが答える。
「あわよくば、無料で、とも思ったのですが」
「これ以上安くはさせません。
 余計なものまで背負わされる気はありませんよ」
 ナナルゥとファーレーンは、互いに顔を見合わせ、にやりと笑う。
「……よく解らないわね」
 ヒミカは疑問符を浮かべたままだ。
「相手によっては、値段を下げる事が必ずしもそれだけの意味にならない。
 ある場合には価値を下げる事にもなり、ある場合には付加価値を付ける事にもなります」

 ファーレーンの後をナナルゥが継ぐ。
「大概の者は、価格が下がればいい、とだけしか考えていません。
 物に付いた値段だけを見て、物そのものを見ていない。つまりは、やり取りする物事の本質が見えていない。
 けれども、時折そうではない相手もいる。
 価格とは物事の価値に値段を付けたもの。
 であるならば、物事の価値を理解する、少なくとも理解しようとする相手か否かで、交渉の仕方も変わってくるのは当然です」
「まぁいいわ。とにかく値段はこれでいいんでしょう? この値段なら、何とかなるわね」
 話に付いていけないヒミカは、さっさと思考を放棄して話をまとめた。
「OK、交渉成立です」
「じゃあ、早速行きましょうか」
「ちょっと待って」
 勇んで立ち上がりかけたヒミカを、ニムントールが制した。
「ねえ、お姉ちゃん。
 コウインって、ダークラキオス四天王とか言う恥ずかしい名前の集団の一人なんだよね?
 私達だけで勝てるとは思えないんだけど」
 ニムントールの言葉に、ヒミカが割り込む。
「なに言ってんのよ、ニム!」
「ヒミカ、あなたに言っても仕方ないと解りきっているからこそ、聡明なニムは私に言っているのです。
 そこのところを、理解して戴けますか」
「むぅ」
 不満な声を上げはするものの、彼我の役どころを認識しているヒミカは素直に椅子に腰を戻す。

 ヒミカが座り直したのを確認し、ファーレーンはニムの疑問に対し、ヒミカとナナルゥにも聞こえるように答える。
「確かに、私達だけで勝利出来る相手とも思えません。
 キョウコの時も、相手がこちらをなめきり、油断しきっていたから。
 そしてヒミカイザーがいたからこそ、何とかなったのであって、私達だけだったら、勝ち目は無かったでしょう。
 実際、あれは誤算でした。あそこまで戦力差があるとは、思ってもいませんでしたから」
 内面の意志の強さを示すような太めの眉を寄せるファーレーンに、ヒミカが再び口を開く。
「でもさ、逆に言えば、ヒミカイザーがまた来てくれれば勝てるって事じゃない?」
「だから、黙っていて下さいと言った筈ですよ、ヒミカ。
 大体、ヒミカイザーがタイミング良くまた来ると言う保証なんて、どこにも無いじゃないですか。
 そんな可能性の限り無く低い不確定要素を期待して行動する事は出来ません。
 それは単なる無謀です」
「いや、でもね……ヒミカイザーが来る様な気がするんだけど」
「気がするだけでしょう?」
「ああ、まぁ、うん。でも確信みたいな気もしないでもない」
「ヒミカ。あなたさっきから、何を言っているのですか? もしかして、ヒミカイザーと連絡が取れるとか?」
 怪訝な表情のファーレーンの言葉を、ヒミカは大慌てで否定する。
「いやいやいや、まさかまさか、まっさかー」
「……ヒミカ、頭は大丈夫ですか? 元々可哀想な脳が、ついに頭の中で干からびてしまったのではないですか?」
「うぅ……理不尽を感じるわ」
「また何か言いました?」
「いえ、何も。
 あ、でも、キョウコには勝てたわよね。
 だったら、今回もコウインが油断しているスキに、皆で一気に倒すっていうのはどうなの?」
「無理ですね」
 にべも無くファーレーンは断言する。

「キョウコよりも強敵って事?」
「いえ、そういう訳ではありません。あくまで適性の問題です。
 例えば、キョウコは仲間と共に戦ったとしたら、恐らくすさまじい力を発揮したでしょう。
 それは、戦闘能力のみならず、性格の面でも、です。
 キョウコのような存在は、仲間の士気を高め、鼓舞する。
 それによって、キョウコのいる隊の戦力は飛躍的に増大し、最後まで諦めず、困難を躊躇無く突き進む意志を得るでしょう。
 弱点となる筈の精神的な弱さすら、仲間同士の結束を強める切っ掛け足り得ます。
 集団の中では弱点欠点に対する仲間のフォローもあるでしょうしね。そうなれば、もう手が付けられません。
 逆に単体では、メンタル面の脆さや甘さが、単なる弱点として表に出て来てしまう。
 要するにキョウコは、単独や他者の上に立つのでは無く、仲間の中にあってこそ力を発揮するタイプでした。
 今更ですが、期せずしてキョウコを個として撃破出来たのは幸運だったと言えるでしょう」
 なるほど、と、頷くナナルゥとニムントール。
 なるほど、と、頷いておくヒミカ。
 ともあれ納得の返答を得て、ファーレーンは言葉を続ける。
「ですが、コウインはそうではない。
 コウインは他者の上に立つ存在です。
 冷静さを保ちつつ、熱を持って下の者を煽動する事も出来る。
 下の者にどっしりした安心感を与えるけれども、必要とあれば冷徹な判断を下す事も躊躇わない。
 相手を侮る事無く、自らを客観的に捉え、大局を俯瞰的に見る力がある。
 知略策謀を備え、引き際も心得ている。
 正に将の器ですね。
 こういうタイプは、小者の集まりの中では力を発揮できなかったり、無能な上の者につぶされたりする事も少なくないのですが、コウインに関してはそうではない。
 そしてこれが重要なのですが、コウインは多数の部下に匹敵するだけの戦力を己自身の中に持っている。
 コウインは単体で、一個の隊、それも優れた将に率いられ、完全に統率の取れた一個の隊と見ても、あながち間違いとは言い切れない。
 一騎当千といっても過言ではないでしょう。
 キョウコとコウイン。比較してどちらが上かという問の答えは出ませんし、そんな問に意味もありませんが、単体として戦う場合には、コウインがキョウコよりも脅威なのは確実です。
 ましてや、コウインが油断など、する訳が無い。そう考えておくべきでしょう」
 理路整然と諭され、ヒミカはぐうの音も出ない。

「だからと言って、こちらの戦力が足りないからと、私がラキオス警備隊に連絡を取ったとしても、そう簡単に動いてくれるとは思えません。
 以前にも言いましたが、証拠が無ければ組織は動けませんし、動きません。
 仮に私が、多少無理矢理な手段を使って幾らかの人数を動かしたとしても、それで対抗出来る相手でもないでしょう。
 あれだけの質とぶつけるだけの量は動かせません。
 尤も、仮に大人数を動かせたところで、余計な犠牲が出るのはヒミカも不本意でしょう?」
「ええ。そりゃそうよ。当たり前じゃないの。
 犠牲なんか出したら、何の為に戦ってるのか解んないじゃない」
「期待通りの返事をありがとうございます、ヒミカ。
 それに、ラキオス警備隊の中にも内通者の可能性は否定しきれませんしね。
 第一、向こうには、こちらと戦う理由が無い。大勢を動かしても、その動きを察知された時点で、逃げられて終わりです。
 いずれにせよ、腕の劣るものが混じるのは、今回はマイナス要因にしかならないでしょう。
 さて、どうしたものですかね……」
 そこまで言って、ファーレーンは一旦言葉を切る。
「ちょっといいですか?」
「はい、何でしょう? ナナルゥさん」
「『さん』は必要ありませんので、気軽に『御主人様』と呼んで下さい。それがイヤなら『子猫ちゃん』でも良いです」
「……なんですか、ナナルゥ」
「キョウコという者のデータは取れたのですか?」
「残念ながら、満足にデータを取る事は出来ませんでした。
 爆発してしまったので」
「解っている情報だけでも教えていただけますか?」
「極秘事項なので、全てを語る事は出来ませんが、了解戴けますか?」
「はい」
「では……」

 ファーレーンとナナルゥは、なにやら専門用語交じりの会話を始める。
 難しい内容でも無いのかも知れないが、少なくともヒミカにとってはちんぷんかんぷんである。
「……ふむふむ。
 生体と機械のハイブリッドなのですか。
 大量のエネルギーをどうやって補給、保持しているのか……。
 いえ、爆発したと言う事は、エネルギーを大量に蓄える蓄電池か、或いは発電機構を内部に持っていた可能性が高い。
 ……となると、ラジエータが弱点となる可能性があります。
 特に、生体は内部熱変化に非常に弱い。
 幾ら効率化を果たしてはいても、どうしたって熱は生じる。
 ましてや、それだけ大量のエネルギーを処理するとなれば、発生する熱も膨大なものになる」
「……なるほど、確かに。ヒミカ、一つ聞きたいのですが」
「ふぇ?」
「ヒートフロアは使えますか?」
「え、ええ。使えるわよ。得意って訳じゃないけど」
「おぼろげながら勝算が出てきましたね。
 もう少し作戦を詰めたいので、決行は明日にしましょう。
 それにしても、ナナルゥが入ってくれて本当に助かりました」
「それほどでもない」と言いつつ、ナナルゥが胸を張る。
 胸の大きさが強調され、ヒミカは知識や智慧とは別の部分でナナルゥに敗北を感じた。
「では明日の朝7時に、ここに集合で」
「……また私のおごり?」
「明日は自分で払いますよ」


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コマーシャル
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コマーシャル終了
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 翌日、約束の時間の10分前には、既に4人は集合していた。
 食事を取り、作戦を伝達する。
「準備は良いですか」
「ええ」
「裏通りをずっと行って、地下通路の跡まで行きます。
 ついて来て下さい」
 ナナルゥが先頭に立って歩き出す。

 裏通りは、治安があまり良くない。
 女性4人の組み合わせ、それもスピリットだからという事もあるのだろう。柄の悪い二人組の男が絡んでくる。
「ここを通るには通行料ってやつが必要だ」
「ふざけるな」
 ヒミカが、条件反射的に言い返す。
 あわや一触即発、というところで、ナナルゥが前に進み出る。
「ちょっと待って下さい。
 案内役は私ですから、ここは私に任せて下さい」

 ナナルゥは二人組の正面に立つ。
 二人組は、威圧するような、馬鹿にしたような口調で、ナナルゥに言う。
「あんたが通行料を払ってくれるのか?」
「あまり調子こくとリアルで痛い目を見て病院で栄養食を食べる事になる」
 そう言うやいなや、ナナルゥは人の頭よりも大きなサイズの火球を出現させ、飛ばし、二人組の足元で炸裂させる。
 ナナルゥにとっては手加減に手加減を重ねた魔法ではあるが、対抗手段を持つスピリットであればまだしも、人間にとってはそのまま死に直結する恐怖である。
 ヒミカ達もまた、ナナルゥの底知れない魔法力を見て取った。
「……凄いわね。
 ナナルゥが仲間になってくれたら……」
 思わず漏れたヒミカの呟きを、ファーレーンがとめる。
「それ以上はやめておきなさい、ヒミカ」
「……そうね、ごめん。
 他人をこの戦いに巻き込むのは、違うわね」

 侮っていたというよりも、そもそもスピリットというものの力を知らなかったのだろう。
 予想もしていなかった反撃を受け、柄の悪い二人組は逃げ出した。
「お、覚えてやがれ!!」
 しかし、逃げ出した二人組の目の前に、炎の壁が出現する。
「どこへ行こうというのかね」
 怯え、顔を引きつらせて足を止める二人組に、ナナルゥは悠々と近づく。
 掌の上に巨大な火球を作り出し、あえて制御を甘くして熱風を周囲にまで吹かせる。
 一歩、また一歩と、ナナルゥは今にも泣き出しそうな二人組に近づく。
「泣け! 叫べ! 命乞いをしろ!」
「お、俺たちが悪かった、助けてくれ」
「だが断る」
「あ、あんたが命乞いしろって言ったんじゃないか!」
「時既に時間切れ。一足早く言うべきだったな?
 お前調子ぶっこきすぎてた結果だよ」
「む、むちゃくちゃだ!!」
「なにゆえ藻掻き生きるのか?
 滅びこそ我が喜び。死にゆく者こそ美しい。
 さあ我が腕の中で息絶えるが良い!」

「やりすぎです、ナナルゥ。
 先を急ぎますよ」
 ノリノリのナナルゥを、ファーレーンが止める。
「むぅ、これからでしたのに」
 言いながらも、ナナルゥは軽く手を振って、火の玉を霧消させた。
 ファーレーンは、へたりこんでいる二人組にも声をかける。
「あなた達も、これに懲りたら恥ずかしい生き方はやめる事です。
 今回は見逃しますが、次にこんな事があったら……埋めますよ」
 鋭い視線に射抜かれ、二人組はほうぼうのていで逃げ出す。
「ちょっと、ファーレーン。
 私の時と、止め方が違い過ぎない?
 ナナルゥじゃなくて私だったら、殴り倒してたんじゃないの?」
「ナナルゥにそんな事したら、『うっ……頭が痛い、記憶喪失です!!』とか言い出しかねません。
 ネタ振り役になるのは御免です。
 さあ、さっさと行きましょう。
 ニム、お待たせ」
「うん。お姉ちゃん」
 先程まで、ナナルゥの手元がくるったり、相手が破れかぶれになって反撃してきた時に備えていたニムントールも、構えを解いて、ファーレーンと手をつないで歩き出す。

「ここでインド人を右に」
 ナナルゥが先導し、狭い角を右に曲がる。
 薄暗い路地を抜け、うち捨てられた地下道を抜ける。
 時折下水道を通ったりもする。
「もうちょっとまともな道は無いの? 臭いが付いちゃいそうなんだけど」
 充満する悪臭に、ヒミカが顔をしかめて言う。
 臭いだけでなく、足場がとても危うかったり、狭かったりする場所を幾つも通ってきている。
「どちかというと大反対。
 誰もが通る道には、当然の様に見張りがいます。
 見つかるのは避けたほうが良いのですよね?」
「確かにそうね。仕方ないか。
 それにしても、こんな情報どこで見たの?」
 幾らヒミカが歩き回っても、ファーレーンが警備隊の力を使っても手に入れられなかった情報なのだ。
 出所が気にかかる。
「ネットで見ました」
「ネ、ネット!?
 本当に信用できるの?」
「ウソをウソと見抜けないものは、ネットを使うのは難しい」
「……ねぇ、ファーレーン。
 ネットの情報って信用出来るの?」
「昨日、あの後にもナナルゥと話をしました。
 彼女の知識量からすると、100%とはいかずとも情報が本物である可能性はそれなりに高いですね。
 少なくとも、賭けてみる価値はあります」
「そうなの?」

「ネットの情報は、既存のメディアよりも受け手側の情報収集能力が問われます。
 加え、ネットは黎明期。防御機構は充分ではありません」
「ハッキング、ってやつ?」
「さあ。そうかどうかは、私の口からは言えないですね。
 私も一応、公務を職とする身ですから。
 ですが、それを抜きにしても、情報は漏れるときは漏れるものですよ。
 情報化社会が始まったばかり、というのは、情報の重要性が、未だに理解出来ていない者が多いという事でもありますからね。
 その漏れた情報が、ネットに流れて世界中に広まる、という事もありえます。
 そして、一旦ネットに流出してしまえば、完全なデータ回収は、ほぼ不可能です。
 情報の伝達速度や伝達範囲も、今までとは比べ物になりません。
 そこで必要となるのは、無数に溢れる情報の中から必要な情報を抽出収集する能力です。
 ナナルゥは、それが出来ると私は見ました」
「ファーレーンがそういうなら、きっとそうなんでしょうね」
「全く……あなたは自分の頭で考えはしないんですか」
「考えてるわよ。
 『ファーレーンを信じる』って決めたのは、紛れも無い私だもの」
「もしも、私がウソを言っていたらどうするつもりなのですか?」
「『ファーレーンを信じる』という私の意思判断が、間違っていたという事でしょうね、それは。
 ファーレーンがどうあれ、私の行動や、私の決定の責任は、当然私自身に帰結するわ。
 そういうものでしょう?」
「……。
 ……ヒミカとは、議論がかみ合わないんですよね。
 ヒミカは過程をすっ飛ばしているくせに、結論に辿り着いているというか。
 思考のベースが、常人と大幅にズレていると言うか」
「何よそれ」
「褒めてるんですよ。
 あなたの在り方は、少なくとも醜くは無いと、そう私は思いますから」
「えっと……、ありがとう」

 地下道のマンホールの下で、ナナルゥはヒミカ達に目的地に辿り付いた事を宣言する。
 全く敵に会う事無く目的地に辿り着けたのは、紛れも無くナナルゥのお陰だった。
「この上が、コウインの基地です。たしかみてみろ」
「ありがとう。
 約束の情報量よ」
 代金を支払い、マンホールから外に出る。
 後ろから、ナナルゥが付いて来ていた。
「もう支払えるお金は無いわよ?」
「ここからはボランティアです」
 ヒミカは、ナナルゥの言葉に感動しかけるが、ファーレーンが問い、ナナルゥが返す。
「そのこころは?」
「鯖が長期メンテ中なので、暇なんです」
「暇つぶしに命を賭ける、ですか。生き方が粋ですね」

 そこは治安の良くない地域の最奥だった。
 薄汚れた巨大な建造物は、違法改築、違法増築が繰り返され、歪な城の様になっている。
「……何か、凄い」
 ニムントールが呟いた。
 それだけ、この建物の存在感は圧倒的である。
「コウインはここを牛耳って使っています」
「……盲点でしたね」
「ファーレーン。何か知っているの?」
「まずは、入ってみましょう。
 話はそれからです」
 四人は、適度な緊張を身に纏って、建物の中に足を踏み入れる。
「多分当たりですね」
 ファーレーンの言葉に、ヒミカが頷き返す。
「確かに、これは私でも判るわ。
 ここは、馬鹿が寄せ集まったり、そんじょそこいらの犯罪者が吹きだまったりしてる程度の場所じゃない」
 外部から見ただけでは拾ってきた廃材で組んだだけの建物だったが、内部に入ると印象がまるっきり違った。
 建物はきっちりと補強されている。それも、恐らくは建築の知識に裏打ちされた正しい方法で。
 そして何より、臭いが違う。
 半ばスラムとなっている裏通りは、腐ったゴミの臭いと、すえた様な排泄物の臭いが雑じって充満していたのだが、建物内部にはそんな悪臭が存在しない。
 雑然とした雰囲気は残ってはいるが、これはあえて残していると見るべきだろう。
 元より、迷路のような建物だったのだ。それを利用しない手は無い。
 建物の内部は、流石のナナルゥも情報を持っていないらしく、ファーレーンが先に立つ。
「恐らく、こっちです。付いて来て下さい。
 ニム、気をつけてね」
「うん、お姉ちゃんも気をつけて」

 慎重に、大胆に、四人は敵の基地の中を歩く。
「数ヶ月前に一度、ここに潜入した事があります。
 その時は、ダークラキオスが支配していた訳ではありませんでしたし、内部構造もかなり変わってしまっていますが、予想は出来ます。
 ただ闇雲に動き回るよりは幾分マシでしょう」
 部屋の中からは、何者かの気配がする。ダークラキオス戦闘員の影も、幾度か見かけた。
 その都度、物陰に隠れてやり過ごす。
「ここに関する情報は、幾つか手にしてはあったんです」
「え!? 何で教えてくれなかったのよ!」
「明快な理由です。
 その情報には、ダークラキオスという語が出て来なかったからですよ。
 情報が外部に漏れない程完璧且つ迅速にここを支配したと言う事でしょうね。
 ですが、それでも匿名の安全性も手伝ってか、ネットには僅かながら情報が流れた。
 それをナナルゥがキャッチしたという流れでしょう。
 この角をこっちです」
 四人は気配を殺しながら先に進む。
「コウインは実働部隊の長として、機動性のある小型飛空挺で各地を飛び回っています。
 つまり、ここにも飛空挺の発着所がある可能性がとても高い。
 加え、外部から攻め込まれた時の事を考えれば、そこから近いところにコウインは陣取っていると予想出来ます。
 それらの条件にあった場所を予測すると……」
 ファーレーンは、一つの部屋の前で立ち止まる。
「多分、ここです」
 ヒミカがその扉を開けると、その部屋のもう一つのドアの向こうに、コウインの姿があった。
 向こうのドアの先は、外に通じている。
 コウインは、ちょうど飛空挺に向かうところだった。
「チャンスです!!
 追って、外に出ますよ!!」

 ヒミカ達がコウインを追って外に出る。
「コウイン!」
 コウインも、ヒミカ達の存在に気付く。
「誰かと思えば、セリア博士の友人か!
 ここまで追ってくるとは、正直意外だったな。
 このコウイン城を突破してきた事は誉めてやる。
 おまけも何人かいるみたいだな。まとめて殺してやるぜ。
 覚悟を決めな。ここがお前の墓場だ!」
「それはこっちのセリフだわ!」
 コウインが動き出すよりも早く、ナナルゥとヒミカが印を組む。
「「ヒートフロア!!」」
 赤のマナが活性化され、周囲の温度が急上昇する。
「む!?」
 コウインは、即座に相手の作戦を理解した。
「小癪なまねを!!」
 瞬時にヒミカたちの意図を理解し、コウインは短期決戦を狙って踏み込むが、ヒミカ達は間合いを離して遠距離戦に徹する。

「飛燕の太刀!!」
 ファーレーンが鋭く刀を振って、マナを乗せた衝撃波を放ち、コウインの足元を狙う。
 命中しても微々たるダメージにしかならない事は解っているが、スピードを少しでも落とさせる事が第一の目的である。
 そもそも、近接攻撃をしたところでまともにダメージが通るとも思えない。
 シミュレートはしていたものの、実際に向き合い、改めて絶望的なまでの実力差を痛感する。
 接近されてしまっては、絶対に勝ち目は無い。
 少なくない強者を見てきたがゆえ、ファーレーンにはそれがはっきりと解ってしまう。

「ファイアボルト!!」
 ヒミカも遠距離から攻撃魔法で狙い撃つ。
 それほど得意ではない攻撃魔法だが、だからといって近接戦闘では全く分が無い。
 互いの実力差は、一度叩きのめされてはっきりと思い知らされている。
 あれから腕は上げたつもりだが、だからといって調子に乗る程、ヒミカは愚かではない。

「ファイアボール!!」
 ナナルゥの攻撃魔法は、ヒートフロアの効果もあり、並のスピリットであれば一瞬で焼き尽くす劫火となってコウインに襲い掛かる。
 それでも、コウインのマナ防御は、強固に炎を阻む。

 コウインも決して鈍重では無いが、機動性よりも、装甲や破壊力を優先した改造を受けている。
 間髪をいれずに繰り出される攻撃をかいくぐって接近するのは、並外れた力を持つコウインにとっても難しい。
「うっとうしい!! クロービット!!」
 コウインは機械化された腕を切り離し、打ち出した。
 切り離された腕は機械制御で相手を追尾し、肉片へと変える。コウインの必殺兵器である。
「アキュレイトブロック!!」
 ものすごい勢いで飛び来るコウインの腕は、ニムントールのマナ防御壁に軌道を逸らされ、外れる。
 機動制御が甘くなっているのも幸いした。
 作戦の狙い違わず、コウインの機能はかなり落ちていた。
「ロケットパンチ!! 始めて見ました」
 ナナルゥの天然か計算か判らない挑発に、コウインは顔を歪める。
「ちっ。反論出来無いのが忌々しいな。
 これじゃ本当にただのロケットパンチだ。
 制御系がここまで熱に弱かったとは……。
 ここは素直に感心すべきだろうな。俺と戦う為に、ずいぶんと周到な計画を立てて来たと見える。
 これ以上は、危険か」
 コウインは、改めて自己の状態をスキャンする。
 熱暴走や、熱による破損を防ぐ為に、コウインは自らの機能を大幅に制限して戦わざるを得なくなっていた。
 それでも排熱が上手くいかず、幾つかの部位は機能を停止している。
 今のところ生命維持に問題は無いが、これ以上長引けば、万が一が無いとも限らない。
 脳をはじめとする生体部分は、熱に弱い。40度を越えるとあっという間に生命が危険な状態になる。
 それは、排熱機構が壊れれば、即死と言う事だ。
 生命に直接関わる部分の制御には、幾つもの防御機構があるにしても、このような特殊な戦闘は考慮されてはいなかった。

(まだ、倒れないの!?)
 焦りはヒミカ達の側にもあった。
 全員ポーカーフェイスに徹してはいるものの、ほんの一つのミスすらも許されない戦闘は、数瞬が数分にもなって確実に精神を削る。
 小技では足止めにもならない故に、大技を連発しなければならない戦いは、みるみるうちにマナを消耗させる。
 限界は近い。
 ここが勝負どころと見て、ナナルゥはすすすっ、と流れるように印を組み、朗々と歌うように韻を踏んで魔法を詠唱する。
 ナナルゥの両腕に、ヒートフロアで強化された赤マナが集中する。
「とかちつくちてやります!! アークフレア!!」
 逆巻く炎が周辺ごとコウインを巻き込む。
 それでもなおコウインは、マナの障壁を張って荒れ狂う炎を防ぎきった。
「……チート?」
「なかなかやるなっ、だが……」
 大魔法を発したナナルゥが、それでも涼しい表情をしているのを見て、ここが引き時とコウインは判断した。
(そろそろ打ち止めだとは思うが、今賭けをする必要は無いな。
 覚悟の決まったコイツらをこれ以上追いつめるのも得策じゃない)
 コウインが腕を上げて合図をすると、小型飛空挺が飛んできて援護射撃をしてきた。
 スピリットであるヒミカ達は、体の周囲にマナの防御壁を纏った状態だった為に大きなダメージこそ受けなかったが、それでも足止めの効果は充分だった。
「くっ!! 何これ、攻撃魔法!?」
「違いますね。これは火薬で弾を飛ばす銃とかいう武器です。
 それにしても、厄介な代物を!!」
 ニムントールがもう一レベル上の防御障壁を張り、弾丸を全てはじき返すが、その隙にコウインは小型飛空挺に飛び乗ってしまう。
「あばよ、残念だったな。
 ハハハハハハ」

「逃げられるわ!!」
「⊂二二二( ^ω^)二⊃ブーン」
「飛べてないから。その格好で走ってるだけだと、ブーンじゃなくて、キーンだから」
 ナナルゥのボケに、ニムントールの冷静な突っ込みがはいる。
「ナナルゥ、撃ち落せませんか?」
「無理です。MPが足りない。ファーレーンこそ、ウイングハイロウで飛べませんか?」
「残念ながら。
 私ももうマナが限界ですし、元々他の者を抱えて飛ぶほどの力はありません。
 ブルースピリットなら出来るのかも知れませんが、ブラックスピリットのウイングハイロウは基本的に瞬間速度は出せても揚力は出ませんから。
 私一人ならば何とか行けるかも知れませんが、今の私が一人で行っても到底勝ち目は無いです。情けないですが、事実としてこれは間違い無い。
 今回はしてやられたと言うところですね」
 ファーレーンの足は、彼女の意とは関係無く痙攣している。
 ブラッドラストで身体を無理矢理に強化して戦っていたのだから無理も無い。
 3人は、コウインの乗った小型飛空挺を見上げて睨みながらも、緊張のレベルを一段階落としたが、しかし、ヒミカだけは全く諦めていなかった。
「待て! コウイン!!」
 思い切り走り、跳躍し、小型飛空挺につかまる。
「ヒミカ!!」
 ファーレーンは咄嗟にウイングハイロウを広げるが、一瞬の判断の遅れが飛翔を許さなかった。
 コウインの乗る小型飛空挺がエンジン出力を上げ、放出された空気にファーレーンは押し返される。
「くぅっ!!」
 立っていられないほどの強風が収まった時、コウインの乗った、そしてヒミカの掴まった小型飛空挺は勢いを増して飛び去ってしまっていた。
「あの大馬鹿……!!」
「お姉ちゃん、ヒミカを追いかけなきゃっ!!」
「ムチャしやがって……」

 小型飛空挺はダークラキオス秘密基地のひとつに着陸していた。
 コウインが小型飛空挺から降り、堂々と歩いている。
 小型飛空挺の中で、機械部分の冷却と簡単なメンテナンスを終えはしたが、それでも修復できなかった損傷箇所はかなり多い。
「思ったより苦戦したな。
 Dr.ヨーティアに、修理と一緒に強化も頼むとするか。
 それにしても、全くしつこい奴らだったぜ」
「逃げられると思っているのか!」
「だ、誰だ!」
 コウインの声に応えるように、ヒミカイザーがその姿を現す。
 燃え上がるような真紅のコスチュームが、太陽の光を受けて眩しく輝く。
「そのふざけた格好……いつぞやの。
 最近、ダークラキオスに歯向かっているヒミカイザーとかいうのは、やはりお前だったか。
 セリア博士をさらった時には、トキミンザーとかいうお前と同じような格好をしている奴に邪魔されたが、面白い。
 返り討ちにして、あの時の借りを返すとしようか!」
「ダークラキオス四天王、コウイン。
 キサマは様々なテロ活動でダークラキオスの力を誇示し、恐怖をばら撒いてきた。
 その為に、多くの罪も無い人々が巻き添えになって命を落とした。
 その所業、許すわけにはいかん!
 覚悟しろ!!」
「は!
 この世に罪が無い人間などいるものか。
 能書きはいい、かかって来いヒミカイザー。
 貴様を血祭りに上げ、四天王のトップに立ってやる!」

 様子見、などという行動はヒミカイザーにはあり得ない。
 勝負は初めから全力全開。

「くらえ! ヒミ・ブラスター!」
 ヒミカイザーの掌から放たれた灼熱の火炎弾が、四方からコウインに襲い掛かる。
 それはコウインの弱点を的確についた攻撃。
 元より、赤マナを使った炎攻撃はヒミカイザーの得意とするところである。
 先の戦いと言う前振りもあり、ナナルゥの魔法攻撃の威力をも上回る火炎弾に、コウインの内部でアラートが再び鳴り響く。

 コウインは己の戦闘能力に自信を持っていた。
 例え万全の状態では無くとも、生身の相手に一対一で負ける筈が無いと確信していた。
 実際に、今の状態で戦っても、人間は勿論の事、てだれのスピリットを相手にしても、間違いなくコウインは勝利出来る。
 先程の戦いとて、万全を期す為に退くという選択をしたものの、世界でも上位に位置する実力を持ったスピリット四人を単体で相手にし、確実に追い詰めていた。
 あのまま戦っていれば、勝利はコウインのものだっただろう。
 コウインの自信は、過信や油断の類では無く、寧ろ、正しい自己分析の結果と言える。
 コウインの計算を狂わせたのは、単純にヒミカイザーの強さ。
 最上位クラスのスピリットやエトランジェよりも上の力。
 そのような力は、自分達ダークラキオス四天王以外に存在しない筈のものなのだ。

「ブライトナックル!」
 炎を乗せたヒミカイザーの拳が、マナ防御を砕き、コウインのボディを捉える。
 厚く頑丈な重戦車の如き装甲をもってなお防ぎきれない衝撃と熱が、コウインの内部にまで伝わり、がっしりとした体が揺らぐ。
「くっ!! さっきの戦闘で受けた損傷がきいてきやがる!!
 クロービット!!」
 切り離された腕が、ヒミカイザーを狙うが、ヒミカイザーはそれを軽くかわす。
 先程の戦いで、コウインのクロービット自動制御システムは大きな損傷を受けていた。
 ハードウェアが焼きついてしまった部分をソフトウェアで代替対応しているが、情報量の多さを処理しきれていない。
 処理を簡易化しているから、軌道制御ルーチンが単純で、簡単に避けられてしまう。
 それ以外にも、各部がエラーを連発している。
 万全の状態であっても、互角の力を持つであろうヒミカイザーに対し、今のコウインの状態は致命的なハンデだった。
「くそっ、考えが甘かった!!
 こうなりゃ、なりふりかまっちゃいられないな」
 このままでは、勝てない。
 冷静にそう判断を下したコウインは、ヒミカイザーに向かって叫ぶ。

「俺の体には、セリア博士の脳が埋め込んであるんだ!
 やれるか、ヒミカイザー!
 俺をやれるか!!」
「……ならばなおの事。
 私がやらねばならない!!」
「な、何!?」
「おおおおおおおッ!!」
 ヒミカイザーが雄叫びを上げる。心にある全ての思いを声にするが如く。
 炎がヒミカイザーを中心に渦巻き、炎の柱と化す。超高温の烈風が吹き荒れる。
 さながら、プロミネンスの中心で、ヒミカイザーは重心を低くかまえる。
 高熱の炎は白い光を放ち、ヒミカイザーの体が眩く輝く。
「ま、待て!!」

「ヒミ・フェニックス!!」

 紅蓮の炎を身に纏い、ヒミカイザーはただ突進した。
 己の全ての思いと力をぶつける。それがヒミカイザーの必殺技を生み出した。
「くっ!!」
 コウインは両腕をがっちりと構え、完全防御の体勢をとる。
 だが、

ボッ!!

 頑丈な装甲を溶かし、気化させ、ヒミカイザーの必殺技ヒミ・フェニックスは、コウインを貫いた。
「ぐああああーーーっ!!」

 ドォーーーン!!

 断末魔の叫びと共に、コウインは大爆発した。
「……」
 それを見届け、ヒミカイザーは無言で戦いの場に背を向け、歩き出すのだった。

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次回予告
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コウインは倒したが、ダークラキオスをつぶすまで、ヒミカの戦いは終われない。
以前に追いきれなかった麻薬のルートから、ダークラキオスの麻薬製造所を発見する。
そこで現れる次なるダークラキオス四天王。

次回『もののふの心』、お楽しみに!