ヒミカイザー

第4話

♪ヒミカイザーのテーマ

熱き想い 鋼の腕に宿した
白き光の翼

世界の奥 深く蠢くダークラキオス
その野望を打ち砕く日まで

悲痛にまみれた 遠い記憶が
その拳を炎へと変える

進め! ヒミカイザー
そうさ お前は
愛に彷徨い
歩き続ける旅人

平和の日が 邪悪に霞みそうなら
魂を振り絞れ

揺るぎの無い 心が暗黒を吹き消す
突き抜けろ 必殺ヒミ・フェニックス

友に授かった 優しさという
名の力を勇気へと変えて

戦え! ヒミカイザー
そうさ お前は
孤独に強く
歩き続ける旅人

第4話 『天網恢恢疎にして漏らさず』


 飛空挺ものべー号の機関室。
 航行準備の放送がなされ、トキミとヒミカは既に配置についている。
「準備は良いですか?」
「……」
 トキミのいつもの問いに、しかし今日のヒミカからは、いつもの元気な返事が返ってこなかった。
「どうしました?」
「トキミさん。
 私、ものベーを降りる」
 トキミは感付いていたのだろう。特に驚く事も無くゆっくりと頷く。
「やはり行くのですか」
「お世話になりました」
「ヘリオンには言いましたか?」
「いえ、なんか照れくさいですし……」
「そうですね。
 二度と会えないわけでもありません。
 頑張りなさい。
 ものべー号からはすぐに降りるのですか?」
「いえ。今回の航行はやらせて下さい」
「では、準備を。しっかり頼みますよ」
「了解!!」

 ヒミカは最後になるかもしれない業務を、しっかりこなし無事に終える。
 あなたは良い機関士見習いでした、というトキミの言葉に限り無い感謝を抱きつつ、ヒミカは大地へと降り立った。
 その地は、自然の息吹も人いきれに霞む都会の町。
 以前、ものべー号に武器密輸がなされようとした時に、ヒミカが突撃した会社のある街である。

「どこに行くの?」
「こっち」
 ヒミカを先導しているのはニムントール。

 ものべー号を利用する武器密輸に端を発した空賊事件。
 その際に出会ったものベー号乗船員ニムントールと、ラキオス警備隊隊員ファーレーンは、その後も親密に連絡を取り合っていた。
 それで今回、ヒミカがものベー号を下りるタイミングで、ニムントールもものベー号勤務をやめ、ファーレーンと一緒に暮らす事にしたらしい。
「でも、何で私が今日仕事をやめるって判ったの?」
「お姉ちゃんが『そろそろヒミカが痺れを切らす。ものベー号の運行予定を見ると、十中八九このタイミングで船を下りる』って教えてくれた」
「……」
 ファーレーンの分析力が優れているのか、或いはただヒミカが単純なだけなのか、いずれにせよヒミカの心理はファーレーンに完全に見透かされていた訳である。

「ここ」
 ニムントールが入ったのは、チェーンの軽食レストランだった。
 店内の奥まった席で、ファーレーンが手を上げる。
「あ、来ましたね。待っていましたよ。
 ニム、久しぶりねー。会いたかったわー」
「お姉ちゃーん」
 ニムントールはファーレーンを見つけると、一直線に走っていって飛びつく。
 頭を撫でてもらい、気持ちよさそうに目を細める。
「ヒミカも、お久しぶりです」
「ファーレーン、久しぶり。元気そうで何よりだわ。
 で、今回はどういう用件?
 キョウコの尻尾でも掴んだ?」
「相変わらずですね。
 ですが、まずは食事にしましょう。
 古人曰く、腹が減っては戦は出来無いらしいですからね。
 ニム、何が食べたい?」
 軽く食事を取り、食後のお茶も飲み終え、ニムントールもパフェを食べ終わり、一息ついてからファーレーンはおもむろに切り出した。
「さて、キョウコの化けの皮を剥がしに行きましょうか」
「え!? もう証拠とか揃ってるの?」
「そういう事です」
 微笑むファーレーン。
 但し、この笑みは先程までニムントールに対して向けていた笑みとは異なり、裏で如何なる計算が働いているか解らない性質のものだと、ヒミカはもう知っている。
 であるならば、その言が真実であれ、虚偽であれ、ヒミカにその実態を確認する術は恐らく無い。
 だからヒミカは、ファーレーンの言葉の裏を読むのをあっさりと放棄して席を立った。
「じゃ、行きましょうか」
 ファーレーンは信頼出来る。それだけで、ヒミカには充分なのだ。

 以前と同じ、キョウコの会社の受付の前に、ヒミカは立つ。
 前回は素手だったが、今回は神剣を携えている。
 ファーレーンもニムントールも神剣を手にし、戦闘準備を整えている。
「社長に会いたい」
「おはようございます」
「邪魔しないで!
 今日は力ずくでも通してもらうわよ!!」
 受付女性のマニュアル通りの応対をヒミカはきっぱりと遮った。
 そのヒミカの言葉に反応するように、スピーカーから聞き覚えのある声が流れる。

―――キョウコです。御通ししなさい。
 ようこそ、セリア博士の御友人。

「あいつ、やっぱりダークラキオスの一員ね。
 セリアの事も、私の事も知ってるなんて。
 必ず正体を暴いてやるわ!!」
 階段を上りながら、興奮を抑えきれないヒミカの後ろで、静かに階段をのぼっていたファーレーンが、警告を発した。
「気をつけて!! 上から、何か来ます!!」
「!?
 ダークラキオスの戦闘員!?」
「下からも来ています。
 挟み撃ちにするつもりみたいですね」
「前後いっぺんに相手するのは厄介だわ。
 一気に突っ切りましょう!」
「多分それが正解でしょうね。
 では、後ろの相手に追いつかれないように、急いで駆け上がるとしましょう。
 ニム、気をつけてね」
「うん。お姉ちゃんも無理しないでね」

 次々に飛び掛ってくる戦闘員に拳を叩き込み、攻撃を受け流して階下に叩き落し、ペースを緩めずに三人は階段を駆け上る。
 社長室のパネルのついた扉を、ヒミカが破壊する勢いで開ける。
 社長室内にキョウコの姿は無く、その代わりに異形の大男がいた。ダークラキオスの怪人である。
「キョウコはどこ!」
「無礼だぞ、キサマ。排除する」
 言うが早いか、怪人は三人に襲い掛かる。
「雑魚に構ってる暇は無いのよ!!」
 ヒミカは怪人の、硬い爪の生えた豪腕をかわすと、カウンターで膝蹴りを水月に叩き込む。
 苛烈な一撃でダウンしかけた怪人に、ヒミカは更に止めの横蹴りを―――横蹴りとはいっても足刀ではなく、踵を捻じ込む蹴りを―――いれて吹き飛ばした。
 怪人は、激しく壁に叩きつけられ、壁をも突き抜けてしまう。
 バチッと音がして、部屋の明かりが消える。
「わ!? 明かりが!」
「ヒミカ、やりすぎです!」
「ご、ごめん! つい!!」
 壁が破壊された時に、壁の中にあった電線が切れたらしい。
 その時、ヒミカの頭に閃くものがあった。
(よし、今のうちに変身ね!)
「ちょっと外の様子を見てくるわ!!」
「ヒミカ! 今迂闊に動くと危険ですよ!!」
「大丈夫!! 何かあったら大声出して呼ぶから、ここで待ってて!!」

 ヒミカイザーはヒーローの力によって暗闇の中でもものを見る事が可能である。
 夜目は利くものの、急に暗くされたのでまだ目が慣れていないファーレーンは、ひとまず視覚からの情報収集を放棄し、嗅覚と聴覚を凝らしていた。
 ニムントールはファーレーンの後ろに背中合わせで立ち、ファーレーンのサポートをしている。
「こっちだ!!
 敵は屋上にいる!!」
「あれ、ヒミカは? あなた誰?」
「私はヒミカイザー。ダークラキオスを追っている正義のヒーローだ。
 彼女なら、暗がりで足を踏み外したらしくて、階段から落ちて気絶していたから、私が保護しておいた。
 命に別状は無い。安心していい」
「先程の階段を転げ落ちる音は、案の定ヒミカでしたか」
 ファーレーンへの対策として、来る時に倒していた戦闘員を階段から転がしておいたのが上手くいったらしい。
「その通りだ。
 だが、彼女は暫く目を覚ますまい。
 敵は目の前だ。力を合わせて戦おう」
「……ヒミカイザー。情報は入っています。
 ダークラキオスと戦っているのでしたよね。
 あなたの素性は良くは知りませんが、今回の目的は同じようです。
 ヒミカが目を覚ますのを待っている暇もありませんし、ここは確かに協力した方が得策ですね」
「お姉ちゃんがそういうなら」
 ヒミカイザーに続き、ようやく目が慣れてきたファーレーンが、優しくニムントールの手を引いて、階段を上る。
「全く、大事な時にヒミカときたら」
「彼女が心配か?」
 ヒミカイザーが、ファーレーンに問う。
「心配と言いますか、ニムや私が危なくなったら盾になってもらおうと思っていたのに、大事な時にいなくなるなんて困ったものだな、と」
「……」

 屋上からは、もう抑えるつもりも無いのだろう強力なマナの波動が感じられる。
 ヒミカイザーは、屋上に続く扉を開け放った。
 キョウコが立っていた。

----------------
コマーシャル
----------------


クラブザウスに入れば、楽しい特典盛り沢山!

『聖なるかな』設定資料集と、ものべーぬいぐるみの通販が再開されました!
まだ手に入れていない人は、ザウスサイトの通販ページにGo!

ところで、アセリアの舞台劇はご覧になりましたか?
どうせ大した事無いだろ、と、高をくくっていて、実際に見たときの衝撃は凄いものがありました!
アセリア本編もそうですが、表現者の本気、というものは伝わるものなのです!
そして私達は、そういう本気を見せてほしいと望んでいるのです!

となれば、舞台劇第3幕を見たい! と思ってしまうのも、ある意味当然ですよね!
そんな夢も、お願いすれば実現するかもしれません!
お前個人の要望だろ、というツッコミは無粋だぞ!
メーカーとプレイヤーの繋がりを大切に!

クラブザウス会員証は僕らとザウスの友情の証!
さぁ、みんなもクラブザウスに入ろう!


----------------
コマーシャル終了
----------------

「ダークラキオスのキョウコ、ついに追い詰めたぞ!
 キサマは大会社の社長の姿を隠れ蓑に、大量の武器を密輸し、多くの罪も無い人々を不幸にしてきた。
 証拠隠滅の為に、義賊の漆黒の翼までをも利用した。
 その所業、許すわけにはいかん!
 覚悟しろ!!」
 真紅のヒーロースーツを身に纏ったヒミカイザーの事を、胡散臭そうに一瞥した後、ヒミカイザーの後ろに立つファーレーンを見、嘲るような口調でキョウコは言い放つ。
「色々と嗅ぎまわってくれたじゃない。警備隊の犬。わざわざ変なのつれて、こんなところまで追ってきて、うっとうしいったらありゃしない。
 でも、それもここで終わり。
 おとなしくしていれば死なずにすんだのにね。
 自分の愚かさを悔いなさい!」
 キョウコが大会社女社長の姿を捨て、真の姿を見せる。
 有機的に機械化された体、漲るマナ。
 社長室にいた怪人などとは、まるで比較にならない力を秘めているのが、一目で判る。
「ダークラキオス四天王であるこの私が、じきじきにあなた達を殺してあげる。
 光栄に思う事ね!!」
 ちりちりと肌に突き刺さるような攻撃的なマナの波動の中、ファーレーンはキョウコに輪をかけて尊大な口調でキョウコを嘲る。
「私を愚かとあなたが言う? はっ、それは自虐の笑い話ですか? 残念ですが、あまりにも嵌りすぎてて哀れみしか出て来ませんよ。
 あなたは悉く私の仕掛けた罠にはまって下さいましたものね。
 もしかしたら、わざと引っかかってるんじゃないかと、こちらの方が不安になりましたから。
 まぁ、毎度毎度、Dr.ヨーティアたちに尻拭いをしてもらっていたようですが」
「この警備隊の犬ふぜいが、吠える口ばっかりは達者ね!!
 でも、最後にモノを言うのは力だという事を、今ここで教えてあげるわ!!」

ドシュッ!!

 キョウコの攻撃は、空気の炸裂音をも追い越していた。
 人間の体は無論の事、スピリットやエトランジェの体でも出す事が不可能な速さ。生身の肉体の規格を外れた速さ。

「ぐぅっ!!」
 ニムントールの張っていた障壁を突進の威力のみで打ち砕き、ファーレーンに攻撃を入れる。
 腕に装着したレイピアを、鋭く突き込む。
 ファーレーンは、辛うじてキョウコの攻撃を受け流す事には成功したものの、キョウコの桁外れな速度が生み出したソニックブームに身体を大きく弾き飛ばされる。
「まさか……ここまでとは……」
 攻撃の軌道が単純だったから、辛うじて防御が間に合った。
 けれども、少しでも攻撃に変化があったならば、対応は間に合わなかっただろう。
「へぇ。警備隊の犬にしては、なかなかやるじゃない。
 じゃあ、少しだけ、私の力を見せてあげるわ」
 キョウコは薄く笑うと、再び踏み出した。
「あぐっ!!」
 ファーレーンは、キョウコの攻撃を認識した時には、既に攻撃をくらっていた。
 高速機動型改造人間であるキョウコのスピードは、認識力をも越える。
 構えていた事もあり、反射的に急所にくらう事だけは防げたが、肩を深く貫かれていた。
 更に、一瞬遅れてくるソニックブームに、弾き飛ばされる。
「くっ……なんて事……」
 もしかしたら、キョウコの全力は、反射速度すらも凌駕するかも知れない。
 そうなれば、如何なる戦術や技も無意味だ。
 何も解らぬまま、気が付くよりも先に勝負がついてしまうだろう。
 キョウコがまだ全力になっていないのが救いといえば救いだが、この時点で既に、キョウコとファーレーンの間には勝負にすらならない程の圧倒的レベル差が生じている。
 防御がまるっきり追いつかないし、攻撃に転じる事も出来無い。
「それそれっ!!」
 今度は両太腿を貫かれる。
 致命傷を与えず、じわじわと弄る。

「お姉ちゃん!!」
 ニムントールには、キョウコのあまりのスピードに目も追いつかない。
 キョウコが分身したようにも、消えたようにも見える。
「さぁ、とどめ、行くわよ。冥土の土産に、私の本気を見せてあげるわ。
 見えないかも知れないけど、ね」
 キョウコが踏み込む。
「させるかっ!!」
「なっ、何っ!? きゃあああっっ!!」
 音すら置き去りにして踏み出したキョウコを、ヒミカイザーが体勢を落とした体当たりで止めた。
 キョウコは、自らのあまりの勢いに、今度は自分自身が大きく吹き飛ぶ。

「ふぅ……危なかったですけど、賭けには成功したみたいですね」
「大丈夫か?」
「ええ、何とか。
 全く、一か八かの賭けに出るなんて、我ながら良くない傾向です。
 どこかの誰かがうつってしまったのでしょうか。
 まぁ、それもこれも、ニムがいたからこその策ではありますけどね」
「わかってるよ。ホントに大丈夫、お姉ちゃん? すぐ回復するから」
「うん、お願いね、ニム」
 自らの命を仲間に預ける。
 それは、仲間を信頼していなければ決して出来無い事。
 ファーレーンにとって、それは忌避してきたといっても良い事でもある。
 しかし今回、ファーレーンは自らを囮として相手の動きを制限した。
 自分が力尽きる前にフォローが来ると信じていたし、力尽きさえしなければ回復してもらえると信じていた。
 ファーレーンは、今更ながらに自分の行為をらしくないと思う。
「ニムが信頼できるのは当然としても……、こうしなければ勝ち目は無かったとはいえ、初対面の相手をこうまで信用するだなんて。
 それを嫌な変化だと感じていない点も含めて、本当に妙な感じですね」

 キョウコが、瓦礫の中から這い出てくる。
「くっ、加速装置が……!!
 私のスピードに対応出来たって言うの?
 あり得ない! あり得ないわ!!」
「キョウコ、いかにお前が速くとも、何度も見ていれば動きの傾向は掴める。
 ましてや、ファーレーンに攻撃がいくと判っていれば、対応は決して不可能じゃ無い」
「まさか、私の攻撃をわざとくらってたっていうの!?」
 黒い炎を瞳に宿したキョウコの言葉に対し、ニムントールに回復してもらったファーレーンが微笑で応じる。
「戦いで重要なのは、自分の得意分野、相手の不得手な分野で戦う事。
 パワーでもスピードでも及ばないと解っている相手に、どうしてパワーやスピードで勝負しようだなどと考えるものですか。
 そういえば先程、あなたは、私が口ばかりが達者な警備隊の犬、最後にモノを言うのは力だと御高説下さいましたよね。
 その私の口先の挑発に乗せられ、力が敗北したわけですが、今の感想はいかがです?
 今やあなたは犬未満の存在となった訳ですが、遠吠えくらいは許して差し上げますよ?
 まぁ、はなからあなたは、犬よりずっと可愛くなかった訳ですが」
 饒舌にファーレーンは罵る。
「このォーーーッ!!」
 しかし、先程のヒミカイザーの攻撃で駆動系に異常が生じたらしく、目にもとまらぬスピードはもう無かった。
 キョウコの駆動系は非常に精密に出来ており、尚且つ速度を求める為に装甲は薄かったのだ。

 攻撃が当たらない事を前提としたつくりは、裏を返せば攻撃が当たると非常に脆いという事でもある。
 予想違わず、キョウコの戦闘能力は激減した。
 それでもキョウコが難敵である事には変わり無い。
 だからこそファーレーンは、重ねてキョウコを挑発したのである。
 その挑発にまんまとのり、キョウコは頭に完全に血を上らせ、怒りに我を忘れて単純突撃を繰り返す。
 ヒミカイザーはそんなキョウコの直線的な攻撃をことごとく阻み、反撃を返す。
「スパークリングロール!!」
 爆破を伴う連続裏拳が、キョウコにカウンターでヒットする。
「くぅっ!! こんな、こんな事、絶対に認めないわッ!!」
 執念で立ち上がり、キョウコは身体に力を込める。
「ライトニングウェブ!!」
 次の瞬間、キョウコの体から紫電の網が放たれ、三人に襲いかかった。
 だが、それよりも一瞬早く三人は力を合わせてマナ障壁を張り、完全にこれを防御する。
「な……何ですって……!!」
 奥の手を防がれ、愕然とするキョウコに、ファーレーンが追い討ちをかける。力ではなく、口で。
「防御は不得手ですが、攻撃が来るのが解っていて、ニムと力を合わせられたならば、この程度は凌げます」
「来るのが解っていたですって!?」
「スピードを身上とするあなたが、足を完全に止め、力を溜めた。
 しかも、加速前の構えとは違う構えで、です。
 だったら、何か遠距離攻撃を放ってくると考えるのが当然でしょう。
 今まで出していない技は、読まれる事は無い、とでも思いましたか?
 やれやれ、浅はかですね。あなたの頭を基準にすれば仕方無い事ではありますが。
 それともう一つ。
 作戦行動中の不測の事態への対応で、その者の真価は問われるものです。
 茫然自失など下の下。その点でもあなたは落第でしょう。
 さて、私の本気の口撃はここまで。あなたに止めをさして終わりです。
 本気ははじめから出すものですよ。生に悔いを残したくなければね。それでは、さよなら」

「隙だらけだ!!
 くらえ!! ディフレクトランス!!」
 電気を放出し、動きが止まっていたキョウコは、奥の手が防がれた事へのショックと、それに加えてファーレーンの演説に聞き入ってしまっていた事もあって、完全に反応が遅れた。
 ヒミカイザー必殺の三角蹴りが、キョウコにヒットする。
 モーションが大きいという弱点は、ファーレーンの『口撃』とのコンビネーションによって完全にカバーされていた。

ドッカーーーン!!

「きゃああーーーっ!!」
 キョウコの吹き飛んだ先に、ファーレーンとニムントールが追撃をかける。今度こそ、力で。
 ヒミカイザーも攻撃の手を休めない。
 ファーレーンの刀が生み出す真空波に、ニムントールの槍が乗る。そこに、ヒミカイザーの炎が加わった。
「飛燕のソニックスマッシュ!!」

 ドッゴーーーン!!

「正義は、勝つ!!」

----------------
次回予告
----------------

ヒミカ達はついにコウインを追い詰めた。
しかしコウインは、小型飛空挺に乗って逃げ去ってしまう。
その時、ヒミカがとった行動とは。

次回『無言の結末』、お楽しみに!