ヒミカイザー

第3話

♪ヒミカイザーのテーマ

熱き想い 鋼の腕に宿した
白き光の翼

世界の奥 深く蠢くダークラキオス
その野望を打ち砕く日まで

悲痛にまみれた 遠い記憶が
その拳を炎へと変える

進め! ヒミカイザー
そうさ お前は
愛に彷徨い
歩き続ける旅人

平和の日が 邪悪に霞みそうなら
魂を振り絞れ

揺るぎの無い 心が暗黒を吹き消す
突き抜けろ 必殺ヒミ・フェニックス

友に授かった 優しさという
名の力を勇気へと変えて

戦え! ヒミカイザー
そうさ お前は
孤独に強く
歩き続ける旅人

第3話 『仮面武闘会』


 ヒミカはダークラキオスの情報を求めて、夜の繁華街を歩き回っていた。
 その一角にたむろしている若者達が、ヒミカを見て狂騒的な声を上げる。

「おい、あいつ見ろよ!」
「スピリットか?」
「あの髪の色、まるっきりラナハナだろ!」
「ハハハ」
「ハハハ」
「ラナハナちゃん、遊んでいかない?」
「おい、オレらが遊んでやるって言ってるんだ、何とか言えよ!」
「そんな言い方したら、ビビって逃げちゃうよ。
 弱虫君なんだから」
「ハハハ」
「ハハハ」
「ハハハ」
 ヒミカは、そんな若者達の声が聞こえないようなふりをしてやり過ごす。
(昔の私なら、いちいち苛ついていたわね。
 私も大人になったっていう事かしら……フッ)

 一通り歩き回るが、その日も情報は集まらない。
 その帰り道、先程と同じ場所に、若者達はまだいた。
「ラナハナちゃん、戻ってきたよ」
「おひゃ、らいふえげ」
 まるっきり舌の回っていない若者を見て、ヒミカが僅かに眉を寄せる。
(この子達、麻薬を使ってるわね……)
 まるでヒミカの来るタイミングを計っていたかのように、若者達のうちの一人が突如暴れだす。
「ウゴ、ググッげ」
「キャー」
「どうしらんあ おまー」

 ガッシ、ボカ!

 状況を把握出来ていない若者グループのメンバーが、ふざけているとでも思ったのか、暴れている者の前にふらふらと出て行くったが、あっさりと殴り飛ばされた。
 一瞬にして、場は混乱に包まれる。
 若者たちは、どうする事も出来無いで、ただうろたえるばかり。
 中には、今もって何がおきているのか全くわかっていない者もいる。

 彼らの自業自得ではあっても、ヒミカには見過ごす事は出来無い。
 殴られそうになっている若者グループメンバーの少女の前に立ち、唸り声をあげながら殴りかかってくる相手の拳を受け止め、柔らかく受け流す。
 下手にかわしては、勢いあまってどこかにぶつかり、大怪我をするかもしれないからだ。
 暴れる若者の動きは、明らかに人間の肉体の限界を超えていた。拳は裂け、血が出ている。恐らくは、痛覚も麻痺しているのだろう。
 だが、いくら肉体の限界を越えたとはいっても、所詮は格闘素人の人間。スピリットであるヒミカには何の問題にもならない。
 素人の攻撃は怖いものだが、その怖さも、何をしてくるかわからないという部分が大きい。
 その点、既に暴れている若者の動作を、ヒミカは既に見ている。
 まして、思考が滞っているので単調な動きの繰り返し。ヒミカにとっては対処するに造作も無い。
 受け流した腕をそのままひねり、地面に倒す。たとえ痛みは感じていなくとも、人体構造からは逃れられない。
 そのまま暴れる若者を完全に押さえ込み、注意深く気道を確保したまま頚動脈を絞めて落とす。
 薬で正気を失っていても、脳に血がいかなければどうしようもない。
 殺すつもりは無いので、単に気絶させただけだ。少しすれば目を覚ますだろう。
 あっという間に事態を収拾したヒミカは、呆けた表情をしている若者の一人に問いかける。

「一体どうしたの?」
「あ、新しいブツを買ったんだよ、そ、そしたら……」
「見せて」
 若者が慌てて差し出した薬を一目見て、ヒミカは表情を固くした。
 それは新種の麻薬で、ダークラキオスが資金源にしていると噂されているものだったからだ。
「誰から買ったの?」
 若者達はある街の名をあげ、そこの巡礼者の様だった、と言った。
 その街は、偶然か、運命か、ものべー号の次の目的地だった。
「情報、ありがとう。
 あなたたちの人生、どう生きるかはあなたたちの勝手だし、私自身も他人に説教できるほど、まともな生き方してるとは思わないけど。
 それでも、そういう生き方がカッコイイと思うのは、多分間違いね。
 野放図な自由だの自己主張だのは、子供と同じ。赤ん坊だって大声で泣いて自己主張するでしょう。
 あなたたちのやっている事はそれと何ら変わり無いわ。
 あなたたちの生き方は、単に幼稚なだけ。
 義務を果たし、自己を抑制出来る人のほうがずっと大人だし、素敵よ。それって、子供には出来無い事だもの。
 ま、私はそう思うってだけの話だけどね。
 それじゃ」
 言うと、振り返る事無くヒミカは立ち去る。
 角を曲がり、若者たちが見えなくなった後、
「あ゛ーーーっ!!」
 ついつい恥ずかしい台詞を、真顔で、臆面も無く口にしてしまった事に赤面し悶えながら、ヒミカは早足でものべー号へと戻るのだった。

 ものべー号が次の目的地に着くと、ヒミカは早速巡礼者のいる場所を探した。
 その地は僧たちの修行場として有名な場所であり、静謐な空気が満ちていたが、ヒミカはその中にノイズのようなものを感じてもいた。
 とある建物の中、静かに佇む白スピリットに声をかける。

「巡礼者達がどこへ行くか知りませんか?」
「彼らは自らの心の平安を求めてこの地にやってきます。
 彼らの目的地は心の中にあるのです。
「何だか哲学的な事を言うんですね」
「古人は言いました。
 石には石の心があると。
 ならば、私達スピリットにも心があって然るべきです。
 事実、多くのスピリットもそれを当然の事としてとらえています。
 ですが、なかなか私には自分の心の本質が見えてきません。
 心とは何か。その本質を求めれば求めるほど本質から外れていくような気がします。
 これは虚しい」
「えっと、ごめんなさい。何だか眠くなってきちゃったわ。
 それじゃ、急ぐんで」

 立ち去りかけたヒミカの後ろから、白スピリットの声がかかる。
「待ちなさい。
 あなたはダークラキオスの事が聞きたいのでしょう?」
 『ダークラキオス』の単語に、ヒミカは条件反射的に鋭く反応する。
「何か知ってるの!?
 ……何で解ったの?」
「自分の心は見えずとも、他者の心は読みやすいものです。
 ダークラキオスには4人の幹部がいます。
 四天王などと呼ばれ、己を見失った愚か者ぞろいです」
「四天王……。
 もっと詳しく教えて!」

 話を詳しく聞こうとヒミカが身を乗り出したとき、懐から電子音が鳴った。
 ものべー号からの呼び出しである。
「こんなときに……」
 後ろ髪を引かれながらも、ヒミカはものべー号に戻るのだった。

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コマーシャル終了
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 次にものべー号が着いた街で、ヒミカは有力な情報を手に入れた。
 Dr.ヨーティアと思しき人物が、地元有力者の家に出入りしているのを見たと言うのだ。
 早速情報にあった地元有力者の家に行ってみると、そこは遺跡の神殿をそのまま利用したような大きな建物だった。
 そこでは、ちょうど仮面武闘会なるものが開催されていた。

 さすがのヒミカも、いきなり相手に会わせろと言っても、上手くいかないという事を学びつつある。
 尤も、ヒミカは明らかに相手に非があると思わない限りは、礼を失さぬ良識を備えてはいるのだが。
 それでも、後ろ暗い部分のある者が相手であれば、礼儀を持ってしても尚更上手くいかないものだ。
 だからこそ、この武闘会はチャンスだとヒミカは考えた。
 勝ち抜けば、目的の相手とほぼ確実に話をする事が出来る。

 早速受付に行くと、仮面をつけてないと出場できない旨を伝えられたので、変身して出場する事にする。
 物陰に隠れ、ヒミカは、ヒミカイザーへと変身した。
 ヒミカイザーの真紅のコスチュームも、奇天烈な格好の仮面武闘会参加者の中ではそれほど目立たない。
 改めて受付に並び、参加を申し込む。

「リングネームは?」
「ヒ……ヒ、ヒ、……」
「ヒヒヒですね。では、どうぞ」

 とっさに良い名前が浮かばず、『ヒヒヒ』という、何とも情けない名前で登録されたヒミカイザーだったが、闘いでは圧倒的な力で次々と勝ち進んだ。
 スピリットであるヒミカは、元々人間よりも遥かに強い。それに加えてヒーローの力を得ているのだから、そこいらの相手ではまともな試合にすらならない。
 正に指先一つでダウンの世界だ。
 しかし、決勝の相手だけは勝手が違った。

 ヒミカと逆のブロックを勝ち進んできた『ユユユ』というリングネームのその相手は、試合開始の合図と同時に繰り出したヒミカイザーのパンチをあっさりと防いだ。
 否。単に防いだ、などという生易しいものではない。
 繰り出したヒミカイザーの拳に対し、ユユユは、貫手で薬指と小指の間の付け根部分を突いたのだ。
 手加減していたとはいえ、ここまでの相手を一発で倒してきたヒミカイザーのパンチに対して、である。
 ヒミカイザーの拳はその衝撃に解かれ、攻撃は無力化される。
「何ッ!?」
 しかも、大きな隙を見せたヒミカイザーに対し、ユユユは追い討ちをかける事も無い。
 目深にかぶった奇妙で不気味なハクゥテの出来損ないのような帽子を、悠然と整える。
「それが本気じゃないだろ? 本気で来い!」
「……いくぞ!!」
 ヒミカイザーは、今度は手加減抜きで拳を突き出した。
 うなりを上げるヒミカイザーの拳を、ユユユはスウェイバックでかわす。
「まだまだぁ!!」
 パンチを避けられて余った突進力を、そのまま回転力へと転化し、後ろ回し蹴りにつなげる。
 だが、その疾風を纏ったキックをも、ユユユは体勢を崩さないスウェイバックであっさりと避ける。

「くっ!!」
「力はあるけど、その力に振り回されてるな。
 技術が力にまるで追いついてない。
 俺にも経験があるけど、急激に力を身につけたんじゃないか?
 自分で自分の限界がわかってない。
 だが、それがいい。
 大化けする可能性があるって事だからな。
 集まったのは雑魚ばっかりかと思ったけど、良い掘り出し物が見つかったな」
「? 何の事だ?」
「こっちの話だ。
 さてと、お前の攻撃は大体見切らせてもらった。そろそろ終わりにするぞ」
「私は、負けない!!」
 ユユユの言う事の後半部分は意味不明だったが、前半部分は正しいとヒミカイザーは思う。
 今までは、生身のスピリットとして戦っていた時の延長で戦っていた。
 格下の相手であれば、それでも良い。
 けれど、そうでない相手に対しては、このままではダメだ。
 ぐっ、と拳を握る。
 ヒーローの力を得て、パワーが上がった、スピードが上がった。
 そして、そう、防御力も大幅に上昇したのだ。

「うおおおおっ!」
 ヒミカイザーは思い切り踏み込み、ジャンプキックを放つ。
「甘い!」
 ユユユはこれもまたスウェイバックでかわす。
「進歩が無いそ! ヒヒヒ!」
「これで終わりじゃないぞ!!」
「何っ!?」
 そのまま壁まで跳んだヒミカイザーは、体をひねって反転し、壁に足をつく。
 そして、

ドカン!!

 足元でマナ爆発を起こした。
 生身のスピリットの体では自分の体が持たないが、ヒーローの体ならば問題無い。
 ヒーローの力を得ているからこそ可能な荒業である。
 爆発の威力に乗り、ヒミカイザーは一直線にユユユに向かって飛んでキックを放つ。

「くらえ! ディフレクトランス!!!」
「くっ!!」
 ユユユも、これは避けきれなかった。
 ヒミカイザーの強烈な三角蹴りを受けて、大きく弾き飛ばされる。

「もう一発!!」
 ヒミカイザーは追い討ちに、先程のやり直しでもするかのように拳を突き出す。
 一度全力を出しきり、高みを知れば、その力の出し方を体は覚える。
 つい先程のパンチと比べ、明らかに鋭さを増しているヒミカイザーのパンチに対し、それでもユユユは冷静に対処してきた。
 ユユユは、一歩踏み込む。
 ヒミカイザーの拳に威力が乗る前に、つぶすつもりなのだ。
 中途半端な状態で拳を当てると、攻撃者の方が拳や体を痛める。
 パンチは単純に見えて、非常に難しい技術である。素人がパンチを打つと、指や手首を痛める事が多い。骨折する事すら少なくない。
 それは鍛えた者であっても、タイミングを外されれば同じである。それどころか、体全体と連動してパンチを繰り出しているから、下手をすれば体全体を痛めかねない。
 だが、ユユユのそんな攻撃的防御にも、ヒミカイザーの動体視力と反射神経は、そして多くの戦いを経て経験を刻み込んだ肉体は、インパクトの瞬間を間違えない。
 間合いをつぶされはしたが、それでもきっちりと拳を固め、打ち込む。
 そして、
「フラッシュスクリュー!!!」
 命中の瞬間に、拳先にマナ爆発を起こす。
 眩い炎が炸裂する。
「な、なんだってー!!」
 本来ならばあり得ない筈の攻撃。
 威力を大幅に減衰させた筈のパンチが、すさまじい破壊力のゼロ距離爆破へと転じた。

ドッカーーーン!!

 ユユユはヒミカイザーの攻撃を防ぎきれず、吹き飛ばされて倒れた。

「勝者! ヒヒヒ!!」
 アナウンサーの声が闘技場に響く。

「……手ごわい相手だった」
 これだけの力を持った相手を、ヒミカイザーは一人しか知らない。
 コウインだ。
 単純に強い相手ならば、何人も知っている。
 少し前に戦ったウルカなども、とても強かった。
 だが、その力は修練の延長上にあるものであり、『極めた』力である。
 一方で、今、目の前に倒れている相手の力は、そしてコウインの力はそれとは質が違う。
 これは『外れた』力だ。
(……まさかこいつも、ダークラキオスの怪人?)
 調べようと、ユユユに踏み出しかけたとき。
「凄い、凄いよー!」
 この建物の主であるという地元有力者、オルファリルの声がした。
 そして、そのオルファリルの後ろには、
(あれは、Dr.ヨーティア!!)
 見間違いではない。
 幾度写真で睨んだか解らない相手が、オルファリルの後ろを悠々と歩いていった。
「待て!」
 表彰式も、ユユユの正体もそっちのけで、ヒミカイザーは走り出した。

 建物の中を駆け抜ける。
 古の神殿をそのまま利用した建物内部は、解りやすいようでいて非常に迷いやすい構造になっていた。
 万一、攻め込まれた時の対処だったのだろうか。隠し扉のような仕掛けすら存在していた。
 それでもヒミカイザーは、Dr.ヨーティアがある部屋に入っていったのを見つけた。
「そこか!」
 急いでその部屋のドアを開けると、部屋の中にはDr.ヨーティアの姿は影も形も無かった。
 その代わりに、一人の屈強そうな大男が、ヒミカイザーを睨みつけている。
「ここは立ち入り禁止だぞ。
 知らなかったのか?」
「Dr.ヨーティアはどこへ行った!」
「Dr.ヨーティアはもうここにはいない。
 Dr.を追っているとは、貴様、警備隊か?」
「そんなものは関係ない、邪魔するな!」
「そうか、では殺しても問題ないな。
 死ね」
 大男がパチン、と指を鳴らすと、天井からダークラキオスの怪人が降りて来た。
「キー」
「キー」
「やはりダークラキオスが絡んでいたか!!」

 大男の体も、見る見るうちに異形と化す。
「くくく、見るが良い、人を超えた姿を!!
 この力を持って、ダークラキオスがこの世界を支配する!!」
「このヒミカイザーがいる限り、そんな事はさせない!!」
 ヒミカイザーの拳が炎を宿す。
「ブライトナックル!!」
 パワーアップしたヒミカイザーの前に、名も無き怪人など物の数ではない。
 あっという間に勝負はついた。
 ヒミカイザーは部屋を見渡す。
「どこかに隠し通路があるはずだ!」
 その時、ヒミカイザーの懐から電子音が鳴り響く。
(ものべーからの呼び出しだ……。
 帰るしかないか……)

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次回予告
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ヒミカはものべー号を降りる事を決意する。
ダークラキオスを追う仲間との再会。
そして、ダークラキオス四天王の一人との直接対決。

次回『天網恢恢疎にして漏らさず』、お楽しみに!