Twinkle fairies

三章:誰(たれ)が『求め』…

「良~し、出来たぞ」
「これがハイ・ペリアのご飯なの?ユート様」
「わくわく~♪」
 夕食時の第二詰所の食堂で、エプロンに身を包んだ悠人は大皿に盛られた特製のナポリタン・スパゲティーをテーブルの上にどん、と置いた。
 材料はファンタズマゴリアのものを使用したが、元々見た目や味は似通った食材が多い為、悠人の世界のものと遜色の無い程の出来である。
 湯気と共に立ち昇る香りが漂い、否応無しに空腹感を誘ってきた。
「それじゃ、冷めない内に食べような?」
「うんっ」
「どきどき~♪」
 悠人の言葉に頷くと、三人は早速大皿から適当に取り分け、顔の前で揃って手を合わせた。
「頂きます」
「イタダキマ~スっ」
「イタダキマス…」
 悠人に倣い、ネリーとシアーも食事の挨拶を済ませると二人は元気良くナポリタンを食べ始めた。
「美味し~!!ユート様、このハクゥテすっごく美味しいよ!!」
「うん、美味しいよ。ユート様」
「腕に縒りを掛けて作ったからな。喜んでくれたんなら、作った甲斐が有ったってもんだ」
 はぐはぐ、とナポリタンを頬張る二人を眺めながら、悠人は満足そうに微笑んだ。
「あら?確か今日は私たちが当番の筈だったんだけど…?」
「何だか美味しそうな匂いがしますね~」
 聞こえてきた声に三人が振り返ると、エプロンに身を包んだセリアとハリオンが丁度食堂に入って来るところであった。
「よ。二人とも今戻って来たのか?」
「あ、セリア、ハリオンお帰んなさ~い」
「お帰りなさ~い」
 一旦食事の手を止め、三人がそれぞれの挨拶で二人を迎えた。
「あの、ユート様。これは一体…?」
「悪い。今日は勝手に俺が作らせて貰ったんだ」
「まぁ、それは別に構いませんが…」
「あらあら~、有難うございます~。ユート様~」
 仕事を奪ってしまった悠人が決まり悪そうに返事をしたが、それよりもセリアにとっては悠人に料理が出来ると言う事が驚きであった。

「セリア、ハリオン。ユート様のハクゥテすっごく美味しいんだよ」
「酸っぱくて、塩っぱくて、苦いけど、美味しいんだよ~?」
 一体、それはどんな美味しさなのだろうか。
 第二詰所の厨房に立つ二人としては、ネリーとシアーの感想に大きく興味がそそられた。
「俺の世界の『ナポリタン』って言う料理を、こっちの材料で作ってみたんだけど…?」
 二人の前に、大皿から取り分けられた悠人の料理が並べられた。
 まだホカホカと湯気が立ち昇り、ハクゥテに絡んだソースからの酸味を思わせる芳香が鼻腔を擽ってゆく。
 これが伝説と謳われるハイ・ペリアの、悠人たちの世界の料理なのだろう。
「そうね。それじゃあ、私も頂こうかしら…」
「そうですね~。折角のユート様の手料理ですし~」
 エプロンを畳むと、セリアとハリオンはテーブルに就いた。
「『イタダキマス』だよ?セリア、ハリオン」
「『イタダキマス』?」
「聞き慣れない言葉ですね~。どう言う意味なんでしょう~?」
 始めて聞いたネリーの言葉に、セリアとハリオンが首を傾げた。
「ユート様がね、食べる時には手を合わせて、そして感謝の言葉を言うんだって」
 シアーの説明にセリアとハリオンが得心の表情を浮かべた。
「解ったわ。『イタダキマス』…。これで良いのかしら?」
「『イタダキマス』です~」
 手を合わせて一礼を捧げると、二人は悠人のナポリタンを肉叉に絡め始めた。
「自分で言うのも何だけど、結構上手に出来たと思う」
 そんな二人の『頂きます』を見届けると、悠人は二人が料理を口に運ぶ様を期待に満ちた表情で眺めた。
「確かに、始めて食べる味だけど、美味しいと思うわ」
「と~っても美味しいですよ~。ユート様~」
「ほ、本当か?」
 二人の感想に、悠人は確認する様に言葉を漏らした。

「こんな事で、嘘を言ってどうするんですか…」
「うふふ~。でも、本当に美味しいですよ~。ユート様は~、お料理がお上手だったんですね~」
「いや、これ以外はそんなに得意ってわけじゃないんだけどな?でも、二人が美味しいって言ってくれると何か自信が付きそうだよ」
 照れる悠人の表情に、セリアとハリオンの表情が思わず緩んだものになった。
 本人は気付いているかどうかは知らないが、こんな時の悠人はとても無防備で幼い表情を浮かべて嬉しがるのだ。
 母性と言うものがスピリットにあるのかどうかは判らないが、あったとすれば恐らくこの様な感覚なのだろう。
 そんな思いを抱かせる表情であった。
「あれ?もう夕飯の準備出来てるの?」
「今までの如何なる料理にも該当しません…。初めて目にする料理です…」
「わわっ!?ユート様がエプロンを着ていらっしゃいます!?も、若しかして、今日の夕食はユート様がお作りになられたんですか!?」
「何?今日の夕飯はユートが作ったの?」
「こ、こら。ニム。ちゃんとユート『様』ってお呼びしなさいって言っているでしょう?」
 と、残りの第二詰所のメンバーが遅れて食堂に集まって来た。
 皆、訓練を終えて空腹なのか、大皿に盛られた料理に早くも関心が向けられている。
「あぁ。俺の世界の料理を作ってみたんだ。良かったら皆も食べてみてくれ」
 皆の皿を用意しながら、悠人が嬉しそうに給仕を始めた。
「そ、そんな。ユート様がそんな事なさらなくても…」
「分量の調節でしたら、お任せ下さい…」
「そ、そうですよ。後は私たちが自分でしますから、ユート様はゆっくりしていて下さいっ」
「ほら、ニム。お皿を並べるのを一緒に手伝いましょう?」
「メンドい…」
 俄かに沸き立つ食堂であったが、悠人は皆をやんわりと制した。
「何言ってるんだよ?今日はもう皆上がって仕事は終わりなんだろ?だったら俺も今は皆と同じ家族なんだから、これくらいの仕事はさせて貰っても罰は当たらないよ」

「まぁ、ユート様がそう仰るのでしたら…」
「うぅ…。何も言えなくなっちゃいます…」
「了解しました。それでは暫く待機します…」
「ま、ユートもここに来たからにはそれが当然だけど…」
「もう、ニムったら」
「はは、良いよファーレーン。それに、ニムみたいに考えてくれる方が俺には嬉しいからさ。サンキュ、ニム」
「う、五月蝿いっ…」
 ぷい、と横を向くニムントールであったが、耳が赤い事について悠人は黙って微笑んだ。
 個性豊かな大所帯の第二詰所であったか、誰もが優しくて温かかった。
 実は、第二詰所での生活に少し不安を抱いていた悠人であったが、今ではそんな事は杞憂なのだと思った。
 紛れも無い悠人の『家族』が、ここにちゃんと存在してくれているのだ。

「むぅ…」
「む~…」
 そして、そんな悠人を中心に盛り上がる食堂で、少し離れてむくれた視線を送る二人の視線があった。
「あら、どうしたの?二人とも」
「お料理が冷めちゃいますよ~?」
「う…ん…」
「そう、だけど…」
 セリアとハリオンが声を掛けるものの、ネリーとシアーはもごもごと歯切れの悪い言葉の返事をした。
 そんな二人の様子にセリアはやれやれとした、ハリオンは何処か嬉しそうな表情で眺めた。
(まぁ、これも仕様が無いと言えばそうなのかもしれないのだけれど…)
(あらあら~。私はお二人とも可愛くて~、良い事だと思いますよ~?)
「うぅ~…」
「にぅ~…」
 ナポリタンを絡めた肉叉を齧りながら唸る二人を、セリアとハリオンはそっと見守るのであった。

「う…ん…」
 部屋を照らす窓からの陽の光と、朝を謳歌する小鳥たちの囀りが悠人の意識を掬い上げた。
 瞼がゆっくりと開くと、漸く慣れてきた新しい天井が悠人の視界に映った。
 他の部屋より一回り大きい第二詰所の賓客室。それが、割り当てられた悠人の新しい自室であった。
「ん?」
 と、身を起こそうとした悠人は両腕に違和感を覚えた。
 一瞬、昨日の夕飯で給仕を張り切り過ぎて疲れが残っているのかと思ったが、直後にそうではないと判断した。
 何と言うか、疲れた云々以前に腕の感覚が痺れて無くなってしまっていたのだ。
「アレ?」
 天井を眺めながら、悠人は混乱した。
 横を向いて寝ていたのならば、下敷きになってしまった腕が痺れてしまっていても何ら不思議ではない。
 しかし、仰向けに寝ている今の悠人の両の腕が痺れてしまっているのは如何なる為か。
「くぅくぅ…」
「すぅすぅ…」
 布団に混じる別の温かさとその重さに導かれ、悠人は首だけを動かして見下ろした。
「………」
 悠人の両脇辺りに、布団を押し上げて寝息を漏らして上下する二つの小山がこんもりと出来ていた。
 成程。両腕が痺れていたのは、いつの間にか潜り込んで来ていた二人の所為か。
 と、それぞれの上腕に乗せられた青い頭を眺めながら悠人は思わず苦笑を漏らした。
「こら、二人とも。起きろって…」
「うん…?」
「んゅ…?」
 悠人が肩を揺らせて声を掛けると、反応したネリーとシアーが身を捩って唸った。
「あぅ…、ユートさま…?」
「う~…、ユートさま~…?」
 目に映るものの判別が付くくらいには覚醒したのか、二人は確認する様に悠人の名前を呟いた。
「あぁ、俺だよ。それよりも、腕が痺れて動けないから二人ともちょっと退い――、うわっ!?」
「ユートさま~♪」
「さま~♪」
 目に映るものの判別が付くくらいしか覚醒していなかった二人が、ぽわぽわと寝惚けた状態で左右から悠人の体を這い上がってきたのであった。

 緩慢な動きの二人であったが、生憎と両腕の痺れている悠人には逃れる手立ては無かった。
 やがて二人は悠人の首に齧り付くと、まるで匂い付けをするかの様にスリスリと頬擦りを始めた。
「んふふふ~♪ユートさまのにおいがする~♪」
「いいにおい~♪」
 悠人の耳元で聞こえてくる程に大きく息を吸い込み、二人は恥ずかし気も無く悠人の匂いを楽しみ始めた。
「~~っ…!!」
 一方の悠人も、二人から漂う寝汗の混じった体臭や、寝巻き越しに伝わってくる柔らかな感触にかなり悶絶させられていた。
 血が昇ると言うか、集まると言うか…。双子に感付かれない様、悠人はそっと膝を立てるのであった。
「んむぅっ!?」
「えへへへへ~♪」
「ぎゅうぅ~っ♪」
 悠人の匂いに中てられたのか、二人は更に這い上がってそのちくちくとした頭を胸に抱き込んできた。
 それだけではない、何と二人はまだ痺れている腕を股に挟むとまるで全身で悠人の感触を味わう様にぐりぐりと押し付けてきたのであった。
 頬に感じる慎ましさやら、腕に感じるその形やら…。血が集まり過ぎると痛みを覚えるのだと、悠人は知った。
(って、落ち着け…!!二人は寝惚けているだけなんだ…!!)
 自分に言い聞かせ、悠人は声を掛けようとして二人の胸から顔を上げた。
「んゃうっ!?」
「ふゃぁっ!?」
 悠人の動きに合わせて、二人が大きく身を強張らせた。
「あ、あれ…?」
「ゆ、ユート様…?」
 驚いた表情の二人が、腕の中の悠人と目が合った。
「えっと、お、お早う…。二人とも…」
「お、お早う…。ユート様…」
「お、お早う~…」
 割と緊急事態に陥っている悠人に対して、何故か腰を引かせた二人の気拙そうな挨拶であった。
「お、おおお、お早うございますっ!!ユート様っ!!今日は、わ、私が起こしに参りまし――た…?」
 そして、そんなベッドの上の三人を見て、起こしに来たヘリオンの表情が凍り付いた。
「し、しし、失礼しました~っ!!」
 何故か赤面し、疾風の如き素早さで走り去るヘリオン。その妙に重苦しくも清々しい朝の雰囲気の中で、部屋の隅に立て掛けられた『求め』が人知れずに妖しく輝きを放っていた。

 ぬちゃ、ぬちゃ、と粘り付く水音が響いていた。
 踏み伏せられた幼い体躯がはしたなく両足を開けさせられ、その中心の雪の様な白い肉の丘に荒ぶった悠人の剛直が突き立てられていた。
『ユート様ぁ…。気持ち良いよぅ…』
 長く蒼い髪を背中に広げ、見上げてくる瞳がもっともっと、と切なそうに訴えていた。
 その浅ましいおねだりに応じて挿出を激しくすると、途端に肉の悦びが戦慄いた。
『ひゃあぅんっ!?あっ、あぅっ、い、良いよぅ…』
 ずりゅ、ずりゅっ、と粘膜が擦れ合う度に焼ける様な快感が腰から広がっていった。
 引き擦り込まれる様に無数の襞が吸い付き、まるで生き物の様に絡み付いてきた。
 腰を掴み、猛った逸物で奥まで一気に突き通すと、みっちりと咥え込まれた肉の隙間から白く濁った粘液がぐじゅっ、と泡を立てて逆流してきた。
『ひゃあぁぁあぁっ!?』
 びくびく、と全身が震え、それに合わせて中の蠕動がきゅうきゅうと断続的に締まった。
 奥からじわりと、更に熱い露が零れてきた。
『あは、は…。ユートさまぁ…』
 法悦の表情を浮かべ、無意識にか、それでも更に快楽を求め様とくい、くいと腰が悠人を咥えて誘っていた。
 繋がっている秘所は、混ざり合った互いの体液で溢れ返り、シーツには尻と膝を伝って垂れて出来た大きな染みが強烈な性臭を撒き散らせていた。
『ユートさまぁ…。もっと、もっといっぱい…』
 手を伸ばし、蕩けた表情で求めてくる。
 望み通り、まだ十分な硬度を保ったモノで悠人は挿出を再開した。
『ひ、あ、あ…。だ、抱っこ…。抱っこして…、ぎゅう~って…して…』
 強く絡み付いてきた四肢に応じる様に抱き返すと、肩に乗せられた顎から『うふぅ…』と、熱っぽい吐息が首筋に掛かってきた。

 密着した薄い胸からは、桜色の硬いしこりと小さな体には不釣合いな程の大きな鼓動が感じ取れた。
 少し離れて見つめ合うと、いつもの得意そうな表情ではない、牝の色を帯びた蟲惑的な表情がそこにあった。
 はぁ、はぁ、と獣の様な荒い息遣いが悠人の顔に掛かる。
『あ、あ…。や…、だ、ダメ…。あぅ、あ…』
 容赦無く中を掻き回す動きに腕の中で小さな体が跳ね、その細い喉から我慢出来ずに甘い嬌声が漏れ出した。
 やがて、その声に切実な響きが混じり始め、二人の腰使いにも余裕の無いあからさまな卑猥な動きになる。
 しがみ付いてくる小さな体が、絶対に離さないと組み付いてきた。
『ユートさま、ユートさま、ユートさま…』
 譫言の様に、ひたすらに繰り返されるその言葉を聞く度に悠人の脳髄が甘く痺れた。
 責めながら、絹よりも滑らかな髪を撫でてやると、見上げてくる瞳がふにゃりと綻んだ。
『あ、あ、あ、あっ…』
 迫る限界が近いのか、声のトーンが高くなった。
 悠人も中の激しい肉のうねりや、根元まで呑み込まれる張りのある肉厚な丘のフニフニとした感触にじわじわと疼痛を覚え始めていた。
『んあぁぁあぁぁ~っ!!』
『くぅっ…!!』
 絶頂と同時に、中の粘膜が悠人に襲い掛かった。
 扱かれ、吸い上げられるその感覚に耐え切れず、悠人は堪らず滾った精を迸らせた。
『あぁ…。ユートさまのが出てる…』
 胎内に広がる熱さを、悠人が満足してくれた証であると、そして自分へのご褒美であると言う様な恍惚とした表情であった。
『ユート様…。大好き…』
 幸せそうに、ネリーが呟いた。

『はあぁぁぁ…。ユートさまぁ…』
 形の良い眉を悩まし気に寄せ、大きな瞳がトロンと悠人を見上げていた。
『ユートさまのが、いっぱいだよぅ…』
 くちゃ、くちゃと腰を揺らす度に、胡坐を掻いた悠人の膝で串刺しになった部分から粗相でもしたかの様な大量の粘液が漏れていた。
 白磁の如き肌は桜色に染まり、汗ばんでしっとりと吸い付いてきた。
 未熟さが残るものの、膨らみ始めた胸や腰回りからは牡を誘う牝の色香が漂わせている。
 薄いが、それでも柔らかく張りのある尻を掴んで突き上げると、ごり、と先端が最奥の壁に当たった。
『ふやぁあぁっ!?ふ、深いよぅ…』
 啜り泣く声を上げながらも、快楽を感じる腰は貪欲に悠人に押し付けられていた。
 茹でられた卵の様な、今にも弾けそうな盛り上がったプニプニとした肉の扉が、むっちりと悠人を根元まで挟み込んでいた。
 手を滑り込ませ、指でその扉をめち、と開くと、限界まで広がった入り口とその上の膨れた突起の鮮やかな朱色が粘液に塗れてぬらぬらと光っていた。
『やぁん!!い、いきなりはダメだよぅ…』
 与えられた刺激が強過ぎたのか、びくん、と大きく身を震わせると拗ねた様な表情を浮かべてきた。
 今度は指の腹で、突起を包皮の上からそっと撫で上げると、それに合わせて中の動きがきゅっ、きゅっ、と締まる。

『はぁ、はぁ…。んっ…、そうだよぉ…。お豆さんは、んっ、とっても感じるから、優しくして…。はぅん…』
 その儘手を離して弄るのを止めると、今度は悠人の腹部に押し付ける様に腰を擦り付け始めてきた。
 滴る涎で、悠人の下半身は忽ち汚された。
『ん……。ちゅっ…。むぅ…』
 互いの息が掛かる程に見つめ合うと、どちらとも無く唇が重ねられた。
 絡み合う舌が口腔で激しく暴れ、ぴちゃ、ぴちゃ、とはしたない音を立てた。
 擦れ合う知覚器官が食欲にも似た性感を齎し、零れた涎が二人の顎を伝っていった。
『ぷ、はぁ…。はぁ、はぁ…。ユートさまの味ぃ…』
 口から伝う糸を切り、啜った口の中のものを嚥下するとうっとりとした面持ちでそう呟いた。
『うむぅっ!?むぅっ!?』
 その口を強引に塞ぐと、今度は下の口を遠慮無しに荒々しく小突き始めた。
『ひむっ!?むぁっ!?んふぅっ!?』
 逃げようとする体を抑え込み、絶頂の痙攣にも構わずに我武者羅にその欲望で蹂躙していった。
 じゅぶじゅぶと、掻き出された粘液が泡立って垂れ、二人の膝をベタベタと粘つかせた。
『ぷぁっ!!ユートさま、ユートさま…!!もっと、もっとだよぉ…!!』
 喘ぎ声に急かされる様に、互いに激しく腰を打ち付けあった。
 ぱん、ぱん、と肉の音が粘液を散らせて響き渡る。
 一突き毎に駆け上ってくる愉悦が、悠人の理性を削り取っていった。
『あ、あ…!!くる、くるよぅ…!!ユートさま!!ユートさまぁ~っ!!』
 遂に奔流が決壊し、ぎちぎち、と痛い程に悠人を締め付けた。
『はぁぅんっ!?出てる、ユート様のがいっぱい出てるよぅ…!!』
 ドロドロに熔けた悠人の獣欲が子宮にぶちまけられるのを感じ、肉体的にも精神的にも最大のオルガスムスが駆け抜けていった。
『えへへ…。もっといっぱいエッチして欲しいな…。ユート様…』
 悠人の胸に倒れながら、シアーが目を細めて甘えてきた。

「はぁ…」
 汚れた下着を洗いながら、悠人は大きな溜息を吐いた。
 第二詰所に移って来て三週間(15日)程経ったが、ここ最近は何故か淫夢を見る事が多くなっていた。
 悠人とて健康な年頃の男であるので、性欲を持つ事も持て余す事も別段珍しい事でも無い。
 発散しなければ、そんな結果が訪れてしまっても仕方の無い事であった。
 しかし、それが特定の人物たちの淫夢であれば、それは一体何の意味があるのだろうか。
 ネリーとシアー。
 この二人が夢に出てきた時は、必ずと言って良い程にまぐわり合う夢を見ていた。
 最初は普通に夢を見ていた悠人であったが、先々週のナポリタンを皆に振舞って以来、急に彼女たちの淫夢を見る様になってしまっていた。
(それが契約者の『求め』ではないのか?)
 悠人の頭の中に、諭す様な『求め』の声が響いてきた。
「ふざけるなよ。バカ剣。どうせお前が見せている夢なんだろうが…!!」
 悠人の言葉に、『求め』から肯定とも取れる笑いの気配が伝わってきた。
(その割には、契約者も随分と満足している様だが…?)
「くっ…!!」
 悠人の顔が、耳迄赤く染まった。
 朝一番で、まだ誰も居ない洗い場で下着を洗わねばならない今の状況が、悠人の羞恥心を更に煽った。
(犯せば良かろう…。あの妖精たちも、契約者の事を憎からず思っている様だ…)
「また、あの二人に何かしようって言うのか…?」
 凍て付いた声で、悠人は呟いた。
(ふっ、何かするのは契約者ではないのか…?)
「何だと…?」
 いつぞやの、激しい怒りが悠人の中で首を擡げ始めた。
 だが、その気配を気にするでも無く、寧ろ挑発する様に『求め』は悠人に囁き始めた。
(汝もあの妖精たちに惹かれているのだろう…。ならば、何を躊躇う事があるのだ…?)
「はっ!!だから、俺にあんな夢を見させて二人を襲わせようってか?そんな事、誰も『求め』ちゃいないぜ?」
(クハハハハハッ…!!)
 皮肉を込めた悠人の台詞に対し、返ってきたのは『求め』からの哄笑であった。

(我は確かに汝の『求め』を聞いた。あの妖精たちを悲しませたくないのであろう…?)
「あぁ、バカ剣が見せたくだらない夢みたいに、俺の欲望で傷つけたりはな…!!」
(契約者よ…。汝はそう思っているかもしれぬが、あの妖精たちも同じとは思わぬ事だ…。我は『求め』…。純粋なる『求め』に応じ、代償によってその願望を実現させる存在…)
 その言葉に、今度は悠人が笑い返した。
「あの二人が、俺にあんな夢をみたいな事を望んでいるって?それこそ有り得ないだろ?焼きが回ったんじゃないのか?バカ剣」
 仔犬の様に懐いてくる二人が、夢の中の様な痴態を晒す事など妄想も甚だしかった。
 血は繋がっていなくとも、二人はもう悠人にとって大切な家族なのだ。
 義妹の佳織に恋愛感情や劣情を抱かないのと同様に、二人に対してもそんな感情を持つなど考えもしなかった。
「良いか?バカ剣。二人は俺の妹みたいなモンで、俺は二人のお兄ちゃんなんだよ。だから、そんな間違いは起きないし、俺が起こさせない」
 二人を悲しませたくないと誓った悠人が、二人を傷付けられる筈が無かった。
「頭を撫でたり、抱き締めた事も有ったけど、それは守るべき仲間で大切な家族だからやったんだ。俺の欲望なんかで汚しちゃ駄目なんだよ」
 洗い終わった下着を絞ると、悠人は他の洗濯物と一緒に洗濯紐に吊るし始めた。
 『求め』から何故か呆れた様な気配が伝わってきたが、これ以上は何も言う気が無いと感じた悠人は黙って部屋へと戻って行った。

 悠人が去った後、別の出入り口から洗濯籠を抱えた二人の人影が現れた。
「参ったわね…」
「まぁまぁ~。ユート様だってお年頃なんですから~、仕方が無いじゃないですか~」
 ハリオンのあんまりな言い方に、セリアが思わず気を抜かれた。
「ハリオン?えっと、今のユート様の言葉をちゃんと聞いていたのかしら?」
「はい~。『求め』の所為で~、ユート様がムラムラきちゃうんですよね~?」
「ムラムラって…。それは、まぁ…、そうなんでしょうけど…」
 実際には、ラキオスの命運が懸かった重大な事態なのだが、ハリオンにしてみればその程度の事なのかもしれない。

 しかし、性格的にハリオンの様に楽観出来るセリアではない。
 ないのだが、
「まぁまぁ~。ユート様でしたら~、きっと大丈夫だと私は思いますよ~」
 ずい、と笑顔のハリオンがセリアに迫ってきた。
「で、でも…。一応、上に報告して、何かしらの対策を立てておいた方が…」
「セリアは~、ユート様の事を信じていないんですか~?」
「そ、そう言うわけじゃないけど…」
 さも心外だと言う表情で覗き込んでくるハリオンに、セリアも思わず曖昧な態度で返してしまった。
「それじゃあ~、この事は私とセリアだけの秘密ですね~」
「そ、それは…」
「ね~?」
 ニコニコと笑顔を崩さないハリオンに、セリアは降参とばかりに溜息を吐いた。
「解ったわ…。ユート様を信じましょう、ハリオン…」
「有難うございます~。セリア~」
 胸の前で指を組み、ハリオンはセリアに満面の笑みを浮かべた。
 それを見たセリアも、内に湧いていた己の安堵に気付いて少しだけ頬を緩めた。
 頭ではそれが希望的な判断であると理解していたが、本当は何よりも信じたかったのだ。
 悠人の強さと優しさを…。
「それに~、ユート様でしたら襲われても嬉しい気もしますし~」
 ハリオンのトンでもない台詞に、洗い場に向かおうとしていたセリアは盛大に籠を落とした。
「ち、ちょっとハリオン!?」
「だって~、私たち緑スピリットは皆さんを回復する時にはマナを使うんですよ~?それならユート様にマナを吸われちゃうのもあんまり変わりませんよね~?」
「貴女、何を言っているの!?」
「ですから~、ユート様にマナを吸われる時の話ですよ~。どうせ疲れちゃうんでしたら~、気持ちが良い方が良いですよね~?」
 頬を染めるハリオンであったが、潔癖の気があるセリアには素で答える余裕など無かった。
「し、知らないわ!!そんなの…!!」
「あらあら~?半分くらいは冗談でしたのに~」
「半分は本気なのね…?」
「はい~。ユート様が~、私を選んで下さればですけどね~」

 悠人が選ぶ。
 神剣に操られているのではなく、自分の意思で、男として。
 それならば、確かに納得がいくのかもしれない。
 たとえ如何なる結果になったとしても。
 と、セリアは思い至った。
「本当、参ったわね…」
 セリアは米噛みを押さえて唸った。
 口伝に拠れば、『求め』は破壊とマナ、そしてスピリットの身体を欲していると言われている。
 破壊とマナについては、スピリットたれば神剣の欲求として理解出来た。
 では、身体を求めるとはどんな意味がそこにあるのか。
 それは恐らく、スピリットとエトランジェの身体の構造に起因するのであろう。
 必要に応じて周囲のマナを吸収して体内でエーテルに変化させる両者の身体は、いわば天然のマナ収束装置であり、精製装置でもあった。
 そして、身体に蓄えられたマナを吸収するには二通りの方法が存在していた。
 一つはマナと詰まった器ごと神剣で破壊して吸収するやり方。
 そしてもう一つが、両者の肉体を繋げ、そこから流れ込んでくるマナを得るやり方であった。
 前者は危険を伴うものの、破壊衝動を満たして簡便にマナを得る事が出来、後者は手間さえ掛かるものの、良質のマナを持続的に得る事が可能であった。
 恐らく、『求め』が悠人に要求してきたのは後者の筈である。
 そして、それがどの様な行為を以って行われるか、当然悠人は知ってしまっているだろう。
 だが、その行為が神剣の意思では無い純粋なものであっても、悠人は警戒して拒絶してしまうかもしれない。
 大事に思うが故に、悠人は距離を置いて離れるに違い無かった。
 二人の前途を思い、セリアは再び大きな溜息を吐くのであった。