『失望』の道行

第五幕後編

血と雨に濡れた服に殊更ゆっくりと手をかけて、頭から抜くように脱いでいく。
新しい部屋着は隣の棚に用意しているが、それでも脱いだ物を丁寧に折りたたみ、籠の中に入れる。
腿まである靴下の肌に張り付く感触に軽く不快を表しながら、両手で少しずつ剥がすように外していく。
これも、たたんだ後に服の下に入れた。
一枚一枚、体を包んでいた布が無くなる度に、頭に血が上って上手く手が動かなくなってしまう。
肌着を脱ぐのに時間がかかることなど初めてだ。いつものように手早く折る事も出来ずに、
形が崩れ気味のまま、さらに籠の奥へと滑り込ませた。
下着姿になった自身を顧みて、早鐘をうつ心臓を必死に落ち着けようとする。
一つ大きく深呼吸して、下着の端に指をかけて下ろしながら、身をかがませて片足ずつ抜き取った。
焦りでたたむ事も出来ないまま、小さく丸めて籠の底に突っ込んでしまった。
髪を纏めるリボンはそのままに、震える手でバスタオルを掴んでゆっくりと体に巻く。
そうすると少しだけ気持ちが落ち着いてくれた。
脱いだ服の逆隣の棚にあるもう一人分の濡れた衣服に目をやって
小さく息を飲み、ヘリオンは浴場へと続く戸に向かって歩を進めた。


脱衣所に向かう戸の奥で人影が揺れる。
体の部分の影が白から肌色、そしてまた白へと変化していくのを
悠人は鼓動を激しくさせながらちらちらと見やる。
そもそも、どのようにしてこの状況が出来上がったのか。
エーテルジャンプ施設から二人がラキオスに帰還した時、詰所は両方がもぬけの殻だった。
血に汚れたままレスティーナに謁見するわけにも行かずに、帰還の報告を兵に伝えた所、
リレルラエルの防衛に関しても一応の決着がつき、ソーマ隊との連絡が途絶えたと思しきタイミングで
帝国の部隊は撤退を開始したという光陰たちからの報告があったと伝えられた。
だが、光陰達の部隊は大事をとってもう暫くはリエルラエルに駐留すると言い、
再び伝令役を受け持っていたスピリット――特徴を聞く限りはハリオンらしい――は引き返したという。
そして傷や疲れの具合を見てのことだろう、自分たちが正式に報告に上がるのは明日と言う事になった。
帰ったままの状態でとりあえずの報告を終え、詰所に戻った時に二人して雨に濡れたことからくる寒気が走った。
(そこで、というか何というか。結局一緒に入りたかっただけなんだよなぁ)
『あ、あのぅ、それじゃ、わたしたちの他には、今晩は誰も居てないって事なんですよねっ』
耳まで赤くして、もじもじしているヘリオンを見ている内に、
帰還する前のやり取りが急速に現実味を帯びてくるのを実感するに至り
何時の間にか乾いていた唇を湿して、一大決心とともに自らの要求を切り出したところ、
『き、着替え』
と俯いて一言呟いた直後に気合の入った目で悠人を見返して、、
『着替えを取ってきますからっ、ユートさまは、さ、先に入っててくださいっ』
脱兎の如く走り去ってしまったのだ。
(そのまま言葉どおりに待ってたわけだけど、やっぱりバスタオルは巻くよなあ……)
小さく溜め息をついて、自分も湯船の中にタオルを浸けて股に巻きつけなおして、
脚を曲げて座り込んでいるところに、カラカラと音を立てて戸が開かれる。
影で予想できていた通り、裸身にバスタオルを巻いただけの立ち姿。
だと言うのに、その布とは異なる剥き出しの肩と脚の艶かしい白さに言葉を忘れてしまう。


バスタオルの繋ぎ目に手を当てて、静かに湯船に近づいてくる。
その顔は、まだ湯にも浸かっていないのにのぼせた様に上気していた。
膝をつき、湯船から汲み取った湯で二、三度かけ湯をしてもう一度立ち上がる。
ちゃぷ、と音を立てて湯船に足を入れ隣に腰をおろすと、少しだけ肩が触れる。
顔の火照りとは逆に、その肩は雨で冷えていた。
その冷たさに呆けていた意識が戻ってくる。すると耳に声が届いた。
「……トさま、あの、何もお答えにならないでじっと見られちゃうと……」
「え、今まで、何か言ってたのか、ヘリオン」
俯いて、呟き気味に聞こえてくるその声に、湯船に浸かっていた悠人が慌てて言葉を返した。
ヘリオンの言葉どおりに、自分の視線は既にヘリオンの体を凝視しているように向けられている。
「お湯を汲むときと、ここに座る時に声をかけたのに黙って頷かれるだけでしたよ、ユートさま」
「うわ、ごめん。全然声をかけられた覚えが無い。あと、そんなにじっと見てたのか、俺」
「は、はい……わたしが入ってきたときからずーっと」
水面に目をやったまま不満げに口を尖らせるヘリオンを改めて見やり、悠人はさらに落ち着きを無くした。
身を振り手を振り、水面を揺らして腰を浮かせる。
「いや、これは、やっぱり心構えをしてても驚いたっていうか、
その、思わず、み……見惚れてたっていうか、気を、悪くしたんなら謝る」
「み、見とれて……?」
ちら、と上目使いでヘリオンが悠人を見た瞬間、悠人の動きが止まる。
その目に映るものは紅潮したヘリオンの顔と、細い肩。
その角度と目つきで照れられるというのは、非常に耐えがたいものがある。
再び声を失い、かくかくと首を縦に振る悠人の横で、ヘリオンは頬を緩めて横座りに姿勢を直す。
「ほら、ユートさま。きちんとお湯に浸からないとあったまりませんよ」
悠人の腕を引き、もう一度隣に座るように促して、ちゃぷりと湯を揺らして肩を寄せて目を閉じた。
積極的な様子に胸を高鳴らせて悠人も静かにヘリオンに肩を預けると、彼女は口元に笑みを浮かべて頭を預けた。
心地の良い重さにいとおしさを覚え、悠人は頬を緩めて視線をやって、直後に目を見開いた。


座高の差から、悠人はヘリオンを見下ろす形になるのだが、
(う、薄い思ってたけど、この角度だと……)
ほんの僅かにバスタオルを押し上げているふくらみが、正面から見るよりははっきりと判別できる。
注意された端からじろじろと見るわけにもいかないと悠人は目を逸らそうと努めたが、一度目に入った光景に
心が奪われてちらちらと視線をやってしまう。肩にあたる肌の柔らかさから胸元の感触にまで想像が及んで
悠人はゴクリと唾を飲み込んだ。
「ふぇ?」
その音は悠人が思うよりも大きく響き、肩の感触に安心して頭を預けていたヘリオンがぱっと顔をあげて悠人を見る。
正面から合わされたその目は悠人の焦点がどこに向けられているかを詳細に読み取った。
瞬時に慌てふためき、ぶしつけな目で眺めたことを謝ろうとする悠人に対し、
ヘリオンはのろのろと身を引いて自らの胸元に震える手をやり、
「ゆ、ユートさま、やっぱり、バスタオル、付けない方がよかったですか……?」
紅潮した顔を隠しもせずに悠人を上目使いで見たまま、繋ぎ目に指をかけた。
完全に予想外の行動にさらに動揺して、悠人はざばざばとヘリオンに近づきながら手を振る。
「な、ななな、まっ、待って、しなくていい、ヘリオンが恥ずかしいから付けてたんだろ、
だったら、外さなくって良いから、じろじろ見てた俺が悪いんだから、無理に外す事無い!」
「わたしなら、その、ユートさまにひっついてたら慣れてきましたからだいじょうぶ、です」
「え、いや、でも、なんと言うか、俺のほうが、心の準備が出来てないっていうか」
自分でも情けないと思いながらも全く動揺を抑える事が出来ない。
その落ち着きを無くした様子にヘリオンは目元に微かに悪戯っぽい光をともすと、
バスタオルから手を外して膝に置いた。それに気付かなかった悠人がほっと腰をおろしたのもつかの間。
「わかりました。それじゃあ、ユートさまの心の準備ができるまで、お背中お流ししますね。
あ、もちろんバスタオルはつけたままですから心配いらないです」
にこりと微笑みを浮かべて悠人の横に回りこみ腕を掴んだ。


「え、ええっ」
そのまま悠人と一緒に立ち上がるヘリオンに逆らう事もできず、かろうじてタオルを股間から外れないようにすると、
悠人は腕を引かれるままに用意された椅子に腰を下ろす事となってしまった。
この雰囲気は以前にも体験した事がある。
今となっては忘れられもしないヘリオンとこんな風になる原因の出来事だ。
その時も、今のようにヘリオンに押され気味のまま色々と恥ずかしい目をしたが、
今回は自分から求めたのだから、同じ様にヘリオンにされるがままというのは情けなさ過ぎる。
背後で楽しげに石鹸を泡立てているヘリオンの気配をひしひしと感じて、悠人は流されるまいと気合を入れた。
「ユートさま、それじゃいきますねっ」
「ああ、頼む」
背中を流されるのは、あまりいい思い出では無いけれど初めてではない。
わしゃわしゃとした固めのスポンジの感触を予感して、悠人が背中に少し力を入れた瞬間、
ぬるり。
背筋を這い登るくすぐったさに思い切り身をよじらせてしまった。
「ぅわわっ」
「あ、動いちゃダメですよぅユートさま」
「い、いま、一体何で擦ったんだよ!」
「え、手ですけど。だって、ちゃんと治療してないのに固いスポンジで擦ったら痛いじゃないですか。
それとも、気持ちよくなかったですか?」
もし振り返れば、実に楽しそうに笑みを浮かべているヘリオンの顔が映っただろう。
急に訪れた快感に慌てて紅潮していなければすぐさまそうしただろうが、
悠人はヘリオンに返す言葉を考えて俯いてしまった。
確かに、戦闘でついた傷は神剣の力で塞いだだけだがそこまでする事があるだろうか。けれども、感触は確かに。
「いや、気持ちはよかったけど……じゃなくてっ、だからって、いきなりはびっくりするじゃないかっ」
「ふふっ、びっくりしただけなら良いじゃないですか。気持ちよかったんならこのまま手で洗いますね」
「な、ちょ、ちょっとま……!」
ぬめぬめと、上から下にヘリオンの柔らかい手が背をすべっていくのを感じて、悠人は息を呑んだ。
ただ擦るだけではなく、丹念にもみほぐすように微妙に力加減を変えて手を動かしている。
その気持ちよさにどんどん身体の力が抜けてしまって、声を上げてしまう事だけは必死に耐えたのだが、
代わりに呼吸は切れ切れに震え出してしまう。


「こうして擦ると、見てるだけよりずっと大きいです、ユートさまの背中」
ヘリオンの吐息が、ほぐされて敏感になった背筋にほう、とかけられた。
「……っ」
悠人が自らに降りかかった快楽に反応を起こしかける下半身をタオルで押さえつけているのにも構わずに、
「あ、背中に手を当てても分かるくらいどきどきしてますよぅ」
などとヘリオンは一度洗い終わったはずの所にも何度も手を這わせている。
その手が撫で回すのは、全て悠人が敏感に反応した所。弱点を的確に責められて悠人の思考は白く染まっていく。
「ヘリオン。もう、もういいから。背中は、全部洗い終わった、だろ。だからもう、終わって、いいっ」
振り向きながら息も絶え絶えに悠人が告げると、蕩けるような笑みを浮かべて、
ヘリオンは静かに背後から悠人の両肩に手を置いて、その背中に身体を押し付けて耳元で囁いた。
もう一つ伝わる、より大きな振動とともに悠人の鼓膜を震わせる。
「ユートさま、それじゃあ心の準備、できましたか?」
「え……なん、だって……」
「準備ができるまでお背中をお流しするって言いましたよね?
ですから、それまでずーっと背中を洗うつもりです。さあ、どうなんですか、ユートさま」
唇で耳たぶをくすぐって今度は肩に手を這わせ始める。
これ以上撫で回されてはたまらないと、悠人はそそくさと押し付けられていた身体を離した。
「できた、準備できたから、だから背中はおわりっ」
そこまで喋って、はっとその言葉の意味に思いが及んだ。
慌ててヘリオンのほうを向くと、ごく近くでぺたんと床に腰を下ろしたまま艶やかに口元を緩めている。
「はい、それならユートさまもだいじょうぶ、ですね。さあ、どうぞ……」
とバスタオルの繋ぎ目を悠人に向けて突き出すように身体を差し出している。
悠人は背中をほぐされた事によって、動転と緊張だけはどこかに消えてしまっていることに気がついた。
色々といい様にされたのではという羞恥は残っていたが、確かに心の準備とやらは整っているようだ。
すう、と自身を落ち着けるように呼吸をすると、ヘリオンの様子が目に入る。


上気した頬と潤んだ瞳、艶然とした表情に引き寄せられるように近づき、悠人はそっとヘリオンの肩に手をかける。
動揺のない真っ直ぐな瞳でヘリオンを見つめてそっと繋ぎ目に手をあてようと肌に沿って滑らせた。
「……んっ」
その瞬間のヘリオンの表情の変化が目に付いて、静かにその手を背に回し、中心に置いた。
「あ、あの、外さないん、ですか?」
「いや、ちょっと……あぁ、やっぱり、ヘリオンだってむちゃくちゃどきどきしてるじゃないか」
悠人がバスタオル越しに激しい鼓動が感じられる事を指摘すると、
ヘリオンは余裕を見せていた表情から一転、急に落ち着きを無くし真っ赤になってしまった。
「あ、え、そんな」
「さっき背中に身体をあててた時にもう一つ心臓の音が聞こえてきてさ、
聞くけど、ヘリオンはほんとに準備、できてるのか?」
「で、できてますよ、そんなのっ。ぱあっと、外しちゃってかまいませんっ」
そういうヘリオンの表情は、悠人の緊張が無くなった事で魔法が解けたようにカチカチになってしまっていた。
悠人が試すように繋ぎ目に指をかけると、びくっと身体を震わせてしまう。
「あ、あれ、さっきまで、だいじょうぶだったのに、どうして」
涙目になって緊張に震えるヘリオンを見ている内に、
悠人は心の中に可愛らしいと思う気持ちが湧いてくるのを止められなくなっていた。
「うん、じゃあ今度は俺の番だな」
「え……?」
「ヘリオンの心の準備ができるまで、今度は俺が色々する番。
バスタオルが外せないから背中を洗うってのは無理だけど、ま、何とかする」
「え、ゆ、ユートさまが?」
優しく微笑んで頷き、悠人はさらさらと呆としているヘリオンの頭を撫で回す。
「ひゃう」
「あれ、気持ちよくなかったか?」
「な、そ、そんなこと言うなんてずるいですよぅ」
「さっき言われた事だからなぁ、俺だってこれくらい恥ずかしかったんだ。で、どう?」
「うぅ……きもち、いいです」
撫でさする内にヘリオンの身体から徐々に力が抜けて表情も緩くなっていく。


悠人はもう片方の手でヘリオンの頬に手を添えて、おでこに軽く口付ける。
ふるふると震える目元から、頬へと順に唇を滑らせてヘリオンの様子をうかがい、
目を合わせて確認をとってから、一瞬だけ唇を合わせる。
続けざまについばむ様に何度も口付けを繰り返すうちにだんだんと瞳に熱を込めて、
細かく息をつくヘリオンの唇を最後にもう一度奪う。
「準備、できたか?」
自身の身体をそっと見下ろして、ヘリオンはこくりと頷いた。
もう一度悠人がバスタオルのつなぎ目に指をかけて、ヘリオンに微笑みかけながら静かに外す。
水を含んでいるためにそれだけでは身体から離れずぺろんとめくり上げると、
小柄な身体に巻かれていたためにその奥にもまだタオルがあまっていて、
もう片方の手で逆方向にめくってようやくその身体が露わになった。
「あ、あんまり、あの時から変わってなくって恥ずかしいですけど……」
「そんなの気にしないから大丈夫だよ。それに、あれからずっときれいなままだ」
自分の背後にバスタオルを置いて、悠人は顔を紅潮させて俯いているヘリオンの肩を掴んで寄せ、軽くおでこに唇を寄せる。
悠人は顔を離した時に、ヘリオンがぺたんと座って大事な所を手で隠しながら送る視線を感じた。
「あの、ユートさまもできたらタオル、外してほしい、です」
「あ、ああ、そうだな。でないと、不公平だもんなっ」
とりあえず横を向いて隠しながら股間のタオルを取り去る。
だというのに、ヘリオンはちらちらとその様子を覗き込んで、悠人が身体の向きを直したときには
あぐらをかいて腕で隠されていた股間のモノを視界に納めて頬を染めていた。
「まだ、あんまりじろじろ見られるのも、見るのも恥ずかしいんじゃないか、お互い」
「は、はい、わたしも、もうちょっと時間がかかりそうです……あ、じゃあ」
とヘリオンは膝で立って、悠人の隣に這い寄った。その手には、石鹸。
「先に、別の所を洗っちゃいましょう。そしたら慣れてきてると思いますから」
照れながら微笑みつつ、またその手に泡をためこみ始める。悠人はそれを見て顔を引きつらせた。


「待ってくれヘリオンっ、ひょっとしてまた俺の身体を洗うって言うのか!?
いや、いいっ。今度は自分で洗うからっ」
「ダメですよぅ、ユートさまには……わたしを洗ってもらうんですから」
「な、お、俺が!?」
「はい、この石鹸、使ってください」
にゅるん、とヘリオンから泡塗れの石鹸が手渡される。
ヘリオンの顔をうかがうと有無を言わせぬ勢いで微笑んでいる。
そっと視線を動かして、ヘリオンの身体に焦点を合わせる。滑らかな白い肌に華奢な体つき。
露わになった桜色の胸の先端が目に入り、悠人は息を飲み込んだ。
同じ様に手の中で石鹸を転がして両手が泡に包まれた頃に、
ヘリオンが正面に陣取って座ってできるだけ視線を下に向けないように悠人の顔を見つめた。
「それじゃ、せーの、でいきましょう」
「あ、ああ……」
その紅潮した顔を見つめ返して、同時に手を互いの胸元に滑らせた。
「ふわ……」
「……っく」
触れた瞬間、互いの手に鼓動が伝わって同じ様に声を上げた。
鎖骨に手を滑らせてにゅるにゅると石鹸を塗りたくる大き目の手と、
胸板の筋肉の強張りを丁寧にもみほぐしながら泡を広げる小柄な手が互いの身体を求める。
「次は……?」
「く、首から、肩にしましょう」
身体にはあまり視線をやらずにあくまでも視線を絡めあったまま手を動かす。
「ヘリオン、右腕だして」
「あ、や、わきはくすぐった……ひぁ、ならユートさまも、右の手、かしてください」
泡が塗りたくられる面積に比して、呼吸はあらく、腕の動きも大胆に変わっていく。
思考もだんだんと熱を帯び、考えられるのは互いの体を求める事だけ。
目の前にあるヘリオンの顔に口付けを降らし、悠人はヘリオンを抱きすくめた。


急な体勢の変化に驚いている間に、両腕に広がったぬめりでヘリオンの背中全体を愛撫する。
悠人に引き寄せられて前傾姿勢をとったヘリオンの手が悠人の膝に置かれた。
ひとしきり足の方に手をやった後に、つつぅ、と緩やかにその手が悠人の内腿を滑る。
その中心に手がかかった瞬間びくりと背中を撫でていた手が震えるのを感じながらも、ヘリオンは目を見開く。
「わ、あ……」
ほう、とため息をついて、こくりと喉を鳴らすとそのままその部分全体に指を這わせ始めた。
「うぁ……ヘ、ヘリオン、恥ずかしかったら別の場所でもいいんだぞ」
「だ、だいじょうぶ、です……ユートさまの、ですから……」
断続的に送られてくる快感に反応し、半ば勃ちかけていた性器がさらに硬くなっていく。
一度洗った後は、悠人が反応した箇所を重点的に刺激して快楽を引き出していった。
「あ、こ、こんなに、おっきく……え、あ、きゃぁ」
されるがままではたまらないと背中から手を滑らせて、悠人はヘリオンのおしりをやわやわと揉んで
軽い身体を持ち上げ、そのまま膝に乗せた。ヘリオンがバランスをとる為に悠人の肩に手を置きなおした所で、
悠人は右手を小ぶりな胸に、左手を肉づきは薄いが張りのあるおしりに這わせる。
むにむにと、既に泡だらけになっている胸を執拗に掌でこねる。
手の中にあっさりと収まってしまうささやかなふくらみは、それでもふわふわとした弾力を悠人の掌に返した。
次第にしこり始めた乳首の感触が掌に生まれでる。そっとヘリオンの反応を覗くと、
ヘリオンは悠人のわき腹を力なく擦り、身体を洗っているという体裁を作って口を尖らせている。
しかしそこから洩れる吐息は熱く、声には甘い色が混じり始めていた。
「ぁあ、ユート、さまぁ、それじゃ、洗ってるだけじゃないですよぅ……っん」
「ヘリオンだって今も、背中の時もやっただろ。ちょっとお返ししてるだけじゃないか」
「そ、そうです、けどぉ……っっ!?」
ふるふるとヘリオンの身体が震え、手を背中に回してぎゅっと自らに引き寄せてしがみつく。
おしりを撫でていた悠人の指が割れ目に沿って動き、奥にある窄まりに小指をかけていた。


「んやぁ、そこ、やぁ……」
「大丈夫だよ、中に入れるわけじゃないから」
表面を細かく撫でるだけでびくびくっとヘリオンは全身を痙攣させる。
「それでも、ふぁ、ダメ、ですぅっ」
「じゃあ、お終い。って言っても、もう洗い終わったんだけどな」
「ひゃふっ」
もう一度ぬるっとおしりに石鹸を塗りつけて、涙声になってしまったヘリオンを解放する。
くたりと悠人の胸に頭を預けてはぁはぁと息をつくのを見て、少しやりすぎたかと優しく背中を撫でた。
ゆっくりと身体を起こし、熱に浮かされたように潤んだ瞳で悠人を見る。
「ユート、さま……あとは……?」
「後は、ヘリオンの脚と……」
つい、と視線だけで洗う場所をさし示す。つられてヘリオンも目を動かして、
屹立している悠人の股間と、ヘリオン自身の秘所を視界に入れた。
「あ……ここ、ですかぁ」
「駄目、かな。俺のは、ヘリオンが洗ってくれたわけだし」
頬を赤く染めたまま、しばらく考えているように悠人を見つめた後に、おねがい、します。と一つ頷いた。
「それじゃ、ちょっとヘリオンにはそっちに向いてもらうから」
「へ?」
ころん、と向かい合わせになっていた体勢をヘリオンを抱き上げて百八十度入れ替え、悠人はヘリオンを膝の中に抱え込んだ。
「ぁん、おしりに、ユートさまの、あたってます……」
「うん……さ、足、貸してくれよ」
脚を曲げさせて足の指先から細かに指で擦り、ふくらはぎから太腿を伝ってだんだんと内腿へと這わせていく。
敏感な部分に指が近づく度にヘリオンはぴくりと身体を硬くして息を細かく吸っていた。
その様子を見て、悠人は一旦お腹に手を回してから、再び徐々に下に降りていくように動きを切り替えて、
お腹の中心のくぼみに人差し指をいれてくりくりと弄る。
「く、くすぐったい、ですよぅ……あの、ユートさまって、おへそ、好きなんですか?」
「どうだろう、きっと、ヘリオンのだったらどこでも好きだ」
わぁ、と笑みをうかべて背中の悠人に体重を預ける。そっと上から覗き込むと、
足からも力が抜けて、薄い茂みの奥に息づく秘所が見えた。


左腕でヘリオンのお腹を支えたまま、右手をゆっくりと滑らせて秘裂に指を這わせる。
石鹸が塗られる前からぴくぴくと震え出していたそこに中指があたると、くち、と水音が漏れた。
「あれ、ヘリオンのここ、もう」
「い、いわないで、くださいよぅ……」
軽く頷いて掌全体で大きく擦って、洗うという目的だけは達成する。
その動きだけでも声を殺して目を瞑り、お腹に巻かれた悠人の腕を掴んで震えるヘリオンを感じて、
悠人の頭にちょっとした優越感が横切った。何時の間にか自分にアドバンテージが回ってきている事に気がつき、
中指の先端で二種のぬめりに包まれた秘裂をそっとなぞる。
「~~~っ!?」
声にならない声を上げて悠人の腕を握り締めるヘリオンの反応に、悠人の行動に熱が入る。
親指を上端の突起にかけて、一度だけくに、と押し込んでやった。
「ぁあっ……ん、くぅ……」
少しだけ、甘い声が漏れるのを耳にしてそのまま軽く刺激し続ける。
「ふぅ、……ん、はぁ……ぁ」
ぴくぴくと全身を小刻みに揺らしながらも、ヘリオンが息を止めて
声を上げてしまうのを我慢している事に気付き、手を止めて静かに耳元に息を吹きかける。
「声、あげていいんだぞ」
「やぁ……だって、ここじゃひびい、ちゃ……うぅ」
「俺しか聞いてないから大丈夫だよ、それに、ヘリオンの声、聞きたいから」
かぷりと耳たぶを食み、お腹に置いていた左手を上に滑らせ、やわらかい乳房をふにふにと揉んだ。
「んぁぁ……だって、はずかしぃ……ですよぅ」
緩い刺激に緊張を解いて体の力を抜いた瞬間、待ち構えていたように右手の動きを再開させる。
同時に、耳の穴に舌をいれてねぶり、左手の人差し指と中指で乳首を摘んで転がすように弄った。
急に送られてきた強い快楽にヘリオンはきゅうっと全身を縮こまらせて、大きく息を吸い込んだ。
とどめとばかりにちゅぷりと音を立てて右の中指の先を秘裂に埋める。
「ふあああぁぁっ!」
反動で背中をぐいと反らし、悠人の胸板に身体を押し付けて首をいやいやと振る。
「だめぇ……つよいの、おかしく……なっちゃう……」


わたわたと身体を動かして、ヘリオンは悠人の膝から抜け出そうと軽く暴れる。
膝に手を置いて身体を浮かそうとした瞬間、石鹸塗れの手と腿がぬめりあってにゅるっと悠人の股間に手が滑った。
「うわっ」
硬くそそり立つ男根にぐに、と力がかかって悠人の手が止まる。
「あ……ぴくぴく、して、る……」
刺激を与えると返ってくる悠人の動きを感じて、呆としたままヘリオンは後ろ手に悠人の性器を掴む。
「ぐ、ヘリオン、何を……」
「ユートさまが、いじわるするなら……わたし、だって……ぇ」
ぬる、にちゃ。根元から先まで、先刻に覚えた悠人が悦んだ場所をじわりと擦りながら手を往復させた。
細く声を洩らしながら、悠人も両手で再びヘリオンの身体を強くまさぐり始める。
「ふぁ……ゃだぁ、くちゅくちゅ、音、でてる……」
ヘリオンは自分の指で悠人の性器の先端を覆い軽くひっかきながら、自らの秘所を弄る悠人の手を見つめた。
石鹸によってぬめりが増して、悠人の指を奥に誘う様に吸い付いているように感じられる。
一本だけ挿し込まれている中指は、既に半分ほどが出し入れされてしまっていた。
「あぁ、ユート、さまからも……わたし、からもぉ……ねばねば、でてるぅ……」
手の爪を軽く立ててカリの部分をひっかくと共に、先端にも差し込もうと力を込める。
悠人はヘリオンを昂ぶらせていく内に、自分に跳ね返ってくる刺激が強くなりすぎている事に気付き、
「ちょっと、強すぎ……っ、わかった、いじわるやめる、からヘリオンも終わって……っ」
このまま続ければヘリオンを達しさせる前に自分が果ててしまうと、きつく指を咥える秘洞から中指を抜いた。
股のところから手を外し、ヘリオンの手を掴んで股間から外させる。
ぬるりと最後に与えられた刺激に軽く眉をしかめてヘリオンをこちらに向かせた。
「あふ……ぁ、あ、洗うの、おわっちゃうんですか……?」
緩みきった瞳で見返されて悠人は唾を飲み込んだが、かろうじて首を縦に振って答える。
「そう、だな……。石鹸、流そう」
「ぅあんっ……お、おひめさま、だっこなんて、お、おもくないですか」
「軽いから全然平気だよ」
身体を横向きに抱き上げて湯船のそばまで運んで下ろす。


桶で汲み取ったお湯を自分に二三度かけて石鹸を流し終わった所で、ヘリオンがくたりと腕を掴んで見上げてくる。
「ユートさまが、さいごまでちゃんと流して、ください……」
頷いてお湯を汲み、最後の仕上げに身体をさすりながら石鹸を落としていく。
「ユートさまの手、さっきから、すっごくえっちです……」
細く長く息を洩らしながら、正面に座って胸を撫でる悠人の顔を見つめてヘリオンが呟いた。
「い、今は石鹸流してるだけじゃないか」
「それだけじゃ、さっきみたいにきもちよくなるはず無いですよぅ、きっと、ユートさまのせい、なんですから」
事実悠人の手は、すべすべと滑らかなヘリオンの肌の心地好さを味わおうと全身を愛撫するべく貪欲に動き続けている。
「う……でも、気持ちよくなってるんだったらヘリオンだって充分えっちだと思うぞ、俺は」
つぅーっと背筋に指を這わせると反射でひくっと背中を反らすのを見ながら悠人は精一杯の反論を試みた。
かあ、と全身を羞恥に染めてヘリオンの動きが止まる。
「も、もちろん俺だってヘリオンに色々したりされたりで気持ちいいんだから、おあいこなんだけど」
あまりに分かりやすいヘリオンの反応に悠人は逆に恥ずかしくなって慌ててフォローを入れるが、
「あぁ……じゃあ、わたしたち二人とも、なんですね……」
当のヘリオンはそれを認めた途端に、力を抜いて悠人の手の動きを感じる事に集中していった。
悠人の手がついに最後に残った股間へと伸ばされ、ちゃぷちゃぷとお湯をかけながら洗い落としていく。
「ゃ、ぁ、きもち、よくって……ぬるぬる、とまらないです」
ぴくりとヘリオンの身体が震えてそんな言葉を洩らした。悠人が目をやると言葉通り、
石鹸が流された後もぬめりは落ちずにとろとろと愛液が少しずつ湧き出し続けている。
ヘリオンの視線も、向かいにある悠人の股間に注がれていた。
「ユートさまも、先からぬるぬる、でてます……」
「そりゃ、俺だってヘリオンに触れられて気持ちいいから」
「びくびくってしてて、何だか辛そうなんですけど、だいじょうぶなんですか?」
ヘリオンの視線に晒されてより興奮し、悠人は自身に痛みを感じるほどに昂ぶっている。
「う……確かに、ちょっときついかも」


ヘリオンの愛液と同じ様に先走りが滲み出ている事からも我慢の度合いが知れようというものだ。
その悠人の状態をじぃっと見続け、ヘリオンは体中で息をついて恥ずかしそうに口元に握った手をあてた。
「あの、楽にするのって、さいごまですれば、いいんですよね?」
その言葉に、悠人の頭が一瞬真っ白に染まる。
「ま、まあ、そうなんだけど……」
何とかそれだけを口にしたところにヘリオンが追い打ちをかける。
「ユートさまは、わたしを感じたいって言ってくれました。わたしも、そうなんです……だめ、ですか?」
俯いて頬を染めて告白するヘリオンの様子に唾を飲み込み、悠人はそっとヘリオンの肩を抱いた。
「だめなんて事はない、ただ、ヘリオンはここで良いのかなって思ってさ」
「その、はしたないって思われるかもしれないって、怖いんですけれど、
わ、わたしも、ユートさまみたいに……ぬるぬるした所が、じんじん、してて……
はやく、ユートさまに、楽に、してほしいんです……」
ヘリオンが悠人の手をとって、自らの秘所へと導く。
数度目に触れたそこはくちゅりと音を立てて、とろとろと湧く蜜を悠人の指に絡ませた。
はぁ、と涙目で息をついたその顔は、羞恥以上に艶っぽさで色づいていて、悠人の理性を蕩けさせるには充分だった。
「そんなこと、絶対に思わない。ちゃんと、ふたりで最後まで気持ちよくなろう」
「は、はい……、ユートさまのも、わたしが楽に、しますから……」
ヘリオンのわきの下に手を入れて立ち上がらせようとして、ヘリオンの脚に力が入らない事に気付くと、
悠人はもう一度へリオンを抱きかかえて湯船の側から離れ、
「ひゃ……?」
そっとヘリオンを床に下ろして、側に置いてあったバスタオルを敷いた。
「これくらいは敷いておかないとちょっと、な」
「あ……そう、ですね……」
ぺたぺたとその上に這い寄って座ったヘリオンの頬に手をあてて、じっと覗きこむ。
「……?」
「今までさ、ヘリオンを感じたいとか、ずっと一緒に居たいとか
色々回りくどい事言ったけど、一番大事なのが残ってた。これを言わなきゃ、嘘だ」
すう、と息を吸ってヘリオンの顔を真正面に捉える。


「俺は、ヘリオンが好きだ。ヘリオンの全部を、愛してる」
瞳を潤ませて大きく息を継いで頷いたのを見て、一度視線を絡ませあってから、静かに吸い付いた。
既に半分開かれていた口内に舌を潜りこませる。
「ぅん、ん、ふぅぅ、んぁ、ぁぁ……ちゅ……ぴちゃ、ちゅ、る」
初めはされるがままだったヘリオンからも、おずおずと舌での愛撫が返された。
次第に動きは激しくなって両の手で悠人の顔を包み、
悠人から唾液が送られてくるのを感じると、積極的に唾液を舌に乗せて送り返す。
口内にも舌にも絡んでくる唾液は量も多く、甘く熱い。粘性も悠人が思ったよりも遥かに高く、まるで溶けるゼリーのよう。
それを生み出すヘリオンの口内はどんなものか。厚く唾液に覆われた舌と粘膜が悠人の舌を蕩かすように包み込む。
恐らくは全くの無自覚に、悠人の送り込んだ快感以上の快楽をヘリオンの身体は返していた。
苦し紛れに悠人が口の中に侵入した舌を甘噛みすると、その動きを元にヘリオンもより強い快感を返すように真似をする。
悠人はジンと痺れる頭を必死で働かせてヘリオンの口から舌を脱出させようと苦闘した。
「ちゅ……ぷ、はぁ、……は、ぁは、ぁぁは、はぁ、はぁ……」
つぅ、と唾液の糸を引いて二人の舌が離される。悠人がぼうっとしているのをヘリオンがじっと覗き込む。
「わたしも、ユートさまのこと、ぜんぶ、すきです……わたしを、ユートさまでいっぱいにして、くださいっ……」
「ん……っむ」
ちゅる、と音を立てて今度はヘリオンが悠人の唇を吸った。ちろちろと短めの舌を懸命に伸ばして悠人の口内を蹂躙する。
ぴくぴくと震える悠人の舌により繊細な動きを用いて絡ませながら、溢れる唾液を交換する。
「ん……ふ、じゅ、ぢゅ……ちゅる、る」
とろとろと喉を滑り落ちる蜜のような唾液に呼吸を妨げられて、だんだんと悠人の力が抜けていく。
肩に手を置き、悠人の身体を求めるように全身を押し付けて口付けを続けるヘリオンの勢いに負けて、
背中に手を回して抱きついたまま悠人はゆっくりと押し倒されてしまった。
ただ、バスタオル越しでも背に当たる固い床を感じて、この体勢でもまあいいか、と悠人は思い直した。


手を二人の身体の間に滑り込ませて押し付けられている胸に触れる。激しい高鳴りをその手に受けながら
ピンと尖った先端を弄るとぴくぴくヘリオンの眉が揺れて、舌の攻めも緩くなった。
その隙にじゅると唾液を飲み込んで唇を離し息をつく。
「はぁ、はぁ、は、やっぱり、ヘリオンって感じやすいんだ……そっちからしてくれるのも、すごく上手いのに……」
「そ、そんないじわる、言わないでくださいよぅ……」
「意地悪で言ってるんじゃないぞ、だってほんとの事なんだから」
身体の上に乗ったヘリオンから漏れ出る蜜を指を伸ばしてすくい取って、悠人がぺろりと舌へ運ぶのを見て、
「あ……そんな、ことぉ……」
ヘリオンが声を洩らすと同時にとろ……と新たに愛液が溢れ出た。
「ほら、さっきから準備も出来てて、こんなじゃないか」
「そ、それだったら、ユートさまだっておしりにこつこつ当たってますよぅ……」
「ああ、だってヘリオンが自分で言っただろ?俺たち、お互いの全部が好きで、
二人とも、こういうことも好きだって……」
もう一度指を伸ばし、くちゅりと音を立てさせると身体を震わせて頬を染め、こくりと頷いた。
「あ、でも、この格好のままで、なんですか」
「う……ん、やっぱり、床、固いから。このままの方が良いかなって」
「は、はい……それじゃあ、お願い、します……」
胸に置いた手で身体を支えながら膝で立って少し腰を浮かせる。
悠人は自分の下腹とヘリオンの秘裂の間に一瞬かかった糸を目にして、びくりと自身を蠢かせた。
「あ、また、びくってしてます……」
性器に手を添えて、悠人はヘリオンが挿入しやすいよう固定する。
そろそろと腰を落としたところで互いの性器がぴと、と触れ合った。粘液同士が擦れあって音が響く。
「ぅ……ん……熱い、です……」
ず……
「く……ぅう……ん」
「うわ……」
先端の一部分が飲み込まれただけで悠人には今までよりも深い快楽が、ヘリオンには予想以上の痛みが襲い掛かっていた。
充分に濡れているとはいえ小柄なヘリオンには悠人のモノは少し大きい。
それでもさらにヘリオンは腰を落とそうと眉をしかめながら身体を動かす。


「焦らないでいい、ゆっくりで良いから力、抜いたほうがいい……」
身を起こそうとしてヘリオンに刺激が与えられた事に気付き、悠人は手を伸ばしてヘリオンの頬を撫でる。
「は、はい……」
ず、ぷ、ずず……
「ぁ、ああ、っは、ぁあ……」
目に涙を浮かべながら、何とか先端を全て膣内に入れ、秘洞を押し広げられる感触を得ながら徐々に腰を進める。
しかし、悠人はそこに存在した最後の抵抗にヘリオンの動きが止まった事に気がついた。
ヘリオンが息をついて悠人の顔を見つめる。その表情には彼に対する懇願が浮かんでいた。
「ユート、さまからも……いれて、ください……わたしだけじゃ、ちょっと、怖いです……」
「……わかった、できるだけ優しくするから、な」
こくんと頷いた事を見ると徐々に手を下へと滑らせて両手の指先を羽毛のように使いヘリオンの胸を撫でる。
別の刺激に身体の力を抜いた所でさらに下に手をやり腰を掴んで、ヘリオンと呼吸を合わせて結合を深める方に引き寄せる。
ずぷ……ち……っ……じゅぷ……ず、ず……
「あ、ぅああっ……っああぁぁぁ……っはぁ、はぁっはぁ……」
薄い抵抗を破った後もヘリオンは腰を沈ませ続け、悠人もヘリオンの動きを感じながら掴んだ腰を押し下げる。
最後には二人同時に、先端が一番奥をこつりと叩いたのに気がついた。
「は、はいっちゃい……ました」
痛みと驚きが覚めない顔のままヘリオンがぽつと呟いた。
悠人がちらりと繋がった所に視線をやるとそこには白く濁りかけた愛液に混じり赤い血が少しずつ流れ出していた。
入りきらなかった男根を伝って悠人の下腹にも付着していく。
「う、ん……しばらくは、このままで良いから」
とは言ったものの、ヘリオンの膣内はまだ動かないうちからきゅっと悠人を締め付けてさらに奥へと誘おうとする。
「く……」
ヘリオンにまだ痛みがあるのに気持ち良くなるのは何か悪い気がして、少しでも痛みを紛らわしてやろうと
太腿に手を伸ばし、ゆっくりと指先でくすぐるように刺激を与える。撫でるうちに徐々にヘリオンの強張りが解けていった。


「ユートさま、慣れるまで……もっといろんな所撫でて……ください……」
悠人の胸に手を置いて全身に触れやすいように軽く身を近づけ、おねだりとも言える目つきで悠人の手を誘う。
頷いて、先ずは目の前でふるふると震えている乳房の先端を摘んだ。掌をむに、と押し付けて全体の感触も味わう。
「ん……ん、ふ……む、ぅん……ちゅ、ぷ」
身体を軽く起こして口付けを求めると、ヘリオンから顔を近づけてきてくれて、そっと舌をさし込んだ。
もう片方の手を背中に滑らせておしりの肉をやわやわと揉みしだく。
「ふぅぅ……ん、また、あっちはぁ、ゃ、やですよぉ……」
「わかってるよ、嫌がる事はしない」
身体を洗う時にさんざん撫で回したというのにヘリオンの滑らかな肌の感触に飽きる事は無い。
「ユートさまの手……やっぱり、えっちですけど……とても、やさしいです……」
それどころか、快感に熱を帯びた表情と体温がより深く手を吸い付かせるように感じる。
結合部に手を伸ばし、肉芽にかぶさった皮をそっとめくり上げて充血した淫核を晒す。
指先にからむ粘液を塗りつけるようにしてくりくりと転がすと、びくびくとヘリオンの身体が恍惚に震えた。
「あぁっ……だ、めぇ……つよい、です……ぅ」
単に締め付けるだけだった膣内も、新しく湧く愛液に助けられて絡みつくようにその動きを変えていた。
己を包む快楽に身を委ねて、思うままに動く誘惑をかろうじて耐えてヘリオンに問い掛ける。
「くぅっ……ヘリオン、もう、大丈夫か?」
悠人の腹筋に手を置いてゆっくりと身を起こして、
「わたしは、もう慣れて、きましたから……ユートさまも我慢、しないでください……ね?」
ヘリオンは瞳を快楽に潤ませながら腰を浮かした。
「ふあぁっ、……ああんっ」
ずちゅ、という音と共にもう一度腰を落とす。自分でほんの少し内襞を擦っただけで脚から力が抜けた結果だろう。
「こ、こんなに……?」
自分の行為がもたらした感覚に戸惑うヘリオンの表情を見ているうちに、さらにそれを引き出したいという思いが
悠人の胸を駆け巡っていった。しっかりとヘリオンの腰を掴んで、徐々にヘリオンの身体を持ち上げていく。


つられてその動きを助けるようにヘリオンも腰を浮かせるが、その感覚に思考が回らなくなる。
「ぅぁ……あ、あ、抜け、ちゃ、うぅ」
「ヘリオン、いくぞ……っ」
「ふぇ?ぁ、ああっ、お、落ち、ちゃ、……っあああぁぁぁっ」
悠人が腕から力を抜いて、じゅぷっ、と粘液が散る音を立てながら再びヘリオンの膣内に肉棒を埋め込んだ。
小さく息継ぎを続けて身を震わせている間に、
「んぁ、ま、またぁ……擦れ……てぇぇっ」
ずずず、ず……じゅぷ、ずず、ず……ずちゅぅっ
ゆっくりと繰り返しへリオンの身体を上げ下げする。
刺激を与えるたびに湧き出る愛液が、悠人の肉棒に絡みつき抽送を滑らかにしていった。
歯を噛み締めて脊髄を駆け上る快感に耐えながら腕を動かしていた所で
ヘリオンの手が悠人にそっと重ねられて、腰から手が外される。
「ヘリオン……?」
呼吸を荒くしてとろんとした瞳を悠人に向ける。
「だめ、ですよぅ……ユートさま、なんだか我慢してるみたいです……」
それはそうだ。そうじゃなかったら湧きあがってくる射精感を抑える事なんか出来ない。
そんな悠人の思いとは裏腹に、ヘリオンは悠人が気持ちよくなるのを我慢しているととったらしい。
「わたしも、気持ちよかったから……お返しです……」
そして今度は悠人の力を借りずに自分で腰を動かし始めた。
「ん……ぁ、あ……どう、ですか……?」
動きはまだぎこちなく、ゆっくりとした物だったがその懸命な表情と声に不満も消し飛ぶ心地がする。
何よりも、ヘリオンが自分から悠人を求めて身体を貪欲に打ち付けている、その状況だけで脳が蕩けそうだ。
「……く、ぃぃ」
「ぁん、こ、こうです……ね……、ぅぁ、わ、わたしも……すご、いぃ……!」
捏ね回すようにおしりを動かすと、奥にまで届いた先端がぐりぐりと行き止まりの壁を刺激する。
それが互いに圧倒的な快感として襲い掛かった。
自分で動かなければあっという間にヘリオンによって達しさせられてしまいそうで、
悠人も負けじとヘリオンをより高めさせるために腰を使い始める。


「ひぁん、あ、あぁ……んん……ユート、さまぁ……」
振動の波長を互いに測りながら、タイミングを合わせて動きをつけ、徐々に速度を増していく。
「ヘリ、オンは、どう、かな?」
「ぅあっ、あんっ、あっああぁっ、ふあっ、きもち……ぃ、ぃいれ、すぅ……」
じゅぷじゅぷと腰同士を打ちつける音を浴場に響かせながらさらに深く二人は交わりあう。
「ああっ、おとぉ、きこえ、ちゃうぅっ、らめぇっ、はずかし……んあぁっ」
既に嬌声を悠人に惜しげもなく披露しているにもかかわらず、譲れない線があるらしい。
それを微笑ましく思っていたところで、ヘリオンの膣内がきゅぅきゅぅと締まった。
抽送を妨げることなく、襞の一枚一枚が吸い付くように、絡みつくように肉棒を咥え込んで離そうとしない。
それでいて悠人に与えられる感覚に痛みは全く無く、きつく締めつけられているのも全てが快楽として感じられる。
「ヘリオンの、なかっ……すごい……」
「ふぁあっ、ユートさま……ユート、さまぁっ、もっと、きもちよくなって……
わたしもぉ……きもち、いいですからぁあっ」
「ああ、一緒に、最後まで、いこう……っ」
がば、と身を起こし、悠人はヘリオンを抱きすくめてさらに勢いをつけて腰を打ちつけた。
先ずは首筋に唇を寄せて順繰りに届くところ全てに口付けていく。
全身にさわさわと手を這わせて、胸のささやかなふくらみの先端にそっと指をかけ、
人差し指と中指で充血しきった乳首を挟んで転がす。同時にもう片方にも唇をつけてちゅうと吸い付いた。
「ひゃうっ、ああっ、あ、あ、あ、いぃ……ユートさまの、ぜんぶ、きもちいいですぅっ」
ヘリオンの全身がびくびくと震え出し、絶頂が近い事を悠人に報せる。
「……あ、あっ、今、なに……?おかし、いぃ……きもち、よすぎてぇ……」
「ヘリオンっ、俺も……もうすぐ、イクから……」
「い、いまの、が……?あ、あぁ、また、ま、たぁ……」
軽く達するたびにぎゅっと悠人を抱き返して、身の震えを伝える。それは膣内に埋め込まれた肉棒にも如実に伝わり、
悠人の射精感を増大させていった。
「ああっ、なかで、びくびくして……あ、また、んゃぁ、こんど、は……すご、いの、きちゃう……」
「なら……俺も、一緒にいくぞ……っ」


瞬間、悠人は身体の動きを止めて大きく腰をひいた。殆ど抜け切ってしまうのでは無いかと思うほどに肉棒を露出させ、
「ぁ、あぁ……ユート、さまぁ……ぬか、ないでぇ……なかに、ぜんぶ、きて……ください……っ」
大きく頷いた後に一際強く最奥まで届けとばかりに、粘液を飛び散らせながら自身を挿入した。
「あ、あああぁぁぁぁああああっ」
「く、ぅううっ」
ヘリオンの背中が反り返り、一呼吸遅れて悠人にかつてないほどの締め付けが襲い掛かった。
どくっ、どくっどくどくっど、くぅっ
「あぁっ、あつ、ぅあ、あああぁぁぁぁぁっ……」
耐えに耐えていた射精感が解放されて、叩きつけるようにヘリオンの膣内へと精液を流し込む。
悠人の肉棒がびくりと痙攣するたびにヘリオンも何度も絶頂を味わい、その体から力が抜けていく。
「ぁあ、ユートさまの、あついのぉ……いっぱい、はいってきてます……」
射精がようやく収まった頃に、ヘリオンはくたりと悠人にもたれかかってそれだけを口にした。
焦点の上手く合わない瞳で悠人の姿を求めて小さく呼吸を続けるヘリオンに、悠人はゆっくりと口付ける。
視界に悠人の顔を納めて蕩けるような笑みを浮かべ、ヘリオンは悠人の胸に頬を摺り寄せた。
悠人が、ずる……とヘリオンから少しは落ち着いた性器を抜いて、抱き合ったまま横になる。
そっとヘリオンの顔を覗き込むと安心しきった表情で目を閉じて脱力し、静かに呼吸を続けていた。
意識はあるけれども、体が上手く動いてくれないのかもしれない。
腕を伸ばし、敷いていたバスタオルの側に丸めていたタオルを拾って、
ヘリオンの股間から垂れている粘液を拭い取っていく。
ねっとりと溢れ出した精液に混じり桃色に見える血液を見て取り、愛おしさが頭を占めた。
言葉は無しに、まだ胸に顔を埋めたままのヘリオンを強く抱きしめ、
余韻に浸りながらそのまましばらく肌を触れ合わせる。
やがて、ヘリオンがゆっくりと目を開けて悠人を見つめた。
「ユートさま、わたし、今こうしてるのが夢みたいです」
「夢なもんか。俺だってヘリオンだって、ちゃんとここに居て、愛し合ってたんだから」
視線から望む事を読み取って、もう一度深く唇を合わせる。そっと顔を離して照れながら微笑みあった。


「な?」
「……はい」
悠人は静かにヘリオンを抱き起こして、もう一度湯船の側に運ぶ。
「拭いただけじゃまだきれいにならないだろうから、ちゃんと洗わないとな」
桶にお湯を汲んで、ヘリオンの身体にかけようとしたところで、頬を染めたヘリオンに止められた。
「あの、ユートさま。その、今度は自分でしないと……また、きもちよくなっちゃいますよぅ」
かっと顔を赤くしてあたふたと湯桶を渡し、悠人はヘリオンに背を向けて自分の股間にざばざば水をかけて粘液を落とした。
ヘリオンは、ぬるめのお湯で出来るだけしみないように注意して自分の体を清めていく。
それでも、一度ぴりっとした刺激を受け、先ほどまでの行為が現実感を伴ってヘリオンの思考を満たした。
「ヘリオン、やっぱりお湯に浸かりなおすのは無理っぽいな」
「え?あ、そう、ですね」
ふと気付くと悠人がヘリオンの顔を覗き込んでいた。股間に手をやって痛みに顔をゆがめてしまっていたらしい。
我慢できないほどでは無いけれど、確かにこの状態で湯船に浸かれば傷口にしみてしまいそうだ。
「どうしようか……せっかく温まりに風呂に入ったのに、そこまで気が回らなかった。
ごめん、これじゃ結局身体を冷やしちまう」
「そんなっ、だってわたしがここで、し、してくださいって言ったからじゃないですか、
ユートさまが謝ること無いですよぅ」
それを聞いても、悠人の顔は心配そうなままだ。その時、ピンとヘリオンの頭に案が浮かんだ。
「それじゃあ、ユートさまにお願いがあります」
「え、何かな」
にこ、と笑みを浮かべて悠人に迫る。
「一緒にお風呂に入るお願いを聞きましたから、
風邪をひかないようにユートさまがわたしをあっためて下さい、ね?」
ぎし、と音を立てるかのように悠人の身体が硬直するが、すぐに首をふって持ち直した。
「いや、何を今さら。いいに決まってるじゃないかそんなの。なんなら、ずっとこうしててやる」
ぎゅっと抱きしめて、まだ互いに熱の冷め切っていない身体を押し付ける。


「ぁ、上がってからでかまいませんよぅ。それにまだ、頭は洗ってないんですから上がれませんし」
「ああ、そうか、そうだよな。つい」
そっと腕を離して、照れながら髪留めを外したヘリオンを見た。
濡れた髪がばらりと下ろされて、想像以上に雰囲気が変わる。
「どうしたんですか、そんなにじっと見て」
何でもない、と悠人は赤くなった頬を隠してざぶんと湯船に跳び込んだ。
首をかしげて頭を洗い始めるヘリオンの後姿を見ながら、また新しい魅力を見つけたような気がして胸を高鳴らせる。
石鹸を洗い落とすまでぼうっと見つめ続けている所で、ヘリオンが振り返った。
「お待たせしました。ユートさま?」
「あ、それじゃ、上がろうか」
ざあっと湯を滴らせながら湯船から上がって、悠人はヘリオンの元へと歩み寄った。
少し冷えてしまっているヘリオンの身体をもう一度抱いて、体温を移しながら浴場から出る。
乾いたバスタオルを自分の身体に巻き、別の一枚でヘリオンの身体を拭いていった。
「こ、これくらい、自分で出来ますよぉ……」
「風呂から上がったら、思いっきり温めてやるって決めてたんだ。これくらいさせて欲しい」
頬を染めて黙り込んでしまったヘリオンの水気を取り去った所で服を渡す。
いそいそと着ている間に悠人も手早く身体を拭いて服を着た。
「あの、ユートさま、それじゃあ行きましょうか」
静かに悠人の腕に自分の腕を絡めて、メイド服に身を包んだヘリオンが悠人を促す。
「うん。あ、そうだ、ヘリオンはお腹すいてないか?何しろ今日は俺たちだけで何とかしなきゃならないからなぁ」
「それなら任せてください、わたし、何でも作りますよ。
……その代わりって言ったらなんですけど、ほんとに、さっきのお願い、聞いてくれますか?」
頷いて、ヘリオンの肩を抱く。
「当たり前じゃないか、ずっと、一晩中でも温め続けてて大丈夫だ」
口に出して、お互い即座に顔を紅潮させる。
そっと顔を近づけて口付けを交わしながら、長い夜を過ごす為に、まずは台所へと二人は消えていった。

……翌日、レスティーナへの報告に訪れるはずの悠人が遅刻しかけた事は言うまでも無い。