信頼

バーンライトが陥落してから数日後。セリアは隊長室の前に立っていた。
「・・・・・・はぁ。」
あれから悠人とは一度も話す機会がなかった。
悠人はサモドアの町の混乱を収めたり、来るべきダーツィとの戦いに向けての準備で多忙を極めてたし、
セリアはハリオンのお陰で回復したとはいえ神剣に呑まれたマナの回復は、やはり容易ではなかった。
それでももう大丈夫だと思える程回復した今日、いきなり隊長室に呼び出しを受けたのだ。
セリアが伏せている間、悠人は一度も見舞いには現れなかった。
もちろん仕事が山積みなんだろうし、冷静に考えるといちいち部下の見舞いに行く義務は悠人にはないのだが、
なんとなくそれが拒絶の意思表示な気がしてセリアは寂しかった。
コンコン。そんな事を考えつつ、思い切ってノックしてみる。すぐに返事があった。
「どうぞ~。開いてるよ。」
「失礼します。隊長、なにか御用でしょうか?」
緊張しつつ、用意してきたセリフを言う。よかった、つまづかないで言えたようだ。
「あ、ああセリア、話があるんだ。ちょっといいかな。そこに座って。」
「はぁ・・・・・・」
なんとなくボンヤリと悠人の顔を見ながら、大人しく座る。同じように座った悠人はあ~、あのさぁ~などと呟いていた。
なぜか彼も緊張しているようだ。どうやらなにか重要な事を話そうとしているらしい。
(なんだろう・・・・・・)
不思議に思ったセリアが自分から訊いてみようと口を開きかけた時、
いきなりこちらを向いた悠人が一気呵成に畳み掛けていた。


「単刀直入に言うぞ。俺は今までの考えを改めようとは思わない!
 守りたいものは守る。でも自分を犠牲にしてなんてことはもう考えない!
 自分も守る。部隊も守る。もちろんセリア、お前もだ!
 で、俺一人じゃ全部はまだ守れない!だから、セリアにはいつも俺の部隊にいて欲しい!!
 どうだ、なんか文句あるか!」
「・・・・・・・・・・・・」
言いたいことを言ってそっぽを向いてしまった悠人にあっけに取られながら、セリアは考えていた。
(ああ、この人も私と同じなんだ・・・・)
そう、同じ。だけどこの人は私も同じ考えだと知っていてなおその上を要求している。
「自分も」守る事。自分を守らなければ、例えばこの人はまた自分の命も顧みず、無茶をするだろう。
それが嫌ならば自分を守れ、そう言っているのだ・・・・・・
「ぷっっ!!くくく・・・・・・」
「えっ?お、おい・・・・・・・」
「ふふふふふふっ!ふふふふ・・・・・・・」
「おい!おいって!俺は真面目にだな・・・」
あまりにも子供っぽい要求。だがそれがいかにも悠人らしくてセリアには可笑しかった。
事態が飲み込めずおろおろしている悠人が愛しい。
そう、愛しい。ああ、そうなんだ、愛しいと死ぬわけにはいかないんだなぁ・・・
しかし、そこで思い直し、必死で真顔に戻る。そうだ、死ぬわけにはいかないのだから、
悠人にはもっとしっかりしてもらわなければ。今ここで折れて、甘い顔を見せる訳にはいかない。
想いを伝えるのは戦いが終わった後でも遅くはない・・・
「ソゥ、ユート!」
いきなり立ち上がってそう叫んだセリスに悠人も慌てて立ち上がる。
「え?え?なんだ?俺、また変な事言ったかな・・・?」
だから今は少しだけ。少しだけ伝えよう。あとはそっと胸にしまって。

「カミテク、・・・ヘリムカイシス・・・ルゥ。ソゥ、ユート♪」

にっこり笑って弾むように部屋を出て行くセリアを、悠人は呆然と見送るしかなかった。