明日への飛翔

第五幕

 ぴちゃっ・・ぴちゃっ・・・ぴちゃっ・・・・。
 一条の光も差さぬ暗闇の中。
 何か液体の滴り落ちる音だけが、遠く響く。
 絶望に震えるその躯は小さくて。
 か細い腕が抱えるのは、血塗られた<失望>・・・。

 『・・・殺せ・・・殺すのだ・・・。』
 闇が蠢き、質量を持った塊となって、そう告げる。
 (い・・いや、嫌っ・・・私はもう・・・これ以上血は見たくないの・・・!)
 そう叫びたいが、口を開けばこの粘り気のある空気が、肺腑を冒すだろう。
 そうなればきっと、ちっぽけな自分は瞬く間に塗りつぶされて・・・。
 ・・・物言わぬ、空っぽの器になってしまうに違いないのだ。

 そして・・・例え自分がどれほど強く願おうとも・・・。
 ここから逃げる事など、出来やしないのだと言う事は。
 ・・・もう、充分過ぎる程に理解していた。

 『何を迷う事がある・・その小さな手はもう、拭い落とす事もできぬ程に穢れているだろう・・?』
 (あ・・・ああ・・・・。)
 『その翼は既に、しっとりと返り血に濡れているではないか・・・そう、翔る事も出来ぬ程に。』
 ・・・瞬きすら忘れ、凝視し続けるその前で。
 塊は膨張し、分裂を続け・・・ある物は人の、またある物は獣の姿を形作る。
 そしてその全てが歪で、在るべき形を成さず・・・少女に向けて、怨嗟の唸りを放ち続けた。
 『そうだ・・お前が殺しきれぬ為に、苦しみ続ける者共よ・・・。』
 声にならない悲鳴をあげ、脳髄が冷たく痺れていくのが克明に解る。

 『さぁ・・・・<失望>の担い手よ・・・・その剣を振るうのだ・・・・!!!』

 「・・・・いやぁぁああああああ!!!!」

 第一詰所に設けられた、まだ見慣れぬ自分の部屋で。
 幼子の様にうなされて、ヘリオンは目を覚ました。
 「・・・はぁ・・はぁっ・・・はぁっ・・・・・・。」
 まだ朦朧とした意識の中で、乱れた呼吸を整える。

 「今のは、夢・・・だよね?・・・あの頃の・・・。」
 ・・・汗ばんだ寝巻きが、ひどく気色悪かった。


 (あ~ん、どうせならユートさまの夢が見たかったなぁ・・・。)
 軽く体を流しては見たが、まだ悪夢が後を曳いているらしく、気分は優れない。
 他の者達が目を覚ます様子はなかったが、二度寝しようという気にはなれなかった。

 気の向くままに歩いていると、朝食の下拵えをしているエスペリアの姿が見えた。
 「あら・・・随分と早いのね、おはよう、ヘリオン。」
 「あ・・お、お早うございます!・・・ちょっと、今日は夢見が悪かったので・・・。」
 「そうなの?・・・顔色も悪いようね。健康には、気を付けなきゃダメよ。」
 そう言って作業に戻るエスペリア。
 「あ、あの・・・。」
――エスお姉ちゃん・・・そう呼びたい気持ちを抑え込んで、声をかける。
 思えば大好きなお姉ちゃんとぎくしゃくし始めたのも、あの頃からだった。
 「・・・エスペリアさま、朝食の支度でしたら・・・わ、私も、手伝いましょうか・・・?」
 「そうね・・・ヘリオンには一昨日の晩に、すごい成長振りを見せ付けられちゃったから・・・。」
 叱られた子供の様な顔をするヘリオンに、エスペリアが振り返って微笑む。 

 「今日は私の番と思っていたのだけれど・・・久しぶりに、一緒に作りましょうか♪」


 「~~~~♪」

 鼻歌混じりで、ヨーティアの研究室を掃除していくヘリオン。
 いつもは一体どうして、こんな短期間に部屋中散らかす事ができるのか不思議だったが、今のヘリオン
にとってはそんな事は気にもならないようだった。

 「あの子一体どうしたんだい?まるで新年と聖ヨト祭が、一緒に来たみたいな様子じゃないか。」
 流石に気になるのだろう。ヨーティアが傍らで実験を手伝うイオに尋ねる。
 「私にも何だか・・・よほど良い事でもあったのでしょうか。」
 「まぁ、三割増しで能率も良くなっているようだから、こっちとしては大助かりだけどねぇ。」    
 首を傾げる二人をよそに、ヘリオンは野ネズミのように駆け回って行く。
 思い出すのは、エスペリアとの久しぶりの共同作業。
 そしてその成果に満足した悠人は、何度もおかわりして二人の腕前を褒めると、ヘリオンの頭をくしゃ
くしゃと撫で回してくれたのだった。
 「うふふふふ・・・・。」
 思わず忍び笑いを漏らすヘリオン。
 そして顔を赤らめながら、にやにやする彼女を見て、イオが手を休めて尋ねる。
 「ヘリオン様・・・今日は、随分と良い事があったご様子ですね。」
 そこで初めて、自分のハイテンションに気付く。
 「え、え~と・・・その・・・はい。」
 「そうでしたか・・・ヘリオン様が楽しそうにしているのを見ると、私達まで心が晴々として来るよう
ですわ・・・所でつかぬ事をお伺いしますが・・・・最近、身の回りでおかしな事はございませんか?」
 ぎこちなく愛想笑いをするヘリオンに対し、何やら心配げな様子のイオ。


 「おかしな事がなければ・・・そうですね、ちょっとした変化とか・・・。」
 尚も言葉を重ねるが、ヘリオンに取って、最近の変化と言えば・・・・。
 (ぼっ。)
 途端に、真っ赤なゆでだこの様になって湯気を立てる。
 「そ、そそそそそ、そんな事は・・・特にないです、はい!」
 そう主張する端から呂律も回らなくなっていては、周りの余計な想像を煽るばかりである。
 勿論、ヨーティアが想像した様なことは、何もなかったのだが・・・今まで免疫のなかったヘリオンに
取って、恋をするという経験は劇薬に匹敵する刺激をもたらすようであった。    
 
 「・・・ふむ、察するにボンクラ絡みで何かあったね、あれは。」
 その後も挙動不審な態度を取り続けたヘリオンを、ようやく開放したヨーティアが呟く。
 「はぁ・・・ヨーティア様もそう思われますか?」
 「当たり前じゃないか・・・あれだけ解り易い反応をされれば、この天才でなくても気が付くさ・・・。
しかし、やけにあの子を気に掛けるじゃないか。イオにしては珍しいねぇ?」
 「ヨーティア様に言われたくはありませんわ・・・昨日などは、わざわざ専用のコスチュームまで用意
して・・・恥ずかしがって、泣いていたじゃありませんか。」
 「今日なら気にせずに着てくれたかもねぇ・・・まぁ、イオだって喜んでいたじゃないか♪」
 そう茶化す主人をかわしながら、イオは、先程ヘリオンから感じた暗い気配について思い返していた。

 (私の、気のせいならば良いのですが・・・。)

 ・・・ぴちゃ・・ぴちゃ・・・ぴちゃっ・・・・・。

 恐らくは、血が滴り落ちる音が響く中。
 ヘリオンは、再び暗闇の中を歩いていた。
 「うぅ・・・またこの夢なの・・・?」
 昨晩と違うのは、こうして自由に行動する事ができる点。
 そして、その体も幼い子供の頃のものではなく、普段よく見慣れている今の自分の姿をしていた。
 「でも、やっぱりちっちゃいのに変わりはないんだけどね。・・・はぁ。」
 自分で言っておきながら落ち込むヘリオンだったが、それだけ余裕が出て来たのだろう。

 ・・・そうだ、今の自分は、あの頃のままという事はない筈なのだ。 
 「私だって少しは成長してるよね・・・うん。」
 そうしてしばらく歩いていると、ヘリオンの目の前に立ち塞がる人影があった。
 「わわわっ・・・こ、怖くなんて、怖くなんてないんですから!」
 自分を鼓舞し、<失望>を抜くヘリオン。
 人影とは言っても、闇の中、更に濃い部分があると辛うじて判別できる程度である。
 いくら月と夜の加護を受けた黒い妖精だとしても、こんな所での戦闘は御免蒙りたい。

 ・・・しかし、そのまま対峙していても。
 その人影からは殺気も感じられず、一向に攻撃してくる気配がなかった。
 「あ、あれ?・・・えっと、勘違い・・・じゃ、ないですよね?」
 「その声は・・・。」
 「え?」
 「ヘリオン、ヘリオンか?・・・俺だ、悠人だよ!」


 ヘリオンの耳に、悠人の声が響いたその瞬間。
 ・・・闇は討ち払われ、気が付くと彼女は草原の中立ち尽くしていた。
 そして目の前には、彼女の想い人の姿。

 「あ、あれ?・・・ユートさま、本物のユートさまですか!?」
 「ああ・・・突然闇の中に放り出されたと思ったら・・・ヘリオンも、この世界に来ていたとはな。」
 そう言って目の前で微笑むのは、紛れも無い悠人その人であった。
 (この現実感・・・私、夢を見ていたんじゃなかったっけ?)
 「他の皆も来ているのかも知れない。すぐに探しに行きたい所だが・・・どうやらお客さんの様だ。」

 何時の間に近付いて来たのか、虚ろな表情をしたスピリットの部隊が二人を取り囲む。
 「神剣に呑まれているな・・・ヘリオン、後ろに隠れていろ!」
 叫ぶのが早いか、単身、敵スピリット達の真っ只中へ斬り込む。
 混戦の中、次々と敵を打ち倒して行く悠人。
 <求め>が歓喜の唸りを上げ、金色の霧が舞い上がる・・・。
 (いけない、私も・・・!)
 その姿に見惚れていたヘリオンが、我に返り<失望>を手に駆け寄ろうとした時。
 「・・・危ない!」
 敵スピリットの一人が、頭上からヘリオンに襲い掛かった。
 反応が遅れ、思わず目を瞑ってしまった後・・・ヘリオンが目にしたのは、自分を庇い、肩から血を
流して倒れる悠人の姿だった。


 「ユートさま、ユートさま!!」
 泣きながら、悠人にすがりつくヘリオン。
 ・・・そんな・・・私のせいで、ユートさまが怪我をしてしまうなんて・・・。
 「俺は大丈夫だ・・・それよりも、ヘリオン・・早く逃げるんだ。」
 「嫌です、ユートさまを置いて逃げるなんて出来ません!!」
 そうしている間にも、敵スピリット達は包囲を狭めて来ていた。
 「私が・・・私が命に代えても、ユートさまをお守りします・・・!」
 悲壮な決意を胸に、敵へと向き直るヘリオン。
 それに対し、敵スピリットの群れを掻き分けて、姿を現す一人の男がいた。    

 「無様だな・・・。そうして女を盾にして、見苦しく生き延びようと言うのか。」
 「あ、貴方は・・・?」
 その男が身に纏うのは、破壊の力か、それとも狂気か・・・。
 気圧されそうになるヘリオンの後ろで、<求め>を支えとして悠人が立ち上がる。
 「これはお前の仕業か・・・・瞬!!」
 (シュン・・・それじゃこの人が、あのサーギオスのエトランジェ!?)
 確かに対峙しているだけで、感じる恐怖に身が竦みそうになる。
 でも、それならば・・・。
 「貴方をユートさまと、戦わせる訳には行かない!」
 生まれて初めて殺気を篭めた、本気の一撃!!

 ――しかし、その一撃を持ってしても。
 ・・・<失望>は瞬の<誓い>の前に、音を立てて砕け散ったのである。
 「そ・・んな・・・。」
 「元より貴様に興味は無い・・・そこで、愛する男が息絶える様を見ていろ!!」

 そして崩れ落ちるヘリオンの目の前で、<誓い>は・・・悠人の胸に・・・・吸い込まれて・・・・・

 「・・・・・!!!」

 ベッドの上で跳ね起きるヘリオン。
 ・・・思えば、泣き叫んで目が覚めるなどと言うのは、まだ生易しい事だったらしい。
 肉体が鳴らす警鐘に、やがて意識が追い付くと、ようやく呼吸の仕方を思い出し、心臓が早鐘を打つ。 
 どうやら私は、"夢に取り殺される"寸前まで行っていたようだ・・・。
 何とか身体を動かせるくらいまでに回復すると、真っ先に枕元に置かれた<失望>を確認する。
 (砕けて・・・ない・・・。)
 脱力して、<失望>を胸に抱えたままベッドに倒れ込む。
 「良かった・・・・。」
 あれが全て夢の中の出来事だったのなら、ユートさまは無事なのだ。
 しかし、何と現実感のある夢だった事か・・・。
 吹き付ける風や、草の香り、そして悠人の温かな血の臭い。 
 何よりもあのサーギオスのエトランジェなどは、とても想像の産物とは思えぬ程だった。
 あの男が身に纏った狂気と、圧倒的な存在感。
 そしてそれを象徴するような、白い前髪の隙間から覗いた・・・<誓い>と同じく、紅く光る双眸は、
忘れようとしても忘れられそうになかった。

 (でも・・・。)

 ヘリオンは思う。これが夢だったから良かったが、もし、現実にあんな事が起きたとしたら・・・。
 自分に力が無い為に、ユートさまを失うなどと言う事になったならば。
 ・・・そうでなくとも、ラキオスには他に、多くの優秀なスピリット達がいる。
 今に自分は必要とされなくなって、見捨てられてしまうのではないか。
 
 ・・・それは次第に恐ろしい予感となって、ヘリオンの精神を蝕んで行ったのであった。


 「・・・ヘリオンは、私と訓練がしたいのか?」
 「はい、それも神剣を用いた模擬戦を。」

 これがアセリアだったからこそ、平静を保っていられたものの。
 普段のヘリオンを知っている者ならば皆、その申し出に驚愕した事だろう。
 しかしその日、悠人とエスペリアはランサに戻り、オルファは哨戒に出ていた。
 他にその場にいたのが、まだ出会ってから日も浅いウルカだけだった為に。
 ・・・最後までヘリオンの異変に気付く者は、誰もいなかったのである。

 「それでは・・・手前が立会いを務めさせて頂きます。」
 ラキオス郊外の草原で、神剣を手に対峙するアセリアとヘリオン。
 これから果し合いが始まるかのようなウルカの口上も、あながち間違いでは無いかも知れない。
 ・・・それほどに、ヘリオンは思い詰めた表情をしていた。

 「・・・行く!」
 ハイロゥの推進力を利用し、空中から<存在>を振り下ろすアセリア。
 ヘリオンはそれを、紙一重で避けながら反撃を試みる。
 しかし彗星の如きアセリアの勢いに、あえなく弾かれて体勢を崩してしまう。
 次の一撃も何とか受け流すが、今度はアセリアが反撃に転じる隙を与えなかった。
 暴風の様なアセリアの攻撃に、翻弄されるヘリオン。 
 アセリアの斬戟は一撃一撃が重く、それを巧みに防ぎながらも、消耗を余儀なくされていた。
 俊敏さで上を行くヘリオンだったが、なかなか攻勢に転じる事が出来ない。
 振り終わりを狙った会心の一閃も、アセリアの恐るべき反射神経の前には通じなかった。

 (これが・・・アセリアさんと、<存在>の力なの・・・?)
 ヘリオンは、ウルカと並び称される"ラキオスの蒼い牙"の実力を、まざまざと見せ付けられていた。


 その後の攻防も、ヘリオンの有利には進まなかった。
 ウルカの全力をあれ程に凌いだ自分が、アセリアの猛威にはこれ以上耐えられそうに無い。
 神剣を用いた戦いでは、これ程の力の差があるというのか・・・。
 アセリアと<存在>がシンクロし、最強の一撃を叩きつける。
 激しく吹き飛ばされるヘリオンに、もう戦う力は残っていないかと思われたが・・・。
 「・・・我が血を代償に、刃に一時の力を・・・。」
 決着を宣言しようとしたウルカの目の前で、ヘリオンが神剣魔法を詠唱する。
 そしてアセリアに向かうその構えは、あの日の訓練で最後に放った技。

 「・・ヘリオン・・・本気・・・?」
 ハイロゥを全開にし、<存在>を握り直すアセリア。
 「私の・・力・・・私の、力は・・・・!!!」

 ・・・二人のマナが増大し、臨界する直前に。
 割って入ったウルカが、ヘリオンに<拘束>を突き付けた。
 「勝負ありです・・・ヘリオン殿、これ以上は・・・。」
 「・・・やっぱり。」
 「ヘリオン殿?」
 「この程度なんですね、私の力は・・・。」
 二人を無視し、踵を返すヘリオン。
 ・・・その瞳には既に、狂気が宿っていた。

 (私は力が欲しい・・・もっと、もっと大きな力が!)
 そう・・・力を得なければならない。<存在>にも、他の誰にも負けない力を。
 素質では劣っていない筈なのだ・・・ならば、更に強大な神剣さえあれば。
 <失望>が鳴っているような気がしたが、もうこんな剣の事はどうでも良かった。 
           
 その晩・・・ヘリオンは、三度目の悪夢を見る。

 『ハーブの世話・・・で、ありますか?』

 ――頃合を見て、誘いをかける。
 『確かに、ユート殿や他の方々の留守中、何か出来る事はないかと思っておりましたが・・・果たして
その役目、手前に務まりますでしょうか?』
 そう、邪魔者はいない・・・ここにいるのは、私とこの女の二人だけだ。
 『成程、このメモの通りに・・・しかし仕事には、それに応じた着衣が必要なのは解りますが、帯刀も
許されぬとは・・・いえ!ヘリオン殿の申される通りでありましょう。手前が不見識でありました。』
 疑いもせずに従うその姿に、思わず笑みが零れる。

 ――どうしてもっと早く、こうしなかったのだろう。
 ・・・目の前に、自分に相応しい神剣があったと言うのに。
 ヘリオンが手にする抜き身の<拘束>が、妖しく光を放つ。
 なに、どうせ元々敵国のスピリットだ・・・ふいに姿を消したとしても、誰も怪しむまい。
 この愚かな女は、目論見通り水を遣る事に集中して、こちらを振り向く素振りも見せない。
 せめて苦しむ間もなく、首を落としてやる事としよう。

 ・・・そうだ、殺すのだ・・・"使命"を果たさねばならない・・・。
 我に与えられた、崇高なる"使命"。

 ・・・この女に・・・"リュトリアム・ガーディアン"に、確実な死を・・・・!!

 その時・・・ウルカが助かったのは、まさしく奇跡の様な偶然に因る物だった。

 たまたま偶然、女王レスティーナはヨフアルを食べる為に、城を抜け出していた。
 偶然エスペリアが一緒にいた為に、報告が出来なかった悠人は、寄り道もせずに詰所に戻る事にした。
 そして偶然ヨーティアに急用が出来た為に、イオは<理想>を通じてヘリオンを呼び出し・・・。
 ・・・彼女が何故か<失望>を持ち歩いていない事に気付くと、<求め>に信号を送ったのである。

 だが、もしも・・・この世のどこかに、運命を操作し、世界を遊戯盤に見立てて弄ぶ何者かが存在する
のだとしたら・・・この偶然も、或いは必然の成り行きだったのかも知れない。

 『これは・・<献身>・・!?』
 凶刃を振るおうとしたその直前。
 突如目の前を翔け抜けた、翠の閃光の正体に気付き、ヘリオンが――
 ――いや、ヘリオンの意識を乗っ取った永遠神剣<拘束>が、驚愕の叫びを上げる。

 「ヘリオン殿?」
 「下がるんだウルカ・・・それは、ヘリオンじゃない。」
 『ほう、一目で我の存在に気付いたか・・・そうでなければこの娘も、報われないと言う物だがな。』
 ウルカを庇い前に出る悠人に対し、嘲笑う<拘束>。
 ヘリオンの愛らしい唇が、奇妙に引きつる。 
 『この娘、貴様を好いていたらしいぞ・・・おかげで容易く、心の隙間に付け入る事ができたわ!』
 「な・・・。」
 『ふむ・・・しかしまさか、このタイミングで邪魔が入るとは思わなかったが・・・我は既に意のまま
と出来る肉体を手に入れた。ここは退いて、次の機会を待つとしよう。』
 「貴様、ヘリオンを一体・・・!?」
 激昂する悠人の目の前で、ヘリオン――<拘束>は、ハイロゥを展開する。
 その翼の色は、闇を溶かした漆黒・・・。


 「ユート様、これは一体・・!?」
 ヘリオンの飛び去った方角を見据え、エスペリアが叫ぶ。
 「・・・詳しい事は解らないが、どうやらヘリオンは<拘束>に意識を乗っ取られたらしい。」
 「そんな・・・。」
 「手前の責任です・・・しかしまさか、こんな事が・・・。」
 「貴女が!」        
 ウルカを睨み付け、かつてない激情を見せるエスペリア。    
 「仲違いしている場合じゃない!・・・おいバカ剣、ヘリオンを追えるな!?」
 悠人はそれを制し、手にした己の神剣<求め>に呼びかける。
 『無論だ・・・だが契約者よ、心するが良い。あの者が向かう先に、五つの神剣反応を感じる。』
 「神剣反応?」
 『その内二つはラキオスの妖精の物だ・・・しかし、残り三つは敵だろう。それも恐るべき力を持って
いるようだ・・・我の力を持ってしても、容易くは討ち取れまい。』
 「くそっ!・・・エスペリア、ウルカ!・・・アセリアとオルファが正体不明の敵と交戦中のようだ。
ヘリオンもそこに向かっている・・・東の草原だ、行くぞ!!」

 エスペリアも、共に走るウルカに来るなとは言わない。
 今はただ、時間が惜しかった。
 (ヘリオン・・・・!)
 駆けながら、<拘束>に操られたヘリオンの、紅く光る瞳を思い出す悠人。
 (必ず助けてみせる・・・何か、何か方法があるはずだ!)


 「ヘリオンお姉ちゃん・・・どうしちゃったの・・・?」
 傷付いて膝をつくオルファが、悲しく問い掛ける。
 そんなオルファを庇いながら、懸命に<存在>を振るうアセリア。
 「オルファ・・・じっとしてなきゃダメ。」

 四半刻前。哨戒中の二人は、前触れも無く正体不明のスピリット達の襲撃を受けた。
 襲撃者は三名。共通するのは、いずれも暗い気配を纏い、虚ろな表情をしていた事。
 数の上での不利は否めなかったが、それ以上にこの襲撃者達は精強だった。
 その実力はあの稲妻部隊すらも凌駕し、ラキオスの主力たる二人も苦戦を強いられざるを得なかった。
 それでも、アセリアは一人を討ち取り、戦況を互角に持ち直したのだが・・・。

 『存外に粘る・・・あの時の力も、その全てではなかったか。』
 二人の襲撃者を従え、ヘリオンを操る<拘束>が呟く。
 「・・やらせない・・・オルファは、私が守る!」
 気力を振り絞って叫ぶが、疲労は隠せない。
 ヘリオンの姿を見て、加勢に来てくれたと思い油断したオルファを、<拘束>は背中から斬りつけた。
 幸い"ぴぃたん"が間に入り、致命傷を負う事は避けられたのだが・・・。
 負傷したオルファを庇いながらでは、流石のアセリアも守りを固めて耐え忍ぶのが精一杯だった。
 『イースペリアの頃より、成長しているとは思ったが・・・。』
 構えを解き、襲撃者達の後ろに下がる<拘束>。

 『・・・"ラキオスの蒼い牙"、過少評価していたようだ・・・まさか、仕留め切れぬとはな。』


 口惜しげに呟く<拘束>の見つめる先で、土煙を巻き上げ急速に近づく影。
 「アセリア、オルファ・・・無事か!」
 詰所から走り続け、肩で息をしながら悠人が呼びかける。
 「・・ん、私は・・・でも、オルファが。」
 「パパ、遅いよ~・・・。」
 安心して気が抜けたのだろう。そのまま気絶するオルファに、エスペリアが駆け寄る。
 少し遅れて、神剣を失ったウルカが到着するのを確認し、襲撃者達に対峙する悠人。

 「こいつら、帝国兵か?・・・・やい、大バカ剣!!・・・貴様の目的は何だ!?」
 『元より貴様は知らずとも良いことだ、<求め>の契約者よ・・・しかし、その為に手に入れたこの娘
の身体・・・軟弱そうに見えてなかなか骨を折らされたが、思わぬ拾い物だったわ。』
 ヘリオンの声でそう言うと、<拘束>はそのマナを増大させる。
 アセリアの様子を見ても、手加減が出来る相手ではなさそうだ。

 (おいバカ剣、ヘリオンを正気に戻す方法はないのか?)
 『あの妖精の精神は、<拘束>の完全な支配下にある・・・恐らく生半可な呼びかけでは、反応すら
しないだろう・・・加えてこの状況、救う気で戦うなどと言うのは、現実的では無い。』
 (ふざけるな・・・現実的だろうが無かろうが、俺は見捨てたりはしない!)
 <求め>にそう宣言する悠人に対し、襲い掛かる襲撃者二人。
 常ならば、その精密機械の様な連携攻撃の前に、手痛いダメージを被っていただろう。
 しかし、<拘束>に対する怒りに燃える今の悠人の前には、相手になる筈もなかった。


 「まずはこいつらを、何とかしないとな・・・!」
 オーラフォトンを集中し、刀身に乗せて叩きつける!!
 襲撃者の一人が、袈裟切りにされて、見る間に金色の霧となり四散する。
 しかし<拘束>は、悠人の奮戦を見て取るや、後方に控え、ただその一瞬だけを狙っていたのだった。

 『隙在り!・・・我とこの娘の秘められし力、その身で存分に味わうが良い!!』
 「しまった!?」
 紅い光の中、放たれた無数の突きが悠人を襲う。
 オーラフォトンの護りが"削り取られ"、血飛沫を上げて吹き飛ばされる悠人。
 「ユート様!」
 エスペリアが駆け寄るが、その傷の深さに慄然とする。
 アセリアもまだ全快には遠く、オルファの意識も戻ってはいない。
 ・・・しかし悠人は、その全身を血に染めながらも、再び立ち上がったのだった。

 『まだ足掻くか・・・だがその気力、いつまで持つかな?』
 <拘束>が戯れに放ったその一撃すらも、悠人は完全には避ける事が出来ない。
 「くっ・・負けるものか・・・・ヘリオン!」
 『む?』
 「目を覚ますんだ、ヘリオン!!・・・俺は信じている。お前はいつだっておっかなびっくり暗がりを
歩いていても、決して逃げ出したりはしなかったじゃないか!・・・そんな奴、跳ね除けてしまえ!!」
 『ククク、無駄だ・・・この娘の精神は、悪夢の中、闇に拘われている・・・。』
 「ユート様、このままではユート様ご自身の命が・・・!」
 「エスペリア、俺は・・・俺には仲間の命を見捨てる事なんて、出来やしない・・・俺は単なる人殺し
かも知れないけれど、だからこそ、見捨てる訳には行かないんだ!!」

 『愚かしい・・・愚かに過ぎるぞ、<求め>の契約者よ!・・・・もう良い、茶番は終わりだ!!』

 「――させぬ!」

 止めの一撃を繰り出そうとする<拘束>を、今まで沈黙を守っていたウルカが阻む。  
 動きの妨げとなる為か、着込んでいたメイド服は裾が引き千切られていた。

 「ウルカ、一体何を!?・・・今のお前じゃ、こいつらには・・・。」
 「手前とて、伊達に"漆黒の翼"と異名を取った訳ではありませぬ・・・ユート殿、ここは手前にお任せ
下さい・・・一命に代えても、ヘリオン殿を救い出して見せまする。」
 確かに、今の彼女の力はかつてとは比べるべくも無かったかも知れない。
 けれどもその声には、紛れも無い意思の力が甦っていた。
 そして感じるのは、初めて合間見えた時と同じ圧迫感―――その表情は、鬼気迫る物があった。
 「ユート殿、手前はここに来て、捜し求めていた何かを見つけたような気がします。」

 歩みを続けるウルカに対し、腕を組み、見下して吐き捨てる<拘束>。 
 『今更何をしようと言うのだ・・・とうに翼はもがれ、地べたを這いずり廻る事しか出来ぬ者が。』
 「手前の力、誰よりも貴様が知り抜いている筈・・・御託は良い。さっさとかかって来たらどうだ。」
 そう言うウルカの胸中は、如何ばかりか・・・。
 かつての彼女の相棒は、自ら手を下すまでも無いと一人残った配下をけし掛ける。

 「破ぁぁぁぁあああ!!」

 ――その時。
 場に居合わせた誰にも、信じられない出来事が起こった。
 神剣を失い、その力の多くを喪ったウルカは、非情の一撃に敢え無く倒れ伏す筈だった。
 しかし、ウルカはその大上段に振り下ろされた神剣を、両の掌で挟み受け止めてしまったのだ。


 「真剣・・・白刃取りかよ。」
 悠人が感嘆の声を漏らす。
 そしてウルカは轟雷の様な蹴りを放つと、神剣を奪い取り、仰向けに倒れる襲撃者の胸に突き立てる。
 ・・・その間数秒。まさしく、幻を見ているかの様な早業だった。

 『無刀取り・・・か。まさかその状態で、これ程の技を使いこなすとは・・・。』     
 予想外だった。先程まで余裕を見せていた、<拘束>の声も震えている。     
 無言のまま、再び無手で向かい合うウルカ。

 『奪った神剣は使わぬのか・・・だが、同じ手がそうそう通用すると思うなよ!』
 そして見せたのは、ヘリオンが得意とし、悠人の護りを破った突きの構え。
 「やばい・・・ウルカ、神剣を使うんだ!!」
 『最早遅い!・・・"漆黒の翼"よ、やはりその命、この手で散らされる運命にあったのだ!!!』

 悠人の叫びも空しく、次の瞬間<拘束>はウルカの胸を貫き通す。    
 しかし・・・。

 『何、抜けぬ!・・・き、貴様、最初からこれが狙いで!?』     
 「・・・今の手前の力で、限界を超えたヘリオン殿の斬戟を避ける事など叶わぬと解っていた・・・。
・・・さ、さあヘリオン殿・・・何をしているのです!・・・今こそ戒めを破り、帰還を果たすのです!!
・・・ユート殿が・・・皆が、待っておりまする・・・・!!」

 「ハッ・・・・・そうだっ、ヘリオン!・・・・戻って来い!!」
 「「ヘリオン!!」」
 悠人が、エスペリアが、アセリアが・・・口々に呼びかける。
 元々の使い手だったウルカが、<拘束>を屈服させようと集中を高めた事と相まって・・・。

 『ぅ・・・ぐ、ぐぉぉぉおおおおおお!!!!』

 ・・・・・・。
 ・・・・・・・・・・。

 ヘリオンは、闇の世界を漂っていた。
 時間すら解らぬその空間で、ただ意識だけが、虚空を彷徨う。
 外の世界で起きている事は、<拘束>がそうしたのか、ヘリオンにも伝わって来ていた。

 (私のせいで、ユートさまが・・・・)

 罪の意識が、ヘリオンを縛り付ける拘束を、より頑なな物とする。

 (私はただ、ユートさまのお力になりたかっただけなのに・・・)
   
 その純粋すぎる想いの為に、<拘束>に付け込まれ、身体を明け渡してしまった。

 ――けれども・・・。
 そんな自分を、ユートさまは信じていると言ってくれた。
 自分を仲間だと、見捨てる事は出来ないと・・・。
 これ以上、ユートさまを傷つけたくない。 
 それだけを念じ、諦めかけていた心に抵抗の火を燈す。

 己を取り戻したヘリオンを、暖かな光が包み込んで行った・・・・・。

 ――断末魔の悲鳴を上げて。
 <拘束>は力を失い、ヘリオンの翼に純白の輝きが戻る。
 ウルカを貫いたその刀身から、何か錆びの様な物が落ちると、邪悪な気配は霧となって舞い上がった。
 直後、共に崩れ落ちる二人。
 ・・・見れば、神剣が抜け落ちた後のウルカの胸に傷跡はない。
 傍らに残されたのは、拵えは<拘束>と全く同じながらも、清浄な気を放つ一振りの神剣。

 「終わったのか・・・?」
 「ヘリオンの翼が、元の様に・・・。」
 「・・ん・・・ユート、あれ!」
 「何!?」

 驚きに目を見張る悠人達の前で、収束して行く暗黒の霧。
 それは次第に、ウルカに倒された襲撃者の、胸に突き立てられた神剣へと吸い込まれ・・・同時に辺りに
漂うマナが逆流し、襲撃者の身体が修復されて行く。
 そして再生を終えて起き上がり、にやりと笑った襲撃者が放つその気配は・・・!! 

 『危ない所だった・・・"漆黒の翼"とその娘の力、甘く見ておったわ!・・・しかし我は実体を持たぬ神剣。
故に決して滅びる事は無い・・・この肉体では、程度は落ちるが今の貴様らなど・・・』
 「・・・ざけるな!!!」
 復活を遂げた<拘束>が言い終らぬ内に。
 悠人が放った怒号の一撃が、神剣ごとその身体を一刀両断にする。
 『な!!!・・・ま、まさか、我が・・・不滅の筈の、この我が・・・・!!???』  
 文字通り叩き潰されて、<求め>が纏ったオーラフォトンに掻き消され、消滅する<拘束>。

 「・・・ふざけるんじゃねえ、さっさと消えちまえ。」


 こうしてヘリオンの救出に成功した悠人達であったが、その消耗は激しく・・・第一詰所に戻るには、
王宮から担架を借り出して来なければならない程だった。
 
 今はそれぞれが自室に戻り、疲弊した心身を休ませていた。
 中でも重傷だった悠人が、ようやく治療を終えて横たわっていると、コンコンと戸を叩く者がいる。
 軋む体に鞭打って、応対する悠人。
 ・・・そこに立っていたのは、<失望>を胸に抱き、俯いて小さくなったヘリオンだった。

 「ヘリオン・・・良かった、意識が戻ったんだな。」
 「はい・・・ウルカさんも、先程目覚められて、後で話をしたいと言っていました。」
 「そっか、じゃあ後で様子を見に行かなきゃな。・・・まあ、立ち話も何だから入りなよ。」
 悠人は安心してそう勧めたのだが。
 促されて、おずおずと部屋に入るヘリオンの表情は冴えない。
 「俺の部屋に来るのは初めてだっけか?・・・ほら、椅子。ちょっと待ってな茶菓子でも出すから。」
 「・・・あ、あの!」
 「ん?」
 「ユートさまは・・・私を責めないんですか?」
 「あれは・・・ヘリオンのせいじゃない。元々俺がウルカの監視を命じなければ、<拘束>に狙われる事も
無かったんだし・・・皆無事だったんだから、それでいいじゃないか。」
 「でもっ!・・・理由はどうあれ、私は皆を傷付けました。」
 「・・・。」
 「それに・・・それに何より、私はユートさまの命を危険な目に!・・・私なんて・・・私なんて敵のスピリット達と
一緒に、斬り捨ててしまったら良かったのに!!」

 悔恨の涙を流し、<失望>を己の首にあてるヘリオン。
 「ユートさま、知っていますか?・・・ラキオスの法律では、人に重大な危害を与えたスピリットは、
こうやって処刑されるんです・・・。」
 「な・・・馬鹿な真似はやめろ!」
 「ごめんなさい、私にはこうするしか・・・・!!」
 (間に合わない!?)
 悠人が<失望>を取り上げようと、ヘリオンに迫った時・・・。
 突然部屋中が強烈な光に包まれ、目の前が真っ白になる。

 「な、何だ!?」
 「熱・・・!」
 眩む目をこすり、ようやく悠人の視界が回復した時、そこに見えた物は・・・。
 明滅する<失望>と、両手を火傷して床にへたり込んだヘリオンの姿だった。

 「どうして・・・<失望>が私を助けたの?・・・今まで、喋った事もなかったのに・・・。」
 呆然とするヘリオンを、悠人の容赦ない平手が襲う。
 「あう!・・・い、痛いです・・・。」
 「痛くしてるんだから当り前だ!!」
 そう言ってその小さな身体を、強引に抱き寄せる。
 「いいか!?・・・俺は決してお前を見捨てたりしない・・・佳織を救い出す為とは言え、誰かを犠牲に
して良い筈がないんだ!・・・確かに俺は、今まで生き抜く為に多くの敵を殺してきた。たぶんこれから
だって、そうしなければならないと思う・・・けれど、矛盾しているかも知れないけれど・・・自分の命を
大切に出来ない奴に、相手を本当に思いやる事なんて出来ないとも思う。」


 そこで一旦言葉を区切るが、抱きしめる腕の力は更に強くして続ける。
 「自分でも虫の良い事言ってると思うけど、俺は出来るだけ、人に死んで欲しくないんだ・・・だから
つまり、あ~・・・上手く言えないけど、ヘリオンは死ぬな!これは命令だぞ・・・お前は良い奴なんだから!
・・・これからも俺の側に居て、俺が悩んでたら助けてくれ・・・わかったな!?」
 自分でも言いたい事が整理出来ずに、強引に勢いだけで納得させようとする悠人。
 しかしヘリオンは、その熱い想いに触れて、嗚咽をこらえるのが精一杯だった。

 「・・・・・ユートさま、私は生きていても、良いんですか?」
 「当り前だ。」
 「一緒にいても?」
 「ああ。」
 「・・・そ、それじゃ・・・もうちょっとだけ、こうしていて頂けたら、死ぬのやめます。」
 「・・・・・・。」
 「す、すみません、嘘です嘘です!・・・これからも、精一杯頑張ります!!」 

 「別に、嘘じゃなくても良いさ・・・・・でも、あと、もうちょっとだけだからな。」


 ・・・この事件を境に、ヘリオンは急激な成長を遂げ、前に歩き出す事となる。
 そして本来の神剣<冥加>を取り戻したウルカは、悠人の生き様に感服し、これ以降その指揮下に入る
事となり、ラキオススピリット隊は大きく戦力を増大させた。
 時期を同じくして、賢者ヨーティアは<抗マナ変換装置>の完成を宣言する。
 それは停滞の時が終わり、再び時代が、大きく動き出す事を意味していた・・・。