明日への飛翔

第六幕

 聖ヨト暦331年、シーレの月。
 女王レスティーナはマロリガン共和国に対する再進撃の号令を発した。
 長らくラキオス王国の進撃を阻んで来た<マナ障壁発生装置>に対する切り札、<抗マナ変換装置>の
完成を受けての事である。
 エトランジェ、<求め>のユート率いるラキオススピリット部隊は、これまでの鬱憤を晴らすかの様に
瞬く間にスレギトを制圧すると、マナ障壁の無効化に成功した。
 対するマロリガンは稲妻部隊を派遣しスレギトの奪還を試みたが、勢いに乗る悠人達はこれを撃破。
 更にスレギトの防衛を続けながら一部隊を派遣し、デオドガンの制圧に成功する。
 その後も悠人達は部隊を三方に展開し進撃を続け、ラキオス国民は戦果に大いに沸いたが、ここに来て
事態は急速な展開を迎える事となる。
 開戦前から各地で調査を続けていた、情報部から二つの重大な情報がもたらされたのだ。

 一つは、マロリガンに侵攻中だった帝国軍が、不可解な撤退を始めた事。
 現在帝国に対しては悠人達本隊に代わって、ラキオスを除いた旧北方四カ国から徴収されたスピリット
達による別働隊が警戒を続けている。
 しかし、帝国軍が転進しラキオスに侵攻して来たならば、どこまで対抗できるかは心もとない。
 そして二つ目は・・・何と、マロリガン共和国大統領クェド・ギンが、自国のエーテル変換施設に立て
篭もり、動力中枢である永遠神剣の暴走を企てているらしいと言うのだ。
 このままでは、イースペリアの二の舞どころか、その数倍の規模のマナ消失が引き起こされてしまう。
 その詳しい影響範囲は現在計算中だとヨーティアは言っていたが、最早一刻の猶予もなかった。

 (別に俺は正義の味方じゃないけど・・・もう二度と、あんな事は起こさせやしない・・・・!)
 運命のカウント・ダウンを前に、怒りに燃える悠人であった。

 ――マロリガン共和国エーテル変換施設動力部

 破滅へと向かって鳴動を続ける巨大な永遠神剣を、クェド・ギンは万感の思いを込めて見上げていた。
 スレギトが制圧されてからのわずか数日で、自分の名は"国民の信頼篤き大統領"から、"人類に仇なす
狂人"へと貶められた。
 ・・・だが、それが何だと言うのだ!
 懐から煙草を取り出し、紫煙を燻らせる。
 思い返すのは、あの頃・・・帝国の未熟な一研究員に過ぎなかった自分。
 しかし、最も解放され、情熱に満ち満ちた時代でもあった。

 ヨーティア・リカリオン。歴史上最高の天才。かつて我が師であり、先達であり、目標であり、同僚で
あり、友人であり、天敵であり・・・恋人でもあった存在。
 あの豪放磊落な賢者の下には、今も白き妖精が付き従っているのだろう。
 ヨーティアに取って、永遠神剣とスピリットの起源については、永遠の命題の一つであった。
 その研究過程に於いて様々な副産物が生み出され、その内のいくつかは凡人には計り知れない研究成果
として扱われた―――彼女は、決してそれを望みはしなかったが。

 そして、帝国は・・・スピリットが持つ因子について調べる研究の中から、人為的にスピリットを生み
出す事の出来る可能性が導き出されると、イオを実験動物に供する事を自分達に迫ったのだ。
 ホワイトスピリットを母体に、より戦闘能力の高い、複製を量産する為に・・・!
 悪魔の所業だった。
 哀れにも使役される者として生まれついた存在から、より罪深き存在を創り出そうとするとは・・・。
 自分達はそれを阻止する為に、帝国を追われる身となった。
 そして我が手元には、イオの「素」となるべき、マナ結晶体と特殊な永遠神剣<禍根>が残ったのだ。

 「かつて悪魔の所業と呼んだ物に、ここに来て頼る事になるとはな・・・だが、しかし!」
 例えこの身がバルガ・ロアーに堕ちようとも、私は運命に打ち克って見せる・・・!!
  
 そうして決意を新たにするクェド・ギンの背中に、声を掛ける一人の男がいた。
 「よぉ、大将・・・悪ぃな、またノックは省略させて貰った。」
 そう言って笑う、飄々とした態度はいかにも軽かったが、一見無防備に見えるその姿は隙が無く、纏う
オーラは離れていても肌を刺すようだ。
 そして、クェド・ギンはその男が瞳の奥に、高い知性と深い洞察力を宿している事を知っていた。
 ・・・知ってはいたのだが。

 「ここに至る通路には獣性を倍加させたスピリット達を配置していた筈なのだが・・・それすらもお前
には障害足りえなかったか、我が国のエトランジェよ。」
 「止してくれ、買い被っても何も出ないぜ・・・俺はただ必死で逃げ回った上で、一人ずつ気絶させて
来ただけさ・・・当身でほいっとな。」
 簡単に言ってくれる・・・クェド・ギンはその男―――<因果>のコウインが、以前『この世界の人間は
ハイペリアと違って、自分で戦わないから武術などでは遅れている』と言っていたのを思い出した。
 その後『あくまで対人用の物はだが・・・』とも付け加えていたが。

 「俺が片付けちまったら、後で大将が困るだろ?」
 「それはありがたいな・・・と、言うことはだ。それでは議会の老人共に言われて、私を止めに来たと
言う訳でもなさそうだな。まさか、生きてる内にまた会うことがあるとは思ってもいなかったが。」
 「あいつらには恨みこそさえあれ、恩も義理もない・・・が、あんたは別だ。この世界に来て、俺達を
人間扱いしてくれたのは大将だけだったからな・・・。」


 実際、クェド・ギンの保護が無かったならば、<空虚>に精神を取り込まれてしまった今日子は、とうの
昔に発狂するか衰弱死してしまったに違いない。
 それを割り引いても、光陰は運命に嫌われたと自負するこの男に、同類めいた感情を持っていた。

 「それこそ買い被りと言う物だ。私は、そう遇する事が双方に利すると思い、行動したに過ぎん。」
 「まあ、そうなんだろうけどな・・・それで、だ。こんなとこに篭ってちゃあ、外がどうなってるかも
解らんだろうと思ってな。出る前に、戦況報告でもしておこうかと思ったわけだ。」
 「ほう?」
 今のクェド・ギンに取ってマロリガンの戦況などは些事に過ぎなかったが、運命が遣わした者達がどれ
ほどの力を持っているのかと言う事については、興味があった。
 そして果たしてその者達が、運命に抗う力を持っているのかどうか・・・。

 「ぶっちゃけると、戦況はすこぶる悪い・・・大将が俺達にもっと強力な権限をくれていれば、こうは
ならなかったんだろうけどな。」
 「そういじめてくれるな・・・それで、老人共の言う通りにしたらどうなった?」
 「ああ。元々稲妻部隊は、戦力ではラキオスの連中を上回っていた。けれど部隊を三方に分けて、押し
包むように展開した結果・・・敵に各個撃破される隙を与えてしまったんだな。」
 どうしようもない、と言う風に両手を挙げてみせる光陰。
 「・・・まあ、これは相手も悪かった。あの爺さん達ばかり責めるのも可哀相だな。ラキオスの連中も
部隊を三つに分けたんだが・・・まずニーハス方面には、"ラキオスの蒼い牙"の姿が確認された。これは
予想の範囲内だったが、ガルガリン方面が問題だ・・・あの"漆黒の翼"が指揮を取っているらしい。」


 「ふむ・・・"漆黒の翼"が、ラキオスの部隊をか・・・ラキオスが帝国と協力する事は有り得んから、
やはり奴がラキオスに投降したという情報は本当だったか。」
 愚かな議員達はそれを誤報ではないかとうろたえたが、クェド・ギンはそれが事実だと確信した。
 あの若き女王ならば、かつて敵であった者でも用いるくらいの度量は充分にある。
 そして彼女達に運命が味方しているならば、今この時期に帝国の遊撃隊長がラキオスに帰属するくらい
の事は、あってもおかしくないと思っていた。

 「・・・これでラキオスには、"大陸の三傑"の内二人が揃った事になる。」
 「エトランジェが出現してからは、影も薄くなっていたがな。では我が方の"三傑"はどうしている?」
 「クォーリンには、ミエーユの守りを任せてある。"深緑の稲妻"と呼ばれるだけあって、今までラキオスの
侵攻を受け止めていたが・・・恐らく中央方面部隊があっちの主力だ。長くは持たないだろうな。」
 「そうか・・・それで、とうとうお前も出ると言うのか。」
 「前にも言ったろう?・・・ここまで来たら、大将に付き合ってやるって。決着をつけなきゃならん奴も
いるしな・・・あ~、防衛隊はまんま残して置くから、議会府の連中が邪魔をする事はない。安心して篭城
してな。それじゃあ、気絶させた奴らが起きる前に行くが・・・。」
 「どうした?」
 「いや、何でもない・・・達者でな、大将。」      
 「ああ、健闘を祈っておるよ。」
 背を向けて片手を挙げると、そそくさと元来た道へ戻る光陰。
 それを見送りながら、クェド・ギンは苦笑して呟いた。

 「まったく、最後まで食えん奴よ・・・だが死ぬなよ。奴らもまた運命を乗り越えるとしたならば・・・。
・・・その時は、お前達もそちら側に行け。」

 ――北方ニーハス侵攻部隊。

 「はぁ・・・面倒。どうせ私達本命じゃないんだし、テキトーにやっちゃダメかなぁ・・・。」
 「こ、こらニム!・・・私達も、ここを制圧したらマロリガンに向かわなきゃならないんですからね!?」
 「は~い・・・・やれやれ、お姉ちゃん真面目だからなぁ・・・。」
 「・・・前方に敵影確認・・・来ます。」 
 「ん・・・来た敵は・・・倒す!!」


 ――南方ガルガリン侵攻部隊。

 「私もパパと一緒が良かったなぁ・・・よーし、敵さんいっぱいやっつけて、褒めて貰うんだから!」
 「あらあら~・・・置いて行かないで下さいね~?」
 「ふむ・・・では、手前らも参りましょうか。くれぐれも、油断なさりませぬよう。」
 「余計な気遣いは無用よ・・・それに勘違いしないで、私はまだ貴女を信用してないの・・・その働き、
しかと見せて貰うわ。」
 「望む所です・・・元より手前は、剣以外に証を立てる術を知りませぬ。」


 ・・・そして時は流れ、二部隊より遅れて侵攻した中央ミエーユ侵攻部隊。

 「ねぇねぇシアー、ヘリオンって前線から離れてる間に、何かあったのかなぁ?」
 「・・・解らないけど、すごいと思う・・・。」
 双子の姉妹が話に興じる内に、ヘリオンは先へ先へと急いで行く。
 これまでに遭遇した敵の数は二桁に届こうという勢いだ。
 ・・・そして、その半数をヘリオンが斬っていた。


 (・・・<失望>が、いつもより身近に感じられる・・・。)

 あの夜からヘリオンは、自身に表れた明確な変化を感じ取っていた。
 以前の自分は<失望>を信頼するどころか、ただ一人第九位の神剣を持つ事にコンプレックスを感じ、
また育成期間の体験から、血塗られた剣と忌み嫌っていた。
 けれど、今の自分は違う・・・。
 自分が心身共に強くなれば、<失望>は力を貸してくれる。
 そう言ったエスペリアの言葉が、本当に理解できた気がした。 

 「ヘリオン、先行し過ぎよ・・・少し下がりなさい!」
 「あ・・・す、すみませんヒミカさん!」
 我に返り隊列に戻るヘリオンに対し、暖かく微笑むヒミカ。
 「でもその積極性は、以前にはなかった物ね・・・・それが無謀にさえならなければ、貴女を守る力に
成るわ・・・私の見た所、斬った敵は全て急所を外していたようだけれど。」
 「うぅ・・・や、やっぱりばれてましたか。」
 「でも今はそれで良いわ。十分戦闘不能に陥るくらいのダメージは与えていたし・・・今日は敵を倒す
よりも、優先しなくてはならない事があるから。」
 「はい!」
 
 そしてヘリオン達は、ミエーユの行政地区にある中央広場に侵入する。
 ここを抜ければ敵の本拠はもうすぐだったが、突然強い神剣反応を感じ急停止した。 
 ――直後轟音と共に、目と鼻の先を荒れ狂う衝撃波が襲い掛かる!

 「あ、危ない所だった・・・。」
 「・・・運の良い奴らだ、私のエレメンタルブラストに気付くとは。」

 そう言って立ち塞がったのは、五名の稲妻部隊を引き連れた緑スピリット。
 その神剣は槍状をしていながら、柄とは垂直にもう一つの刃が伸びて、その先が引っ掛けられる様に
曲がっている――ハイペリアで言う、「戟」に近い形状をしていた。

 「そう言う貴女は、"深緑の稲妻"かしら?」
 反応を見極めようと、ヒミカが問いかける。
 「・・・ああ、<峻雷>のクォーリンだ。コウイン様に、このミエーユの守りを任されている。」
 (やっぱり・・・。)
 ヒミカの目配せに、ぎこちなく反応するネリー。
 この落ち着いた態度といい、やはり充分に危険な相手のようだ。

 「しかし・・・中央部隊は貴様らだけか?・・・南北の部隊ではエトランジェは確認されていないそう
だが・・・ならば、一体どこにいる!?」
 「ユートさまは、今は別の場所にいます・・・けれど、貴女をそこには行かせません!」
 そう言って<失望>を構えるヘリオンに、ネリー、シアー、ヒミカの三人が続く。
 「まさか、三部隊全てが陽動だと言うのか・・・ならば、貴様らを蹴散らして探しに行くまでだ!」
 対する稲妻部隊は六名。倍する敵に苦戦は必至だと思われたが・・・。 

 「よーし、いっくよ~・・・・・サイレントフィールド!!」
 ネリーが唱えた神剣魔法が、周囲のマナを沈静化させる。
 それに伴い、各人の護りの力が低下し、同時に魔法が封じ込められた! 
 「へへ~ん、<静寂>のネリーの力を見たか♪」
 「こ、これで、しばらくは剣だけで勝負ができます!」
 接近するヘリオンと、迎え撃つクォーリン。
 「面白い・・・ならば我が<峻雷>の一撃、見事受けて見せよ!!」

 それより少し前・・・。
 悠人はエスペリアと二人、マロリガン本土を目指していた。
 ミエーユを大きく迂回し、道無き荒野を駆け抜ける。
 方角は、天を衝き立ち上る光の柱が教えてくれた。
 神剣の気配を抑え、可能な限り速く、あの光の下へ・・・。
 (ヘリオン、皆・・・無事でいてくれよ!)
 悠人は駆けながら、先程の作戦会議を思い返していた。

 『たった一人でマロリガンに向かうなんて・・・余りに無茶です!!』
 悠人の提案に、エスペリアが噛み付く。
 『無茶は承知だけれど、他に方法がないんだ・・・今からではもう、部隊を呼び戻して再編成するのは
不可能だ。ならば各部隊が敵の防衛線を突破し、それぞれマロリガンを目指すしかない。』
 ヨーティアからの通信を受けて、現状で考えられる唯一の手段がそれだった。
 その基本方針は、既にイオが<理想>を通じて各部隊長に伝令している。

 『俺達中央方面部隊は、このままミエーユを陥落させて進むしかない・・・けれど、もし他の二部隊が
先に到達したなら・・・光陰と今日子が、黙ってはいないだろう。』
 ミエーユを守るのは、光陰達エトランジェを除けば、稲妻部隊最強の"深緑の稲妻"である。
 そうなる可能性は、決して少なくはなかった。
 『あいつらと皆が殺し合うなんて、俺には耐えられない・・・だから俺自身が決着を付けたいんだ。』
 『しかし・・・・。』
 『大丈夫、俺だって死にに行くつもりはない。これだって、ちゃんと考えあっての事だ。』


 その時、抗弁しようとするエスペリアを遮って、ヘリオンが口を開いた。
 『それでしたら・・・エスペリアさまが、ユートさまに付き従うと言うのはどうでしょうか?』
 『なっ・・・!』
 『一体何を・・・回復無しで、ミエーユを落そうと言うの!?』
 『私もヘリオンに賛成です。要はユート様が、敵エトランジェを倒す時間さえ稼げば良いのでしょう?
・・・最初から撹乱と陽動を目的に行動していれば、被害は最小に防げる筈です。』
 そう言って、ヒミカが助け舟を出す。

 『それに・・・・ネリーとシアーをこの中央部隊に加えたのは、敵サポーターを無力化する為だと理解
しています。強力な神剣魔法さえ防げれば、勝算は立てられるのではないでしょうか。』
 『わ、もしかしてネリー達って、すっごく頼りにされてる?』
 『そ、そうなのかな・・・。』
 沈黙し、考え込む悠人。
 『ユートさま・・・私達は決して死にません。ユートさまが、コウインさまとキョウコさまを救う事を
諦めていないように・・・例えどんな窮地に陥っても、決して諦めませんから!』
 ヘリオンは、自分の心を理解してくれている・・・ならば、俺もそれを信じるのみ。
 『解った・・・ミエーユの攻略はヒミカ以下四名に任せ、俺とエスペリアの二人は敵の目を欺きながら
ミエーユを迂回、そのままマロリガンを目指す!』
 ・・・恐らく、その途中で光陰達と戦う事になるだろう。
 どんなに気配を隠そうとも、<因果>の目には・・・いや、光陰の読みには、無駄な筈だ。   
 『但し自分達の命を最優先に行動しろ。必ずマナ消失を回避し、俺達は生きて再会する。いいな!?』
 『『『『はい!!』』』』


 道無き道の先。疾走を続ける悠人達の前に、辛うじてそれと解る人影が見える。
 ブレザーの上に、マロリガンの戦装束を着込んではいるが、紛う事無きそのシルエットは・・・。
 「・・・光陰!」
 「よお、元気そうだな・・・だがたった二人で来るとは、少々予想外だったな。」
 そう言って、軽々と片手で<因果>を掲げて見せる。
 背後には、直属の稲妻部隊数名が、光陰の号令を待ち待機していた。

 「・・・俺がこのまま、こいつらに攻撃を命じたらどうするつもりだ?」
 「お前はそんな事しないよ。もし俺を殺るのなら、必ず一対一で戦う男だ。」
 この緊迫した場面で、まるで冗談を投げ掛け合うかの様に会話する二人。
 光陰はぽりぽりと頭を掻きながら、尚も続ける。
 「さすが親友・・・だが、先に来たのが今日子だったらどうするんだ・・・あのじゃじゃ馬姫も、今は
手加減してくれないぜ?」
 「光陰・・・お前が、今日子を捨石にして俺の消耗を狙うなんて戦略、取る訳がないだろう!!」
 激情と共に、オーラフォトンを展開させる悠人。
 「あ~~、すまん、今のは俺が悪かった・・・しかしその様子なら、戦う覚悟は出来たようだな。」
 対する光陰も、<因果>を構え悠人に匹敵するオーラを集中させる。
 エスペリアも、稲妻部隊も、手出しをする様子はない。
 ・・・いやしたくとも、もはやその場の誰も、この二人の間に介入する事はできなかった。

 「俺は仲間に恵まれてるからな・・・おかげさんで、覚悟はできた・・・けどそれは、戦って殺す覚悟
じゃない・・・何が何でもお前達を救って、一緒に元の世界に帰るって覚悟だ!!」

 ――場面は変わり、その頃のミエーユ。

 「く、こいつ・・・本当に赤スピリットか!?」
 「・・・悪いけど、負ける訳には行かないの。」 
 スピリット同士の戦いに於いて、神剣魔法を封じ敵サポーターを叩くというのは常套手段である。
 故に、稲妻部隊もそう行動したのだが・・・。
 それが赤スピリットの中では例外的に、接近戦をも得意とする<赤光>のヒミカでは相手が悪い。
 彼女にとって、容易く倒せると油断した者を返り討ちにする事など造作も無い事だった。
 ましてや、自分が敵を引き付ければその分、他の者達の負担が軽くなる。
 今のヒミカに対し初手を誤ったのは、致命的なミスと言えた。
 「格闘は好き?・・・剣の力を借りた連撃、行くわよ!」

 一方、ネリーとシアーはと言えば・・・。
 「きたきたきた~♪・・・この距離はネリーの間合い!」
 「・・・もう、ネリーったら、背中に気をつけて!」  
 回転は速いが動きが粗いネリーの攻撃を、シアーが絶妙のタイミングでサポートする。
 二人はまるでそれ自体一つの生き物の様に、互いを補完し合い戦場を翔け続けた。
 ・・・その青い妖精達が織り成す舞に、さしもの稲妻部隊も翻弄されるばかりだった。

 ――そして・・・。

 「どうした、黒い妖精よ!・・・逃げ回るだけでは道は開けぬぞ!?」
 息もつかせず繰り出される、クォーリンのまさに稲妻の様な突きの数々!
 ヘリオンはそれを紙一重で避けながらも、反撃の機会を見出せずにいた。

 (やっぱり、この人・・・とてつもなく強い!)


 緑スピリットであるクォーリンは、神剣魔法を封じられた事によってその回復能力を使用できないでいた。
 しかしネリーのサイレントフィールドには、敵味方問わず効力を与えると言うデメリットもある。
 結果として一対一で白兵戦を強いられるヘリオンには、より危険な役割が与えられたと言って良い。
 ・・・加えてクォーリンの神剣の形状。
 生半可な斬戟では、たちまち<失望>を絡め取られてしまうだろう。
 (で、でも・・・。)
 一人で複数を相手にするヒミカも、最大戦速で翔け回るネリー達も、そう長くは戦い続けられない。
 何よりこうしている間にも、敵の増援が到着するかも知れないのだ。
 自分が指揮官であるクォーリンを倒し、突破口を開かねばならない・・・!
 ヘリオンはそう覚悟すると、精神を集中しマナを高め続けた。

 「・・・やっと本気になったようだな。」
 「私は、あなたを殺したくはありません・・・けれど、守るものの為に・・・勝たせて頂きます!」
 「そうか・・・私にも、守らねばならないものがある・・・その為に全てを賭けよう、来い!!」
 <峻雷>を構えるクォーリンの周りを、螺旋を描くように駆け続けるヘリオン。
 空中から仕掛けても、ハイロゥでの姿勢制御くらいでは、この相手を出し抜く事は出来ないだろう。
 ならば自分の最大の武器である俊敏さを持って、撹乱し隙をこじ開けるしかない。

 ・・・・早く、速く、疾く・・・・!!

 フェイントを織り交ぜ、突きを打ち払い、堅い護りを一気に断ち切るその機会は・・・。
 「そこです!」
 「甘い!!」
 研ぎ澄まされたクォーリンの迅雷の突きを、反応速度で上回るヘリオン。
 肉を切らせながら姿は既にそこに無く、向き直る前に最高の技で持って勝負をつける!

 「野に放たれた火のように・・・・・・星火燎原の太刀!!」

 ・・・・・。
 ・・・・・・・・・。

 「・・・今日子、諦めるな!・・・生きて償うんだ、俺達も一緒にいる!!」
 
 悠人は・・・目の前で再び<空虚>に支配されつつある、親友に向かってそう叫んだ。
 『しょせん、人は心弱き存在・・・我の支配に勝てる筈もなかったな。』
 今日子の声で、<空虚>が嘲笑う。

 『契約を果たすのだ・・・最早あの娘が己を取り戻す事は無い・・・<空虚>を破壊せよ!!』   
 (黙れバカ剣!・・・俺は光陰に誓った。必ずこのじゃじゃ馬を救い出すってな。)
 『<誓い>だと!?その名を出すでない、契約者よ・・・我には及ばぬとは言え<空虚>の力は絶大だ。
・・・恐らくその娘では抵抗出来まい・・・<拘束>の時とは訳が違うのだ。』      
 (誰が<誓い>の話をした、このバカ剣が!・・・待てよ、<拘束>か・・・。)

 悠人が<求め>と会話していても、<空虚>は容赦無く攻撃を続けて来る。
 止むを得ず応戦し、互いに浅手を負うが、形勢に影響する物ではない。
 「よし・・・いいかバカ剣、<空虚>の意識だけを断ち切るぞ!!」
 『無茶を言うな・・・む?・・・ま、まさか、止めるのだ契約者よ!』
 
 クォーリンをも上回る、<空虚>のペネトレイトの一突き。
 悠人はそれに対して自ら左腕を差し出すと、今日子の動きを止めて、オーラを纏った蹴りを放った。
 『・・・ぐあっ!!?』
 衝撃と共に吹き飛ばされる今日子。
 ・・・そして<空虚>は、悠人の腕に突き刺さったまま沈黙する。

 「痛って~~~~!だ、だがまあ、ウルカみたいに綺麗には出来なかったけど、上手く行ったか?」

 『この愚か者が!!!』

 悠人が自らの閃きに満足していると、怒鳴り声と共に、<求め>が最大級の頭痛をお見舞いする。
 「うがぁ!・・・って、何しやがるこのバカ剣!!」
 『愚か者と言ったのだ、契約者よ・・・今のはその娘が、直前に自ら<空虚>の意識を切り離したのだ。
・・・そうでなければ、傷口から直接電撃を流されて、今頃黒炭と化していた所だったぞ。』
 「そ、そうだったのか・・・でも、それなら今日子は助かったんだな?」
 『・・・あの娘なら<空虚>の支配からは脱したようだ・・・だが喜んでいる場合ではないぞ。それは
つまり、生身の人間が無防備な状態で契約者の蹴りを受けたと言う事だ。』
 「げ!?・・・エ、エスペリア、今日子を頼む!!」  
 『全く愚かな・・・だが、人の精神は時に我等神剣をも凌駕するのだな・・・身を捨てて救おうとする
汝の想いが届いたからこそ、あの娘も己を取り戻す事が出来たのだろう。』
 そう言って<求め>は珍しく、愉快げに笑うのだった。
 
 そして悠人の蹴りを受けて今日子はあわや重傷を負う所だったが。
 幸いすぐに治療に取り掛かった為、命に別状は無さそうだった。
 (後できつい仕返しは覚悟しとかなきゃな・・・。)
 その恐怖に身震いする悠人。

 「こいつを頼む・・・必ず救ってやってくれ!」 
 今日子の部下に後を任せると、二人はやがてマロリガンへと到達した。

 「この大気の震え・・・。」
 「はい・・・あの時と同じですね。」
 悠人と同じ物を感じ取り、暗い表情をするエスペリア。
 マロリガン市街地からは、衝突する神剣反応が感じられた。
 やはり、他の二部隊は先に到着しているようだ。
 
 「必ず食い止めてみせる・・・行くぞ!」


 合流を果たし、作戦会議を行う悠人達。
 「遅れて済まない・・・しかし皆、良くやってくれたようだな。」
 「ウルカさんとセリアさんが頑張ってくれましたから~~。勿論、オルファちゃんも~。」
 「わ、私は自分の役目を全うしただけよ・・・ウルカの働きは、認めてあげてもいいけど・・・そんな事
よりも、他の四人はどうしたんですか!?」
 「ヒミカやヘリオン達は別行動を取っている・・・必ず後から来る筈だ。」
 それだけを、しかし強い願いを込めて答える。

 ・・・そして悠人は現状報告を受けると、おもむろに口を開いた。
 「先程ヨーティアから通信が入ったんだが、皆にも聞いておいて欲しい・・・・マナ消失の影響範囲の
計算結果が出た。結論だけ言うと、大陸がまるごと吹き飛んでもおかしくないらしい。」
 悠人の発言に、息を呑む一同。
 「今や俺達の肩にはラキオスだけでなく、この世界の命運もが掛かっているという事だ。何としても、
エーテル変換施設の暴走を食い止め、マナ消失を阻止しなければならない。」

 ユートの後を引継ぎ、作戦を説明するエスペリア。
 「まず、ラキオススピリット部隊は一丸となって、エーテル変換施設までの突破口を開きます。その後
数名が内部に突入し、残る全員で稲妻部隊の妨害を阻みます。突入部隊の内訳は、ユート様と私、そして
ウルカにセリアの、合わせて四名です。防衛部隊の指揮は、ファーレーンに任せます。」
 「えー!?・・・今度こそ、パパと一緒だと思ったのに~。」
 「・・・オルファ、この作戦は万に一つの失敗も許されないの。エーテル変換施設は既に臨界直前で、
いつマナ消失が起きてもおかしくない状態にある・・・その為少しでも影響を避ける為に、内部では強力な
神剣魔法の使用は控えなければならない。だからナナルゥも貴女も、連れて行く訳には行かないの。」
 「ちぇっ・・・わかったよ~。」
 「それとファーレーン。戦闘はあくまで殲滅目的でなく、時間を稼ぐ為にやってくれ。危険を避けて、
できるだけ相手側にも死者を出さないように・・・無茶を言うが頼む。」
 「承知しました。」
 「よし・・・じゃあ皆、行くぞ!」


 マロリガンに残された最後の防衛線を突破し、強化され獣性を剥き出しにしたスピリット達を退け。
 ・・・悠人達は、暴走を続ける動力中枢の内部への進入を果たした。
 それぞれの神剣は警戒音を発し、空気中のマナは、むせ返る程に濃い。

 「やはり来たか・・・ラキオスのエトランジェよ。」
 悠然と振り返るクェド・ギンの瞳に、狂気の陰りはない。
 ならば、一体何がこの男にそうさせたのだろうか。
 「お前達は、自分の意思でここに来たと思っているだろうが・・・そうではない。考えた事はあるか?
戦い続けるその先に、何があるのか・・・我々は、運命という名の喜劇を演じる道化でしかない!」
 「大統領、あんたが何を言っているのか、何をしたいのか俺には解らない・・・けれど俺は、佳織や、
ラキオスの皆や、この世界の人間を破滅させる様な、そんな事を許す訳には行かない!」
 「世界の破滅か・・・それを願っているのは俺ではない。俺がそうせずとも遠くない未来、世界は滅びを
迎えるだろう・・・だがそれは、永遠神剣の思惑によってなのだ。それが運命だと言うのなら、俺は抗おう。
人の手で脚本を塗り替える・・・そう、この世界を消し去る事によってな!」

 そう言ってクェド・ギンは、一個のマナ結晶を取り出す。その右手には、永遠神剣?
 「この<禍根>は、唯一人間が操る事の出来る神剣だ・・・さあ神剣の使者よ、人の意思と剣の意思。
どちらが未来を握るのか・・・・。」
 クェド・ギンの手の中で、<禍根>とマナ結晶が共鳴を始める。
 それは次第に周囲のマナを取り込んで、白く輝き、クェド・ギンの姿が光の中に消える・・・!
 「神剣の思惑通りに生きるなど、あってはならない。」
 「よ、よせ!!」

 「俺達は、生かされているのではない・・・生きているのだ!!!」


 眩い光の中、悠人は確かにクェド・ギンの最後の言葉を聞いた気がした。
 『お前達が勝ったなら――俺の意思を――継いでくれ』
 その意味は解らない・・・けれど、悠人はクェド・ギンが己の野望や狂気の為に、こんな事をしたのでは
ないと確信した。彼も何か・・・自分の命よりも大事な何かの為に、戦っていたのだ。

 だが今は、感傷に浸っている場合ではない。
 一刻も早く、神剣の暴走を食い止めなければ。
 そして悠人は歩き出すが、クェド・ギンが消えた場所に、一人のスピリットが立っている事に気付く。
 「ユート様、あれは・・・!」
 エスペリアが叫ぶ。
 そのスピリットは、髪も、肌も、全身が抜けるように白かった。
 自我は感じられず、ただ血の色に染まる瞳だけが、彼女がどのような存在かを示していた。

 「俺達が勝てばってのは、こいつにか!」
 それぞれがオーラフォトンを、ハイロゥを展開する。
 先手必勝とばかりにウルカが斬りかかるが、その裂帛の一撃もホワイトスピリットの護りの前には僅かな
傷しか与えられず、疾風の槍の前に飛び退かざるを得なかった。
 続いて詠唱された神剣魔法は、セリアのアイスバニッシャーをも跳ね除け・・・悠人が精霊光のバリアを
張って尚、それを突き抜け猛威を振るう!

 エスペリアが癒しの魔法を唱えるが、このままでは力尽きるのも時間の問題だった。     
 「ユート殿、一か八か手前が特攻を試みましょうか?」
 「駄目だ・・・この暴風を潜り抜けた後では、一太刀で仕留められなかったら串刺しにされるぞ!」


 ――まさしく手詰まりだった。
 根競べをしようにも分が悪く、また時間も余り残されていはいない。
 焦燥に駆られる悠人が、自ら賭けに出ようとしたその時。
 悠人達の周りを、彼のそれとは違うオーラフォトンの護りが覆っていく。
 いや、加護の力に於いては、悠人をも凌ぐその男は・・・。
 「光陰!」
 「苦戦してる様だな・・・やっぱりここで、真打ちが登場しなきゃな。」
 振り返って叫ぶ悠人に対し、人を食った笑顔で応じる光陰。
 相変わらずのへらず口は、死に掛けても治るものではないらしい。
 そしてその後ろには、ヘリオンとファーレーンの姿も見えた。

 「へ、そんなボロボロで何言ってやがる。だけど本当に無事で良かった・・・そうだ、今日子は!?」
 「稲妻のクォーリンに任せてある。まあ、あのじゃじゃ馬姫には良い薬だっただろ・・・だがびっくり
したぜ、この嬢ちゃんが、クォーリンを抱えて俺の目の前に飛んで来た時にはな。」
 そう言ってヘリオンを指し示す。
 ヘリオンは照れて赤くなっているが、その動作には深い疲労の跡が見えた。
 実はミエーユにはヒミカだけが残り、光陰の倒れていた場所まではネリーとシアーも一緒だったのだが。
・・・ヘリオンは更にあの荒地から、光陰を抱えてマロリガンまで飛んで来たのだ。

 「あの跳ねっ返りを説得して連れて来るとは、なかなか大した嬢ちゃんだ。」
 「そ、そんな・・・・私はただ、悠人さまは絶対にお二人を見捨てないって言って、クォーリンさんが
それを信じてくれただけで・・・だ、だから、全然大したこと何てないです!」


 そう言って俯くヘリオンを見て、悠人は思わず胸が熱くなるのを感じていた。
 「そうか・・・本当に良くやってくれたな、ヘリオン。」
 「ユ、ユートさまなら、絶対にそうすると思ったから・・・。」

 そんな二人の横から、申し訳なさそうにファーレーンが呟く。 
 「あの・・・報告しても宜しいでしょうか?」
 「あ、ああすまん!・・・よろしく頼む。」
 「では失礼して・・・外部での戦闘ですが、コウイン様の呼び掛けで現在は停戦状態にあります・・・。
ユート様が突入されてからは、ご命令通り双方に死者は出ておりません。大勢で加勢に来ても邪魔になる
ばかりだと判断して私が残り、他の者は混乱したマロリガンの収拾にあたっています。」
 「解った。ファーレーンもご苦労だったな・・・そうだな、俺達はこの後の事も考えなきゃな。」
 「だが、先ずはここを切り抜けなきゃならんぞ、悠人。」
 光陰の言葉には、どこか悲しげな響きがあった。 
 「・・・あれが大将の成れの果てか・・・楽にしてやらなきゃな。」
 「ああ、勿論だ・・・行くぞ、光陰、みんな!」

 今ならば、どんな困難にも打ち克つ事が出来る・・・。
 悠人のその想い通り彼等は空前のマナ消失による世界の崩壊を防ぎ、英雄として迎えられる事となる。
 そしてマロリガン共和国は正式にラキオス王国への降伏を宣言し、併合されるのだ。
 しかし神聖サーギオス帝国は、その戦力を法王の壁の内に駐留させたまま不気味な沈黙を守っていた。
 二人の親友を取り戻した悠人の前に、一体これから何が待ち受けているのだろうか・・・。


 「どうやら間に合ったようだな・・・。」

 立ち上る光の柱が消失し、大地の鳴動が止まったのを見てクォーリンが呟く。
 傍らで眠る今日子は、まだ意識が戻る兆候は見えないものの、命に別状ない所まで持ち直していた。
 「だからヘリオンが言ってたでしょ、ユートさまは絶対にコウインさまもキョウコさまも助けて、
マロリガンも救ってみせるって・・・ね~、シアー?」
 「う、うん・・・ホントにその通りになったね。」
 同意を求められるが、実は半信半疑だったので言葉に詰まるシアー。
 「わ、解ったから私に、そんなに馴れ馴れしくするな!・・・まだ、終戦は宣言されてないんだぞ。」
 「何言ってるのさー。私達の勝ちに決まってるじゃない。」
 「そうだね・・・。」
 「う、うぅぅ・・・もう良い!・・・とにかく急いで、私達もマロリガンへ行くぞ!!」
 「え~~~!?・・・人を抱えて飛ぶのって、すっごく疲れるのに・・・。」
 「意識のない人を運ぶのって大変だよね・・・。」

 悔しさ紛れに無茶を言いながらも、クォーリンは自分を倒した少女の事を思い返していた。
 優位に立ったあの状況で、自分に止めを刺すことはせず、訴えかけてきたあの黒い妖精の少女。
 『・・・コウインさまとキョウコさまを助ける為にも、協力してください!』
 その真摯な願いは、殺気立っていた自分達を鎮め、その心を解きほぐした。
 結果として、その説得に乗ったおかげでコウイン様の命は助かり、救援に向かう事が出来たのだ。
 「ヘリオンと言ったか・・・。」
 もしかして、この戦いの影の功労者はあの少女だったのかも知れない。 
 あの小さな身体に、良くあれだけの力が宿っていた物だと感心するクォーリンであった。