明日への飛翔

第八幕

 「くそ・・・俺は一体何やってんだろうな、こんなとこで。」
 悠人は癒えぬ身体に歯噛みしながら、ベッドに横たわり天井を見つめ続ける。

 悠人達スピリット部隊は、帝国への宣戦布告と共に旧ダーツィ領ケムセラウトに陣を構えると、難攻不落と
された法皇の壁を突破し、激戦の末リレルラエルの制圧に成功した。
 強大な帝国軍の反攻を跳ね除け、その版図に橋頭堡を築いた事は、その戦略的価値以上に、悠人達に確かな
手応えと勇気を与え、女王レスティーナの理想も決して夢物語ではないと確信させた。
 しかし・・・そんな矢先、スピリット隊長であるエトランジェ、<求め>のユートが意識不明の重態のまま、
王都へ移送されるという事件が発生する。
 士気の低下と混乱を避ける為、その詳細は公表されず、復帰に支障はないとだけ伝えられたが・・・。
 哨戒中だった悠人が、突如現れたサーギオスのエトランジェ、<誓い>のシュンの挑発に乗って戦闘になり、
敗北したというのがその真相だった。

 そして今、悠人は王都ラキオスにある、第一詰所の自室にいる。
 その治療には最善の処置が尽くされたが、<誓い>によって受けた傷は、ラキオスに残っていた二線級の
スピリットの魔法では、遅々として回復しなかった。
 (サレ・スニル方面には光陰やウルカがいるし、ゼィギオス方面にはエスペリアやヒミカ達がいるから
指揮の上では問題ないだろうけど・・・これじゃ本当に俺、隊長失格だな・・・。)
 レスティーナに散々遣り込められた為か、悠人が殊勝にも自分の猪突猛進を恥じていると・・・。
 何やらコンコンと、ドアをノックする者がいる。
 昨日の今日で多忙なレスティーナが来れる筈もないから、介護の者だろうか?

 「・・・鍵は開いてるよ。悪いけど、入って来て貰えるかな。」

 そうしてやっとの事で身体を起こす悠人の前に現れたのは、予想もしない意外な人物だった。
 「イオ・・・?」

 そのホワイトスピリットの佳人は、突然の来訪を詫びると優雅に一礼した。
 見知ってはいたがそれほど親しい間柄ではない。ならば何か用事があって来たのだろう。
 「女王陛下の命により、ユート様の治療の為に参りました・・・・しかしユート様、話に聞き心配していた
よりは元気なご様子に、ほっと致しました・・・。」
 たおやかに笑うその仕草に、思わずどきりとする。
 元来スピリット達は皆美しく、朴念仁の悠人などは慣れるまで大分戸惑ったものだ。
 しかしイオは、その妖精達の中に於いてさえ尚際立ち、一種神秘的なまでの雰囲気を醸し出していた。
 その彼女と寝室に二人きりで居るのだから、悠人が知らず緊張するのも無理はなかった。

 「そ、そうか、悪いな・・・皆には、迷惑掛けてると思う。」
 悠人の言葉にイオは一瞬手を止めたが、そのまま水差しから何やら薄褐色の透明な液体を器に注ぐ。
 「ユート様、これは私が調合した霊薬です・・・味は多少強めの酒に似て、飲みづらいかも知れませんが。
・・・ユート様の体内のマナを活性化させ、回復力を高める効果があります。」
 イオはそう言って、ユートの側に歩み寄る。
 「なるほど・・・イオの作った薬なら、確かに効きそうだな。」
 「咽ないように、少しずつ口に含んで下さい・・・そう、ゆっくり飲み干して・・・。」

 (・・・喉が・・・熱い・・・味はそれ程でもないけど、それよりも・・・。)

 介添えする為とは言え、息の届きそうな至近距離にいるイオを意識して、知らず赤くなる悠人。
 いや、顔や喉だけではない。全身が熱く、火照って来たような・・・。

 「どうかされましたか・・・ユート様?」

 「い、いや、あの・・・。」
 妖艶な笑みを浮かべ、甘く囁く。
 動揺するユートから離れると、イオはするりと着衣を脱ぎ去った。
 その下には、生まれたままの、白い裸身。

 「イ、イオ!?」    
 「顔を真っ赤になさって・・・可愛らしい。その霊薬には人を昂ぶらせる副作用があるのです・・・。
ユート様、もう、苦しいのではありませんか・・・?」
 言われるまでも無く、悠人は身体が抑えがたい衝動に疼いている事を自覚していた。
 悠人自身である一部分が熱を持ち、肉付きの良い均整の取れたイオの肢体から、目が離せなくなる。
 「・・・どうか、はしたないとは思わないで下さい・・・今この時だけ、私を愛しては下さいませんか・・・?」

 「こ、こう言う事は好きな人同士でする物であって・・・。」
 「・・・ユート様は、私がお嫌い?」
 イオは悠人の手を取ると、自らの胸にそっと導く。
 その柔らかな感触に、理性のタガが外れそうになったその瞬間。

 「そ、そそそ、そんな事はないけど・・・・あ、あぁああ・・・ご、ごめん・・・!!」
 思わずイオを突き飛ばすと、ベッドの上で土下座する。
 「恥をかかせるようだけど、ごめん!・・・イオは本当に魅力的だと思うし、俺も嫌いじゃないけど、
やっぱりそう言う事は出来ないんだ・・・この時だけだとしても、俺には君を愛してやる事が出来ない!」
 それだけ言って、悠人はイオの言葉を待つが・・・。
 いつまで経っても、返事が返ってくる様子は無かった。

 「イオ・・・?」

 もしや突き飛ばした時に、気絶でもさせてしまったのだろうか。
 そう思って悠人が顔を上げると、イオは何事も無かったかのように、いつもの服に身を包んでいた。
 「どうかされましたか、ユート様?」
 「え、あれ?・・・だって、今のは・・・。」
 先程と同じ台詞。だがイオの口調が余りに普段と変わらなかったので、呆然とする悠人。
 しかし、この身体の昂ぶりが、あれが夢ではないと証明していた。

 「私は未だ、殿方を愛した事も愛された事もございませんわ。」
 「な・・・そ、それじゃ、俺をからかったのか!?」
 平然と言うその言葉に、薬の副作用もあって頭に血が上る悠人。
 「ヘリオン様から――」
 ピタッ・・・呟いたその言葉に、今にも掴みかかろうとしていた悠人が静止する。
 それを確認すると、にこりと笑ってイオが続ける。

 「――伝言が届いております。『・・・ユートさま、御身体の具合は如何でしょうか。許されるなら
すぐにも見舞いに駆けつけたい所ですが、誠心誠意任務に当る事によって、その志の代わりとしたいと
思います・・・帝国の攻撃は激しいですが、私達は全員、一丸となって頑張っています。ですからどうか
安心して、ゆっくり静養なさって下さい。――ヘリオン』以上原文のまま、確かにお伝えしました。」

 遠く離れた戦場から送られた、ヘリオンのメッセージに心打たれる悠人。
 その様子を見て、穏やかに微笑んでイオが告げる。
 「どうか無礼をお許し下さい・・・この度の事では、私少なからずユート様を不満に思っていたのです。
こんなにも健気にユート様を想う方がいながら、一時の感情で身を危険に晒すとは・・・ユート様、出過ぎた
事を申しますが、その身体はご自分一人だけの物ではありません。どうかご自愛を・・・。」


 「・・・そっか、ヘリオンがそんな事を・・・俺って情けないなぁ。」
 「うふふ・・・しかし私の誘惑も通じないとは、流石は<求め>の干渉を撥ね退けて来られたユート様
です。これで私も、少し安心致しました。」     
 「イオが、安心・・・?」
 その言葉に、少し不審に思う悠人・・・そう言えば<理想>による通信にも、莫大なエーテルが必要と
されるのだ・・・本来ならば、ヘリオンが軽々しく利用できるような物ではない。
 「なあ、どうしてイオは、こんな事をしたんだ?」
 「そうですね・・・ヘリオン様への、友情の為と言う事にしておきましょうか。」
 ・・・友情・・・本当にそれだけだろうか。
 下手をすれば、自分が犯されていたかも知れないのに。
 待てよ、『殿方を愛した事も、愛された事もない』って、まさか。

 それを察知したのかどうか、悠人を制して報告するイオ。
 「――先程の霊薬、効能は保証致します。恐らくあと二、三日で前線に戻る事が出来るでしょう・・・。
情報部からの連絡によれば、ソーマズフェアリーが戦線に投入されたそうです。ヘリオン様はゆっくり静養
して欲しいと言っておられましたが、一刻も早い復帰が望まれているのが現実です・・・。」
 「ソーマズフェアリー・・・あいつらか。」
 ヘリヤの道で進軍中に出会った男。
 そう言えば、エスペリアが異常に怯えていたのを思い出す。

 すっかり出鼻を挫かれた悠人を尻目に、イオが退室の挨拶をする。
 「あ、ちょっと待った・・・もしさっき、俺が誘いに乗ってたらどうしたんだ?」
 「・・・・・お知りになりたいですか?」
 「い、いや、いい・・・今日はありがとな。」 
 それだけ言って、イオの背中に手を振る悠人。
 あの微笑を見た瞬間、背筋に冷たいものが流れるのを感じた。

 「怖ぇ・・・神秘的どころじゃない、魔性の女だな・・・。」


 イオの言葉通り、悠人はその後間も無く復帰する事が出来た。
 サレ・スニル方面侵攻部隊は順調に戦果を挙げ、今はユウソカに達しようかという所まで来ている。
 攻略拠点が多い為に、光陰や今日子が率いる元稲妻部隊の面々に加え、アセリアやウルカ等の実力者達
を持って当らせたのが功を奏した形だ。
 その為悠人はエスペリアに指揮を任せていた、ゼィギオス方面侵攻部隊へと合流する事にした。
 既に彼女達はゼィギオスの制圧に成功し、そこを拠点に帝国の反攻を受け止めていた。
 ヘリオンとも再会を果たし、まずは一安心と悠人は思っていたのだが・・・。

 「エスペリアは、随分調子が悪いようだったな・・・。」
 引継ぎや現状説明の作戦会議を終えて、悠人が呟く。
 常ならばその博識と明敏さを活かし、会議をリードしていたエスペリアだったが、今日は終始どこか
上の空で、一度した説明を繰り返したり、質問に対し慌てて聞き返すという様な場面が何度もあった。
 そして会議終了後は、体調不良を理由に一番に自室に戻ってしまったのだ。

 「数日前からあの調子です・・・民衆の不満も強く、制圧時に大半の防衛施設が破壊されていた事から
駐留は困難を極めているのが現状なのですが・・・ユート様が来て下さって、本当に助かりました。」
 会議中もエスペリアをサポートしていた、ヒミカが応じる。
 恐らく、と前置きして口を開くのは、同じく古株の一人であるファーレーン。
 「彼女がああなった原因は、ソーマズフェアリーの指揮官にある様に思います・・・詳しい事情は解り
ませんが、先の戦闘で相対した時には、あの男は明らかに知り合いであるような口振りをしていました。
その時エスペリアさんが、冷静な彼女らしくもなく狼狽していたのを覚えています。」    
 それを聞き、悠人はラキオスを起つ前にレスティーナに聞いた、ある情報を思い出していた。
 ソーマ・ル・ソーマがかつて、ラキオススピリット隊の隊長であった可能性。
 エスペリアの様子を見るに、二人の間に何か因縁があるのは間違いなさそうだ・・・。


 悠人が臨時会議室に残り考え事をしていると、しばらくしてヘリオンとナナルゥの二人がやって来た。
 「おや・・・珍しい組み合わせだな。二人ともどうしたんだ?」
 どこか緊張した面持ちで、ヘリオンが答える。
 「あ、あの実は、ユートさまに御願いが・・・私達が言う様な事じゃないのかも知れないですけど、
エスペリアさまを元気付けてあげて欲しいんです。きっとユートさまなら、出来るんじゃないかって。」
 ヘリオンがどういう気持ちで言っているのか。
 悠人は何となく悟りながらも、普段通りに応じる。
 「勿論、エスペリアは大切な仲間だからな・・・俺に出来る事があるなら、力になってあげたいと思って
いたよ・・・ところでひょっとしてナナルゥも、エスペリアが心配なのか?」
 こうして一緒に御願いしに来てるのだからそうなのだろうが、悠人はこの少女がそう言った感情は希薄だと
思っていたので、少々驚いたのも事実である。

 「このままでは、任務に支障がありますから・・・・・それに・・・。」
 「それに?」
 「・・・エスペリア様には、暇を見て洋裁を習っていたのですが・・・この状態が続くと困ります。」
 「洋裁って、服を作るあれか?・・・へぇ、ナナルゥがそんな特技を持ってたなんてな。」
 俯いていたヘリオンが、少しだけ元気を取り戻して付け加える。
 「ナ、ナナルゥさんってすごいんですよ、手先が器用で、もうほとんど本職の人みたいなんです・・・。
この間も私に、エスペリアさまとお揃いの服を仕立ててくれたんですよ。」  
 「練習の為です・・・ユート様の方針の元に、戦闘以外の技術の習得に努めなければなりませんから。」

 そう言ってナナルゥは視線を逸らすが・・・もしかして照れているのだろうか?
 戦う事以外に生きる意味を見つけろと言ったのを、そう解釈したのか・・・。
 だが悠人は、この少女に人間らしい感情が戻りかけているのを見て嬉しくなった。

 「解った、二人とも俺に任せろ・・・俺も、少しはエスペリアを助けなきゃな。」

 それからの数日、悠人は帝国軍の襲撃がない時には極力エスペリアの間近にいて、彼女を助け、勇気付け
ようと苦心した。
 それを見てヘリオンは胸を痛めながらも、大好きなエスお姉ちゃんが元気になればと祈っていた。
 ・・・しかし二人の思いも空しく、エスペリアはますます暗く沈み、体調を悪くしていったのである。

 そんなある日、エスペリアは話があると言って、悠人を砦の屋上に呼び出した。
 「ご足労頂き申し訳ありません・・・いえそれだけでは無く、私の為にユート様に気遣いを・・・。」
 「これくらいどうって事ないさ、スピリットだとか人間だとかは関係ない・・・俺達は仲間だろう?」
 「仲間・・・ありがとうございます。私の様な者に・・・でもこれ以上、ユート様に優しくされる訳には
参りません・・・そうしたら、欲張りな私はこの関係に、満足出来なくなってしまいます・・・。」
 「・・・・。」
 「理由は告げません。私は穢れていますから・・・でも、ユート様が愛しているのはあの子でしょう?」
 「エスペリア、俺は・・・。」
 「良いんです、私もあの子が好き・・・私なんかの為に、身を引こうとしている馬鹿なあの子が。」
 エスペリアは無理に笑顔を作ると、悠人に背を向け語り続ける。
 「ソーマ様は・・・いえ、ソーマ・ル・ソーマは、私のかつての主でした。冷酷で、スピリットを人形の
ように操る事に長けている・・・そしてあの夜、私が今立っているここで、あの方は言ったのです。」

 『まだ解らないのですか?・・・私達はわざと、ここを放棄したのです。貴女方が勝利したのではない。
防衛施設は破壊され、用を成さない。今のゼィギオスは攻めるに易く、守るに難い・・・言わば裸の城!!
・・・私達はいつでも、攻め上る事が出来るのです。これから貴女方は、いつ来るとも知れぬ襲撃に怯える
日々を迎えるのですよ・・・エスペリア、貴女は私の操る人形に過ぎない・・・もうすぐ、自ら私の所有物
である事を認める時が来ます・・・その時を楽しみにしていますよ・・・では、さらば!!!』

 「そうしてソーマはここから飛び降り、配下のスピリットと共に逃走しました・・・ユート様、私はあの方が
怖いのです・・・今の私は、ユート様のお力になれない・・・。」


 泣き崩れるエスペリアを前に、悠人が掛ける言葉も無く立ち尽くしていると・・・。
 「あああ!!・・・ユート、エスペリア様、こんな所にいたの!?」
 そこら中走り回って探したのだろう。上気したニムが、息を切らして叫ぶ。 
 「ニムが慌ててるなんて初めて見たな・・・一体何があったんだ?」
 「私だって慌てるわよ、何を呑気な事言ってるんだか・・・良く聞いて!・・・ネリーが・・・もしかしたら
ネリーが、ソーマズフェアリーにやられて死んじゃったかも知れないの!!」
 「何だって!?」
 驚愕する悠人の後ろで、エスペリアが崩れ落ちる。
 弱り切った精神が、その衝撃に耐えられなかったのだろう。
 「エ、エスペリア!?・・・仕方ない。ニム、ちょっと手伝ってくれ。エスペリアを部屋に運んでから
詳しい話を聞く。」
 「わ、解った・・・けど、もしかして私のせい?」
 
 「うぅぅ・・・ネリー・・・っく、ひっく・・・。」
 ・・・広間の中、<静寂>を胸に抱いたシアーの、すすり泣く声だけが響く。
 集合した面々も、誰一人口を開く事なく、重い表情をしていた。
 大よそのあらましはこうだ。
 その時ネリーとシアーは、二人で哨戒任務に就いていた。
 しかしトーン・シレタの森でほんの少しの間はぐれた後、ネリーの姿は見えなくなった。
 心配してそこら中探し回ったシアーは、森の中に落ちていた<静寂>だけを見つけて、泣きながら一人で
帰って来たのだと言う。
 「シアー・・・まだネリーが死んだと決まった訳じゃないんだから、元気を出して・・・。」
 それまでずっと背中をさすってあげていた、ヘリオンが励ます。


 確かに神剣だけ残してスピリットがいなくなるのは異常だったが、誰も死んだ瞬間を見た訳ではない。
 「・・・それじゃ、その少しだけネリーとはぐれてる間には、神剣反応は感じなかったんだな?」
 「ひっく・・・はい、はっきりとは言えないですけど、戦ってる気配は感じませんでした・・・。」
 それを聞いて、考え込んでいたファーレーンが推理する。
 「例えネリーが、襲撃者に気付くこと無く一撃で倒されたのだとしても、スピリットがマナに還る時には
それなりの反応を感じる筈です・・・ましてやネリーに一番近いシアーがそれに気付かなかったのだとしたら、
ネリーは死んだ訳ではないのでしょう・・・すると考えられるのは、ネリーは不意をつかれて神剣を奪われ、
何者かに連れ去られたという事ではないでしょうか。」
 「うん、おっちょこちょいのあの子なら有り得そうね。」
 「こ、こらニム、もう少し言い方があるでしょう。」
 「・・・そうだな、敵の狙いが二人を殺す事にあったのなら<静寂>をそのままにしておいたり、シアーを
無事に帰したりはしないだろう。何らかの目的があって、ネリーは攫われたのかも知れない。」

 だが、このタイミング・・・もしネリーを攫ったのがソーマならば、狙いはエスペリアにあるのではないだろうか。
・・・悠人はそう直感したが、敢えてそれは言わずに指示を出した。
 「とにかく今は憶測でしかないけど、俺はネリーが必ず生きていると信じている・・・夜間の捜索はミイラ取りが
ミイラになる危険があるから、明日以降部隊を組んで、捜索する事にしよう・・・相手の出方も解らないし、決して
一人で外に出歩かない事・・・では、解散!」

 そして深夜、日付が変わる直前。
 エスペリアの事、ネリーの事・・・自室で悩む悠人に、突然鳴り響いた警鐘が敵の襲来を告げる。

 「くそっ・・・よりによってこんな時に!!」


 廊下に飛び出した悠人の下に、ヒミカが駆けつける。
 「ヒミカ、状況は解るか!?」
 「今の所、まだ侵入は許していないようです。敵は恐らくソーマズフェアリー。ファーレーンとニムが
いち早く迎撃に当っています。」
 「解った・・・俺達も急ぐぞ!」

 敵は付かず離れず、襲撃と撤退を繰り返した。
 内部への侵入こそ防いでいるものの、その攻勢が止む気配はない。
 自らも軽い手傷を負いながら、三人目の敵を屠った悠人が叫ぶ。
 「いやらしい攻撃だな・・・全員無事か!?」
 「私達は、何とか・・・しかし人員が減っている中、長期戦は不利です。」
 ファーレーンが一人を仕留め、悠人の確認に応じる。
 ニムはぶつくさ言いながらも皆をサポートし、ナナルゥが範囲魔法で敵を押し退けた後、ヒミカが果敢に
斬り込んで敵陣を崩す・・・見ればひどく落ち込んでいたシアーでさえ、懸命に敵と渡り合っていた。
 エスペリアは未だ寝室で起き上がれないでいるのだろうが・・・。
 「・・・あれ、ヘリオンはどうした?」
 「え?」
 「誰も見た者はいないのか?・・・ヘリオン、返事をしろ・・・ヘリオン!?」

 ヘリオンがいない・・・。
 その事実は、一様に悠人達を不安にさせた。
 シアーに確認させると、ヘリオンの部屋にその姿は無く・・・ただ<失望>が、机の上に置いてあったと言う。

 (どう言う事なんだ?・・・無事でいろよヘリオン!)

 一方その頃・・・。

 ゼィギオスから近い、トーン・シレタの森の中、ソーマは成功しつつある策略にほくそ笑んでいた。
 「あと僅かです・・・フフフフ・・・もう間も無く、エスペリアは再び私の物となります。」  
 その後ろから、大木にロープでぐるぐる巻きに縛り付けられたネリーが叫ぶ。
 「何言ってんのさ、エスペリアがあんた見たいな、気持ち悪いおっさんの物になる訳ないじゃない!」
 「おっさん?・・・お嬢さん、口の利き方には気をつけたほうが宜しいですよ。」
 「すごんでも怖くなんてないんだから・・・何よ、私にHな事でもする気!?」
 「貴女の様なおてんば娘には、興味はありませんよ。しかし貴女を殺せばエスペリアは私の物になるのを
躊躇ってしまうでしょう・・・だから手出しせずにいてあげているのです。慈悲深い私に感謝しなさい。」
 「だーれが、感謝なんかするもんですか、べ~~~!」
 この状況で尚、やかましく口を閉じようとしないネリーだったが、ソーマは猿轡を咬ませる事はしなかった。
いや逆に、無力なネリーが見苦しく喚くほど、この男の快感は昂ぶるのである。
 「先ほどゼィギオスに投げ文をさせました・・・私の忠実な部下達が勇者殿を引きつけている間に、エスペリアは
一人ここにやって来るでしょう・・・自分が貴女の、身代わりになる為にね。」
 「な・・・!」
 「彼女は必ずそうします。エスペリアさえ手に入れれば、貴女は解放して差し上げましょう。」

 ・・・もっとも、すぐにゼィギオスに攻め込んで、殺してあげますが・・・。
 かつての仲間が敵の尖兵として攻め込んで来るのを見た時、勇者殿はどんな反応をするでしょうねぇ。
 想像し暗い愉悦に浸るソーマに、ソーマズフェアリーが何事かを告げる。

 「お嬢さん、喜びなさい・・・救い主が、現れたようですよ。」


 一人でやって来るようにと書いた以上、今のエスペリアは必ずそれに従う筈。
 しかしソーマは、悠人達が彼女の後をついて来るのを防ぐ為に、森の中に特に感知に優れたスピリットを
配置しておいた・・・その知らせによれば、近づいてくるのは間違いなく<献身>と<静寂>のみ。
 「エスペリアは貴女を逃がす為に、<静寂>を持ってきたようですねぇ・・・そんな事はせずとも、私は
約束は守るのですが・・・いやはや、信用されないというのは悲しいものです。」
 「そんな・・・エスペリア、本当に来ちゃったの・・・。」
 「そうです、私に仕える為にね・・・さぁ、二人で彼女を出迎えようじゃありませんか。」
 ソーマは配下にネリーの拘束を解かせると、呼び出した場所へと歩き始める。
 もしネリーがここで抵抗しようとしても、配下のスピリット達が瞬時に彼女を切り刻むだろう。
 「ごめんなさい、エスペリア・・・。」

 夜の森の中、対峙するソーマとエスペリア。
 一目を避ける為かフードを目深に被っている為、その表情を伺う事はできない。
 しかしソーマは、それを想像して歓喜に震えながら、エスペリアに呼びかける。
 「よくぞ来ましたね、エスペリア・・・私がどれ程この時を待ち望んでいた事か、解りますか?」
 「解りません・・・それよりも、ネリーを解放して下さい。」
 押し殺した声で小さく呟くと、エスペリアは<静寂>を掲げる。
 「勿論ですとも・・・ほら、どこへなりと行きなさい。貴女の役目は終わりました。」
 それを聞いて、ネリーが駆け寄る。

 この時まで、ソーマは自分の策略が完全に成功したと確信していた。
 エスペリアの性格は知り尽くしている。
 だからここに至って、二人が反抗する事など100%有り得ないとタカを括っていたのだが・・・。

 「・・・どうして今まで黙ってたのよ!?」

 涙ぐむシアーを、厳しく叱責するのはニム。
 それを庇うのは、ファーレーンと先程起き出して来た"エスペリア"だった。
 <献身>がどこにも無い事が判ると、シアーが目に見えて挙動不審になった為に問い正したのである。
 「だ、だって、ヘリオンが絶対に言うなって・・・・。」

 広間での話し合いが終わった後、悲しみに沈むシアーとそれを心配したヘリオンは一緒に廊下を歩いていた。
 そしてエスペリアの私室の前を通りかかった時、偶然部屋の中の異変に気付いたのだ。    
 駆け込んでみると、エスペリアは相変わらずベッドに伏していたが、部屋の中で投げ文を発見した。
 何とそこには、ネリーを助けたければエスペリア一人で、森の中に来いと書いてあるではないか。
 ヘリオンは咄嗟に判断し、シアーを廊下に連れ出すとこう言った。

 『これをエスペリアさまに見せる訳には行かないわ・・・今のエスペリアさまじゃ、このソーマと言う人に
会ったら大変な事になっちゃう。』
 『で、でも、それじゃネリーは・・・?』
 『大丈夫、私に考えがあるから・・・だからシアーは、この事を誰にも気付かれない様にして。』
 そう言ってヘリオンは自室に戻り、変装するとエスペリアの部屋から<献身>を持ち出した。
 そしてシアーから<静寂>を預かると、こう言って出かけてしまったのだという。 
 『お願いシアー、私を信じて!・・・ネリーを攫って、シアーをこんなに泣かせただけじゃなく・・・。
エスペリアさま、うぅん、エスお姉ちゃんまで苦しめようとするなんて、許さないんだから!』

 「何てこった・・・。」
 あのヘリオンが、大事な友達やエスペリアの為とはいえ、そんな事をしたと言うのか。
 随分と成長したとは思っていたが、それにしても何て無謀な事を・・・。
 
 「それじゃシアー、この地図の場所にヘリオンは向かったんだな?・・・・皆、悪いが後は頼む!」


 「い、一体、何故貴女がここにいるのです!?」
 フードを脱ぎ去り正体を現したヘリオンに、怒り狂ったソーマが叫ぶ。
 「・・・エ、エスお姉ちゃんを苦しめる人は、私が許しません!」
 <献身>を構え、負けじとソーマを睨み付けるヘリオン。
 「あはは、でも私もびっくりしちゃった・・・もしかして、ソーマズフェアリーってバカばっか?」
 <静寂>を取り戻したネリーが、今までの仕返しとばかりに神経を逆撫でする事を言う。   
 「こ・・の・・小娘共が・・・お前達、八つ裂きにしてしまいなさい!!」

 「昔はよく勝手に持ち出して、怒られてたっけ・・・お願い<献身>、エスお姉ちゃんを・・・あなたの
ご主人様をこの人から守る為にも、私に力を貸して!!」
 襲い掛かるソーマズフェアリーを薙ぎ払い、一閃すると距離を取る。
 「すごーい・・・ヘリオン、槍なんて使えたんだ。」
 「・・・使えないよ。」
 「へ?」
 「昔ちょっとだけエスお姉ちゃんに習っただけ・・・どこまでいけるか解らないけど、頑張ろう!!」
 「う、うっそ~~~!?」
 
 悲鳴を上げながらも、互いを庇い合い立ち回る二人。
 戦場にも関わらず姦しいことこの上なかったが、それでも何とか善戦を続けていた。
 陽動の為に多くのソーマズフェアリーがゼィギオスに向かっていた事と、ヘリオンが思い掛けない奮戦を
見せた事がその原因である。
 ・・・専門は違うがその槍捌きはなかなか堂に入っていて、高い練度を誇るソーマズフェアリーをも寄せ
付けない。ヘリオンが秘める才能と、純粋な想い。それが<献身>の共鳴を呼んだからこそ成る業だった。


 「ば、バカな、私の芸術作品が、こんな小娘共に・・・。」
 後ずさるソーマを、ヘリオンが追う。
 「逃がさない・・・貴方だけには、容赦しません!」
 「いけない、ヘリオン気をつけて!」
 
 ――ネリーが叫んだその時。
 草叢から突然飛び出した、一人のスピリットがヘリオンに襲い掛かる!
 このスピリットこそ、神剣反応を極限まで隠蔽し、ネリーを誘拐したソーマの切り札だった。
 「うはははは、愚か者め・・・自らの無謀を悔いるのです!」

 ・・・完全な不意討ちと、慣れぬ武器。
 反応が遅れたヘリオンが、その攻撃を防ぐ事は不可能だと思われたが・・・。
 「な・・・。」
 「え!?」
 必殺の剣閃がヘリオンに襲い掛かるその寸前、突如展開されたシールド・ハイロゥがその身を守る。
 『貴女の無事を願う契約者の祈りが、遠く離れた私に届きました・・・。』
 「この声は・・・<献身>・・・?」
 『しかしそれは一瞬の力です・・・さあ、早く敵を討ち倒しなさい!』
 「ありがとう<献身>・・・そして、エスお姉ちゃん!!」

 数合切り結び、ソーマズフェアリーはヘリオンの裂帛の突きの前に敗れ去る。
 それがどんな強敵であろうとも、今の彼女を止める事は不可能だった。
 「すみません・・・貴女達の無念は、私が背負いますから・・・。」
 そうしてヘリオンは、森の奥へ逃亡したソーマを追うのだったが・・・。

 「・・・観念したんですか?」

 逃げる事を止め、闇の中不敵に笑うソーマにヘリオンが尋ねる。
 「・・・いやはや大したお嬢さんだ。私の完敗です・・・ところで物は相談なのですが、私を見逃しては
頂けませんかね?・・・もう二度と帝国には戻らず、貴女方の前にも姿を見せないと誓いましょう。」
 「え・・・?」
 突然の申し出に、困惑するヘリオン。
 今の彼女は、避けられない戦いなら容赦しないと言う心の強さを身につけていたが、命乞いをする相手を
殺そうと考える程に、非情に成り切れる筈もなかった。

 「本当に、二度と現れませんか?・・・もう二度と、スピリット達を苦しめませんか?」
 ソーマの真意が図れず、<献身>を突きつけながらじりじりと近づくヘリオン。
 だがそれこそが、ソーマの最後の狙いだった。
 「信じられませんか?・・・信じられないでしょうねぇ・・・でも構いませんよ、ほら!!」
 「きゃぁっ!?」
 ソーマが隠し持っていた何かのスイッチを入れると、突然ヘリオンを強烈なマナの波動が襲う。
 倒れ伏し、身動き出来なくなったヘリオンを見下ろして、ソーマが勝ち誇る。
 「はっはっはっ引っ掛かりましたね・・・私の逃走は、貴女をここに誘い込む為の、罠だったのですよ。
この装置はトーン・シレタの森に漂う高濃度のマナを利用して、瞬間的にマナ障壁の様な物を造りだす事が
出来るのです・・・さて、それでは私の邪魔をしてくれた御礼を、たっぷりとしてあげましょうかね!」
 高笑いしながら、ヘリオンを全力で踏みつけ、蹴り上げる。

 「もう少しでエスペリアが手に入ったものを・・・よくも、よくも、よくも、よくも、よくも!!!!」


 「はぁっ・・・はぁっ・・・ふふふ、ハハハハハハ!!・・・いやぁ、愉快愉快・・・これでようやく
溜飲が下がったと言うものです・・・ではそろそろ、楽にしてあげると致しましょうか!」
 そうしてソーマは剣を抜き振りかぶったのだが、直後襲い掛かる殺気に、そのまま硬直した。

――バキィィン!!

 オーラフォトンの光線が、ソーマの剣を根元から破壊する。
 同時に熱に当てられて、苦悶に顔を歪ませるソーマ。
 「く、くふ・・・はぁぁぁ・・・?」
 「ユート・・・さま・・・。」
 「こ、こここここ、これは、勇者殿ではありませんか・・・。」
 「だいじょうぶか、ヘリオン?・・・今助けてやるからな。」
 ヘリオンの危機にぎりぎり間に合った悠人が、優しく声を掛ける。
 「・・・ふふふ・・・正義の味方登場という訳ですか・・・では勇者殿、そのお嬢さんがどの様にして
私に敗れたのか、知りたくはありませんか・・・?」
 「!!・・・ユートさま、離れて!!」
 ヘリオンが叫ぶより早く、ソーマはスイッチを押し、簡易版マナ障壁が悠人に襲い掛かる!!

 「何と、何と愚かなのでしょう・・・ははははは・・・は・・・はぁああ!?」  
 ソーマの哄笑が、驚愕に変わり、やがて凍りつく。
 多少のダメージは与えたのだろうが、オーラフォトンに守られた悠人は、ただソーマだけを見据え歩み
続ける・・・静かな怒りを湛え、一歩、また一歩と。

 「な、何故です、何故死なないのですか・・・早く死になさい、死ぬのです!!!」
 ・・・連続で使用できない事も忘れ、狂ったようにスイッチを押し続けるソーマ。
 その驚愕の表情は、首が胴体と永遠の泣き別れをするまで、変わる事はなかった・・・。


 「・・・全く、何て無茶するんだか・・・せめて、行く前に俺にだけでも伝えろよな。」
 「す、すみません・・・。」
 ヘリオンを抱き起こした悠人が、拗ねた様に呟く。
 「私、どうしてもネリーと、エスペリアさまを助けたかったんです・・・でも、ユートさまが来て下さら
なかったら、今頃・・・。」
 「ふむ・・・実はな、ラキオスで静養してた時に、レスティーナとイオに怒られたんだ・・・俺の身体は
俺一人の物じゃないんだから、無茶すんなってな。」
 「は、はぁ・・・。」

 「だけどな、俺も同じ事をヘリオンに言う・・・いいか、今後絶対に、俺に黙って無茶はするな。」
 そしてヘリオンが答える前に、キスで口を塞ぐ悠人。
 「~~~!?」
 「・・・ぷはぁ・・・え、えっと、あのな・・・ここに来るまでに、物凄く心配した。もしもヘリオンに
何かあったらどうしようってな・・・俺もヘリオンと同じくらい、ヘリオンが大好きだから。」
 まだ目を白黒させて、状況が掴めないでいるヘリオン。
 「で、でもエスペリアさまは・・・。」
 「ああ、そう言えばエスペリアも言っていたぜ・・・私の可愛い妹をよろしくってな。」
 「そ、そんな、それじゃ、私・・・えぇ~!?」
 「愛してる・・・ヘリオン。」
 「・・・ユートさま・・・。」
 
 そして深い森の中、見詰め合う二人・・・・・・・・・の横から、突然響く祝福の声。

 「ヘリオン、おっめでと~~~~♪」

 「な、何!?」
 「ネリー!?」

 「見ちゃった見ちゃった~・・・愛し合う二人、まるで物語の登場人物みたい・・・これはもう早く戻って、
 皆にも教えてお祝いをしないとね♪」
 「見ちゃったってお前・・・。」
 「うん、ユートさまがかっこ良く登場して、ソーマをやっつけちゃう所から・・・私も早く、ヘリオンを
助けなきゃって追って来たんだけど、ユートさまってば私に気付かないでどんどん行っちゃうんだもん。」
 「そ、そうだったのか・・・。」
 「・・・もしかして、ネリーを助けに来たのに忘れてたんじゃないでしょうね、ひどいよユートさま!」
 「い、いや、そんな事はないぞ・・・勿論、ネリーも心配だったさ。」
 「む~ホントかな~~?・・・ちょっと怪しいけど、まあヘリオンに免じて許してあげますか・・・。
それじゃ皆心配してるだろうし、早く帰らないとね♪」
 上機嫌に笑って飛び跳ねるネリーを見て、帰ったら一騒動ありそうだと脱力する二人だった。


 一方ゼィギオスでは、辛くも襲撃を退けたエスペリア達が、三人の帰りを待っていた。
 「もう随分経ちますが、だいじょうぶでしょうか・・・。」
 ファーレーンの言葉を受けて、エスペリアが強く答える。
 「心配は要りません・・・ユート様なら、必ず二人を救い出してくれる筈です。」
 「あら、言い切ったわね・・・このところ腑抜けていたのに、そろそろお局様復活かしら?」
 「な・・・誰がお局ですか、ヒミカ!」
 「ごめんごめん・・・まあ、今日は久しぶりに付き合ってあげるよ。ファーレーンも飲むでしょう?」
 「戦闘直後こそ気が抜けて危ないのですが・・・仕方ありません、エスペリアさんの為ですし。」
 「どうしてそれが私の為になるんですか、二人とも!?」

 そう言って頬を膨らませるエスペリアに、もう暗い影は残っていない。
 夜明けは確実に近づいていた・・・この戦いの終焉まで、後少し・・・。