「はぁっ・・・ったく、とんでもない人出だなぁ。」
思い思いに談笑する人の群れを掻き分けて、溜息をつく。
悠人達は今、ハイペリアに良く似た世界にある、遊園地へとやって来ていた。
「ホントですねぇ・・・っきゃぁ!?」
「おいおい、はぐれたりするなよ・・・けどもしここにオルファやネリーなんかを連れて来たら、
喜んではしゃぎ回るだろうなぁ。」
人ごみに翻弄されるヘリオンに声を掛けながら、それを想像してあの頃を懐かしむ悠人。
もうファンタズマゴリアの大地で起きたあの戦いも、遠い昔の出来事だった。
だが悠人の胸には、それがまるで昨日の事のように、今でも在り在りと浮かんできた。
何せ二人が出逢い、愛し合って、共に永遠を生きる事を誓った世界なのだから。
「ねぇお母さん、今度はあれに乗ろ~♪」
「え、えっと?・・・ユーフィが言ってるのは、あれかな?」
混雑にてんてこ舞いするヘリオンとは対照的に、元気いっぱいのユーフィ。
その姿を見ていると、親子と言うよりは歳の離れた姉妹の様に見える。
エターナルとなったヘリオンは、命を宿す事が出来るようになった。
けれどほんの僅かな可能性を潜り抜けて、奇跡の様に生まれて来た子供もまた、エターナルだったとは。
(まあ、たまにはこんな時間を過ごすのも良いかもな・・・。)
愛する我が子が、永遠に続く戦いに身を投じる運命にある事を思うと、ついつい暗くなりがちだったが。
・・・だからこそ、この一時の平穏を大事にしなければ。
悠人はそう、願いと自戒を込めて自分に言い聞かせた。
そんな悠人達に、大きな声で呼び掛ける少年の声。
「ちょっとちょっと~~~。みんな何時まで遊んでるのさ、早く行こうよ~~!!」
「おいおいエリオン、まだ時間はあるんだからそんなに急ぐなって・・・。」
そうして自分に似たツンツン頭に手を置いて、悠人が宥める。
そう・・・生まれて来た子供は双子だったのだ。
それぞれが両親に似て、エターナルでありながらすくすくと成長していた。
「だってオレ、時深姉ちゃんに早く会いたいんだもん・・・。」
「それは解るけど、お兄ちゃんなんだから少しは我慢しような?」
「うぅ・・・まぁ、仕方ないなぁ。」
勿論エリオンは、いつも妹想いの良い兄だったのだが。
これが大好きな時深姉ちゃんの事になると、その順位が逆転してしまうらしかった。
いつか時深姉ちゃんに、お嫁さんになって貰うのが夢らしい。
・・・それが叶うかどうかは判らないが、父としても複雑な思いの悠人であった。
「でもユートさま、そろそろ待ち合わせの場所に向かってた方が良いかも・・・。」
自分が迷子になりそうな、ヘリオンがしおしおと言う。
今日は神剣は取り出せないので、はぐれたりしたら探すのに一苦労するのは目に見えていた。
何時もなら、<希望>が持つ様々な特殊能力で活躍するヘリオンも、今日は心底参っているらしい。
「そうか?・・・・それじゃユーフィ、乗り物は時深に会ってから乗ろうな。」
「え~?・・・ふん、だっ・・・時深おばさんなんてどうでもいいのに。」
ユーフィにとって、時深はいつも一緒にいる双子の兄をたぶらかす、敵というかライバルなのだ。
時深の方でも、まんざらでもないのかエリオンを可愛がるものだから、それは益々根を深くしていた。
「・・・・・お願いだから、本人の前では呼ばないでくれな。」
・・・それにしても・・・。
こんな場所に呼び出すなんて、一体時深の用事とは何だろう。
以前から調査を続けていた、ロウエターナルの復活でも嗅ぎ付けたのだろうか・・・。
悠人がそう考えていると、誰か連れを追いかけていたらしい、小柄な少女がぶつかって来た。
「純くん待ってよぉ~~~って、っきゃぁ!?」
「っと、と・・・・大丈夫か?」
弾かれて、座り込んでしまった少女を見下ろして声を掛ける。
「す、すみませんっ!」
「いや別に・・・・・って、あれ?」
その見覚えのある顔に驚いて、硬直していた時。
「こら貴様!・・・詩織に何をしている!!」
はぐれた少女を探していたらしい少年が、そう怒鳴って悠人の襟を掴んだ。
「ち、違うの純くん!・・・私が前を向いてなかったから、この人にぶつかっちゃったの。」
「何だって?・・・詩織、本当か?」
「本当だってばぁ!・・・だ、だから早く手を離してあげて。」
少女が懇願して、やっと納得したらしい少年。
「済まない、早とちりだったようだな・・・だが僕にとって詩織は世界の全てなんだ。ついカッとなって
しまったが、どうか水に流してくれ。」
「あ、ああ・・・。」
「ど、どうしていつも人前でそんな事言えるの!?・・・・もぅ、純くんなんて知らない!」
本当にすみませんでした・・・もう一度そう謝って、顔を紅潮させた少女は逃げるように立ち去る。
そうして呆然とする悠人達に会釈して、一言呟くと少年は追いかけて行った。
「あ、あの・・・ユートさま、今の人はもしかして・・・。」
驚きが抜け切らない様子のヘリオン。
そしてそれは、悠人も同様だった。
「ああ・・・『家族と幸せにな』だってよ、あいつ・・・不思議な事もあるもんだな。」
そう呟いて、あの二人が去った方向を見つめ続ける。
確かエターナルと成った存在は、輪廻から切り離される筈なのだが・・・。
テムオリンやタキオスと違い、何時までも復活しない訳が判ったような気がした。
『上位永遠神剣にも、まだまだ解明されていない謎はある。』
<聖賢>がいれば、そんな事を言ってこの奇跡を面白がっただろう。
「ねぇ、お父さんもお母さんも、どうしたの?」
「もう良いよ・・・ユーフィ、オレ達だけで先に行っちゃおう!」
「わ、こら、ダメよ二人とも!・・・・迷子になるから、置いていかないでぇ・・・。」
守るべき家族を眺めながら、悠人は笑みを浮かべる。
そうだな、俺は本当に幸せだ・・・。
この安らぎがあるから、俺は前を向いていける。
果てしない戦いの日々も、いくつもの別れと悲しみも。
共に笑ってくれる人達がいるから、耐えていく事が出来るのだ。
・・・守り続けよう、この永久の安らぎを。
翔けていこう・・・明日の、その先に向かって。