代償

Lemma-5

(契約者よ、我に求めていたのは何だ?)
(…………守る事。守りたい物を守れる力が欲しかった。それだけだ。)
(守りたい物、とは何だ?なぜ守る?)
(………………何故今更そんな事を訊く?)
(契約を果たす為。主は契約を果たした。我も果たさねばならぬ。)
(…………俺は契約を果たしたのか?)
(………………果たしつつある。だから「ここ」に居るのだろう?)
(そうか、だけど知ってるんだろう?俺が守りたかったものは…………)
(そうだ、「我は」知っている。しかし。)
(俺は……憶えていないのか?)
(そういう事だ、契約者よ。我は契約を果たさねばならない。)
(そうか、それなら思い出さないとな…………)

激しくなった雨音が悠人の意識を浮上させる。同時にその輝きが薄れていく『求め』。
ベッドの上で目を覚ました悠人が最初に感じたのは腕の重み。
青いポニーテールが傍らで伏せていた。穏やかな寝息。
何の感情も持たない瞳で、それでも悠人は少女の頬を撫ぜていた。
染み込んでくる感情。しかし今は、激しい痛みも拒絶も伴わなかった。
ゆっくりと開かれる瞼。少女が静かに悠人を見つめる。
「あ…………ユート、起きてたの?」
「……ああ、寝てたようだな、本当に………………もう大丈夫だ。」
きょとん、とした後やや寂しそうな笑顔で少女は答える。
「そっか……もう、大丈夫、なんだね………………」
「ああ……ありがとう…………」

いつの間にか雨は止み、辺りに光が満ち始める。ところどころからひび割れ始める世界。
薄れゆく景色の中で、悠人はそれでも少女の頬に当てた手を放すことは無かった。

「またね……ユート!!」