代償

Epilogue

これからの指揮をレスティーナ直属の兵士達に任せて悠人達はサルドバルト城を出た。
今にも雨が降り出しそうだった空は嘘のように晴れ渡っている。眼前に見下ろせるミスル平原に、そよそよと柔らかな風が流れていた。
振り返ると白く聳え立つミスル山脈を背後に従えた城。そこには戦い前に感じたおどろおどろしさはもう無かった。
う~んと背伸びをして深呼吸してみる。少し冷たい空気が新鮮で気持ちよかった。
すると横で同じようにう~んと背伸びをしてみせる青い髪の少女。目が合うとへへっと笑いかけてくる。
「なんだよ、真似するなよネリー。まぁ気持ちいいけどな…………それよりホントにもう大丈夫なのか?」
「なに~?ユートってば心配性~。それともそんなにネリーのこと、気になる~?」
「なっ、ばかっ、からかうなって。その…………これでも心配したんだからさ。」
「え?あ…………うん♪ でももう、大丈夫だよーーー!!!」
「あ!おい、こらっ!!まだ無理するなって!」
「ほらほらユート、早く帰ろ~~!」
「ははっ、わかったから腕引っ張るなって…………え?」
ぎゅっ
すっかり元気になったネリーに腕を組まれ、赤くなった悠人が逆の腕も引っ張られてがくっとバランスを崩す。
見ると、上目遣いでおどおどしながらも力強く裾を引っ張っている蒼い髪の少女。
「う~~~~~~、ユートー。」
「シアー、どした?……うわっ」
悠人が驚く暇も無く、空いている腕に自分の腕を絡み付けてくる。押し付けられる柔らかい感覚に、悠人は増々赤くなった。
「えっと…………シアーさん?」
「~~~~~~(真っ赤)」
「む~、ユート、シアーに抱きつかれて赤くなってるの~?」
「ばっ、違っ……うぉっ!」
ネリーが対抗意識を燃やしたのか、自分の胸をぎゅうぎゅうと押し付ける。
「うわっ!ネリー何やって……」
「へへ~ん、ネリーだってユートにおっきくしてもらうんだもんね~。ほらほら。シアーに負けないよ!」
「なっ、おおお、おまっ、なに言って…………」

背後でビキッとなにかがひび割れるのが聞こえた。

エ「ユートさま…………まさか…………」
ニ「…………ふけつ」
ファ「こらニム、子供は見ちゃいけません!」
ヘ「そんなぁ~~。ユートさまぁ~~」
ア「……よしよし」
ハ「あらあら~。ユートさまったら、困りましたね~」
セ「########」
オ「ねーセリアお姉ちゃん、なんで泣きながら怒ってるの?」
ヒ「大人は色々あるのよ##」
ナ「ヒミカ……面白い顔」

「お、お前ら!誤解だ!誤解だからな!!」
必死に言い訳を叫びながら、両サイドの蒼い髪に困った視線を向ける。
しかし背後から聞こえる悲喜こもごもな嬌声もどこ吹く風、ネリーとシアーは幸せそうに悠人にしがみついていた。
そんな二人の笑顔を見ていると、もうどうでもいいやと思えてくる。このまま笑ってくれていたら、もうそれだけで。
(そういえば俺、どさくさにまぎれて告白されてたんだよなぁ…………)
自分はどう答えるべきなのか、ちょっと考えてみる。ふと思い浮かべる「二股」の二文字。でもなぜか、悪い気はしなかった。
「ねね、シアー、今日はなに作ろうか?」
「……ネリーちゃん、ホントに作るの?」
無邪気にはしゃぐネリーと心配そうな顔で悠人をうかがうシアー。悠人は苦笑いを返しながら、ふと彼女達の神剣に目をやる。
(あのとき会ってたのは、ひょっとしてお前達だったのか?)

そのとき太陽の光を反射して『静寂』と『孤独』が光った。
それが答えの様な気がして悠人はそっと呟いていた。ありがとうな、と…………


草原で、二匹のエヒグゥが寄り添いながらそんな彼らを見送っていた。