安息

Proposition-2

朝から降り続けている激しい雨は森の中をすっかり濃灰色に染め上げていた。
空は分厚い雲で覆われ、光を完全に塞いでいる。
大量の水分を含んだ地上は所々踏み荒らされ、そのつどそこに水溜りを増やしていった。

ある大木の下。一人の少女が膝を抱えてうずくまっている。
横殴りに吹く風がその場所から雨宿りという利点を完全に奪いきっていた。
容赦なく浴びせられる雨粒に、それでも少女は動く事が出来ない。

時折風が運んでくるかすかな剣戟の音が、少女をそこから動けなくしていた。
じっと聞いているとそれがだんだん近づいてくるような気がして、堪らず耳を塞ぐ。
すっかり冷え切った躯を全身ごと抑え付けるように抱え込む。
放り出した神剣には目もくれず。
噛合わない奥歯をガチガチと震わせながら、少女は必死に呟いている。

ウラクテカレウトハイサムウラクテカレウトハイサムウラクテカレウトハイサムウラクテカレウトハイサム……………………


 ――――――背後から、気配。今一番恐れていたモノ。


それは少しだけ昔の、忘れてはいけない過去。忘れられてしまった過去。