安息

Lemma-1

周囲から襲い掛かる悪意のカタマリ。
生まれて初めて逃げたいと心の底から思った。
生まれて初めて助けて欲しいと思った。
でも逃げ場は無くて。こんな時いつも居てくれた奴も居なくて。
そんな、初めてのどうしようもない中。
アタシの中で声が響いた。
掴めば助かると言われてその細い藁にしがみついた時。

 ――――あたしは、アタシじゃ無くなっていた。

「よう、目は覚めたか、お姫さん?」
目の前の男が話しかけてくる。
がっしりとした体格、身に纏う見慣れない服装。短く刈り込んだ髪。顎から生えた無精髭。
意志の強そうな眸が彫りの深い顔で光っている。

……ああ、そうだ。

胸からは何か良く判らない珠が連なってぶら下がっている。
そしてもっとも特徴のある、その巨大な神剣。

……ここは、砂漠。

永遠神剣第五位『因果』。今は一時的に共同戦線を組んでいる。
その主が目の前で話し続ける。
「来たぜ。挨拶に行こう。」

……やっと、殺せる。

先に立って歩き始めるその背中。いずれは倒さねばならない相手。しかし今は。

……『求め』。やっと、殺せる。

不敵な笑みを浮かべて今日子は立ち上がった。傍らの『空虚』を握り締めて。