安息

Ⅳ-2

数日後、ナナルゥは集合をかけられた訓練所で変わり果てたアセリアと対面していた。
第二詰め所の面々が悠人とアセリアを囲んでいる。
アセリアがウイングハイロゥを展開したとたん、スピリット達の間に動揺が走った。

「ナナルゥ、これって……」
横でヒミカが話し掛けて、絶句している。無理も無い。目の前で見ている私も信じられないのだから。
先日救出された時は気絶していたし、夜だった事もあってまるで気が付かなかった。
「………………」
無言でハイロゥを展開しているアセリア。無言は今に始まった事ではなかったが、そのハイロゥが。
あの純白だったアセリアのハイロゥが、完全に黒く染まってしまっている。
これではまるで以前のウルカだと彼女の方を見ると、やはり同様の事を考えていたのか難しい顔をしていた。
周りを見渡すと、やはり皆驚きを隠せないのか心配そうにアセリアを見ている。
「…………殺す…………マナを…………」
呪文のようなことを呟き出すアセリアを見ていると、完全に神剣に飲まれてしまっている事は明らかだ。
何があったか知らないが、これ以上戦闘に参加させるのは無理ではないだろうか?

 …………え?

自分で考えて驚いた。神剣に飲まれている状態はすなわち戦闘には最も適している状態、という事だ。
いままでそう思い、自分自身それに近い事を実践してきたではないか。
それなのに何故、アセリアを見て無理だなどと考えてしまったのか……判らない。……ユートさまはどう考えているのだろう…………
「そういう訳で、アセリアはこれからも部隊に入ってもらう。
 …………これはレスティーナと“相談”した結果だから、皆も協力してくれ。……たのむ。」
そう言ってユートさまが頭を下げている。
(あ………………)
気付いてしまった。彼が歯を食いしばっている事に。何かに耐えている事に。
いつか、カオリさまがウルカに攫われた時と同じ。あの時も、じっと一人で耐えていた。
その震える肩が痛々しくて。でも、手一つ差し伸べる事すら今でも自分には出来なくて……そんな自分が、悔しくて。
ナナルゥは、聞こえないようにそっと呟いていた。今初めて気付いた自分の「感情」の萌芽に戸惑いながら。
「……了解、しました。」