安息

Ⅳ-3

「ハァァァァァァッ!!」

アセリアの一振りで、数人のスピリットが吹き飛ぶ。
砂塵と共に金色の粒が宙に舞うのをヒミカ達は唖然として見ていた。
あれだけ苦戦していたマロリガンの精鋭『稲妻部隊』。彼女達をアセリアはまるで子供扱いしている。
元々大陸でも三本の指に数えられる程の剣の使い手ではある。
『稲妻部隊』相手でもそれなりに戦えるのだが、それにしても「今の」アセリアは桁違いだった。
戦闘に特化されたスピリットがどれだけの力を発揮するか。
それをまざまざと見せ付けられているヒミカ達は、しかしそれに恐怖しか感じなかった。
禍々しく黒く光るハイロゥの翼。
何の感情も持たずに敵を斬り倒していくその姿にはあの帝国の『妖精部隊』しか被らなかった。

凄まじいアセリアの攻撃の後、『稲妻部隊』はあっけなく崩壊していた。
既に敵の姿は殆ど無く、一人部隊長らしきグリーンスピリットが歯噛みをしながらこちらを睨んでいる。
ゆらっとそちらに動き出したアセリアを見て、咄嗟にヒミカは飛び出していた。
「だめっ!アセリア、もう殺さなくても!」
「……!殺す……どけ……!」
聞こえないのか、『存在』を構えなおす。その暗い眸に圧倒されてヒミカは思わず後づさった。
そのまま押しのけようとするアセリアの『存在』をいつの間にか後ろにいたナナルゥがはじき落とす。
とたん、アセリアは糸が切れた人形の様にがくっと崩れ落ちた。
「もういいわ、アセリア。……貴女も、行きなさい。」
振り向いてそう言ったナナルゥを悔しそうに見つめていたグリーンスピリットは、やがて姿を消した。

倒れたまま気を失っているアセリアを囲みつつ、皆は暫く無言だった。
重苦しい雰囲気が辺りに漂う。やがてナナルゥが、ぽつりと呟いた。
「こんなのは……違う……」
以前の自分が考えていた、理想的なスピリットとしての戦闘状態。
いざ仲間がそうなった今それを否定しているナナルゥは、しかしもうそんな自分に不自然さを感じることはなかった。

スレギトは目前だった。