安息

Diagonal Elements-3

執務室を後にする。
廊下に出ると、その先に落ち着かなく立っているクォーリンを見かけた。

「よぉ、どうした?こんなところで。」
「あの、コウインさま。今のお話は一体…………」
「……なんだ聞いてたのか。盗み聞きは良くないな、クォーリン。」
「す、すみませんっ!ご報告がありまして探していたところ、こちらとのことでしたので……」
「ああ、まあいいさ。……それで?」
「は、はい!本日ラキオス軍の我が首都への進攻開始を確認しました。三方向からの同時進攻です。」
「三方向……?ははぁ、悠人の奴も大分焦ってるな……大方サーギオスへの牽制でもあるんだろうが。」
「あの……それで……」
「ああ判ってる。クォーリン、稲妻部隊はまだ使わない。相手がせっかく焦ってるんだ、持久戦でいこう。」
「判りました、ニーハス、ミエーユ、デオドガン、それぞれに篭城戦の手配をいたします。
 それに遊撃部隊を設置してスレギトが薄いようでしたら攻め込ませましょう。」
「ああ、それでいい。頭の回転が速くて助かる……クォーリン、いつも苦労かけるな。」
「いえ、そんな、私はただコウインさまのお役に立てれば…………あ……」
「これで最後だ。稲妻部隊はミエーユ後方で待機。クォーリンも行ってくれ。俺達は……首都に残る。」

優しく頭を撫ぜていた手を放すと、光陰は手を振りながら去っていく。
後に残されたクォーリンは名残惜しそうに髪に手を当てながらその背中をずっと見つめていた。

結局、聞けなかった。
先程の大統領との会話の意味も、戦いの先に彼が見ているものも。
結局、言えなかった。
自分もついて行きたいと。自分が彼に惹かれているということも。

「だって最後まで『俺達』って…………ズルイです、コウインさま…………」

軽く唇を噛んだ拍子に瞳からあふれ出た涙がゆっくりと頬を伝い、そして床に落ちた。