安息

Ⅴ-3

突然爆発した奥から飛び出してきたウルカが炎の中でゆっくりと立ち上がる。その光景をヒミカはデジャビューと共に見ていた。

無数の金色のマナが空に還る幻想的な光景。
中央に眩く光る白いハイロゥの影にいた黒い翼。

ぱちんっと頭の中でなにかが弾けた。堰を切るようにして溢れてくる記憶。……フラッシュバック現象。

そう、何故気付かなかったのだろう。
それはあまりにも自然だったから。
輝きの収束と共に、消えていたから。
だから、気付かなかった。
当たり前のように消えた、黒い妖精に。

…………それがウルカだったことに。

 ――――――――――ああ、思い出した―――

ふらふらと戻って来たウルカに慌ててエスペリアが治癒魔法をかけている。ヒミカが近づくと、目が合ったウルカが優しく微笑んだ。
その眸に感情の逆流が起こる。ヒミカも笑顔を返そうとして………………涙が自然にこぼれた。

「貴女だったのね、ウルカ…………ありがとう、やっと全部思い出した…………」
「!ヒミカ殿……そうですか、思い出されたのですか……すみませぬ、手前は戦とはいえハリオン殿とナナルゥ殿に…………」
「ううん、それはもういいの。悪いのは私……。ショックとはいえ、こんな大事な事を忘れようとした弱い私……」
「ヒミカ殿…………」
「でももう大丈夫。多分あの娘だけは憶えていただろうから…………隠してたこと、とっちめてやんないとね。」
ウルカにニッコリと笑顔で答えたヒミカは『赤光』を握り締めて涙を振り払う。
入り口に視線を向けながら、ヒミカは誓っていた。今度こそ必ず助けてみせる、と。
訓練の時にウルカが言っていた別のところにある自分の力。今はそれがなんとなくわかっていた。
「ヒミカ殿は強くなりました…………手前が決して叶わなかった強さに…………」
今ならウルカのその呟きを、素直に受け入れる事が出来た。