「おかしい………」
照り付けるような日差し、遠くの景色は熱のためか歪んで見える。
マロリガン東部に広がる広大なマナ消失地帯、ダスカトロン大砂漠。
幾つもの砂丘が連なる砂漠のただなかにポツンと生首が転がっていた。
「何故こんなことに……」
生首が言葉を発し、自問自答する。
いや、正確には生首ではない。首から下が砂に埋められ、露出しているのが頭だけなのである。
ざんばらに切り揃えられた茶髪に年齢からは考えられない鋭く精悍な顔つき。
マロリガン側エトランジェ『因果』の光陰であった。
そして、その周りには赤青緑黒、色とりどりのスピリット達。
そのどれもが皆一様に、少々怯えたような表情で光陰を見下ろしている。
さらに、見下ろされている光陰の頭の上に押し付けられている少し厚底のブーツ。
それを辿っていけば片手に細身のレイピア、もう片方にナックルのような盾、
そしてマロリガンの装甲服を見につけた同じくマロリガンのエトランジェ『空虚』の今日子の姿が……。
ぐりぐりと今日子が頭を踏みにじる為に微妙に埋まっていく光陰。
「お、おい!ちょっと待て!話せば分かる!話せば!」
「何だ?」
ようやくピタリと冒涜的な行為がとまった。
「何故、こんなことになっているのか説明してく……いえ、シテクダサイ」
「スピリットに手を出した、以上」
即答だった。
「何故だ……今日子に今は自我はないはず、チャンスのはずなのに!」
ここで説明しよう!!人を殺していく罪に耐え切れず今日子の自我は心の奥底に沈んでしまい、
今は神剣の意志である『空虚』が今日子の身体を支配しているのである!
「何……をしている?」
虚空に向かって視線を投げかけ、なんとなく決まったような顔をしている光陰に『空虚』が問いかけた。
「いや、なんでもない……」
がくりと首を垂れる光陰であった。
そんな光陰にお構いなく『空虚』は言葉を続ける。
「とにかく、スピリットに手を出さないで頂こう。私のマナの供給源でも―――」
「なにぃぃぃ!?」
ガバッっといきなり頭をあげる光陰、その衝撃で足をのせていた『空虚』がバランスを崩す。
「キャッ!」という小さい悲鳴と共に尻餅をつく『空虚』。
「百合か!?百合なのか!今日子~いつの間にそっちの世界に……」
「黙れ」
素早く身体を起こし、光陰の脳天に踵落としを叩き込む『空虚』。
より一層、埋まる頭。
「ふ……ふふふふ」けれど、光陰は不気味な笑い声をあげる。
「甘いぞ、この程度で俺が諦めると思ったか?ふっ、今だって……」
そういうと器用に頭を巡らせて周囲を見渡す光陰。
大抵スピリットの戦闘服というのはスリットが極端に入っていたり、ミニスカートだったり……。
そして、光陰の眼の位置は地面すれすれ。この二つから導きだされる結論は!
ようやく気付いたのか、「キャッ!」と周りのスピリット達がスカートの裾を抑え、一気に光陰と距離をあける。
………ピキリと今日子のこめかみに青筋が浮いた。
「こ~~~お~~~~い~~~~~ん~~~!!!」
にへらと相貌を崩していた光陰も地獄からの呼び声に我に返る。
見れば今日子、もとい『空虚』の手の中には―――。
「何!そ、それはお笑い神剣第一位の『ハリセン』!今日子専用の武器が何故ここに!」
幾度となく今日子の殺人ハリセンを味わった光陰の額を冷や汗が流れる。
だが、現実世界のときと違い、微妙にハリセンが帯電しているように見えた。
「って、ちょっと待て!それを使えるということは今日子か?やっぱり、今日子なのか!」
「私は『空虚』ですけど、何か?」
にこりと笑った顔は間違いなく今日子だった、絶対に。
光陰への怒りだけで『空虚』を押しのけ浮上してきた今日子、恐るべし。
「お、落ち着け!なっ?『空虚』なら俺を叩く必要もないよな?」
「いやぁ~、身体が勝手に動いちゃってさ……だから」
先程まで雲一つない青空が今はどんよりと薄暗く曇り、ところどころで紫電が漏れる。
いまや、今日子の相貌はエターナルも裸足で逃げ出す壮絶さだった。
「問答無用……ね♪」
雷光を纏ったハリセンが悲鳴をあげる光陰(by生首)に振り下ろされた。
―――その力は第二位の神剣さえも上回るという、つっこみ殺人技「ライトニング・ハリセン・スラスト」誕生の瞬間であった。