StoryTellerHimika

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これが、『真の童話を紡ぐ者』ヒミカがその道を歩み始めた契機であり、また、大陸の児童文学の転換点となったのだ。
このあと、ヒミカは理想の童話を追求して創作活動を開始するが、あくまで語りによるものであった。
ヒミカの童話の誕生に立会い最大のファンにして最大の理解者となるシアーの勧めと熱望に応えて、後に本として出版、これが子供たちの間で評判が次第に広がり、ついには大陸で最も人気の童話作家として広く知られるようになった。
この最初の物語も後に『ネリーとシアー の 魔法を求めて』として出版され、これも好評を博した。
今回紹介するにあたっては、現存する中で最も原本に近いとされる『ネリーとシアー の 魔法を求めて』エルスサーオ第二十一版を底本として使用し、
現存するシアーへのインタビュー記の中で最も正確とされる『シアーに聞く ヒミカその人となり』ラキオス第十八版を資料として、可能な限り正確な再構成を試みた。
ヒミカは自分や自作については多くを語らなかったため、我々がヒミカの人柄や創作姿勢を知ることができるのはシアー等関係者に拠るところが大きい。
常々、自作に献辞も後書きもつけなかったヒミカが、『ネリーとシアー の 魔法を求めて』にのみ献辞を設け、
  「わたしに童話の可能性を教えてくれ、初めての聴衆の一人でもあった、ネリー、
   初めての聴衆の一人にして、わたしの童話の最大の理解者でもある、シアー、
   初めての聴衆の一人にして、その豊かな想像力でアイデアを与えてくれる、ヘリオン、
   三人に、わたしの出発点であるこの作品を捧げる」
と告げていることを特筆しておこう。

やがて女王がその人気に目をつけたことで、児童文学の分野に限らず有名な『真の童話問答』が行われることになる。
『真の童話問答』については第四章で詳細に紹介・考察するが、ここではヒミカの言葉の内で最もその想いが強く現われている部分を先に紹介しておこう。
  「たしかに女王様の御政策はわたしの理想とする世界を実現するでしょう。
   この点ではわたしも女王様と同じ方向を向いていることは間違いありません。
   わたしの拙い童話が幼き者たちに好評を得ているというのは、何とも光栄なことにどうやらそのようです。
   その好評の理由を自ら愚考致しますに、わたしの童話と旧来のものとの唯一つの明らかなる差異、即ち、
   読む者に主義・思想を押し付けない、ということに尽きると存じます。
   従いまして、仮にわたしが女王様のお望みのような物語を書きましたとしても、
   幼き者たちは旧来の童話と同様にこれを好まないでしょう。
   そして、その者たちが後に女王様をどのように捉えるか、今一度御高察下さいますよう御願い申し上げます。
   かつて、本質的解決のために敢えて苦難の道を選択なさった女王様ならば必ずや、
   易きに流れず本道をお選び頂けるものと信じております」
この『真の童話問答』の後から、誰が始めたとも知れないが『真の童話を紡ぐ者』と冠せられるようになる。ヒミカ自身が自らそう名乗ることは生涯一度もなかったが。

以上、第一章ではヒミカの童話創作の始まりについて紹介した。
第二章ではその後のヒミカの創作の軌跡をその創作姿勢を中心に追いかけ考察する。
第三章では出版を機に人気が広がるその過程について分析・考察する。
第四章では前述の通り『真の童話問答』について、特に一章を割いて詳細に紹介・考察する。
第五章ではヒミカの各作品について詳細な分析・考察を行う。
第六章では総括として、ヒミカとその作品群が大陸文学、ことに大陸児童文学に与えた影響についての考察で締めとする予定だ。

      『大陸児童文学論大系 第二巻 「真の童話を紡ぐ者」ヒミカ』大陸児童文学会編 第一章