寸劇@第二詰所

epilogue

「ヒ~ミ~カ~っ」
「演出ですよ、演出」
「え? え? 今のは…ユートさまが…わたしに……きゅ~」
ようやく起こったことを理解して卒倒するヘリオンを悠人がとっさに抱きとめる。
「ねー、ユートー、ネリーにもしてー」
「…シ、シアーも~」
がばっと起き上がるヘリオン。
「あ、あのあのあのあのあのあの、わ、わたしもっ…その…」
「えーっ、ヘリオンはさっきしてもらったじゃーん、ずるいよー」
「いえ、でも、さっきのは、えと、その…あれはアセリアさんであって、わたしじゃないですから…」
「…あー、もうっ、わかったから。順番だ、順番」
もはや開き直るしかない悠人の前に、よいこの整列1・2・3…

「あ、お姉ちゃんっ、ダメーっ!」
突然ニムントールが叫ぶ。
「あら、どうしてですか?」
対するファーレーンは冷静だ。
「ど、どうしてお姉ちゃんが並んでるのよーっ!」
「それではニムはどうして並んでいるのですか?」
「え? そ、それは、その、なんていうか、その、なんとなく……どんな感じなのかなって…」
とたんに慌てるニムントール。その言葉の最後の方は小さくてよく聞こえない。
「それでは、わたしもなんとなくです」
「ダメーっ」
「ニムはよくてわたしはだめなのですか?」
「いや、それは、その…って、何してるのよ、ニム!? ニムはべつに……あ、そうだ、そうよっ」
ニムントールは取り乱していたかと思ったら何やら思いついたようだ。
「うん。ニム、並ばないから、お姉ちゃんもならばないで」
「ニム? …ちなみにそれは何か違いませんか?」
「いいから。いいでしょ?」
「はぁ、本当にニムって子は…」
ニムントールに引きずられるようにしてファーレーンは列を外れる。
「それでね、お姉ちゃんがニムにして。ね?」
「ニム…あのねぇ…」
「ね?」
ファーレーンはニムントールの額に口づけてやる。こうなってしまったニムントールにはいつも負けてやるファーレーンだ。と、ニムントールがファーレーンの手を引っ張る。体を曲げてやると、ニムントールがファーレーンの額に口づける。
「へへへ。お姉ちゃーん」
抱きついてくるニムントールを抱き返してやりながらファーレーンは考える。
(……ニムは…)

「次っ」
ネリー、シアーときて、ヘリオンのおでこに再度のキスを終えた悠人の言葉だ。まるで戦闘訓練か何かのようだが、そうでもしないと気恥ずかしさに耐えられなかったのだ。
「はい~♪」
「って、ハリオン? お前…」
「はい~?」
ヘリオンの後に現われたのはハリオンだった。そもそもどうして悠人がこんな羽目にあっているかと言えばヒミカの陰謀が発端なわけで。ハリオンはそのヒミカに組していたわけで。悠人としてはここは当然怒ってもいいはずで。
…そのはずなのに、悪びれることもなくただいつものようにニコニコしているハリオンを前にすると、怒る気力がなくなってしまうのはどうしてだろう? おそるべし、ハリオン・スマイル。悠人はがっくりとうなだれた。
チュッ。
そんな悠人の額にハリオンが口づけた。
「おつかれさまでした~♪」

 ヒミカは、じっと手のひらを見つめるナナルゥの隣に座っていた。しばらくその様子を見守っていたが、やがて天を仰ぐと目を閉じた。そして、声には出さず心の中で語りかける。
(そう、考えて。すべてはそこから始まるんだから…)
チュッ。
額の感触に目を開けるとナナルゥの顔。
一瞬の間。
それから、ヒミカの顔には笑顔が、瞳からは涙が、こぼれた―――