安息

Quod Erat Demonstrandum

突如現れたスピリット達。
自分どころか剣の意志さえ感じられない彼女達に、しかし今のナナルゥはもう全く恐怖を感じていなかった。
確かに強敵ではあるだろう。しかし、それだけだ。横にいるヒミカとハリオンを見ると、二人とも頷き返してくれた。
考えていることは一緒だった。『あんな人達には負けない』。
同時に迎え撃った三人の瞳には、乗り越えた者だけがもつ強さが確かに宿っていた。

殺到する敵に対してナナルゥは躊躇わず、滑らかにヒートフロアを唱えていた。
間に合わないはずの詠唱がハリオンのウインドウイスパに守られる。
圧倒的な力で振りかざしたはずの敵の剣は、それ以上に『大樹』の力を引き出したシールドハイロゥに弾かれた。
敵の攻撃に傷一つつかない緑色の粒子が美しくその輝きを放つ。
同時に二つのスフィアハイロゥが『赤光』と『消沈』に凝縮された。
ヒミカが炎を纏った『赤光』を握って駆け出したとき、ナナルゥの詠唱が完了する。
レッドスピリットの特性を最大に放つ為、地の属性を丸ごと変えてしまう神剣魔法。
『消沈』の先から放たれたそれが真っ直ぐ『赤光』に飛んでいく。
あっという間に倍加したスフィアハイロゥがヒミカの動きを加速した。ブルースピリットのようなスピードでたちまち三人の敵を薙ぎ倒す。
ファイヤエンチャントと呼ばれるレッドスピリット最大のその剣技は、しかし強大が故にその動作の最後に大きな隙が出来る。
仲間を倒されても怯む事のない敵はその隙を見逃さなかった。

ヒミカの動きが止まるその一瞬を狙ってアイスバニッシャーをぶつける。連動して別の敵が斬りこんでくる。
神剣魔法をキャンセルされた『赤光』のスフィアハイロゥが霧散した。次の詠唱に入って無防備なナナルゥ。
戦いを通じて一番危険な瞬間。その瞬間、ハリオンの『大樹』から巻き上がった雷が敵全体を襲った。
敵の動きが止まる。短いその時間で、それでもナナルゥの詠唱は完了してしまっていた。
ハリオンのエレメンタルブラストにより抵抗が限りなくゼロに近づいてしまっていた敵は、
ナナルゥのアポカリプスⅡを無防備で受けあっけなく消滅した。

自分が持つ最大の神剣魔法を連続で放ったナナルゥは、しかしもう『消沈』に飲まれることはなかった。
後悔を知るハリオンは、守る為に『大樹』を振るう事に恐れはなかった。
二人の誇らしい親友を持つヒミカは、本当の自信を持って『赤光』の力を解放した。
彼女達は顔を見合わせて微笑みあう。神剣の支配を覆す一つの大切なもの。それは互いへの『信頼』かもしれなかった。