安息

Lemma-6

ホワイトスピリット……クェド・ギンがマナの霧になるのを光陰は黙って見送っていた。

(大将…………やっぱり間違ってたってことだよな……)

人は他人(ひと)の気持ちなど本当の所は絶対に解らない。
だから諦める。諦めて、悟ったような気でそれ以上踏み込まないように一線を画す。
それは最も単純なプロテクト。傷つかない為に心に生まれるシールドの構築。
それが一番楽な事だということには目を背けて。自分から向き合わなければ相手だって弱いままなのに。
信じることさえだんだん怖いもののように思えて。信じられるものがなくなった訳じゃないのに。

「俗すぎてこっ恥ずかしいけどな……。信じればよかったんだよ、アンタも……俺も、な……」

マナの最後の光が霞んでいく。『禍根』が消えたのを確認して、光陰はゆっくりと部屋の隅を見る。
そこには支えあって立ち上がろうとする三人のスピリットの姿があった。
その景色が不意に懐かしい思い出と重なる。悠人。今日子。そして光陰。
三人ならなんでも出来ると思えた昔の日々。

 ―――なんでこんな簡単な事を忘れちまってたんだろうな……

アセリアを背負った悠人が近づいてきた。光陰は拳で悠人の胸を軽く叩き、そして笑った。
「さ、俺達のじゃじゃ馬姫さんに会いに行こうぜ!」


部屋を出る時、もう一度振り返った光陰は小さく呟いた。
「じゃあな…………大将の意志とやらは継げないけど、俺はアンタのこと嫌いじゃなかったぜ…………」