回帰

Lemma-2

「ありが、とう、ね…………そ、んな言葉、聞いたの久し、振り、かな………………」
走り去るヘリオンの後姿を見送った後。少女は呟きながらずるずると木の根元に沈みこんだ。
背中に刺さっていた神剣が貫き通したままの木に引っかかって抜け落ちる。とたん、吹きだした大量の血が背中を濡らした。
ごふっと口から吐いた赤い霧が瞬時に煌き舞い上がる。
少女はマナに還る自分自身に包まれたまま、身体の周囲が金色に輝きだすのをぼんやりと眺めていた。
綺麗だな、何故かそんな的外れの感想がよぎった。
「そう、いえば……名前を聞く、の、忘れてた、な……………………」
空を見上げて、中空に浮かぶ満月にそっと囁いてみた。月も金色だった。
ややあって、がさがさっと周囲の草が揺れる音。妖精部隊の精鋭達が次々と姿を現わす。
「ねえ……わたしがみんなにしてあげ、あげられる事って…………も、もう何も、ないの、かな…………?」
そちらを見もせずに呟く。“かつての仲間達”は、黙って黒く消えた瞳でその言葉を跳ね返していた。
その気配に溜息が漏れる。判ってはいたが、哀しみが無くなる訳でもなかった。
「そう…………恨まない、でね……わた、しも……すぐいく、か、ら………………」
そっと目を閉じる。たどたどしく唱えた高速詠唱が少女の体を緑雷のハイロゥで包み込んだ。