回帰

「話は決まったようだな」
「そうね。このままじゃいつまでも埒が明かない事だし」
「ああ、いい加減それとなくってのも俺様の性分に合わなくなってきたしな」
「そうね。アタシもそんなに気が長い方じゃないし」
「大体アイツが全てにおいて悪いんだからな」
「そうね。自分からもうちょっと動いてくれればこんな事しなくても済んだんだけど」
「既成事実をつきつけてしまえばちったぁ素直になるだろうしな」
「そうね。悪く思わないでね、悠。すぐに楽にしてあげるから」
「じゃあ開始だな。misson~…………」
「そうね、ってちょっと待って、それはエスペリアの十八番よ。口に出すと色々と面倒になるわ」
「おっと迂闊だったぜ。ここは第一詰め所だったな。じゃあ……」
「『そんなに流されたいんなら流してやるぜ作戦』、いくわよ」
「………………しくしくしくしく」


 ……………………

かぽーん…………

何故か鹿威しの音が響く大浴場の中。悠人と光陰がのんびりと湯に浸かっている。
「あ~今日の訓練もキツかったな~悠人よ」
「お前はオルファを追い掛け回してただけだろうが。まったく、俺まで電撃に巻き込みやがって」
「しょうがないだろう、オルファちゃんが『パパ~!』とかって泣きながらお前の方へ走ってくんだから」
わははは~と光陰が頭に乗せていたタオルを取って顔を拭う。目で追いつつ悠人は溜息をついた。
「全くお前の方がよっぽどオヤジ臭いのにな……それで?なんで今日に限って俺を風呂に誘った?」
「別に~たまには男同士で背中を流し合うのもいいんじゃないかと思ってな」
「ああ、まあそれはそうだな……お前が居れば誰か襲撃してくることも無いだろうし」
ふぃ~とあらぬ方を見ながらくつろいでいた光陰が、悠人の何気ない一言に敏感に反応した。
「なにっ!お前そんなうらやましい性活を送っていたのか!俺はマロリガンで散々苦労していたというのに!」
「がぼがぼがぼっ!こら、やめろっ!その意味不明な誤植も含めてっ!」
「しっ………………来たな。静かにしろ、悠人」
「お前なに言って……もがもが」
「うるさい奴だな。いいから黙ってろって」
暴れる悠人の口を必死にタオルで押さえ込む光陰。そうこうしている内に向こうの方でがらっと扉の開く音が聞こえる。
誰かが入ってきたようだった。

「どうやら誰もいないようですねアセリア」
「ん。ナナルゥ、さっさと済まそう」
「~~~~~~~~~っ!」
「ほほうアセリアとナナルゥか、珍しい組み合わせだな」
入ってきたのがアセリアとナナルゥだと解説されて、何故か真っ赤になって暴れ出す悠人。
光陰は感慨深げに頷きながら、そこでやっと窒息しそうな悠人に気付いたのか、抑えていた手を緩めた。
「~~~~……ぶはっ!お前これが目的で……………………」
ぜいぜいと抗議の声を上げようとする悠人。しかしやや荒いその声が、少し大きかった。
「ん?何か声がしなかったかナナルゥ」
「……気のせいでしょう。さ、始めましょうか」
不審気な声を出すアセリア。しかしナナルゥが軽く流したお陰なのか、どうやら気付かれなかった。
「あぶないな悠人、そんな大声を出したら変態の烙印を押される事になるぜ」
「くっ……お前というやつは……」
「悔しがるのは後だ悠人、今俺達には大事な役目がある」
ヒソヒソ声で話し合う二人。どうでもいいが別に女湯に侵入した訳でもないのに妙に卑屈である。
「なんだ大事な役目って」
「まだ判らんのか悠人、誰もが一度は経験した事があるだろう?そう、林間学校しかり修学旅行しかり」
「ま、まさかお前…………」
「抜かりは無い。既に昼間絶好の鑑賞ポイントを押さえておいた。お前と楽しみを分かち合おうと思ってな」
「待て、おいちょっと!」
言いながら河童のように音も立てずに泳いでいく光陰を悠人は慌てて追いかけた。

「お、おいまずいって。いいかげんにしろ光陰」
「ここまで付いて来て今更何を言う。だからヘタレなんて噂を撒かれるんだ」
「なんで知ってっ!………………お前か…………………orz」
「ま、あんまり効果なかったけどな……お、ここだここだ」
「おい待てって」
悠人の制止をまったく聞かずに覗き込もうとする光陰。しかしその時女湯から響いた声が二人の動きをピタリと止めた。
「あ、ナナルゥ、そこいい」
「ここですか」
「ん…………ふぁっ」
「ではこちらも気持ちがいいでしょう?」
「あ……あぅ、ナナルゥ、そこはまだ少し痛い」
「そうですか、ではもう少し優しく」
「…………悠人よ」
「…………なんだ光陰」
「お前がしっかりしないからアセリアがレzぐぉっ」
「そんな訳ないだろ変なこと言うな光陰まさかアセリアがナナルゥとそんなはず」

「いてててっ!……まったく、思いっきり動揺してるじゃねーか。どら、俺が確認してやる」
「ままままて光陰、まだ心の準備が」
「何が準備だ…………ってあれ?」
「お、おいどうした」
光陰が覗き穴にへばりついたまま動かなくなる。不安になった悠人が声を掛けようとした時再び女湯から声が響いた。
「これでさっぱりしましたかアセリア」
「ん、ナナルゥいつもサンキュ」
「そちらのお二人もいかがですか?」
いきなりこちらの方を向いて微笑んだナナルゥに、思いっきり動揺した二人は足を滑らせてしまった。
そのまま折り重なるように倒れこんでしまう。
がさがさがさっ!!
「ん?なんだナナルゥ、他に誰かいるのか?」
「いえ、勘違いだったようです。一つ貸しですよ」
「貸し?なんのことだ?」
「それよりも部屋に戻って洗った髪を早く拭きましょう。自然乾燥は髪を傷めますから」
くすくすと聞こえるナナルゥの忍び笑い。新鮮な感じを受けながらも悠人は女湯に向かって必死にぺこぺこ頭を下げていた。

かぽ~ん…………

「悠人よ、たまには寿司でも食いたいな」
「いきなり何だ。お前は小○寿しでも食ってろ」
「○僧寿しって言えば最近見ないが、か○ぱ寿司の繁盛っぷりとなにか関係でもあるのだろうか?」
「かっ○寿司ってあれか?年中○ぐろ祭りをやってる」
「妙にインパクトあるんだよな、寿司と○っぱに因果関係がある訳じゃないのに」
「小○寿しだってなんかガキの食べるものみたいな感じだぞ」
「どっちもなに考えてんのかよく判らんな」
「意外と思想は同じとこにあるのかも知れないが」
「キム・○ョン・ヒからキム・ジョン・○ルみたいなモンか?」
「なんで反抗期の貧乏国が寿司の例えで出てくるんだ」
「………………」
「………………」
「やめよう、色々とヤバそうなネタだ」
「そうだなこれ以上刺激して世界地図が変わったら大変だ」
「まぁラキオスの風呂場を盗聴しているとも思えないけどな」
「………………」
「………………」
「北○○の人、冗談ですよ?」
「やめろと言うのに!」

がらがらがら
一息ついた二人が懐かしい故郷を思い出して良く判らない時事ネタ雑談を楽しんでいると、
またもや女湯の方へ誰かが入ってくる音がした。

「うわ~誰もいませんよ~!」
「ちょっとヘリオン、走ったら危ないわよ」
「大丈夫ですよぅ~わわっ!」
「よっと、ほらごらんなさい」
「えへへっキョーコさま、ありがとうございます」


かぽーん…………

「………………どうした光陰、いかないのか?」
「それは死刑宣告か悠人。こんなに水気の多いところで俺に雷を喰らえってか?」
「いくら今日子でもそれはないだろ。自分も感電するって判ってて放電するか?」
「お前はまだ今日子の恐ろしさを知らないようだな。アイツは狙った相手だけに的確にダメージを与えられるんだ」
「いやまさかそんな物理法則を捻じ曲げるようなマネ出来る訳」
「あいつは、する。具体的には俺にならする。保障してもいいぜ、なんなら賭けるか?」
「……やめとこう。どちらにしても不毛な結果になるからな」
不毛な会話を繰り広げている二人に女湯から会話が割り込んできた。
「それにしてもヘリオンさぁ~今日の訓練でもそうだけどもっと悠に話しかけなくっちゃ」
「…………へ?俺?」
またもや動きの止まる二人。悠人が間抜けな声をあげた。

二人は心持耳が大きくしながら黙り込んでしまう。女湯の声がはっきりしてきた。
「そ、そんなわたしなんか恐れ多いですよ~」
「そんなことないって、悠もあれでヘリオンのこと気にかけてるみたいだからさ」
「え、え、え、そそそそうなんですか……?」
「そんな驚かなくても……そうそう、ヘリオンだってもっと悠と仲良くなりたいんでしょ?」
「…………は、はい~」
「も~かわいいんだからヘリオンってば!このこの」
「きゃっキョーコさま、変なところ触らないで下さい」
「う~んやっぱりまだ発展途上ってとこね」
「わわわ~っヒドイですよっ!ううう……確かにちっちゃいですけど……」
「ま、悠はどちらかと言えば大きい方が趣味って言われてるけどね」
「はぅっ、そうなんですか?」
「あはは、まあ気にしない気にしない。アイツちっちゃい娘もほっとけない性質だから」
「う~素直に喜べないですぅ~」
「うわキタね、悠人、鼻血を湯船に撒き散らすなって!」
抑えた手の隙間からぼたぼたと流血を滴らせている悠人だった。

やがて気が緩んだのか、ヘリオンがぽつぽつと本音を語り出す。
「わからないんです……結局私ってユートさまにとってなんなんだろうとかいつも気になっちゃうというか……」
「ちょっと落ち着いてヘリオン。確かに最近の悠はなんかふらふらしてるけどさ」
「そうなんですよぅ、優しいなって思うとアセリアさんにも同じ顔で笑いかけてそれが寂しいなって……」
「……………………」
「でもたまに話かけてくれてそれで嬉しくて寂しさなんて全部吹っ飛んじゃって……」
「……………………」
「でもおかしいですよね、それって。ユートさまどちらにも優しいのって。そういうのって二まt」
拳を握り締めながら力説するヘリオン。自分にとってタブーな単語が聞こえそうな気がして今日子は慌てた。
「ま、まぁしょうがないんじゃない?自分でも決められないのよそういうのって」
「キョーコさま、さっきと言ってることが違ってますよぅ」
「あ、あはは……」
ヘリオンにしては鋭い指摘に今日子は笑って誤魔化す。一方ヘリオンはそこでふっと寂しそうに顔を半分湯船に埋めた。
「でも、待ってるのってすごく苦しいです……こんなの初めてで……」
「ヘリオン…………ごめんね……」
「へ?なんでキョーコさまが謝れるんですか?」
「あ~……いやぁほら、悠もいい加減ハッキリすればいいのにね…………ごめんねアセリア、この娘めっちゃ良い娘だわ」
「え?なにか言いましたか、キョーコさま」
「ああ、なんでもないなんでもない…………はぁ」

一方の男湯では、ぶすっとした顔が二つ向かい合っていた。
「おい悠人よ」
「なにもいうな」
「統括するとお前は誰でもいいということにがぼっ!」
「それ以上言うな」
「わひゃった、わひゃったから風呂桶をくちにひっこむはって」
「暴れるなよ。あまり大声を出すと変態の烙印を押される事になるぜ光陰」
「ぶはっ……落ち着けって悠人。大体お前、一体どっちが好きなんだ」
口をかくかくと揺らしながら顎の調子を窺っていた光陰がふと訊ねる。悠人は憮然としたままこう答えるしかなかった。
「どっちって……誰をだよ」
「ちぇ、今度は拗ねやがった。決まってるだろ、アセリアかヘリオンちゃんか。それとも他に誰かいるのか?」
予想通り、といった表情で光陰が呟く。その言葉に悠人は光陰の本気を悟ったが、それでも黙秘し続けた。
「……………………」
「ダンマリか。ま、いいけどな、俺は。お前と戦う理由も無くなっちまう事だし」
「光陰…………」
「じゃ、そういうことで。俺はちょっと行って来るわ」
いきなり会話を断ち切って立ち上がり、女湯へと歩き出す光陰。
一瞬呆然とした悠人だったが、それを見て思わず本音が漏れてしまった。
「ああ、行ってこい…………じゃなくて何処へっ!おいダメだ光陰、ヘリオンだけは許さん…………あ」

ニヤニヤしながら振り向いた光陰を見て悠人はようやく嵌められた事に気付いた。
「クックッようやくカミングアウトしたな悠人よ…………お~い今日子、作戦終了だっ!!」
「あ~了解了解☆こっちにも途中から丸聞こえだったからね。よかったわね、ヘリオン」
「え、え、あの一体、あのあの……」
「な~に赤くなっちゃってんのよっ!この幸せ者!」
「お、おい光陰!」
「ふふふ、俺の目は誤魔化せないぜ悠人。お前、アセリアの時は最後まで止めようとはしなかったのになぁ~」
「なっなっそれは……」
「ホントよね~アタシも悠がもし覗いてきたらどう力をセーブしようかとハラハラだったわよ~」
「今日子……お前まで……」
「だからね悠、後は二人の問題っ!しっかりやんなさいよ!」
「あっ、キョーコさま待ってください!」
「ヘリオンはもう少し入ってるの。悠が話があるってさ」
「で、でもでも……」
「そういう訳だ。ちょっともったいないがヘリオンちゃんは任せたぜ」
「お、おい二人とも……」
がらがらがら……ぱたん。男湯と女湯、二つの扉が同時に閉まる。置いていかれた二人に沈黙が走った。

外の通路には、詰め所の面々が集まっていた。服を整えながらナナルゥがアセリアに問いかける。
「アセリア、これでよかったのですか」
「ん、ヘリオンといるときのユート、凄くいい顔をしている。わたしはそれが嬉しい。もっと仲良くなって欲しい」
「アセリア、意味判って言ってんの…………はぁ」
黙って聞いていた今日子が盛大な溜息をついた。暖簾に腕押し、という単語が浮かぶ。アセリアが首を傾げた。
「?どうした、キョーコ」
「なんでもない…………『ヤキモチ大作戦』、失敗…………」
「?」
「天然……いえ、なんでもありません。うかつでした、ここまでとは」
今日子と並んで落ち込んでいる風?なナナルゥの突っ込みに、珍しく静かな口調で光陰が訊ねる。
「ナナルゥこそ、いいのか?それにヒミカも」
「光陰、余計な事言わないの」
嗜める今日子にまぁまぁと半ば呆れ口調のヒミカが頬をぽりぽりと掻いていた。
「……ばれちゃってましたか。まぁしょうがないです、精一杯やった結果だし」
「それに、ユートさまはヘリオンに笑いかけている時が一番幸せそうですから」
「でもさ、あっちで落ち込んでるお姉ちゃんはどうする?」
どうやらファーレーンが落ち込んでいるのが気に入らないらしい。ニムントールがぶすっと口を挟んだ。
向こうの方でどんよりと溜息をついているファーレーン。完全に自爆だろう。
なぜか、クォーリンが慰めている。ネリーとシアーが訳も無く一緒にしゃがんでそれを見物していた。
まったく、ゆっくり落ち込んでる暇もないわね……今日子は少し苦笑しながら言った。
「そうね……みんなで自棄酒でもしましょうか、お祝いも含めて」
「明日エスペリアに怒られそうだけどね」
ヒミカの一言にみんながくすくすと笑い出した。一人、よく判っていないアセリアを除いて。

「まったくアイツら……」
壁一枚ごしにヘリオンの気配を感じながら悠人は呟いていた。
とりあえず、どうしたものか。途方にくれていると女湯から消え入るような声が聞こえた。
「あ、あの……ユートさま……」
「あ、ああ、どしたヘリオン?」
「………………」
「………………」
再び沈黙が走る。バカか俺は。どうしたじゃないだろう、中学生じゃあるまいし。
これじゃまるで新婚初夜……考えがヤバい方向に行きそうになって慌てて修正を試みる。
湯に浸したタオルで顔を拭いた。少しさっぱりする。
そうだよな、みんながここまでしてくれたんだ、俺もハッキリしなきゃな……軽く深呼吸して覚悟を決める。ごくりと喉がなった。
「俺さ、佳織って妹いるだろ?昔からアイツのことは俺が守るってムキになって、それでよく光陰辺りにからかわれたよ」
「ふふ、今もユートさまはそうですよう」
「そうか?両親が早く死んじまっててさ、アイツはいつも泣いていて……だからなおさらだったんだよな」
「………………はい」
「でさ、最初ヘリオンを見たときも……その、正直、妹みたいな感じしかしなかった」
「……は、い」
「でもさ、ヘリオンは俺に追いついてくれようとした。横に並んでくれようと何時も頑張ってくれている」

ヘリオンの返事が無いのを確認して、悠人は続けた。
「最近さ、ヘリオンが側にいてくれないと……その、なんだか凄く落ち着かないんだ、俺」
「ユ、ユートさま…………」
「だからさなんていうか……そんな女の子を……もう、妹としてなんて見れないっていうか……えっと…………」
「も、もう………………」
「つまりその……ええいっ!お、俺はヘリオンが好きだ!だからもっとヘリオンの側にいたい!側にいて欲しいんだっ!!」
言った。言ってしまった。心臓の音が物凄いことになっている。告白するのにこんなにマナを使うとは思わなかった。
「………………」
ヘリオンは黙ったままだ。告白の興奮からふと冷静になる。もしかして俺の早とちりだったんじゃないかと嫌な予感が頭をよぎった。
「………………」
生殺しのような沈黙が続く。悪い方悪い方へと考えが進んだ。ひょっとして嫌われてる?呆れられてるとか?……落ち着け。
「………………」
「……あの~ヘリオン、さん?」
恐る恐る訊いてみる。へんじがない。しかばねのようだ…………じゃなくて、しかばね?あっ!
落ち着いて会話を振り返ってみる。告白に夢中になっていたが、ヘリオンが何か言いかけてたような。
「お、おいっ、ヘリオン、入るぞっ!!!」
言うや否や女湯に飛び込む。案の定ヘリオンは、すっかり茹で上

慌ててとっさに自分の部屋に連れてきてしまったはいいがどうするか。
冷静になった悠人は今の自分の状況をやっと理解し始めていた。「お持ち帰り」という単語が浮かんできて、慌てて頭を振った。
ベッドですうすうと寝息を立てるヘリオンをそっと見る。
ほんのり上気して頬を染めた顔。普段のお下げをすっかり下ろすと意外と長い黒のロングヘア。時折微かに動く口元から目が離せなくなった。
(ちっ、まだ返事も貰ってないっていうのに俺ってやつは……)
無理矢理ヘリオンから目を放し、椅子に腰掛ける。窓の外に映った月を眺めていると少し気持ちが落ち着いた。
とりあえずなにかで仰がなくっちゃなと探していると、後ろから囁くような声が聞こえた。
「………………ユートさま」
振り向くと、じっとこちらを見ているヘリオンの大きな黒い瞳に月が映りこんでいた。
全部を覗き込まれているような気がして悠人はまた少し気持ちが乱れた。
「ユートさま、ここは?」
「ああ、俺の部屋。ヘリオン風呂で倒れたんだよ、憶えてないか?」
悠人は声が上擦っていないかと不安だった。しかし直後、動揺したヘリオンの方がよっぽど上擦った声を上げた。
「ふぇ……ふええええ?ユ、ユートさまのお部屋?わ、わたしその……ってきゃあっ!」
起き上がろうとして初めて自分が裸だということに気付いたらしい。慌ててシーツを肩まで上げてう~と上目遣いで睨んでいる。
「あ、あのユートさま、つかぬ事をお伺いしますけど……」
「……ああ悪い、緊急事態だったしその……少しだけ……」
「わ~~~~~んっ!!!」

「ああっ、で、出来るだけ見ないようにはしたからっ!大丈夫だって!」
なにが大丈夫なのか言っててよく判らなかったがとりあえず嘘は言っていない。悠人は誘惑に打ち克ってはいたのだ。
半泣きだったヘリオンが急に黙りこんだ。俯きながらちらちらとこちらを窺う。そしてぽつり、と呟いた。
シーツをぎゅっと握り締めた手が震えているのが見えた。
「あの~わたし、こんなですけど…………本当に、いいんですか……」
「…………へ?」
何が?と訊きそうになって慌てて口をつぐんだ。先ほどの返事だ。最後まで聞いてはいたらしい……ってそんな事より。
「も、もちろん!ヘリオンじゃなきゃ駄目なんだ!そういうちょっとドジなところも含めてっ!」
「わわわっ、そこを強調しないで下さいよぅ~~~~」
「あ~いや、そうじゃなくてその」
「…………ぐすっ……ありがとうございますぅ……わたしも、ユートさまのこと、好き、です…………」
「う…………あ、ありがとう…………」
はっきり意思表示してくれたヘリオンに思わず間抜けな応答をしてしまった。
でもまあこの方が俺達らしいのかもしれないとすぐに考え直す。目が離せない女の子。
心が通じた嬉しさで、なんとなく見詰め合ってしまう。
つぶらな黒い瞳がそっと目を閉じた。綺麗な睫毛が少し震えている。
悠人はその瞼に吸い込まれるように顔を近づけ、そして静かに唇を重ねた。

ただ触れただけの軽いキス。それでも離れた時にはこんなにも名残惜しい。
ヘリオンはというとぽーっと夢見心地なのか、目の焦点が全く定まっていなかった。
「…………ヘリオン?」
「ふぇっ?え、あ、あのあのあの……あ……ん…………」
その仕草が可愛くて、もう一度キスをする。今度はもう少し深く。舌で唇を軽く突付くように。
ちょっと驚いた後、素直にヘリオンは唇を開いた。ゆっくりと舌で舌をノックする。怯えて縮こまった舌が徐々に従い始めた。
「あ…………あん…………ふぁ…………」
絡み合う舌。いつの間にか悠人にしがみつく形になったヘリオンの顎を軽く上げさせる。そのまま唾液を送り込むと自然に飲み込んでくれた。
「ん…………ん……ん……こくっ…………ぷはぁっ」
喉元を嚥下したところで息が苦しくなったのだろう、ヘリオンが口を離してしまう。
つぅっと唇同士が細い糸で結ばれる。悠人は力強くヘリオンを抱き締めた。
「ユートさまぁ…………あっ……」
力の抜けたヘリオンが手元のシーツを落としてしまう。眩しいほど白く滑らかな肌が目に飛び込んできた。

慌てて引き上げようとするヘリオンの手をそっと制する。真っ赤になりながら、それでいて不思議そうにヘリオンが囁いた。
「あ、あの、ユート……さま…………あ……」
「あ…………はは…………」
拍子に見えてしまったのだろう、俯きつつちらちらと盗み見ている。もちろん、先程から自己主張している固くなったモノを。
今更隠す気もなかったがそう見られるとなかなか恥ずかしい。ごまかすようにヘリオンの首筋にキスをすることにした。
「あ、やんっ…………ぅんっ!」
決壊寸前だったがまだ理性は残っていた。下半身にも困ったものだがしょうがない。
それにヘリオンを大事にしたいという気持ちが何より優先しているのは確かだったから。ヘリオンはまだ幼い。よく知らないだろうし。
そんな感じで離れかけた悠人の、それでも決意をぶちこわしたのは囁くようなヘリオンの一言だった。
「あ、あの……ユートさまなら………………いい、です」
「…………へ?」
一瞬何を言われているのか判らなかった。そう言えばと、皆の噂を思い出す。耳年増、そんな単語が頭に浮かんだ。
「ででででもっ!あの、少し怖いですから……もう一度、キス、下さい……」
そう言って、胸に顔を埋めてくるヘリオン。縋るような瞳が潤んでいる。限界だった。軽く髪を撫ぜる。
「ヘリオン……好きだ……」
耳に口付けしながら囁いた悠人はそのまま静かにヘリオンに覆いかぶさっていった。

今度はヘリオンの方が積極的なキスだった。深く舌を絡めつつ唾液を送り込んでくる。甘い、幼いヘリオンの味がした。
甘美な、倒錯的な悦びに脳髄が痺れる。負けまいと(何にかよく判らないが)そっと胸に手を当てた。トクントクンと速い鼓動を感じる。
「ふぅっんっ……やぁ……」
すぐにヘリオンが甘い鼻息を漏らす。声に後押しをされているような気がしてゆっくりと手を動かし始めた。
「あ、あん、あん……」
小振りな、手の中にすっぽりと納まるサイズ。それでもその柔らかさは確かに女の子のものだった。
力を込めるたびにヘリオンの体がくすぐったそうに反応する。悠人は唇をずらし、首筋から鎖骨をなぞった。
「ぅんっ!」
「?」
大きな反応があった。試しに今度は鎖骨を甘噛みしてみる。ヘリオンが耐え切れず嬌声を上げた。
「ひぁっ!…………あぅんっ!…………ふぅっ!」
面白いのでそのまま手をずらし、胸の中心を先から根元に軽く擦ってみた。ヘリオンがぴくんぴくんと体をしならせる。
「あ……や、や……あうっ……」
鎖骨に当てていた口を既に硬くなっている乳首にあてると、今までで一番大きな声を上げてヘリオンの体が硬直した。

「うんっ……はっ……はっ……あ……あ……いゃ……ぁ………………ゃ、あ~~~~~~っ!!!」
「え…………」
「は~~は~~は~~…………」
ぐったりとしたヘリオンは全身に汗を吹きだしていた。
「ヘリオン……?」
息も絶え絶えのヘリオンはうつろな目で呆然と四肢を投げ出している。
経験の少ない悠人にもそれがイったのだということが一目で判った。
それにしても早すぎる。余程感度が良いのかそれとも……
「ユートさまぁ~…………すきぃ……」
「…………………………」
なんというか。こんなにも好きでいてくれた女の子のこんな姿を見せ付けられて最早我慢できるはずがない。
太腿の辺りをそっと触るとぴくんっと一瞬反応したヘリオンだが嫌がるそぶりは見せない。
そのままするすると、肢の付け根まで手を上げていく。
「あ…………あ…………」
淡い茂みに辿り着いた時、初めてヘリオンが拒絶っぽい囁きを漏らした。
「あ……だ、だめです……ん……」
かまわずキスをしてなだめるように手を進めていく。幼い秘所に手が触れた時、そこはもう十分に潤っていた。

周辺をなぞるようにゆっくりとほぐしていく。
既に受け入れ態勢は十分出来ているようではあったが、今度は悠人がもっとヘリオンを感じさせたがっていた。
実に半端な嗜虐心だった。顔をずらし、まだ華奢な肢を持ち上げて肩に担ぐ。それだけで、ヘリオンの中心が全て晒される。
「やぁぁ……ユートさま、恥ずかしいですぅ……」
あまりの体勢にヘリオンが顔を覆ってイヤイヤをした。しかしその仕草が逆に悠人を興奮させる。
ヒクヒクと蠢いているピンク色に誘われるようにいきなり悠人は口を押し付けた。
「きゃぅっ!ユ、ユートさま、きたない……ひゃぁんっ!」
少女の香を思いっきり味わいながらキスを繰り返す。それだけでも一度絶頂を迎えていたヘリオンはいちいち敏感に反応した。
「あ、あう、あん、あん、あ、あ、…………」
担いだ細く白い肢がその度に跳ね上がる。滑らかな太腿にはしっとりと汗が滲み出て悠人の頬に体温を伝えていた。
喘ぎの周期が段々短くなっていく。
「あ、は、はぅっ、あ、あ、あ、…………あーーーーーっ!!!!」
そして悠人が隠れていたもっとも敏感な肉芽を舌でざらっと撫ぜたとき、ヘリオンは二度目の頂点を迎えていた。

目の前で激しい収縮を繰り返しているヘリオンを見て悠人は我慢の限界を感じた。急いで服を脱ぎ、再びヘリオンの覆いかぶさる。
肢の間に体を割り込ませ、ぎゅっとヘリオンを一度抱き締めた。夢見心地だったヘリオンがようやく状況に気付く。
「あ……ユート、さま…………」
「ヘリオン、いくよ」
「え…………あ…………はい…………ふ、ふつつかものですが、よろしくおねがいします……」
「…………ぷっ」
「えっ?えっ?わ、わたしまた何か間違えましたか~?」
「くくく……いや、いいんだ、そんなヘリオンも好きだから」
「もぅ~なんか誤魔化されてるみたいですぅ~」
ぷぅっと頬を膨らませてじっと睨んでいたヘリオンはそこでトンでもないことを言い出した。
「……わたしとアセリアさん、どちらが好きですか……教えてくれなかったらもうこれ以上させてあげませんよ……」
このタイミング、この状態。バニッシャーの様に放たれた一言が悠人を見事に凍りつかせる。
しかし言葉のキツさとは裏腹に、ヘリオンは捨てられた仔犬の様な瞳でじっと悠人を見ていた。
きっと不安だったのだろう、ずっと。もちろん悠人は既に心の整理をつけた後であって答えを躊躇する理由は無いのだが……
(このタイミングで言ったらまるでヤリたいが為に答えたみたいになるじゃないかっ!)
いや、ヤリたいのはもちろんなのだが。悠人は激しいジレンマに身悶えした。

至近距離で百面相を繰り広げる悠人をしばらくじっと見ていたヘリオンがいきなりぷっと吹き出す。
「え?あ、あれ?」
「ふふふ…………さっきのお返しですよっ!ユートさまイジワルなんですから」
「お、お前なぁ……むっ!」
抗議の声が唇で塞がれる。そのまま背中に手を回したヘリオンと暫くベッドの上で転がりあった。やがて唇を離したヘリオンが耳元で囁く。
「……冗談です。ユートさまのこと……好きですから……」
「ヘリオン…………」
にっこりと微笑むヘリオン。感動した悠人はそっと両手でその頬を包んで…………思いっきり引っ張った。
「いひゃひゃ~~っ!いひゃい、いひゃいです、ユートひゃまぁ~~~!」
「この口かっ、この口が悪いのかっ!」
「ご、ごめんにゃひゃい~、もうひまへんはら~」
じたばたと涙目で暴れるヘリオン。悠人はやっと手を放してじっとヘリオンを見つめた。
う~と頬を擦っていたヘリオンがその視線に気が付く。
「確かにアセリアに惹かれていた時期があることは認める。でも今はヘリオンが一番大事だ。これからもずっとそうしたいと思ってる」
「ユートさま……はい……夢みたい、です…………」

目を閉じたヘリオンの体から力が抜けた。それを確認して、悠人がそっと自分のモノをヘリオンに宛がう。
一瞬ピクリと瞼が動いたが、ヘリオンはそれ以上なんの反応もしなかった。静かに呼吸している胸が軽く揺れている。
「ヘリオン、大事にするから……!」
そう言って悠人は腰を突き出していた。めりっという感触と共に、僅かに頭の部分が潜り込んだ。
「んんっ!あっ!はぅっ!」
狭い膣口は初めて受け入れる異性に驚いて収縮を繰り返し、容易に先へ進めない。
悠人は焦らないよう慎重に少しずつ進めた。一番太い部分が通過した時、ヘリオンが最も苦痛の色を浮かべた。
「あぅっ!はっ!あ、あぅ!」
小刻みに突き入れる度ヘリオンが短い悲鳴を上げる。最初は先しか入らなかった竿が四分の一程埋まった所で強い抵抗があった。
わなわなと硬直しているヘリオンの髪をそっと撫ぜる。気付いたヘリオンが薄っすらと目を開けてそっと微笑んだ。
ヘリオンが少し緊張を解いたのを確認して悠人は残りを一気に突き入れた。
「はっ…………あーーーーーーーっ!!!」
ずぶずぶと埋まった先端がコツリと固いざらざらした処に到達する。
ヘリオンの一番深い処を感じながら悠人は荒い息を繰り返していた。
呼吸に合わせて収縮する膣が痛いほど締め付けてくる。見ると痛々しく開かれた秘裂からは赤いものが滲み出てきていた。
それでも未成熟なヘリオンの身体は健気に悠人を受け入れていた。
「だ、大丈夫か、ヘリオン?」
ぐったりとしたヘリオンに声をかける。
相当痛いのだろう、目尻に涙を浮かべたまま、それでもヘリオンはエヘヘとはにかんでいた。

「ごめんな、痛かったろ……?」
「は、はい少し……でもなんでだろ、嬉しいんです凄く……こうしてユートさまを感じられて…………あっ痛っ!」
「ご、ごめん…………」
「い、いえ、いいんです…………嬉しい…………あぅ……」
あまりにも健気な言葉と仕草にいちいち反応したモノが膨らんでヘリオンを圧迫してしまう。その矛盾に我ながら悠人は困った。
しかし肝心のヘリオンはその反応が嬉しいらしく、むしろ幸せそうな表情を浮かべている。
やがて呼吸が落ち着いてきたヘリオンは窺うように悠人に囁いた。
「あの……もう大丈夫ですから……動いてください……」
「え、でもまだ……」
「まだちょっと痛いんです……だから、早く痛くなくなるように、ユートさまが……して、下さい…………」
「………………」
切れた。頭の中で、何かが。悠人は無言でヘリオンの片足を掲げると、より深く挿入する態勢を取る。
そしてどこで覚えたのか、指を微かに顔を覗かせている赤い小さな舌に触れるか触れない様そえて小刻みに腰を動かし始めた。
こうするとダイレクトに挿入の刺激が敏感な肉芽に伝わる。しばらくそうしていると、ヘリオンが徐々に嬌声を上げ始めた。
「え…………はっ、はぁん!痛っ、な、なに…………きゃぅぅ~!!」

幼い性が徐々に開かれていく。喘ぎ声に甘いものが混じり始めた時、悠人は攻撃を切り替えた。
「きゃぁぁっ……ひゃぁん、ひゃぁんっ!あっ、あっ、ああ~~~」
予想通り性感帯の鎖骨を舐められたヘリオンの体温が上がった。悠人が強く吸ってももう快感しか感じないらしい。
調子に乗って首筋から乳首までどんどんキスマークをつけていく。つけられるたび締め付けるヘリオンの中がそのつど理性を焼き切った。
「ふぁん、ふぁん、あ、あ、ユートさま、ユート……さまぁ…………」
喘ぎ声がどんどん掠れていく。受け入れる快感に体がついていかないのだ。それでも悠人は攻撃を止めなかった。
脇に両腕を入れて肩を抱きこむ。腰の動きに円運動を加え、最奥まで突き刺したままグリグリと肉芽を擦り上げた。
ひぃっと細い悲鳴を上げたヘリオンが体をぶるぶると震わせる。三回目の絶頂。物凄い締め付けと快感が悠人を襲った。
ぐっと根元に力を込めてそれをやり過ごす。もっともっとこの可愛い女の子の中に入っていたかった。
「あ、あ、あ…………」
軽く開いた口から涎を垂らしているヘリオンに貪るようにキスをする。
半分意識が飛んでいるにもかかわらずヘリオンは懸命に応えてくれた。
「ん…………ん…………ふぅ…………好きぃ…………好きぃ…………」
うわ言のように繰り返すヘリオン。しばらくぺちゃぺちゃという交わる音だけが部屋に響いた。

頃合をみて悠人が再び動き出した。
もう十分に練れているヘリオンのそこはそれでも悠人の全部を収めきれない。
限界まで開かれた秘唇からはしかしもう赤いものは流れていなかった。
出し入れするたびにじゅぶじゅぶと音を立てて白い愛液が溢れ出る。
十分に潤った熱いその中で動かすたびに無数の襞があらゆる方向から悠人に刺激を与え続けていた。
「あ…………あ…………あ…………」
押し寄せる快感に敏感に反応する体は限界を超えてヘリオンを突き上げていた。
悠人の動きに合わせて揺さぶられる中、朦朧とした意識でそれでも懸命に悠人を受け止めようとしている。
「んっ……んぅ……あぅ…………きゃっ!あああっ!」
突然悠人がヘリオンを抱いたまま起き上がった。繋がったままのヘリオンはそのまま悠人に跨る格好になる。
小さな尻に手を当て上半身だけ起き上がったまま、悠人はヘリオンを突き上げた。
「あっぁぁぁ……あぅっ、あうっ、はぁっ……」
口をぱくぱくさせ、目を白黒させる。
自らの重みでより深く悠人を飲み込んだまま、ヘリオンは呼吸もままならない快感に翻弄され続けた。

ぐりぐりと子宮に押し付けられる熱いものがたまにごりごりと強く圧迫してくる。内臓を押し上げられるような感覚。
恐怖に近い感情すら悦楽に変換されて頭の中が白くなっていく。
「ユートさま、ユートさま、……ユートさまぁ……ユー…………」
ひゅーひゅーともはや声にならない喘ぎを出したとき、ヘリオンはまたベッドに倒されていた。乳房を胸板で押しつぶされる。
「あうっ!」
「ヘリオン……そろそろ…………」
悠人の言葉を少女の本能で悟ったヘリオンは汗まみれで微笑んだ。
「わたし…………きてっ、…………あっ、あっ、はあっ、あああああ」
ヘリオンの言葉を最後まで聞かず、悠人がラストスパートをかける。
今までで一番激しいその動きに、ヘリオンは今自分がどんな状態なのかまるで判らなくなった。
ただ悠人を感じる一点に思考が集中させられる。自分が悠人をちゃんと受け止めている。その事実が嬉しかった。
「あっ、あっあっあっ…………」
声の周期が短くなると共にヘリオンの中の痙攣が小刻みになっていく。限界の予感に悠人は腰のストロークを最大にした。
ほとんど抜き取るまで引いた後、思い切り突き出す。戻ろうとざわめく膣壁の波を掻き分けるように、ヘリオンの最奥へと突き刺した。
「あ、あ、あ、あ…………ふ、ぅっ……あーーーーーーーーっっ!!!!!」
一瞬息を止めたヘリオンがこれまでにないほど大きな嬌声を上げて頂点に達した。

うねる様にぎゅっと膣全体が痙攣し、竿が熱く柔らかく締め上げられる。
「……くぅっ!」
びゅうっ!
悠人は先端を子宮に押し付けたまま白い飛沫を吐き出していた。
「きゃぁっ!あ、あ、あ……あぅ……うっ、うん……」
物凄い勢いで迸る熱い感覚にヘリオンの中が更にうねる。頭の中が真っ白になる浮遊感にヘリオンは悶えた。
ぎゅっと力を込めて悠人にしがみ付く。背中に爪を立てられて悠人は快感のあまり鳥肌が立った。
びゅっびゅっ……
悠人の放出は中々収まらない。小さい膣はその全てを受け止めきれず、既にこぽこぽとあふれ出してきている。
「あ…………あ…………ユート……さま…………」
悠人はヘリオンの子宮にぐりぐりと先を押し当てて、最後の一滴まで注ぎこんでいた。
そうしてようやくヘリオンを抱く腕の力を緩める。力尽きたヘリオンが、ぐったりと悠人の胸に収まった。
気を失ったのか、静かな鼓動の音しか聞こえない。温もりが、心地よかった。
悠人はしばらく繋がったまま、ヘリオンの体温を感じていた。

朝の光が眩しい。ぼんやりとした頭でそんな事を考える。
目の前でヘリオンがすぅすぅと寝息を立てている。すっかり乱れてしまった髪を撫ぜて整えてやる。
汗で張り付いた前髪に触れた時、うう~んとヘリオンが目を覚ました。
「あぅ~~眩しい…………ユート、さま?……ん…………」
「お、おいおい……」
いきなり抱きついてきたヘリオンを悠人は慌てて受け止める。
確認してすぐに胸に鼻を擦りつけて来るヘリオンの仕草は、正に仔犬そのものだった。
腕の中で小さく収まった女の子の匂いがくすぐったく鼻腔に広がる。
悠人は朝からイケナイ気持ちになりそうなのを必死に堪えて囁いた。
「さ、起きようぜヘリオン。そろそろ行かないと…………」
「…………やだ」
「やだって、そんなこと言ったって」
「ユートさまが起こして下さい」
「……そうやって甘えるのがヘリオンの悪い癖だな」
「そうやって誤魔化すのがユートさまの悪い癖ですよ」
「………………」
「………………」
「……………………ぷっ」
「……………………ふふっ」
額をコツンと当てて笑いあう。ひとしきり笑った後、ヘリオンが不思議そうな顔をした。

「…………あれ?」
「ん?どした、ヘリオン……って、おわっ!」
疑問の声を無視して、ヘリオンは急に悠人に抱きついた。また鼻を擦り付けてくるヘリオンに驚いた悠人は身を捩って抵抗する。
「おいこら、やめろって。くすぐったい」
「う~~~ん………………」
軽い抗議が届いたのか、ぱっと離れると、今度はくんくんと自分の腕の辺りに鼻をひく付かせている。
その行動がよく判らないまま、悠人はとりあえず声を掛けた。
「ヘリオン。どうでもいいけど、とりあえず起きよう」
「あ、は、はい…………あ、あれれ?」
首を傾げながら立ち上がろうとしたヘリオンは、しかしその場にぺたん、と再び座り込んでしまう。
先に立っていた悠人は不思議そうにその様子を覗き込んだ。
「…………なにやってんだ?」
「…………ふぇぇ~ん、立てませ~~~ん」
ヘリオンが、情けない声を上げた。

「う~ユートさまが悪いんですよぅ~…………ケダモノですぅ~」
「なっ!どこでそんな単語を!大体ヘリオンが可愛すぎるのが悪いんじゃないか…………なんでニヤニヤしてるんだ?」
「えへへ~気付いてないんですか~?じゃ、ナイショですよう」
「う、なんとなくキャラ変わってないかお前……まあいいや、立てるか?」
「はいっ!もう大丈夫です!それよりユートさま……」
「え?なに?」
背伸びをして悠人の耳に口を当てたヘリオンが囁く。ぎゅっとシーツの裾を掴んだまま。


 ――――もうどうやったら独りで起きられるか忘れちゃいました……ユート……さんのせいですよ…………

悠人の匂いが以前とは違う。微かに混じっているのは自分の匂い。
そして、自分の匂いも違う。それはもう、悠人の匂いに包まれている。
新しい匂い。それはそのまま二人の関係が新しくなった証拠でもあった。
ヘリオンは、自分から腕を絡めた。恥ずかしそうにはにかむ恋人の横顔を見上げながら。居場所の匂いを確認するように。


ところで。
「おはよう…………ってうわっなんだこりゃ!」
「うわわ~みなさんお酒臭いです~」
食堂にやってきた二人が見たのは死屍累々の山だった。

更にその夜。
「ね~ヘリオン、その痣みたいなの、一体な~に~?」
「う、うん、体中についてるね……いたくない?」
「「「 な ん で す っ て ~ ~ っ !!! 」」」
浴場でヘリオンが体中のキスマークを皆から追及されたのは言うまでも無かった。