回帰

Epilogue

狭い階段を駆け上がる。緊張は無く、心臓の動悸はむしろ体を前へ前へと。
やがて視界に飛び込んでくる満天の星空。一際明るい満月が世界を照らす。
煌く槍。ひゅっと軽い空気を切り裂く音。襲い掛かる音速の殺意。
気にせず詠唱を続ける。魔力を帯びた死の予兆は目の前で止まる。
力と輝きを失った神剣が地面にからん、と不自然に転がった。
『求め』を中心に湧き上がる嵐。静寂を破って余りある風の響き。
力の全てを敵に向かって解放する。

再び訪れた闇は金色に照らされていた。月の光を受けて舞い昇っていくマナ達。
背後を振り返る。黒くたなびいた長髪を軽く抑えながら、彼女は軽く微笑んだ。
闇に潜めていたその姿を今は仄かに浮かび上がらせて。

「こうして見るとファーに似てきたな、ヘリオン」
「ファーレーン姉様に?ふふっ、なんだか嬉しいですね」

古い緑の髪留めにそっと触れながらはにかむヘリオン。
お下げもそれはそれで良かったけど。そんな言葉を飲み込む。
二人で月を見上げる。朧に温められた光が、穏かに世界を照らす。
そっと手を握る。握り返してくるヘリオンから、優しい森の匂いがした。

 
 
    ―――― Fin ――――