朔望

nocturn -Ⅲ

 §~聖ヨト暦330年スリハの月黒ひとつの日~§

『つまり、女王にはなんらかの意志がある、と?』
『はい、これは憶測に過ぎないのですが……』
『……判りました。ファーレーン、出来るだけイースペリア女王の保護をお願いします』
『え……でも…………』
『もちろんエトランジェ……いえ、ニムントール最優先で構いません。ごめんなさい、何か嫌な予感がするの』
『…………宜しいのでしょうか?王の意志は』
『あら、今更そのような事に念を押すのですか?』
『え?あ、あの…………』
『ふふ…………必ず生きて帰って来て下さい、ファーレーン。「みんな」と一緒に』
『…………そうですね、これからの「戦い」の為にも』

ラセリオから国境を越え、避難を始める人々の群れで混乱するミネアを過ぎ、ダラムへ。
両側から迫る木々の中を駆け抜けながら、ファーレーンは出発間際のレスティーナの言葉を噛み締めていた。
今までの任務とは違う、別の意欲が湧いてくる。目的を見つけた、それが一番しっくりくるかも知れない。
皇女が目指す世界、それを信じてみようと思った。最後に「みんな」と言った、その意味を。
「お姉ちゃん、なんだか笑ってる?」
横を走るニムントールが不思議そうに話しかけてくる。まだついて来れるみたいだ。
「ニム、急ぎますよっ!」
にこっと笑ったファーレーンのウイングハイロゥが輝きを増す。
「わっ、ちょっとわたし翼なんて無いんだからね~!」
追いかけてくる声に気を使いながら、何時に無く軽い躯がダラムへと向かった。