朔望

volspiel -Ⅰ

 §~聖ヨト暦327年ソネスの月赤いつつの日~§

「内緒ですよ。 実はわたし、スピリット達は人と変わらない、そう考えているんです」

二人きりの部屋。声を潜め、秘密を囁く。唯一砕けた口調で話せる、心許せる人に。

「それどころか、エーテル技術まで否定するつもりなんです。……可笑しいですか?」

決死の覚悟で誰にも話せなかった事を打ち明けたつもりなのに、相手はころころと微笑んだ。
馬鹿にされたかと思い、ぷーっと頬を膨らます。子供だと思われるのが嫌だった。

「だって変だよっ!
 彼女達はどこも人と違いは無いのに、スピリットだというだけで虐げられているなんて!
 エーテルだって、マナから還元する時に、少しずつ減少しているっていう説もあるんだよっ! 
 このまま放って置けば『呪い大飢饉』の時のように、また作物が取れなくなる日が来ちゃうよ!!
 どうしてこんな簡単な事を、みんな見て見ないふりをして暮らせるの?!」
ムキになって、ありったけの知識を捲くし立てる。知らず、目には涙が浮かんできた。
気持ちが高ぶったのか、解ってもらえないという失望感なのか。無性に悲しかった。

穏かな眼差しでそれを見つめていた彼女が、ふいに自分の手を取った。反射的に顔を上げる。

――――ごめんなさい、あなたの考えている事が、あまりにも私と同じだったから。

「え…………?」
思いがけない、答え。やがてそれは心へと沁みこんでいく。忘れられない程、心の奥底へ楔のように。

――――あなたならきっと出来ますよ、レスティーナ。それ、わたくしもお手伝いさせて頂けるかしら?

本当ですか、と声が上擦る。笑顔でまだ残る涙をそっと拭き取ってくれる、優しい手。

――――ええ、きっと。人とスピリットの共存する世界……わたくしも、共に見てみたいから…………