朔望

volspiel -Ⅱ

 §~聖ヨト暦330年スリハの月黒みっつの日~§

親友の懐かしい笑顔と共に、夢から目覚めた。
暫く、現実感の無い空間を漂う。そのままで、昔の思い出に揺られていた。
やがて、ゆっくりと顔を上げる。正面に飾られている、ラキオスの紋章を象った油絵。
どうやら、執務中にうたた寝をしていたらしい。ようやく状況を把握出来てきた。

「アズマリア…………」
呟き、窓の外を眺める。晴れ渡り、雲一つ無い空。
彼女とは、ずっと交流を温めてきた。
幼い頃から王族という枠の中、鳥篭のような世界で育てられた中で。
ただ一人、姉のように慕ってきたイースペリアの女王。
彼女は肉親からは与えられなかった愛情を教えてくれた。甘えを、受け入れてくれた。
その聡明さは自分にとって、長じてからは憧れのような存在に変わった。
自分もあのような立派な国の統治者になりたい、と常々思ってきた。
そして今では、“理想”に向けての唯一の理解者。同士、と言い換えてもいい。

立ち上がり、窓際に近づく。思い切って両開きの窓を開くと、気持ちの良い風が入り込んできた。
眼下に広がるリュケイレムの森。そしてその向こう、遥か遠くにイースペリアがある。

「どうか、ご無事で…………」
胸の前で手を合わせ、祈るように囁いた時。
太陽よりも眩しい光が、景色を煌々と輝かせた。