朔望

volspiel -Ⅲ

 §~聖ヨト暦330年スリハの月黒いつつの日~§

王座の間で悠人達の報告を聞いたレスティーナは自室に戻ると後手に鍵を掛け、
ようやくずるずるとその場に座り込んだ。大きく膨らんだスカートの奥で、膝が笑っている。

「そんな………………」
アズマリアが死んだ。どんな報告よりも、それが一番衝撃的だった。
一昨日見た、イースペリアの閃光。やはりあれが、アズマリアの命が消えた瞬間だったのだ。
予感は、あった。しかしそれをいざ事実として告げられた時、レスティーナの中で何かが崩れた。
どうやってここまで辿り着いたかも思い出せない。気がついたらここにいた。
重臣達に、不審に思われなかっただろうか。特に、父に対して毅然と出来ていたであろうか。
そんな事ばかりが頭に浮かぶ。瞼の裏に焼きついているのは、先程の父王の歓喜の表情のみ。
この期に及んでそんなものに囚われている自分がこんなに恨めしい事は無かった。
アズマリアが死んだというのに。あんなに慕っていた彼女との想い出が、何一つ浮かんでこない…………

「あ、あれ…………」
目頭がふと、熱くなった。頬につぅ、と一筋流れるもの。恐る恐る当てた手が濡れていた。
手をじっと見つめていたレスティーナの表情が、やがてくしゃっと歪む。
「うっ、う、ううう…………」
レスティーナは泣いていた。
堰を切ったように嗚咽を漏らして。子供のように、“ようやく”泣く事が出来ていた。

「ね、アズマリア……わたし、ちゃんと出来たかな…………」
答える者が居ない部屋。膝に顔を埋めたまま、レスティーナはずっと身を震わせていた。


この日、ラキオスはサルドバルトに対し、正式に抗議の文書を送った。
滅んだイースペリアを事実上の支配下に掌握しつつ――――