朔望

badinerie

 §~聖ヨト暦331年ルカモの月黒ふたつの日~§

「だから、誤解なんだって…………」
正座をさせられたまま、悠人は弁解していた。向こうでファーレーンに戦闘服をかけるセリアの視線が冷たい。
「冗談じゃないわよっ! こっちがどれだけ心配したと思ってんのっ?」
「まぁまぁニムントールさん~。こうしてお二人ともご無事だったわけですしぃ~」
仁王立ちで睨みつけるニムントールを、ハリオンののんびりした口調が抑える。
「若いって事はぁ~。それなりに、色々とあるんですよぉ~…………さぁ、終わりましたぁ~」
しかしわかったようでわかっていないその発言は、混迷を余計に深めるだけだった。
「ちょっと! 色々って何よユート!」
「いや、俺に言われても」
慌てたファーレーンが口を挟む。
「ハ、ハリオン、わたし達そんな、誤解されるような事は何も……あ、あら?」

「あっ! お姉ちゃん、見えるようになった?」
タイミング良く治療を終えたハリオンに駆け寄るニムントール。
じっと見つめていたファーレーンがにっこりと微笑み返した。
「……ええ、よく見えるわよニム。ありがとうございます、ハリオン」
「いいえぇ~これが任務ですからぁ~」
「えっと……お姉ちゃんっ! 良かったぁ……」
一瞬躊躇した後、がばっとファーレーンにしがみ付くニムントール。
その背中越しに様子を窺う悠人の方へと、ふいにファーレーンが顔を向けた。
「……………………」
ぱちくり、と大きな瞳を一度瞬きし、恥ずかしそうに微笑む。
悠人は周囲に聞こえないよう口の動きだけでさんきゅな、と伝えた。
そんな二人を、ハリオンの暖かい眼差しとセリアの冷たい視線が見守っていた。