朔望

Eine kleine nachtmusik -Ⅲ

 §~聖ヨト暦331年エハの月青みっつの日~§

ぱたぱたと、駆けて来る足音。軽い、聞き慣れた懐かしい音。
「お兄ちゃん! お兄ちゃん……っ!」
ばたん、と勢いよく開かれる扉。小さい体がぱふっと飛び込んでくる。
悠人は両手で受け止め、力いっぱいに抱き締めた。両手にかかる重さと温かみ。
待ち続け、望んだもの。時には自分を殺しても、そう追い込まれても諦めなかった大切なもの。
「お兄ちゃん……会いたかったよ……寂しかったよぉ……」
「ああ……、ああ!」
悠人は、ただ頷くことしか出来なかった。耐えてきた感情。
それらは一度に噴出させることがとても出来ないほど、大きく膨れ上がってしまっていた。
寂しかったのは、自分も同じ。会いたかったのは自分も同じだったから。
「よく、よく…………がんばった……な……」
ようやく絞り出した一言。それは、もしかしたら自分にも言い聞かせた言葉だったのかもしれなかった。

一通り第一詰所での挨拶を終えた後。悠人はそっと佳織に耳打ちしていた。
「後で、会ってもらいたい“人”がいるんだ……」