§~聖ヨト暦331年エクの月青よっつの日~§
「“ラクロック限界”って言葉を知ってるかい?」
ラキオスに招聘された若き天才科学者は、真面目な顔でそう言った。
「ラクロ……なんだって?」
「“ラクロック限界”。マナとエーテルが有限だと証明した説さ。もっとも当時は誰も相手にしなかったがね」
「う~ん……。もうちょっと判り易く言ってくれないか?」
「ズボラな頭だねぇ相変わらず……やれやれ」
「待て、ヨーティアにだけは言われたくないぞ! そういう事は部屋の掃除くらい自分で出来るようになってから言え!」
「イオはあれで好きでやってるんだ。どこぞのグータラ勇者殿のように無理矢理エスペリアを使ったりはしてないさね」
「な……!」
「ユート、お静かに。ヨーティア殿、それはまさか……」
「おや、レスティーナ殿には何か心当たりがあるようだね。……まぁいい。それで、だ」
ヨーティア・リカリオン。『賢者』と呼ばれる大陸最高の頭脳の持ち主……らしい。
元帝国の技術者で、何故だか今はソーンリームで(ズボラな)隠遁生活をしていた所を、
レスティーナの指令で俺とエスペリアが連れて来た、という訳だ。
「これには実は続きがあってね。エーテルをマナに戻す時、僅かに減少する、というのがそれだ」
「なんだよそれ。それじゃ、このままじゃエーテルやマナってのは、いつか無くなっちまうんじゃないか?」
「ボンクラにしてはいい推測だ。確かに、このまま使い続ければそうなる。さて、と……」
そしてこほん、と一つ咳払いをしたヨーティアがレスティーナに向き合った。眼鏡の奥が真剣な光を帯びる。
「そこでレスティーナ殿に質問だ。陛下の望むこの世界の抱負とは…………なんだい?」
一歩も怯まずにその視線を受けながら、レスティーナはそっと左腕で髪を払った。
「人は、償わなければなりません。全てのエーテル施設の封印……それが、わたくしの戦う理由です」
答えに満足したのか、にやりと手を差し出すヨーティア。握り返したレスティーナの表情に――
「……上出来だ。微力ながらも力を尽くさせてもらうよ、女王陛下」
「光栄です。ヨーティア殿」
――――俺は、俺とそう歳の変わらない筈の若き女王の真意を、初めて知った。