朔望

zwischenakt-Ⅵ

 §~聖ヨト暦331年スリハの月緑ふたつの日~§

『面白い。この娘の意識、一時(いっとき)返してやろう』
からかうような口調で空虚の意志がすっ、と下がる。
同時に、今日子の瞳に浮かぶ戸惑いの色。その視線が俺を捉えた。
「……! お願い、悠! アタシを殺してっ!!」

「アタシ……いっぱい殺しちゃったよ……もう、ダメだよ……」
泣き崩れる今日子を、どう励ませば良かったのだろう。――少なくとも。
「そんなの、俺たちのせいじゃない!間違ってるんだ!この世界、そのものがっ!」
「悠…………」
「だから……変えるんだ。一緒にやろうぜ今日子。後悔は、その後ですればいい」
「そうか……悠はやっぱり強い、ね」
「今日子……?」
「アタシには、無理かなぁ……そんな重さ、きっと耐えられないよ……」

――少なくともこんな風に言うべきじゃ、なかったんだ。

『……時間切れだ』

『空虚』の平坦な声の奥に、焦りの色が見えていたというのに。