朔望

oratario

 §~聖ヨト暦331年スリハの月黒みっつの日~§

ぽつぽつと窓を叩く雨粒。ガラスの上でそれぞれが絡み合い、一つの流れとなってただ落ちていく。
やがて地へと吸い込まれ、再びマナサイクルの渦へと巻き込まれ、人々の記憶にさえ残らないただの“運動”。


 ――――――くだらない。


何を感傷的になっているのか。糸の切れかけた傀儡が、勝手に壊れそうな人形が、そんなにつまらないのか。
弱い。“彼ら”は弱すぎる。“運命”を変えられる程の大いなる力をその手にしながら。
凡人がどれほど憧れ、それでも到達しえぬ力にただ“選ばれた”というだけで容易く到達しながら。
幼い頃から聖譚曲と共に聞かされ、幼少の身に憧れ、ひたすらに剣を振り、追い続けた偉大なる祖父の背中。
半生を賭け、そして叶わぬと悟り、絶望に朽ちた後も未だ燻ぶっていた最後の残照。到来したエトランジェ。


 ――――――それが。


子供が手に入れた夢という名の玩具は、あっけなく壊れた。あり得ない程の脆さとひ弱さで。
彼らは弱い。それが結論だった。身体以前の問題。ココロが絶対的に弱い。まるで滑稽曲。――――無様ではないか。
そんなものに憧れていたなどと。そんなものを追い求めていたと。そんなものに自分が囚われていたなど、と……。
もう一人、居た。が、一縷の望みは砂漠で絶たれた。このある意味では正常な感情。やり場のない、歴史への怒りを。
「わたしには、理由があるのですよ。どうしても我慢ならない、理由がね……」

傍らに立つ無表情なガラスのような瞳を覗き込みながら。ソーマ・ル・ソーマは口元を歪ませた。