§~聖ヨト暦331年スリハの月黒みっつの日~§
「あ……あ……」
いきなり裸にされたファーレーンは両手で顔を覆いながらも、決して動かない。
“教え”に忠実なのか、それとも信用されているのか。どちらにせよ、悠人の目はそこから暫く動けなかった。
バートバルトでちょっとだけ見た事があるが、そうはっきりと憶えているわけではない。
その全身が今、仄かなオレンジ色の灯りに浮かび上がって、壮絶なまでの美しさを醸し出している。
腕の影から枕に散らした、ロシアンブルーの濡れた髪。白い、陶器のようにすらりと伸びた四肢。
ほっそりと、抱き締めた時の感触そのままに、繊細な、丸みを帯びた女性的なライン。
上気してほんのり赤みを帯びている全身は羞恥からか、小刻みに震えている。
浮き上がった細い鎖骨が肩の先で陰影をぼやかし、その下で形の良い胸が動悸に合わせて激しく上下している。
見ているだけで量感のありそうな乳房は意外と大きく、その先で桜色の蕾が緊張で縮こまっていた。
良く鍛え上げられた腹筋でお腹はきりっと引き締まり、その中央が大きく窪んで可愛いお臍がちょこんと見える。
力を抜こうとして失敗している太腿にうっすらと静脈が浮かび上がり、きゅっとしまった脹脛が細く伸び。
そして太腿の付け根に、ふっくらと女性的な秘所が髪の毛と同じ色の柔らかそうな恥毛に覆われて息づいていた。
沈み込んだベッドとの間で窮屈そうにはみ出したお尻が、そのボリュームをこれでもかと自己主張している。
太腿から柔らかい曲線を描くそれは、腰の辺りできゅっと急激に引き絞られていた。
まるでモデルのような体型に、しかしいやらしい感じは少しもせず、むしろ清廉な雰囲気が漂っている。
神を讃える戦乙女(ヴァルキュリア)。初めてファーレーンの姿を見た、あの月の夜。
その時感じた「畏れ」にも似た気持ち。それは間違いじゃなかった、と悠人は思った。
「…………凄、い」
悠人はしばし呆然と、ファーレーンの裸を見つめていた。
一方じっと見つめたまま動かない悠人に、ファーレーンは居心地が悪そうに身じろぎした。
「ユ、ユートさま…………恥ずかしいのですけど…………あ、あれ……」
自分で出した声が、予想外に甘えた鼻にかかったようなものだった事に驚く。
既に全身は真っ赤に染まり、どこか身体の中心から熱い何かが溢れてくるようだった。
言われた通り動かないでいたが、視線を感じるだけで、何故だかもどかしいものを感じる。
「あの……こ、これから、どうしたら…………」
本能的に、これで終わりではないと、ファーレーンはいつの間にか悟っていた。
ファーレーンの囁きにようやく我に返った悠人は、改めてどうしていいか、戸惑っていた。
経験がある訳でもない。これから先の事が想像の域を出ないのは、悠人も同じだった。
(えっと……そうだ、まずタオルを……)
とりあえず、腰に巻いているタオルを取り外す。
だんだんと落ち着いてきた。屈みこみ、ファーレーンの髪をそっと撫でる。
「あ……」
ファーレーンが、小さく声を上げた。
「せ、せめて灯りを……灯りを消して下さい、ユートさま……」
要望通り灯りを吹き消しようやく裸になれた(?)悠人は、そっとファーレーンの隣に腰掛けた。
ぎしっと小さな音を立てて、ベッドが軽く沈み込む。
その気配に、ようやくファーレーンが顔から手をどけ、恐る恐る悠人の腕に触れてきた。
「それじゃ、始めるぞ……力を抜いていてくれ」
「は、はい……」
か細い、震えている声。ぎゅっと強張った身体から、とても力が抜けているとは思えない。
悠人は苦笑して、もう一度ファーレーンの髪を撫ぜた。
「なぁ、そんなに怖がらなくてもいいって、ファー。そんなに構えられるとこっちまで緊張してきちまうよ」
言いながら、手を頬まで下ろす。そのまま擦っていると、ファーレーンは薄っすらと目を開けた。
「ユートさま……すみません、わたし良く判らなくて……」
うるうると、訴えかけるようなファーレーンの瞳。
悠人にはぼんやりとしか見えなかったが、安心させようと肩に手を当て、
―――ぐぅ。
「……あ、あれ?」
悠人は、盛大に腹を鳴らしていた。