朔望

ode

 §~聖ヨト暦331年スリハの月黒みっつの日~§

急に降り出した雨が激しく窓を叩く。ニムントールは窓際に寄って、そっと外を覗いてみた。
日が落ち、薄暮れた景色はただ真っ暗で、森の影だけが黒々と広がっている。
ほとんど自分の顔が映った硝子に顔を近づけてみると、詰所のすぐ下の光景だけがかろうじて見えた。
そして殆ど同時に目に止まる、赤い髪の人影。
「あ、あれ……ナナルゥ」
丁度窓の下。流れる雫に歪む景色の中、ナナルゥが一人立っていた。
中庭に生える一本の木。それに寄りかかるようにしてじっとしている。
しかし木は小さすぎて、雨宿りにはとても適するとは思えなかった。

「ちょ……なんであんな所にっ!」
ニムントールは慌てて声をかけようとした。
佇むナナルゥは既にずぶ濡れで、このままでは風邪を引いてしまう。
こんな雨の中何をやっているのかと腹が立ち、勢い良く窓を開け放とうとしたその時。
「ヒミカ……?」
もう一人、歩み寄る影。それはヒミカだった。
そのまま何かを言い争った後、ぱっと傘が開く。そうして二人はそのままその場に留まった。
「あ……笛……」
やがて聞こえてくる、微かな笛の音。それは最近、ナナルゥが始めた事だった。
よくは知らないが、いつも決まった時間になると流れてくる曲。
ニムントールは暫くそれを聴き、そしてつまらなそうに窓を離れた。

「お姉ちゃん……まだ、かな」
ぺとん、とベッドに腰を下ろし、傍らの枕をぎゅっと抱き締める。
あんな二人を見たせいだろうか。無性に姉がいないのが寂しかった。