朔望

回旋 Ⅶ-2

 §~聖ヨト暦331年スリハの月黒みっつの日~§

「もう……ユートさまったら」
ファーレーンは、まだくすくすと忍び笑いをしていた。
背中を向け、肩を震わせ。
何とか堪えようとしているらしいが、それが余計に可笑しさを込み上げさせているようだった。
「なんだよ、そんなに笑う事ないじゃないか……はぁ」
一方の悠人も、頭をがしかしと掻いてひたすら耐えるしかない。
肝心の時に、なんて間抜けなんだろうと自分の胃袋が恨めしくなる。
正直泣きたいくらいだった。少し拗ねたような口調になってしまうがどうしようもない。
そんな悠人の様子に悪いと思ったのか、ファーレーンが謝りながら振り返る。
「ご、ごめんなさい……その……お腹、空かれたのですね」
しかしよほど可笑しかったのか、目尻に浮かんだ涙をそっと拭う。
「ん~、そういえば訓練の後、何も食べて無かったかもなぁ……」
ちょっと振り返ってみれば、一日中落ち着かなくて悠人は食事どころではなかった。
訓練の時も妙にそわそわとして、早く時間が過ぎないかと待ち遠しかったくらい、楽しみだったのだ。
「あ、それで早くファーと会いたくて急いで森に行ったんだっけ」
(そうか、それで夕飯を食べてないんだ。なんだ俺、一日何も食べてないのか……ん?)
ふと気づくと、ファーレーンが黙り込んでしまっている。さっきまでくすくすと笑っていたのが妙に大人しい。
部屋の暗がりでも、気配で俯いているのが判った。
「……どうした? ファー」
「あ、あの、それ……本当、ですか?」
「え? それって?」
「で、ですからあの……わたしに、会いたいって……」
「…………へ?」
そこでようやく、悠人は気がついた。考えていたことを、途中口にしていたと。だーっと背中に汗が流れる。
どうしようかと悩んでいると、ファーレーンがにじり寄ってくる。悠人は二重に焦ってつい本音を漏らした。
「あ、ああ。早く会いたかった」
「~~~ソゥ、ユート……テーカンス!」
ファーレーンは、がばっと悠人に抱きついていた。

絡み合う身体。ふたりは暫くそうしてじゃれあっていた。
くすくすと笑い合い、お互いの体温を感じ。少しでも離れたくなかった。
そうしてどれ位経っただろうか。やがて静かな雰囲気が訪れる。

「ほら、こうしてるとファーの心臓の音が聞こえる……ファーが側にいてくれるって判る。安心する」
「あ……ふぁ……ん…………」
ゆっくりと、慎重に。悠人は壊れ物を扱うように、ファーレーンの乳房に触れた。
吸い付くような肌に、陶然とする。想像とは全然違う柔らかさが指先から伝わってくる。
そして、その奥。とくとくと響く鼓動に、悠人は集中した。
「ん……ふぅっ……あっ、あっ…………」
だんだんとファーレーンの息が荒く、甘いものへと変わっていく。
そして遂に、胸の先端が手の平の中で硬く尖ってきた。悠人は堪らなくなってそれを軽く摘んだ。
「んっ!!」
途端、ぴくん、と大きく背中を逸らし、そのまま悠人にしがみついてくる。
無邪気な、子供のような抱擁。全身を使って、離さないように。
「うわっ……ちょ……」
「はぁはぁ……あ……ユートさまの……音……ルゥ……」
やや陶然としたまま、呟く。
耳を悠人の胸板に押し付けたまま、暫くファーレーンはそのままじっと抱きついていた。